内科
Volume 112, Issue 2, 2013
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特集 【貧血―実臨床に役立つ診療のポイントと最新の知見】
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- Editorial
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- Special Article
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貧血診療のキホン
112巻2号(2013);View Description Hide Description・貧血とは「正常範囲を超えた血液単位あたりのHb 量の減少」である.・ 網状赤血球は新しい赤血球であり,骨髄内赤血球造血の活動性の指標となる.したがって,網状赤血球数は骨髄での赤血球造血の反応性を示す指標となる.・ 貧血が疑われれば,血算でHb の低下を確認し,赤血球の大きさ(MCV)から鑑別を進めていくのが一般的診断プロセスである.・溶血が疑われる場合,LDH 高値,関接ビリルビン値上昇,ならびに網状赤血球数が増加する.溶血性貧血は多数の疾患が含まれるため,まず先天性か後天性かを判別し,さらに赤血球内の要因によるものか赤血球外の原因かを判別する. - 貧血の病態:最新の知見を中心に
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鉄代謝に関する新知見
112巻2号(2013);View Description Hide Description・鉄は十二指腸からヘム鉄もしくは非ヘム鉄として吸収される.・フェロポーチンは十二指腸上皮細胞およびマクロファージから血液中へ鉄を排出する分子である.・ヘプシジンはフェロポーチンの分解を誘導する鉄利用の抑制ペプチドで,肝臓から分泌される.・血液中に排出された鉄はトランスフェリンと結合し,骨髄などの組織に運搬され利用される.・生体内の鉄の総量は3~4 g でその約7 割が赤血球造血に用いられる.・食餌鉄として吸収される鉄が1 日当たり1~2 mg であるのに対し,マクロファージで分解された赤血球由来鉄は1 日当たり20~25 mg である.したがって,生体で利用される鉄は新たに体内に取り込まれる鉄量より再利用鉄量のほうが多い. -
PNH 型血球に関する最新の知見
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ PNH 型血球とはglycosylphosphatidylinositol‒アンカー膜蛋白の欠失した血球であり,これらは PIG‒A遺伝子に突然変異をきたした異常造血幹細胞に由来する.・骨髄不全の免疫を病態診断するうえで,簡便で信頼度の高い検査が,末梢血におけるPNH 型血球の検出である.・高精度フローサイトメトリーを用いると,再生不良性貧血患者の約50%,低リスク骨髄異形成症候群(MDS)患者の約15%にPNH 型血球が検出される.・高精度フローサイトメトリーを用いることによって,異なる施設において同一の感度・特異度で0.1%未満の微少PNH 型血球が検出できる(OPTIMA 試験). -
慢性炎症に伴う貧血の発症機序
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 慢性炎症に伴う貧血は鉄欠乏性貧血に次いで多い貧血であり,自己免疫疾患・悪性腫瘍・慢性感染症・慢性腎臓病などにみられ,anemia of chronic disease(ACD)として知られる.・ ACD のメカニズムは,① 鉄代謝の異常,② 赤血球産生の低下,③ 赤血球寿命の短縮などの機序により発症する.・A CD の鉄代謝の異常においては,ヘプシジンが中心的役割を果たしており,その増加によって,十二指腸での鉄の吸収低下と網内系細胞からの鉄放出の低下が起こり,結果として血清鉄の低下と貯蔵鉄の増加という“鉄の囲い込み”が起こる.その結果,骨髄への鉄の供給が減少するため赤血球産生が低下する. - 貧血の診断の進め方
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Coombs 試験陰性の自己免疫性溶血性貧血の診断
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)でCoombs 試験が陰性となるのは,赤血球結合IgG自己抗体量がCoombs 試験の検出閾値以下であることがもっとも多い.・ Coombs 試験陰性AIHA は,その可能性を疑わないと,分類不能の溶血性貧血で終わってしまう恐れがある.・ Coombs 試験陰性AIHA は,陽性例に比べて溶血所見がより軽度の傾向にあるが,ステロイドに対する治療反応性には大差がない. -
高齢者の貧血における診断のポイント
