内科
Volume 109, Issue 2, 2012
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特集 【その輸液,間違っていませんか?—輸液のコントラバシーとピットフォール】
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<Editorial> その人に輸液は必要ですか? 適切ですか?
109巻2号(2012);View Description Hide Description輸液は「感覚的な」処方をしていても多くの場合は問題が起こらないため,かえって輸液の必要性や適切な輸液の質や量を十分に考えないことが多いと思われる.しかし,腎機能低下や内分泌系の異常などにより体液の調整能が弱まると体液恒常維持がむずかしくなるため,体液バランスの調整に関する基本的知識の習得は重要である.日本にはきわめて多数の輸液製剤があるため,このことも慣れやルーチンでの使用という現状に拍車をかけていると思われる.電解質輸液,栄養輸液,いずれも実際の臨床では常にモニタリング,フィードバックを行って,適宜処方を変更することが大切である. -
<Special Article> 電解質輸液をするための体液生理学のキホン
109巻2号(2012);View Description Hide Description体重の約 60% が水分(体液)である.細胞内と細胞外の浸透圧は等しい.臨床病態を考えるうえでは,浸透圧よりも張度がより重要である.細胞外液では Na とブドウ糖が,細胞内液では K が有効浸透圧物質である.体液は浸透圧調節系と容量調節系で制御されている.浸透圧調節系の主役は抗利尿ホルモン(ADH)であり,容量調節系の主役はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系である.K 濃度は急性調節系と緩徐調節系で恒常性が維持されている.急性調節系はインスリンとカテコラミン,緩徐調節系はアルドステロンが主役である. -
<Special Article> 栄養輸液をするための栄養・代謝生理学のキホン
109巻2号(2012);View Description Hide Description静脈内に強制的に栄養を投与する輸液(静脈栄養)の非生理性を十分理解する必要がある.ブドウ糖の投与量は,生体の消費を理解して定める.ブドウ糖の過剰投与にインスリンの投与で対処すれば,余剰は脂肪新生に流れる.静脈内に投与された脂肪粒子は,小腸上皮から吸収された中性脂肪と同様の行動をとる.静脈栄養を施行する際,総合アミノ酸製剤を使用できない状態はほとんどない. -
<Special Article> 米国での輸液教育とは
109巻2号(2012);View Description Hide Description輸液を理解するためには,まず「塩(Na+)」と「水」が体内でどのように分布しているかを理解する必要がある.Na+とは,細胞外の浸透圧を維持する主要な溶質であるが,「水」は細胞内外をこの浸透圧勾配によって移動する.したがって,血漿 Na+の値は「水と溶質の比」を意味し,細胞外液中の Na+や水の絶対量を示すものではない.5% ブドウ糖液を輸液した場合,投与したうちの 1/3 が細胞外に留まるが,生理食塩水(生食)は 100% 細胞外に留まることを理解する.volumedepletion がある場合,等浸透圧性輸液の投与から開始するのが原則である.血漿 Na+異常がある場合,それに応じた輸液を選ぶ必要があるが,そのためには「自由水や Na+の補正」の目安を知る必要がある.主要な輸液の種類とその使用方法を理解する. -
≪輸液処方のキホン≫ 基本的電解質輸液処方の考え方
109巻2号(2012);View Description Hide Description電解質輸液が必要な状況とは,①現時点で存在する Na 量の異常是正および,②Na 濃度の異常是正,③摂取不足や体液喪失のため今後起こる Na 量・濃度の異常是正,の 3 つである.入院患者,手術後でも輸液が常に必要とは限らない.不必要な輸液は医療資源の無駄使いで,患者の ADL,QOL を低下させるため,避けるべきであるが,必要と判断したら躊躇せずに投与すべきである.患者の状況に応じて是正輸液,維持輸液を行うが,実臨床ではその両方が必要である場合が多く,個々の必要度を考えてそれらを組み合わせて輸液処方を考える.是正輸液は患者の複数の所見を組み合わせ,心機能,循環動態の変化をこまめにモニターして投与スピード・量を調整する. -
≪輸液処方のキホン≫ 基本的栄養輸液処方の考え方
109巻2号(2012);View Description Hide Description静脈栄養の基本処方として,3 大栄養素を決めるためには,必要熱量をまず算出し,次に異化亢進状況を踏まえて必要蛋白質量を算出する.さらに脂質量を算出し,投与必要熱量から蛋白,脂質による熱量を差し引いて糖質の投与量を算出する手順が推奨されている.蛋白質はアミノ酸として投与されるが,NPC/N を考慮しなければならない.脂質は有効に利用すべきであるが,ミセルでの投与となるために投与速度を緩徐にする必要がある.高カロリーとなった際にはビタミン B1不足での乳酸アシドーシスに注意をする.これら適正量の初期設定に悩むよりも,その後のモニタリングでそれぞれの過不足を微調整することが重要である. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 低 Na 血症にならないようにするための輸液
109巻2号(2012);View Description Hide Description輸液を行う場合には,身体所見から症例の病態を把握し,その所見から体内水分量の評価を行う.症例の体液欠乏量を推定し,さらに血清 Na値と合わせて,輸液製剤を選択し,補正をどのように行うかを検討する.輸液開始後は,細胞外液量,血清 Na 値の変動が起こりやすい.とくに高齢者では,患者因子(腎機能低下,SIADH),疾患因子(心不全,肝硬変,腎不全,嘔吐・下痢など),薬剤(利尿薬,抗精神病薬,抗てんかん薬など)の影響を受けていることが多く,血清 Na 値異常を認めやすい.異常な変化を認めた場合は速やかに原因を追及し,方針の変更を検討する. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 体液過剰の患者に輸液は必要ですか?
