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治療学
Abstract
CKD(chronic kidney disease:慢性腎臓病)が重要である理由は次の 3 点に要約される。第一はその患者数が膨大であること,第二はCKD がわれわれの健康に重大な影響を及ぼすこと,第三は CKD は治療可能であるということである。CKD の概念や定義が作られた背景にはこれらの諸点が色濃く反映されているので,まずこれらについて簡単に解説しておきたい。第一の点は,言い換えれば CKD はコモンディジーズであるということである。どのくらいありふれた病気であるかといえば,米国において試算されている結果をみれば一目瞭然である。2002 年に発表されたデータによると成人の 4.6%(約 830 万人)が中等度以上の腎機能低下をきたし,これに加えて尿異常や形態異常など明らかに腎障害を示唆する所見を有する人を加えると実に全人口の 10.9%(1,950 万人)がCKD を有するという衝撃的なものであった1)。第二の点は,現在までに数多くの臨床疫学的な研究結果が発表されているが,もっとも有名な研究は 2004 年に発表されたものである。すなわち米国の民間健康管理機関(HMO:HealthMaintenance Organization)である Kaiser Permanenteに加入している被保険者 112 万人を対象にした観察研究により,次のような結果が明らかになった。腎機能低下が進むにしたがって,CVD(cardio-vascular disease:心臓血管病)の発症,原因のいかんを問わない入院や総死亡の危険が有意に増加する2)。すなわち,CKD は透析や移植を必要とする ESRD(end stage renaldisease:透析や移植を必要とする末期腎不全)の予備軍としてだけではなく,CVD や死亡の重要なリスク要因であり,われわれの健康にとって大きな脅威となっている。第三の点は,これまで CKD の治療について多くの研究がなされた結果,治療によって腎機能低下の速度を遅くしたり,CVD の発症や死亡を減少させたりできるということが明らかになってきたことである。また,最近では治療により CKD そのものの regression や remissionを目指す治療が試みられている3)。したがって,CKD 患者を正確に評価して適切な治療を行うことによって,ESRD や CVD,死亡などを回避できるのである。次項でも述べるが,CKD は腎臓専門医だけで解決できるものではなく,社会全体が関心を深め,医療政策上の重要問題として位置づけなければ,効果的な対策は立てられないことを銘記すべきである。
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