112巻2号(2013);View Description Hide Description・高齢者の貧血の原因は多岐にわたる.・高齢者の貧血症状は典型的ではなく,基礎疾患の症状が前面に出ることがある.・常に貧血を考慮に入れた診療と検査が重要である.・赤血球恒数・平均赤血球容積(MCV)が,貧血の鑑別に有用である.・治療可能,治癒可能な貧血があるため,検査は十分に行い,専門医に紹介する.・骨髄異形成症候群や多発性骨髄腫などの血液疾患が少数ながら存在するが,治療の進歩が著しく,疑われたら速やかに専門医に紹介する.・漫然と鉄剤を投与しない.鉄剤は造血剤ではない. -
小児・思春期の貧血における診断のポイント
112巻2号(2013);View Description Hide Description・小児貧血の多くは鉄欠乏性貧血であるが,年齢により好発疾患が異なり,また血液学的検査の基準値も年齢によって異なることに注意が必要である.・乳幼児はヘモグロビン(Hb)11.0 g/dl 未満,小学生は11.5 g/dl 未満,中学生は12.0g/dl 未満である場合,貧血と診断する.・小児期では種々の遺伝性貧血疾患がみられるため,検査計画を立てる前に病歴・家族歴を十分に聴取する.・平均赤血球容積(MCV)を用いた形態学的分類,網状赤血球数を用いた造血能分類により鑑別診断を進める.同時に末梢血液塗抹標本の観察を行う.・診断が確定しない場合や治療に不応性の場合は小児血液専門医へのコンサルテーションを行うべきである. -
再生不良性貧血と骨髄異形成症候群の鑑別のポイント
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 再生不良性貧血と骨髄異形成症候群(MDS)は,どちらも発症機序(原因)によって定義された疾患ではなく,血球減少や細胞形態の異常といったいくつかの徴候によって定義された症候群であるため,病態が一様ではなく,両者の境界も明確ではない.・ 免疫病態を見出すマーカーを用いて検索すると,形態学的にはMDS と診断された例の中にも再生不良性貧血と同様な免疫病態をもつものがある.・骨髄不全患者の診療にあたっては,診断名の確定にこだわることなく,病態に応じた適切な治療を選択することが肝要である. - 貧血の治療のポイント
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鉄剤不耐容・不応性の鉄欠乏性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・鉄剤内服後の消化器症状は20~30%に認められ,不耐容の主因となる.・ 不耐容に対しては,徐放剤の使用,内服パターンの変更,投与量の減量などにより対処する.・ 鉄剤不応性の場合には,診断,患者の内服・併用薬,食事,合併症などを再確認することから始める.・静注鉄剤を用いる際には,総必要量を事前に算出し,分割のうえ点滴投与する.・ もっとも頻度の高い鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(IDA)は,慢性炎症を伴う場合で,原病の診断,加療が重要である.・遺伝性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(IRIDA)が知られ,本邦例の報告もみられる.・Helicobacter pylori(HP)感染,慢性萎縮性胃炎,鉄剤不応性IDA の間には密接な関係があり,HP 陽性の難治例では除菌療法を試みてもよい. -
経口薬による巨赤芽球性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・巨赤芽球性貧血は,ビタミンB12 (VB12)または葉酸の欠乏による貧血である.・V B12の吸収機構は複雑であり,内因子の欠乏による悪性貧血の治療にはVB12の筋肉内投与が必要であるとされてきた.・一方,高用量のVB12を経口投与すると,わずかながら吸収されることが1950 年代からわかっていた.このため約15 年前から悪性貧血の患者を対象に,VB12の経口と筋肉の投与経路別の有用性を比較する臨床研究が散発的に報告されるようになり,経口投与は筋肉内投与と同等の効果が得られることが判明した. -
温式自己免疫性溶血性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 温式自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の治療の第一選択は副腎皮質ステロイド薬であり,特発性の80~90%はステロイド単独で管理が可能である.・ 副腎皮質ステロイド薬による3 週間の治療により反応のない場合や維持量が15mg/day 以上必要な場合,また副作用・合併症の出現があったり,悪化を繰り返す場合は,脾摘,免疫抑制薬やrituximab の使用を考える.・ 二次治療としては,脾摘が推奨されているが,今後はrituximab の使用の増加が予想される.・温式AIHA に対して,少量rituximab+ステロイド短期併用療法が注目されている. -
