Abstract
統合失調症の治療に第2世代抗精神病薬(SGAs)などの抗精神病薬が必要なことは明らかであるが,同時にこれらの薬剤は患者の身体的健康にとって相当リスクの高いものであることも確かであり,海外では抗精神病薬内服は心臓突然死リスクを増大させると報告されている。心臓突然死リスクの増大には,抗精神病薬による糖脂質代謝異常および心電図QT延長作用が関係していると考えられる。一般人口において,糖脂質代謝異常と密接に関係する肥満やメタボリック・シンドローム(MetS)の有病率は,欧米と日本では異なっており,さらに,日本人の耐糖能は欧米人に比べてもともと脆弱であることがわかっている。こうした人種差に加え,長期入院患者の割合が多いことや薬物療法では依然として多剤大量療法が多いなど,日本の精神科医療環境の特殊性も患者の身体リスクに大きな影響を与えていると考え,当施設では2006年からSGAsによる糖脂質代謝異常および心電図QT延長作用について研究を開始しており,本稿ではその一部を紹介する。また,日本においてSGAsによる患者の身体リスクがどの程度存在しているか不明であるだけでなく,そうした身体リスクを患者や精神科医がどのように管理していくかということは臨床上非常に大切な問題であるが,現時点できちんとしたガイドラインは存在しない。そこで,筆者らは日本精神科病院協会と日本臨床精神神経薬理学会との合同プロジェクトを2011年に立ち上げ,日本精神科病院協会加盟約1200施設を対象として大規模調査を行っており,その概要を紹介したい。 Key words : Second-generation-antipsychotics, quetiapine, aripiprazole, hypogrycemia, insulin resistance