Abstract
オレキシンは,視床下部外側野(lateral hypothalamic area:LHA)に局在するニューロン群によって産生される神経ペプチドであり,オレキシンAとオレキシンBからなるファミリーである。LHAは摂食行動に関与しているとされていること,および,ラットやマウスの脳室内に投与すると摂食量が増えること,そして絶食時に発現が上昇することなどから,当初は摂食行動の制御因子の1つとされた。その後,オレキシンやその受容体遺伝子に関する遺伝子改変動物モデルの表現系,その後の臨床的研究によりオレキシン産生ニューロンの変性・脱落が睡眠障害,ナルコレプシーの病因であることが明らかになり,この物質が覚醒の維持にもきわめて重要な役割を担っていることが明らかにされた。オレキシン産生ニューロンは睡眠・覚醒調節機構の一部であるだけでなく,情動やエネルギーバランスに応じ,睡眠・覚醒や報酬系そして摂食行動を適切に制御する統合的な機能をもっていると考えられている。オレキシンは,内因性の強力な覚醒誘導物質であり,その機能亢進は不眠症の背景にある過覚醒の成立機序にも関わっている可能性がある。オレキシン受容体拮抗薬は新しい作用機序の不眠症治療薬として期待されており,2014年11月にはMSD社の非選択的オレキシン受容体拮抗薬,suvorexantが本邦において上市されている。 Key words : orexin, hypothalamus, narcolepsy, insomnia