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癌と化学療法
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Abstract
アレイCGH は(array-based comparative genomic hybridization=array CGH)癌のゲノムコピー数異常を高感度,高解像度で解析することを可能にした。われわれの確立したアレイCGH プラットフォームは,2,304個のBAC/PAC クローンで構成されており,その解像度は1.3メガベースである。この技術を応用することにより,リンパ腫における病型特徴的なゲノム異常やその標的遺伝子を見いだしつつある。本稿では,非ホジキン悪性リンパ腫(non hodgkin lymphoma)の約半数を占めるびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL), 濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma:FL)と,本邦に特徴的にみられる成人T 細胞性白血病/リンパ腫(adult T cell lymphoma/leukemia:ATLL)のゲノム異常について主に報告する。びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)はABC タイプ(activated B cell type=活性化B 細胞;予後不良)とGCB(germinal center B cell=濾胞中心B 細胞,予後比較的良好)タイプに分けることができるが,ABC タイプではtrisomy3と18qの増幅,9p21欠損が特徴である。それに対してGCB DLBCL ではこれらのゲノム異常はみられず,2p15, 7q, 12qのゲノム増幅がみられる。特にABC タイプにおける9p21の欠損をもつDLBCL は極めて予後不良であり,最もアグレッシブなDLBCL である。濾胞性リンパ腫ではBCL2 転座の有無によってゲノム異常のパターンを比較すると,BCL2 転座をもたないグループに特徴的な染色体異常を見いだした(trisomy3)。ATLL の解析では急性型とリンパ腫型では,異なるゲノム異常パターンを示し,遺伝子異常のパターンもまた異なっていた。このように複数のサブタイプからなるリンパ腫から,サブタイプ特徴的なゲノム異常を見いだした。さらにこれらのゲノム異常の解析だけにとどまらず,われわれはリンパ腫に特徴的ないくつかの重要な遺伝子異常も見いだしている。たとえばマントル細胞リンパ腫(MCL)におけるBIM 遺伝子の欠損,DLBCL, バーキットリンパ(BL)におけるmicroRNA 17-92の過剰発現などである。診断への応用として,DLBCL とMCL, ABC タイプとGCB タイプのDLBCL を,ゲノム異常のパターンから識別できるアルゴリズムを確立しつつある。このアルゴリズムを用いて,DLBCL とMCL を89%の確率で,ABC タイプとGCBタイプを83%の確率で識別できた。識別に用いたBAC マーカーは両疾患あるいはサブタイプを特徴付ける遺伝子異常を含んでいた。これらの結果から,アレイCGH で得られたゲノムプロファイルを比較することによって診断への応用が可能であると考えられ,ゲノム異常の標的遺伝子は治療の分子標的となり得る。
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