Abstract
アルコール依存症とは,自らの飲酒行動を制御できなくなった病態であり,精神的,身体的および社会的に深刻な影響を及ぼす疾患である。今までに様々な治療の工夫がなされてきているが,治療効果は不十分であり,更なる治療向上のための努力が求められている。治療目標としては,断酒することが重要である。治療の根幹は認知行動療法などの集団精神療法やカウンセリングなどの個人精神療法であり,自助グループへの参加も重要である。また,これらの心理社会的治療の補助療法として,薬物治療が行われる。欧米では薬物治療の選択肢は複数あるが,これまでわが国で使用できる薬物は抗酒薬に限られていた。このような中で,今般,新しい治療薬としてacamprosateが臨床使用できるようになった。本薬は1987年にフランスで承認されて以降,欧米諸国を始めとした国々で臨床使用されてきた。本薬の作用機序は,アルコール依存症患者で亢進したグルタミン酸作動性神経の活動を抑制させることで,中枢神経活動の不均衡を是正することである。これにより,飲酒欲求は低下し,断酒継続につながると考えられている。我が国でもアルコール依存症の薬物療法の新たな選択肢が増えたことは非常に意義がある。本稿では,acamprosateの開発経緯,薬剤概要,国内試験および海外臨床試験成績について紹介し,実際の臨床現場での対応などについても言及する。 Key words : acamprosate, pelcⅡ, paille, PRAMA