Abstract
児童思春期精神医学の臨床実践においては,子どもが自発的に精神科外来を受診することはほとんどなく,また従来の小児医療においては,子ども本人ではなく,家族(保護者)の意向が重視され,医療者は保護者への説明を中心に行い,子どもはその保護者からの説明,説得により医療行為を受け入れるという構図であった。一方国連が採択している「児童の権利条約」には,「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする」とあり,わが国でもこの条約が批准され,日本の医療現場でも徐々に子どもの認知発達に合わせた方法で子どもが納得できるような説明の重要性が注目されるようになった。本稿では,その方法として,インフォームド・アセント,Shared Decision Making(SDM)の概念を提示し,また,SDMの概念を用いた症例を提示し,考察した。児童思春期精神医学領域においては,「精神疾患を持つ子ども」という極めて脆弱な立場にある個人とその家族に対応しなくてはならない。患児や家族が主体的に治療に取り組めるような治療同盟の構築は,治療の成否の鍵ともなり得ることを我々は十分に認識する必要があるとともに,そのような対応が可能な精神保健医療のシステムの構築が求められる。 Key words : rights of the child, informed assent, shared decision making, competency, pharmacotherapy