Abstract
確かにいくつかの抗精神病薬は,主観的な催眠作用,睡眠ポリグラフ上での入眠潜時の短縮,総睡眠時間の延長,中途覚醒時間の短縮など催眠鎮静作用を有する。しかし,適応病名のことを別にしても,不眠の臨床的な改善効果とリスク・ベネフィットバランスの観点から,成人の(原発性,二次性)不眠症に対して抗精神病薬を用いることを積極的に支持するエビデンスは十分でない。統合失調症に伴う不眠であれば,その他の精神症状に対する効果と合わせてリスク・ベネフィット比が担保される場合も多いだろう。一方で原発性不眠症,もしくは身体疾患に伴う二次性不眠症に対して積極的に用いる根拠は相対的に弱くなる。NIH State of the Science Conferenceにおいても,原発性および二次性不眠症に対する抗精神病薬の有効性,安全性に対する情報は不足しており,睡眠薬代わりに用いることは推奨できないと総括されている。眠気や倦怠などによるQOL障害や耐糖能異常などの副作用リスクを勘案すると,現時点では抗精神病薬を用いた不眠医療に過大な期待を抱くことはできない。今後,既存の睡眠薬が奏効しない難治性不眠症に対する補完療法として抗精神病薬の一部を活用することが可能か,用量,投与期間,安全性を明らかにする臨床試験が実施されることを期待したい。 Key words : antipsychotics, insomnia, hypnotic action, sleep structure, drug safety