外科
Volume 77, Issue 3, 2015
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特集 【括約筋間直腸切除術(ISR)のすべて】
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1.ISRの歴史
77巻3号(2015);View Description Hide Description低位直腸癌の手術において,括約筋間直腸切除術(intersphinctericresection:ISR)は過去のさまざまな直腸癌の手術治療の知識と歴史が集約した手術である.局所切除からMiles の直腸切断術,そして低位前方切除からParksの経肛門吻合を経て,直腸癌の進展形式の深い知識をもとに開発された術式である.その歴史を繙くことで,改めてその重要性を明らかにする. -
2.肛門管の解剖
77巻3号(2015);View Description Hide Description手術において解剖学的知識に基づいた操作は癌の根治性担保に不可欠である.一方で,直腸下部や肛門,骨盤底筋群は排便機能のみならず,排尿・性機能にも深くかかわっており,今日では肛門周囲,特に肛門直腸移行部の解剖の理解も大切となった.前壁には直腸尿道筋が,後壁には肛門尾骨靱帯が存在する.維持されている正常機能を温存することは,患者のquality of life(QOL)にも大きく影響を及ぼし,括約筋間直腸切除術ではこれらの存在を理解して手術を行うことが重要である. -
3.肛門管に浸潤する下部直腸癌の病理学的特徴
77巻3号(2015);View Description Hide Description下部直腸・肛門管癌に対する括約筋間直腸切除術(intersphinctericresection:ISR)の適応決定には,肛門側断端距離およびcircumferentialmargin の確保の可否に関する術前評価と術中の判断が重要である.腹会陰式直腸切断術が施行された下部直腸・肛門管癌例の手術標本を病理組織学的に見直すと,ISRが施行されたと仮定した場合にも腫瘍学的な根治性は損なわれないと判断される症例が多々存在する.肛門管内の腫瘍進展の判断を的確に行うことにより,今後ISR の適応拡大は可能であると考えられるが,すべての下部直腸・肛門管癌で施行できるわけではない.本稿では,ISRを施行することにより癌の根治性が損なわれる症例の特徴について解説する. -
4.肛門管癌浸潤の画像診断とISRの適応
77巻3号(2015);View Description Hide Description括約筋間直腸切除術(ISR)の普及によって肛門温存率は改善してきている.しかしながら,癌の手術にとって大切なのは根治性を大前提とし機能も温存することである.そのために術前の画像診断から的確な手術適応や術式を決定することは重要である.ISRの適応を考える際には解剖学的,組織学的な特殊性も考慮し,画像診断を行う.特にISR では癌の内外括約筋への浸潤程度を把握することが根治性のうえでも重要であり, この評価にはMRI が有用である. また,virtual-threedimensiona(l 3D) multi imageを用いることで,さらに正確な術前診断と術式決定が可能となる. -
5.開腹によるISRの手術手技
77巻3号(2015);View Description Hide Description括約筋間直腸切除術(ISR)の適応基準は,① radial margin(RM)の確保,② distal margin(DM)の確保,③特殊癌症例の除外,④直腸肛門機能低下例の除外が原則である.ISRは経腹的・経肛門的操作による術式であり,腹腔操作→肛門操作→腹腔操作→肛門・腹腔同時操作の手順となるが,開腹によるISR では内外括約筋間剝離・切除は主に肛門操作で行われる.治療成績からみて,適切な手術操作を行えば根治性を損なわず,術後の排便機能を保持できる有用な手術法と思われる. -
6.腹腔鏡下ISRの手術手技
77巻3号(2015);View Description Hide Description肛門近傍の直腸癌に対する括約筋間直腸切除術(ISR)は,根治性と肛門機能温存の点から難易度の高い術式である.近年,腹腔鏡下手術の拡大視・近接視効果が狭い骨盤腔内においてこそ有用と認識され,腹腔鏡下ISR を導入する施設も増えつつある.しかし,これを安全で効果的に行うには,腹腔鏡下の外科解剖を熟知し,適切な手技をシステム化することが必須となる.特に,ISR 時の剝離難所部である肛門管前壁側の的確な剝離への腹腔鏡の活用が大きな鍵となる. -
7.ISRの遠隔成績
77巻3号(2015);View Description Hide Description究極の肛門温存術といわれる内括約筋切除による肛門温存術(ISR)が,直腸切断術(APR)にかわる根治術として広まってきた.しかし,手術手技には知識と経験が必要であり,また腫瘍学的な根治性や肛門機能などのquality of life(QOL)の問題が議論されている.根治性の面から,ISRが治療の選択肢となりうることを,手術成績や再発などの遠隔成績について述べる. -
8.治療成績と術後排便機能の両立をめざしたISR
77巻3号(2015);View Description Hide Description直腸癌に対する肛門温存手術として,括約筋間直腸切除術(intersphinctericresection:ISR)は広く認知されるようになったが,術後肛門機能障害が存在することから,治療予後と術後肛門機能の双方を念頭においた手術適応の考慮が必要である.術後排便機能を増悪させる最大の要因は,術前化学放射線療法(CRT)である.CRT は局所再発の低下に寄与し,完全奏効(CR)などの腫瘍縮小効果の大きな症例に関しては良好な予後が期待できることから,重要な治療選択肢であるが,肛門温存をすることから術後排便機能にも配慮が必要なISRとの相性がわるい.ISRの術後排便機能は許容される結果であるが,今後さらにこの手術を発展させるためには,術前抗癌薬単独治療など,ISRに最適な術前治療と術後排便機能を改善させる治療の開発・確立が必要である. -
9.ISRの限界例に対し機能と根治性からみたESRの位置づけ
77巻3号(2015);View Description Hide Description括約筋間直腸切除術(intersphincteric resection:ISR)は内肛門括約筋切除を伴う腹肛門的直腸切除術,経肛門結腸肛門吻合術であるが,根治性からISRが不可能と考えられるのは,腫瘍下縁が歯状線より口側に存在し,内肛門括約筋を超えて浸潤(T3, T4)する症例である.このような場合,外括約筋切除術(external sphincteric resection:ESR)をすることで根治性は維持される.ただし画像診断での浸潤の診断には限界があり,over surgeryになっていることが多い.またESR後の肛門機能や排便状態は,ISRと比べると必ずしも満足が得られるものとはいいがたい.外括約筋を切除して肛門温存することで,qualityof life(QOL)が低下する例があることも説明しなければならない. -
10.ISRの新たな展開としてのロボット手術
77巻3号(2015);View Description Hide Descriptionロボット手術は,da Vinci Surgical S System(IntuitiveSurgical 社)の開発以来,緻密な手術操作が可能となる機能をもち,骨盤内領域の手術を中心に普及が加速している.本邦でも保有台数が増加し,さまざまな分野で注目されている.筆者らの大腸外科手術の中では,深く狭い領域での手術操作を要する括約筋間直腸切除術(ISR)においても,本システムを利用することで,従来の手術に比べ癌の根治性や機能温存をより向上できると期待できる.一方,ISRは肛門に近い手術のため,肛門からの病変部の触診による確認や操作が必要となる.本システムでは触覚がない欠点があり,局所での癌の根治を損なわない手術操作に十分配慮する必要がある.
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