冷式抗体による自己免疫性溶血性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 冷式抗体による自己免疫性溶血性貧血には,高齢者に多い寒冷凝集素症と主に小児の疾患である発作性寒冷血色素尿症の2 つがある.・いずれの病型でも寒冷曝露の回避と保温が重要である1~4).・ 感染後の寒冷凝集素症では,ほとんど溶血はみられず,抗体は2~3 ヵ月後には消失するので,重篤でない限りは経過観察のみでよい.・ 慢性寒冷凝集素症では,貧血は軽度から中等度であることが多く,寒冷曝露の回避と保温以外に治療を要することは少ない.・病状が重篤である場合にはrituximab 投与を検討する.・ fludarabine とrituximab の併用療法は現在,寒冷凝集素症にもっとも効果がある治療法であるが,毒性をよく考慮して適応は慎重に検討するべきである. -
再生不良性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・再生不良性貧血は末梢血での汎血球減少と骨髄の低形成を特徴とする症候群である.・ 十分に他の疾患を除外して診断するが,低形成性骨髄異形成症候群など鑑別のむずかしい症例も存在する.・中等症例以上に対する治療の基本は免疫抑制薬と支持療法である.・ 40 歳未満の重症例でHLA 一致血縁者が存在する場合に,造血幹細胞移植が検討される.・ 近年の支持療法の発達,免疫抑制療法や骨髄移植の早期導入により,9 割近くが長期生存する.・テロメアの短縮は再発率の上昇,生存率の低下,クローン性疾患への移行率の高さと関連する. -
不応性貧血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 不応性貧血(RA)は骨髄異形成症候群(MDS)の中で芽球増加を示さないものであり,白血病移行の危険性は一般的には高くない.・ 症候性の貧血に対して輸血を行うが,deferasirox を併用することで鉄過剰症の予防が可能となり,患者の予後の改善が期待される.・ 治療効果判定の統一を目的に,国際ワーキンググループ(IWG)によって標準化効果判定基準が提唱された.・エリスロポエチン製剤や免疫抑制療法により一部の患者に造血回復が認められる.・ 新規薬剤の導入がなされたが,lenalidomide により効果が得られる病型の患者数は少なく,不応性貧血に対するazacitidine 療法の位置付けはいまだ不明確である.・高度の血小板減少や好中球減少を示す患者に対する治療選択肢は限られ,有効な新規薬剤の登場が待たれる. -
赤芽球癆
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 赤芽球癆は正球性正色素性貧血と網赤血球の著減および骨髄赤芽球の著減を特徴とする貧血であり,慢性赤芽球癆は難治性である.・赤芽球癆の病因は多様で,大きく先天性と後天性の病型に分けられる.・ 後天性はその発症様式から急性型と慢性型に分類される.後天性慢性赤芽球癆には特発性赤芽球癆と,胸腺腫,大顆粒リンパ球白血病,悪性リンパ腫などに伴う続発性赤芽球癆があり,その鑑別は重要である.・赤芽球癆の治療は病型・病因によって異なり,基礎疾患の治療に反応しない後天性慢性赤芽球癆に対して免疫抑制療法が行われる. -
血液疾患に対する赤血球輸血
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 血液製剤は善意の供血者から献血された有限で貴重な資源であるので,適正に使用されるべきである.・ 輸血には免疫性や感染症などの副作用や合併症が存在し,致命的な転帰をとることもまれにある.・ 赤血球輸血の目的は,臨床症状の出ない程度のヘモグロビン値を維持することにあるので,輸血効果判定のために輸血後は必ず臨床症状の消失を確認する.・個々の症例ごとに原疾患,罹患期間,日常生活の活動状況,合併症などを考慮し,輸血の適応となるトリガー値を設定し,赤血球輸血を行う. -
造血幹細胞移植
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 再生不良性貧血,不応性貧血などの低リスク骨髄異形成症候群に対する根治療法として同種造血幹細胞移植は施行される.・ その適応は患者の年齢,重症度,輸血依存度,治療に対する反応性などから判断する.・ 同種造血幹細胞移植の問題点は,適応年齢の上限,必ずしも適切なドナーが見出せないこと,移植片拒絶,合併症による移植関連死である.・造血幹細胞移植後の合併症として重要なのは移植片対宿主病,臓器障害,感染症などである. - トピックス
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エリスロポエチンを用いた貧血の治療