109巻2号(2012);View Description Hide Description浮腫性疾患は体液量が過剰であり,基本的には水・Na 負荷を減らし,食塩水の利尿を促すことが治療の要であって,輸液の適応となることは少ない.体液過剰では,体液喪失自体(体液量が減ること)は好都合だが,飲水をしない,できない患者では,喪失する体液が低張であることにより高Na 血症のリスクがあるため,これを是正するための必要最小限の低張液補充が必要となることがある. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 救急・ICU 患者での適切な輸液とは?
109巻2号(2012);View Description Hide DescriptionEGDT は重症敗血症患者の死亡率を改善したが,このプロトコールで指標とされる目標値はいずれもその妥当性が議論されている.CVP が前負荷の指標として妥当性が低いこと,65 mmHg という平均動脈圧の目標値が低いこと,ScvO2は末 W血乳酸値で代用可能であること,これらの可能性が示されている.蘇生輸液に用いられる晶質液と膠質液には,生命予後改善に対して優位性が示されているものはない.高浸透圧の HES は腎傷害を発症しやすく,蘇生輸液には推奨されない.急性肺傷害・急性腎傷害の患者では体液量過剰が生命予後悪化因子として示されており,過剰輸液を避けるのが望ましい. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 周術期輸液とは?
109巻2号(2012);View Description Hide Description[輸液量= 維持量+欠乏量+喪失量]である.手術,熱傷,敗血症では,機能していない細胞外液,つまり細胞内外を行き来できず,そこに溜まりとどまっている液(非機能的細胞外液)が出現する.非機能的細胞外液が貯留する場所がサードスペースである.術後 2,3 日からサードスペースに貯留した液が機能的細胞外液に戻る.これを refilling という.輸液剤で血管内にとどまる液量は,膠質液が晶質液より多い.膠質液を用い輸液量をしぼり気味にする conservative,restrictive な輸液に対して,晶質液のみによる liberal な輸液は総輸液量が多くなる.conservative,restrictive な輸液により,悪心・嘔吐・心肺合併症・再手術が減少し,腸管機能や組織の酸素化が改善し,入院日数が短縮するとの報告が増えてきた. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 高血糖患者
109巻2号(2012);View Description Hide Description糖尿病性ケトアシドーシスと高浸透圧性高血糖状態に共通する病態は,インスリンの絶対的欠乏ないし相対的作用不足と(血管内)脱水である.初期治療として優先すべきはインスリン投与でなく,十分な輸液と電解質補正である.輸液は血圧をはじめとする循環動態,脱水の程度,血清 K 濃度によって決定し,必要に応じて変更する.インスリン投与は少量持続静注が基本であり,低 K 血症に注意して行う.治療のゴールは高浸透圧性高血糖状態が高血糖・脱水の補正であるのに対し,糖尿病性ケトアシドーシスではケトアシドーシスの消失である.原則としてリン補充法,重炭酸塩補充は行わない. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 在宅,外来では輸液は必要?
109巻2号(2012);View Description Hide Description在宅,外来に限らず輸液療法は経口,経腸補充が不可能な場合にのみ考慮する.入院治療において輸液療法が必要になる条件でも,在宅では必ずしも必要ではない場合もある.在宅環境においては常に「本当に輸液が必要なのか」を考慮しながら慎重に適応を見極める必要がある.在宅における輸液には在宅中心静脈栄養・末 W輸液・皮下輸液の 3 つの方法があるが,それぞれ意味が異なる.しかし,それらの適応について明確なガイドラインはなく,在宅主治医・スタッフが患者・家族とともに悩みながら個別に判断しているのが現状である外来における輸液の適応は,在宅のそれよりもさらに狭いものであるはずであるが,現実には多くの患者が外来輸液を受けている.それには患者,医療者双方の問題があると考えている.ビタミン輸液はさらに外来においては適応が限られる.われわれ医療者は,安易な輸液に頼らない姿勢をまずはプロフェッショナルとして患者や家族に示すべきである. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 透析患者では輸液は必要?
