外科
Volume 77, Issue 8, 2015
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特集 【門脈枝塞栓術・結紮術のすべて】
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- Ⅰ.総論
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1.門脈枝塞栓術・結紮術開発の歴史
77巻8号(2015);View Description Hide Description1920年,ウサギで門脈枝の結紮が血流遮断葉の萎縮と非遮断葉の再生肥大を引き起こすことが報告され,これが門脈枝塞栓(PVE)・結紮術(PVL)の原点となった.この現象に着目した本庄が,萎縮による抗癌効果を期待して1961年にPVLを臨床に導入したところ,ヒトでも非結紮葉が再生肥大することが証明された.1982年には,逆にこの再生肥大が誘発される現象のほうに着目して,幕内・木下らにより,経皮経肝的な門脈塞栓術(PTPE)が開発されるにいたった.PTPEはPVLと異なり,追加手術をすることなく拡大肝切除前に残肝予備能を高め,術後肝不全を予防できることから,1990年以降急速に普及し今日にいたっている.一方2012年には,PVLの1亜型ともいえるassociatingliver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy(ALPPS) 手技が,PVEよりも迅速でかつ効率の高い残肝容積増加が得られるとして報告され,門脈血流遮断を応用した処置はさらなる発展をみせている. -
2.門脈枝塞栓術の病態生理
77巻8号(2015);View Description Hide Description門脈枝塞栓術(portal vein embolization:PVE)後肝再生の機序として,非塞栓葉の血流増大に伴う類洞内皮細胞へのずり応力増大があげられる.これに反応して,種々の肝再生をうながすサイトカインが放出され,約3∼4週間にわたり肝再生は継続する.再生を阻害する因子として,慢性肝炎・閉塞性黄疸・術前化学療法などがあげられる.PVE後の評価としては,CTでの体積計算で増大率や増大能を算出し,あるいはindocyanine green (ICG)負荷試験の値とかけ合わせることで,術後の安全性評価に用いる.近年,99mTc-galactosyl humanserum albumin (GSA)シンチグラフィとCTとの融合画像を用いた機能的肝体積の算出が容易となり,非塞栓葉の肝機能をより正確に評価できるようになった. -
3.門脈枝塞栓術に必要な解剖と画像診断
77巻8号(2015);View Description Hide Description肝悪性腫瘍に対する肝切除は,根治性の高い治療手技である.門脈枝塞栓術(portal vein embolization:PVE)は大量肝切除を施行するにあたり,非塞栓側の肝実質の肥大化,肝機能向上を目的として術前に行われる手技の一つである.安全かつ適切にPVEを施行するためには門脈系の解剖はもとより,特殊な病態下での解剖の変化を熟知しておく必要がある. -
4.門脈枝塞栓術の手技の実際と塞栓物質
77巻8号(2015);View Description Hide Description門脈枝塞栓術(PVE)には,回結腸静脈経由で行うtransileocolicportal vein embolization (TIPE) と,経皮経肝的に行うpercutaneoustranshepatic portal vein embolization (PTPE)の二通りがある.後者は開腹の必要がないため,標準的なアプローチとなってきているが,安全な穿刺ルートが確保できない場合にはTIPEを考慮する.また,各種塞栓物質の長所・短所をよく理解したうえで,症例に応じて適切に選択し,PVEに伴う合併症を最小限におさえることが肝要である. -
5.門脈枝塞栓術の合併症とピットフォール
77巻8号(2015);View Description Hide Description門脈枝塞栓術は,大量肝切除施行時の肝不全回避に欠かせない術前処置であり,interventional radiologyの知識と,その安全性の担保,合併症への対応が重要である.治療戦略を考え手術を行う立場の外科医として,このような情報を熟知しておくことは非常に重要である. - Ⅱ.各論
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1.肝門部胆管癌に対する門脈枝塞栓術
77巻8号(2015);View Description Hide Description肝門部胆管癌における門脈枝塞栓術(portal vein embolization:PVE)について総説する.肝門部胆管癌においては,閉塞性黄疸による黄疸肝状態であることが多く,PVE施行前に予定残肝側の胆道ドレナージを行うことが必要である.肝切除とともに肝外胆管切除・再建,リンパ節郭清が必須であり,膵頭十二指腸切除,門脈や肝動脈切除・再建などが必要となることもある.すなわち,肝門部胆管癌における肝切除は肝細胞癌や転移性肝癌に対するそれと比較して,減黄がなされたとしても切除肝の状態が不良である可能性が高いこと,手術がもたらす侵襲度も大きいため,PVE適応基準としての残肝率(ratio of the futureliver remnant volume/ total liver volume:%FLR) はより大きめに設定するべきであり,%FLR<40%とする施設が多い. -
2.肝細胞癌に対する門脈枝塞栓術
77巻8号(2015);View Description Hide Description門脈枝塞栓術(portal vein embolization:PVE) は,広範囲肝切除後の肝不全のリスクを軽減させ,手術の安全性を確保するための重要な術前処置である.今回,multidetector-row CT (MDCT) とアシアロシンチグラフィより作成したフュージョン画像を用い,PVEにおける残存肝CT volumeおよびGSA-Rmaxにより肝再生の評価を行った.正常肝群および障害肝群における予定残肝容積は,PVEの前後でともに上昇傾向を認めたものの,予定残肝機能での比較では,正常肝群においてのみ有意な増加を認めた.障害肝におけるPVEは,十分な機能再生が得られない場合もあり,注意が必要である. -
3.転移性肝癌に対する門脈枝塞栓術を併施したstaged operation
77巻8号(2015);View Description Hide Description高度進行大腸癌肝転移に対する門脈枝塞栓術を併施したstaged operationは,切除率を向上させるために必須な手技である.しかし,対象例は高度進行例が多いため,予後に関してやや不良であり,合併症発生率も高くなっている.またこのような進行癌では,化学療法の併用がしばしば必要であるが,これが門脈枝塞栓・肝切除にどのように影響するかは明らかでない.今後,化学療法をstagedoperation にどのように併用するかが,安全性の確保と長期の治療成績向上に重要な点と考えられる. -
4.新たな二期的肝切除──ALPPSについて
77巻8号(2015);View Description Hide Description近年欧州の一部の施設を中心に新たな二期的肝切除が盛んに行われ,その効果や安全性が熱心に議論されている.この術式はAssociatedLiver Partition and Portal vein ligation for Staged hepatectomy(ALPPS)と呼ばれ,従来の門脈枝塞栓術を併用した一期的あるいは二期的肝切除に比較して肝再生速度が速く,二期切除までの期間が1週間∼10日程度であるのが特徴である.ドイツを中心に行われた7施設共同試験の結果では,25例のALPPS手術で9病日での肝増加率が74%と高率であるが,合併症割合が68%で手術死亡率も12%と高率であり,その適応については十分な検討が必要である.初期の成績を省みてさまざまなALPPS変法が報告されており,肝再生の促進の理由の解明も含めて今後の動向が非常に注目される.
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