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内科
- Author: 半田知宏1
Abstract
53 歳女性.X 年に口腔乾燥を自覚し,近医でSjögren 症候群と診断された.無投薬でフォロー中であったが,X+17 年に検診で胸部異常陰影を指摘され,同年9 月に総合病院を受診.両肺の囊胞と結節を指摘され,精査のために当科紹介となった.軽度の労作時呼吸困難(修正MRC スケール1 度)がある.喫煙歴なし(never smoker).職業は22~23 歳時にソフト開発の事務職に従事し,以後はアルバイト.住居は木造築15 年,日当たり良好.羽毛布団,ダウンジャケットを冬季に使用する.胆石症,脂質異常症,花粉症,帝王切開(2 回)の既往歴あり.母に拡張型心筋症,父に肺結核の既往があるが,間質性肺炎や自己免疫疾患の家族歴はない.pravastatin 10 mg/日およびcevimeline 90mg/日を内服中.身長157.6 cm,体重44.2 kg,血圧100/64 mmHg,心拍数68 回/分・整,呼吸数16回/分,SpO(2 室内気)97%,体温36.8℃,意識清明,呼吸音清,副雑音なし,心雑音なし,ばち指なし,皮疹なし,朝の手のこわばりあり,眼乾燥・口腔乾燥あり,体重減少あり.血液検査(表1)でWBC 軽度減少とγ‒Glb 増多,TC 高値を認める.CRP,KL‒6,SP‒D の増加は認めず.抗核抗体が320 倍(homogeneous 80 倍,speckled 320 倍)と高値で,抗SS‒A/Ro 抗体>1,200 U/mL,抗SS‒B/La 抗体20.6 U/mL が陽性.インターフェロンγ遊離試験(interferon gamma release assay:IGRA)は陰性で腫瘍マーカーの増加は認めず.呼吸機能検査では%FVC 95.3%,FEV1/FVC 82.2%,%DLco 72.6%と軽度のDLco 低下を認めるのみで,血液ガス分析では酸素低下を認めなかった. 初診時の胸部X 線像(図1a)では,左下肺野に多発結節が認められた.胸部CT(図2)では両肺に多発の薄壁囊胞と結節(長径6~13 mm)を認め,一部の結節は囊胞の辺縁に沿う分布であった. 鑑別診断として,Sjögren 症候群に伴う肺病変(アミロイドーシス,悪性リンパ腫など),肺がん,抗酸菌や真菌などの感染症があげられた.Sjögren 症候群の再評価を行ったところ,Schirmer テスト0/0 mm,フルオレセイン染色試験陽性,Saxon テスト1.02 g/2 分と涙液・唾液の分泌低下を認めた.自己抗体の結果と合わせて,原発性(一次性)Sjögren 症候群と診断した.悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などの血液悪性腫瘍の鑑別のために種々の検査を追加した.血清免疫電気泳動ではM 蛋白を認めず,尿中免疫電気泳動にてBence Jones 蛋白を検出しなかった.末梢血遊離L 鎖はκ鎖24.40 mg/L(基準値:3.3~19.4 mg/L),λ鎖17.10 mg/L(同5.7~26.3 mg/L),末梢血遊離L 鎖κ/λ比1.427(同0.26~1.65)と有意な所見を認めず.骨髄穿刺の結果は正形成骨髄で,形質細胞の増加やアミロイドの沈着は認めず.免疫グロブリンの軽鎖制限は明らかでなかった(κ:λ=2:1).フローサイトメトリーではモノクローナリティ(-)であった.これらの結果から,悪性リンパ腫や多発性骨髄腫は否定的であった. 確定診断のため,左下葉の囊胞結節部位を外科的に切除した.病理組織ではHE 染色にて好酸性の無構造物質からなる結節を認め,アミロイドーシスの鑑別を要したが,ダイレクト・ファスト・スカーレット(DFS)では染色されなかった(図3).電子顕微鏡による評価を行ったところ,細胞外に微細顆粒構造の沈着が確認された(図4).以上より,Sjögren 症候群に伴う軽鎖沈着症(light chain deposition disease:LCDD)と診断した.尿検査,心臓超音波検査,腹部CT で肺以外の臓器病変を疑う所見は認めなかった. Sjögren 症候群の肺病変は,肺胞隔壁に加えて気管支・細気管支の病変を呈することがあり,それらのなかにはリンパ増殖性疾患の特徴を有するものがある.Ito らの報告では,非特異性間質性肺炎が61%と最も多く,細気管支炎12%,悪性リンパ腫12%,アミロイド沈着6%であった1).Sjögren 症候群と肺アミロイドーシスの合併は過去に20 例の報告があり2),12 例の胸部CT 所見のまとめでは,多発結節9 例,多発結節+空洞3 例であった3).本症例においてもアミロイドーシスの鑑別が必要と考えて組織学的検査を行ったが,最終的にLCDD と診断した.
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