109巻2号(2012);View Description Hide Description透析患者でも「輸液= 体液不足分+喪失分」という基本原則は同じである.腎臓での調節が効かないので不足分と喪失分の電解質組成を十分理解して輸液を行うことが必要である.透析患者の透析間体重増加は,1 日空きで体重の 3%,2 日空きで体重の 5% までを目標とする. -
≪電解質輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 小児の輸液のうそ・ほんと
109巻2号(2012);View Description Hide Description小児救命集中治療の進歩に伴い,重篤小児に対する急性期輸液戦略の見直しが求められつつある.重篤な小児患者では,「水」摂取過多・排泄過少,「Na」摂取過少・排泄過多をきたす病態が複雑に組み合わさり,医原性低 Na 血症が招来されやすい環境にある.ショックバイタルの重篤小児に対する初期輸液においては,細胞外液補充液のボーラス投与を原則とする.初期輸液のみならず維持輸液においても,生理食塩水ベースの Na 濃度を有する細胞外液補充液を用いる必要性があるかもしれない.一方,比較的軽症・中等症の症例に対しては,旧来の小児輸液戦略で問題はなく,両者の議論の混同を避ける必要がある. -
≪栄養輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 栄養輸液のうそ・ほんと―ストレス係数と血糖値管理について
109巻2号(2012);View Description Hide Description過去 10 年間において栄養輸液領域で真偽のほどが激変した事項を渉猟してみると,ストレス係数と血糖値管理がこれに該当し,その真偽を精査した結果,以下の結論を得た.ストレス係数および基礎エネルギー消費量に同係数と活動係数を乗じてエネルギー必要量を算定する方法は,科学的に不適切であるため,利用するべきではない.強化インスリン療法は,その有効性が実証されておらず,重症患者に対して治療として行うべきではない.現在,重症患者に対する標準的な治療は,厳密な血糖値管理として 140~200 mg/dl の血糖値域で管理を行うことである.高血糖状態のみならず,過剰なエネルギー投与(overfeeding)自体が感染を助長する可能性が推定されるので,適切なエネルギー投与量の設定が第一義である. -
≪栄養輸液のコントラバシー・ピットフォール≫ 栄養輸液におけるピットフォール
109巻2号(2012);View Description Hide Description特殊病態用輸液製剤は,その組成を理解せずに用いると重篤な結果を招く可能性がある.血液透析を受けている患者に腎不全用の高カロリー輸液製剤やアミノ酸製剤をそのまま用いてはならない.低栄養患者に対する輸液治療で refeeding 症候群をきたす危険がある. -
≪輸液の技術的側面≫ 輸液のセッティングや穿刺技術―クリニカルパール・ピットフォール
109巻2号(2012);View Description Hide Description輸液を行う場合に必要となる医療機器の安全な使用方法や技術面で注意すべき点については,注射針,留置針,輸液のルート,ポンプなど多岐にわたる.注射針・留置針については,カラーコード,ゲージ(G)システムから,CDC ガイドラインによる穿刺・管理の方法,末梢ルート確保困難例に対するクリニカルパールをまとめた.輸液ラインについては,可塑剤の溶出,薬剤の吸着から DEHP/PVC フリーのラインやインラインフィルターの使用に関して,さらに輸液ポンプ・シリンジポンプの誤差や使用時の注意点をまとめた. -
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目でみる症例
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比較で学ぶ病理診断 ミニマル・エッセンシャル
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診断力をみがく イメージトレーニング
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診療 controversy—medical decision making のために
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大腸側方発育型腫瘍の分割切除はどこまで容認されるのか:症例を選択すれば分割切除でよいという立場から
109巻2号(2012);View Description Hide Description大腸 ESD の適応病変は,内視鏡的一括切除の適応であるが,スネアによる一括切除が困難な病変であり,具体的には,LST-NG,とくに pseudodepressedtype,ⅤI型 pit pattern を呈する病変,SM 軽度浸潤癌,大きな陥凹型腫瘍,癌が疑われる大きな隆起性病変(LST-G 結節混在型も含む)である.ほかにも,biopsy や病変の蠕動によって粘膜下層に線維化を伴う粘膜内病変,潰瘍性大腸炎などの慢性炎症を背景とした sporadic な局在腫瘍,内視鏡的切除後の局所遺残早期癌も適応となる.腺腫性病変(とくに LST-G 顆粒均一型)は,大きな病変でも分割 EMR(endoscopic mucosalresection)で十分局所根治が可能である.分割切除可能病変の選別には,術前の正確な内視鏡診断(拡大観察による pit pattern 診断)が必要であり,術前診断がいい加減なために患者に過大侵襲かつ高額な医療を行うべきでない. -
大腸側方発育型腫瘍の分割切除はどこまで容認されるのか:可能であれば一括切除が望まれるという立場から
109巻2号(2012);View Description Hide DescriptionESD のメリットは,一括切除により良好な標本が得られ,確実な病理診断ができること,遺残・再発率がほぼ 0% であることなどがあげられる.内視鏡的分割粘膜切除術(endoscopic piecemealmucosal resection:EPMR)でよいとされる LSTGにおいても担癌率は決して低くなく,また粘膜下層(SM)浸潤の際には,25% に多中心性浸潤があることから,ESD による一括切除が望まれる.ESD の問題点とされる,穿孔率の高さや処置時間の長さは改善してきており,腺腫主体とする低悪性度の腫瘍に対しても ESD による一括切除が摘除の理想型と考える.ただ,現時点での実際の適応においては,術者の技量と施設の状況に応じて判断するのがよい.
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臨床ノート:症例から学ぶピットフォール
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View Spot
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Research 最前線
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Photo Report
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症例
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Book Review
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