Abstract
目的:塩酸とエタノールおよび酢酸の組織凝固と抗腫瘍作用の比較を検討する。CT が介する経皮的塩酸注入療法の原位破壊作用とその安全性を評価する。方法:胃液と10%希塩酸がin vitro におけるがん細胞系に対するIC50を測定する。in vitroとin vivo において塩酸のブタの肝臓に対する凝固性壊死の範囲を観察する。6mol/l 塩酸溶液(HAS6)のブタの肝臓と筋肉に対する凝固作用を50%酢酸と無水エタノールと比較する。肝がん30例中38病変に対して, CT が介する経皮的塩酸注入療法を応用する。原位破壊率, CT による評価, 組織病理学的検討, 生存率および副作用を観察する。結果:培養がん細胞系に対する胃液と10%希塩酸のIC50は, ほぼ同等で約0.05〜0.07%である。1ml の1.5〜12mol/l の塩酸を肝組織に注射した結果,凝固される範囲は直径18.3〜53.4mmであった。球状の白灰色の凝固範囲は正常組織と境界がはっきりした。6mol/l 塩酸溶液は比較的大きい病変に凝固作用を発揮し, これは無水エタノールの作用の15倍に相当し, 50%酢酸の作用の5倍に相当した。局部注射の常用量では毒性が示さなかった。臨床には, 経皮的塩酸注入療法73回実施し, CT では治療24時間以後, 低密度やガス状空洞, 造影剤にenhanceされないことが認められた。PET や生検およびAFP 測定などにより, 完全壊死と破壊率が観察された。1年, 2年, 3年生存率は100, 90と85%, 9例と2例は長期生存率で, それぞれ3年と4年を経過した。治療による心臓, 肝腎臓機能の異変が認められなかった。主なる副作用は軽い疼痛, 微熱であった。結論:6mol/l 塩酸溶液(HAS6)は, 内生性蛋白質凝固剤として, がん組織凝固作用において50%酢酸と無水エタノール注入より優れている。CT が介する経皮的塩酸注入療法は優れた組織破壊作用を示し, 将来50%酢酸と無水エタノールの代わりに腫瘍の低侵襲的な経皮的治療法として, 安全的でコントロールしやすく毒性のないものである。