Abstract
切除不能再発・結腸直腸癌に対し,抗EGFR 抗体薬を投与する際に行うKRAS遺伝子変異検査の臨床的有用性は,欧米の大規模臨床試験の解析結果により確立したものとなっている。現在実臨床では,抗EGFR 抗体薬の使用に当たり,KRAS遺伝子codon 12,13に存在する七つの主要な遺伝子変異の検索が行われている。一方欧米で行われた大規模臨床試験の統合解析では,KRAS遺伝子のなかでもグリシンからアスパラギン酸へアミノ酸が変化するp. G13D mutation の症例は,それ以外のmutation の症例より無増悪生存期間,全生存期間が長い可能性があることが示唆されていた。さらには,KRAS codon 12 and 13 の変異の他に,RAS/RAF/MAPK経路やPI3K/AKT/mTOR経路に存在するKRAS codon 61,146,BRAF,NRAS,PIK3CAに変異が存在する結腸直腸癌の症例も,抗EGFR 抗体薬の臨床効果が望めない可能性が示唆されている。また最近では,抗EGFR 抗体薬投与後に再度gene status の検査を行うと,EGFR やKRAS に新たにmutation が同定される症例も報告されており,抗EGFR 抗体薬に対する二次耐性の機序として注目されている。本稿ではKRAS 遺伝子変異を中心に大腸癌の個別化治療の現状について説明するとともに,KRAS 以外の遺伝子変異の意義とその臨床応用の可能性,抗EGFR 抗体薬耐性の機序に関する新規の報告について解説する。