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癌と化学療法
Abstract
傍腫瘍性神経症候群paraneoplastic neurological syndromes(PNS)における悪性腫瘍の「遠隔効果」が,神経組織との共通抗原(onconeural antigens)を発現する腫瘍により惹起された自己免疫反応であることが明らかとなりつつある。この共通抗原に対する自己抗体(onconeural antibodiesまたはparaneoplastic antibodies)は,標的抗原の局在が神経細胞の内部か,膜表面上かにより大きく二つのグループに分けられる。PNS のマーカーとして臨床的意義が確立した抗体は,well-characterized onconeural antibodies(またはclassical antibodies;古典的抗体)と呼ばれ,いずれも細胞内抗原(Hu,Yo,Ri,CV2/CRMP5,Ma2,amphiphysin)を標的とし,原発腫瘍の推定にも有用である。一方,原因が未知であった辺縁系脳炎の診断マーカーとなる自己抗体が最近相次いで報告され,新たなサブタイプの存在が明らかとなることで自己免疫性脳炎の概念が拡大されつつある。これらの抗体は神経細胞表面に結合し,神経伝達物質受容体(NMDA受容体,AMPA受容体,GABAB受容体)やイオンチャンネル(VGKC)を標的としているが,必ずしも腫瘍に随伴せず,PNS のマーカーとしての特異性は高くない。神経細胞表面に結合する自己抗体を伴う自己免疫性の辺縁系脳炎は,古典的抗体を随伴するPNS としての辺縁系脳炎と臨床像に類似点はあるものの一致はせず,病態機序も異なる。古典的抗体は髄腔内での特異的産生が示されており,単なる腫瘍マーカーではなく,病態に深くかかわると考えられるが,これらの抗体を投与して受動免疫してもPNS のモデル動物は作製できず,古典型抗体そのものの病原性は証明されていない。患者の中枢神経系に多数のT 細胞浸潤を認めるなどの間接的根拠に基づいて,細胞性免疫機序による不可逆性の神経傷害が推定されている。一方,抗-神経細胞表面抗体を伴う脳炎では液性免疫による細胞障害が考えられ,治療による症状改善が得られやすいことから,何らかの機能的な作用機転も推定されるが詳細は未解明である。特に自己免疫性辺縁系脳炎の新たなサブタイプに関しては,症例を蓄積し長期経過も把握して臨床像の広がりを確認する必要がある。PNS では原発腫瘍に対する早期の適切な治療が最も重要であることは共通している。このために,上皮内癌を含めたごく早期の原発巣をいかに迅速に発見するかが課題である。さらに病態機序に基づいて,いかに個々の患者に最適化された免疫抑制/調節療法を行うかが臨床的に重要な課題である。
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