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ エリスロポエチン(EPO)製剤は,血中EPO 濃度500 mU/ml 以下の低リスク群骨髄異形成症候群やがん化学療法後貧血に有効であるが,本邦では保険診療上の使用は認められていない.・抗EPO 抗体による赤芽球癆患者には,臨床開発中のpeginesatide が有効である.・メタ解析によるとEPO 製剤の投与によって,担がん患者の死亡リスクは上昇する.・透析患者でのがんの併発率は高く,EPO 製剤ががんの進行を助長している可能性もあるため,EPO 製剤を長期に使用している透析患者にはがんスクリーニングが重要である. -
発作性夜間血色素尿症(PNH)に対する抗体療法
112巻2号(2013);View Description Hide Description・ 臨床的PNH の診断には,PNH 血球の証明と,血清LDH 値上昇などの溶血所見を伴うことが必須である.・根治療法は造血幹細胞移植であるが,明確な適応基準はない.・ 治療としては,3 大症状である補体介在性の血管内溶血,骨髄不全,血栓症に対する,対症療法が中心である.・ヒト化抗C5 抗体eculizumab がPNH の溶血治療薬として開発され,溶血抑制効果のみならず,溶血関連の多くの症状を改善する. -
輸血に伴う鉄過剰症の治療の進歩
112巻2号(2013);View Description Hide Description・日本の赤血球輸血製剤には,1 単位あたり100 mg の鉄が含まれている.・過剰鉄は,肝臓,心臓,内分泌腺に沈着し,臓器障害を引き起こす.・輸血後鉄過剰症の治療では鉄キレート剤が使用され,診療ガイドが発行されている.・ 低リスクMDS では鉄キレート療法による予後の改善が報告されている.ただし,高リスクMDS での改善報告は現在のところない.・ 造血幹細胞移植前の高フェリチン血症は全生存率,移植後非再発死亡のリスクファクターと考えられている.・ 血清鉄の低下は,感染症に対して有利に作用する可能性がある.deferoxamine は細菌への鉄供給源として作用しうるため,使用後に感染症が増悪する可能性がある.感染合併例に対しては非シデロフォア型のdeferasirox(DFX)が有利と考えられる.・機序は不明だが,鉄キレート療法後の造血改善例の報告が増えている. - 鼎談
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比較で学ぶ 病理診断 ミニマル・エッセンシャル:[第24回] 進行胃がん症例の切除胃から発見された固有筋層内の結節性病変
112巻2号(2013);View Description Hide Description -
診療Controversy─ medical decision making のために ─:院内肺炎の診療にグラム染色を用いることができるか:(A)用いることは可能である/(B)現時点では有用性に乏しいので用いない
112巻2号(2013);View Description Hide Description【A の要旨】 院内肺炎の診療において,グラム染色はその特性を理解して実践すれば,微生物学的診断や迅速な治療効果判定に有用である.グラム染色は論理的な思考を導き,狭域抗菌薬の使用や治療期間の適正化を実現する.また,そのことで治療費の削減や耐性菌出現頻度の低下が期待される.医師自らが安全かつ迅速に施行できる簡便な検査であり,院内肺炎の診療において有用であると考える. 【B の要旨】 非特異的な臨床徴候をもつ院内肺炎の診断においては,グラム染色のみに基づいて行うのではなく,病歴,身体所見,種々の血液検査,喀痰や気管支肺胞洗浄液の培養検査,胸部単純X 線検査や胸部単純CT 検査などを用いて臨床的に診断すべきである.グラム染色は,検査方法を習熟すれば検体採取後すぐに起因菌をある程度推定することは可能であり有用な検査方法ではあるが,起因菌や抗菌薬感受性を同定することは困難であり,グラム染色の検査結果のみに基づいて抗菌薬を決定するのではなく,培養検査にて起因菌や抗菌薬感受性検査が判明した後に抗菌薬を変更するほうが,院内肺炎の診療において適切な診療を行うことができる. -
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投稿
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低用量のインスリンとスルホニル尿素薬を用いたbasal supported oral therapyの開始後に重症低血糖を生じた2 型糖尿病の1 例
112巻2号(2013);View Description Hide Description - Photo Report
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書評
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