Abstract
救急・急性期の現場において,攻撃性に伴って生じる暴力のインパクトは大きい。攻撃性が強く治療に非協力的な患者に対して,抗精神病薬を非経口投与することは一般的に行われているが,その科学的根拠は脆弱なものである。その主な理由は,このような患者は無作為割付試験への参加同意をとることが困難であり,試験にエントリーさせられないことが挙げられる。わが国における抗精神病薬非経口投与の中心はhaloperidolであり,わが国の特徴としてhaloperidolの静脈内投与,特に身体拘束下での点滴静注が一般的に行われている。しかし,これには錐体外路症状,不整脈,そして身体拘束に伴う心理的負担などの問題がある。一方,海外ではolanzapine,aripiprazole,ziprasidoneといった第2世代抗精神病薬速効性筋注製剤が上市されており,救急・急性期の現場に普及している。将来的に,わが国でも第2世代抗精神病薬速効性筋注製剤が使用できるようになれば,有用な治療オプションとして普及するであろう。しかし,いくら第2世代であっても,非経口投与の持つ強制性に関する問題は解決されない。したがって,非経口投与などの侵襲的な治療を最小限にとどめるよう努力していくことが,救急・急性期治療の本来的な発展につながっていくと考える。 Key words :parenteral antipsychotics, haloperidol, intramuscular preparations of second generation antipsychotics, agitation