Abstract
統合失調症のグルタミン酸仮説は,患者の脳脊髄液中グルタミン酸濃度の低下に基 づいて,脳内グルタミン酸伝達障害を指摘したKim らにより1980 年に提唱され,死後脳 における,各グルタミン酸受容体結合能の変化の報告から支持された。さらに,次の所見 から,NMDA 型グルタミン酸受容体(NMDA 受容体)の機能不全が統合失調症に関与す ることが推測され,グルタミン酸仮説はNMDA 受容体機能低下仮説として広く受け入れ られている:(1) 統合失調症に出現する,抗精神病薬が改善する陽性症状,および効果を 示さない陰性症状や認知機能障害と,区別が困難な精神症状を引き起こす,phencyclidine がNMDA 受容体を選択的に遮断する,(2) 種々のNMDA 受容体遮断薬はその力価に相関 して統合失調症様症状を誘発する,(3) 健常者より統合失調症患者の方が少量のNMDA 受容体遮断薬により精神症状が惹起されやすく,NMDA 受容体機能が減弱していること が示唆される,(4) 抗NMDA 受容体抗体が統合失調症様症状を誘発する。NMDA 受容体 機能低下仮説は,統合失調症の症状発現機序を包括的に理解するのに有用な考え方とし て,本症の病因・病態の解析および既存の抗精神病薬に反応性・抵抗性双方の症状に奏効 する新しい治療法開発に応用されている。 臨床精神薬理 23:773-786, 2020 Key words :: glycine modulatory site, glutamate, NMDA type glutamate receptor, D-serine, schizophrenia