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治療学
- Author: 松本誉之1
Abstract
近年,機能的胃腸症の増加が問題となっている。背景として近年の社会生活の複雑化やストレスの増加などが考えられる。本症の特徴は消化管の不定愁訴であるが,そのなかで過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の頻度は高く,現在一般内科に受診する患者のアンケートでは,約 20~30%が IBS に相当する症状をもっていると考えられている1)。一方,IBS の約 1/3 の症例は感染性腸炎など,なんらかの腸炎を契機として発症しており,その病態に炎症の関与が考えられている2)。基礎的な研究結果では,IBS 患者の腸管粘膜内にマクロファージ系細胞の増加がみられたり,サイトカイン産生細胞の増加がみられたりするなどの報告がある1,2)。ところで,腸管の慢性炎症を主体とする疾患として特発性炎症性腸疾患(inflammatorybowel disease:IBD)がある。IBD は潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)の 2 疾患から構成されており,わが国においても増加が顕著であり,2004 年度の特定疾患医療受給者数によると UC で約 83000 人,CD で約 23000 人の登録患者数がある3)。病型から検討すると,大部分が再燃寛解型で,左側結腸炎型が最も多い。重症度分類は主として臨床症状により行われており,顕血便の程度,排便回数などが重要で,重症度の判定には貧血や頻脈などの全身症状の有無が決め手となる。治療は病変範囲と重症度により決定され,臨床的に寛解状態になった場合には,その状態を維持する目的で寛解維持療法が行われる3)。一方,炎症性腸疾患,特に UC において,治療により内視鏡的に病変が消失した寛解状態にもかかわらず,下痢・腹痛などの症状を長期にわたり繰り返す症例に遭遇することもまれではない。このような場合,内視鏡検査などでは腸管病変はほとんど見受けられず,UC に対する治療薬を増量しても効果がみられないことが多い。すなわちこのような症例では,IBS に相当する病態にあることが考えられる(図 1)。近年 Rome III の IBS 診断基準が作成されたが4,5),それによると器質的疾患を除外することが必須であり,UC があれば IBS と診断することは容易でないが(寛解状態の場合,UC の症状と考えるのか IBS の合併と考えるのかは今のところ一定の見解はない),類似の病態として治療に当たることが有用であることもしばしば経験される。本稿では,このような IBS と IBD の共通点と相違点を中心として解説する。
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