癌と化学療法

Abstract

症例は70 歳，男性。貧血精査目的の大腸内視鏡検査，腹部造影CT より直腸癌，Rb，cT4b（膀胱，精嚢），N3M0，cStage Ⅲc と診断した。術前化学療法としてcetuximab＋oxaliplatin＋S-1を4 コース施行し，ycStage Ⅲc（ycT4bN3M0）と診断した。根治手術として腹腔鏡下骨盤内臓全摘術，両側側方リンパ節郭清，回腸導管造設術を施行した。術中より予防的抗菌薬としてセフメタゾンを2 g/日を4 日間投与した。術後 4 日目にドレーンより血性排液を認め，APTT 58.9 秒，PT-INR 3.33と凝固能異常所見を認めた。PIVKA-Ⅱを測定し11,754 mAU/mL と著明な高値を呈したため，ビタミンK（VK）欠乏症と診断した。VK 製剤を投与し凝固能は改善した。VK の主な吸収経路は食事，腸内細菌での産生，VK 代謝サイクルでの再利用である。本症例では，① VK 摂取量の著しい減少，②N-methyl-thiotetrazole基を有する抗菌薬によるVK 代謝サイクルの障害，③抗菌薬による腸内細菌叢の抑制に伴うVK の不足が原因として考えられた。術後出血の原因として，VK 欠乏症併発も念頭に置く必要がある。