Abstract
心神喪失者等医療観察法による医療において,統合失調症への基本的な治療選択肢とされる持効性製剤(デポ剤)が指定通院医療に関わる医師にどう認識されているかは重要である。そこで,全国の指定通院医療機関の責任精神科医師441名に対してデポ剤治療に対する認識を調査した。デポ剤に対する認識としては,「使用経験」「知識」「受け入れ」「副作用」「有用性」「重要性」の6項目を回答者に4段階評価してもらった。その結果,246名より回答が得られたことから,調査票回答率は55.8%であった。「使用経験」の点数により回答者244名をI群(使用経験まったくなし),II群(使用経験あまりなし),III群(使用経験少しあり),IV群(使用経験十分にあり)に分けたところ,II群が9名(3.7%),III群が81名(33.2%),IV群が141名(57.8%)となり,この3群ではデポ剤の使用経験が多いほど,デポ剤治療に対する認識は良好であった。一方,デポ剤使用経験がまったくないI群は13名(5.3%)と少数ながら,デポ剤に対する認識はIV群寄りの良好な認識を示す特異的なグループであった。I群のようなグループが治療手段一般に対して普遍的に存在する可能性も考えられる。回答施設全体で経験されたデポ剤投与中の指定通院対象者は88例であり,指定通院対象者891例に対するデポ剤使用比率は9.9%であった。通院中の対象者におけるデポ剤使用比率は,指定入院医療中の導入を反映した数字と考えられるが,英国の司法病棟の使用頻度の1/3に留まる水準であった。デポ剤は統合失調症の維持治療に有用な剤型である。国内においてデポ剤の活用が十分な水準かどうか今後確認することも必要であろう。 Key words : long-acting injection, depot injection, psychopharmacology, forensic psychiatry