Abstract
精神疾患の臨床経過を考える上で,個体の脆弱性とともに,回復力を意味するresilienceの視点が注目されつつある。子どもは様々なストレス刺激に対して繊細な存在であるとともに,resilienceに富む存在でもある。児童青年期のうつ病が成人期と同一の診断基準を用いて診断できると結論づけたのは近年のことであるが,臨床症状は成人期と比べて非定型的であるほか,臨床経過においても自然軽快や再発が多く,双極性障害への移行もしばしば認められる。児童青年期の大うつ病性障害を対象にした臨床試験では,プラセボの奏効率も高く,三環系抗うつ薬の有効性が示されていない。この点は,うつ病の児童・青年ではresilienceが維持されている可能性を示唆している。さらに,抗うつ薬と自殺関連事象の関連性を検討するなかで,activation syndromeに着目されたが,その背景には児童青年期の「うつ」が示すbipolarityの関与が指摘されている。ところが,近年の仮説によれば,双極性障害の発症には遺伝負因が大きな役割を果たし,エピソードを経験すると後続のエピソードを出現させやすくするという生物学的な脆弱性とともに,エピソードの出現を防ごうとする内在的なメカニズムの存在も示唆される。これらは,児童青年期の気分障害の病態理解において,成人期の場合以上にresilienceの視点が重要であることを示唆しており,今後のさらなる検討が求められる。 Key words :resilience, depression, activation syndrome, antidepressant, bipolarity