内科
Volume 120, Issue 5, 2017
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特集【内科医と睡眠障害―睡眠障害の診断と治療をプライマリ・ケアに】
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- 特集のねらい
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- Overview
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睡眠障害の分類と鑑別診断
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 睡眠障害の鑑別と治療を行う際には,各睡眠障害についての生理的要因,身体的要因,精神医学的要因,心理的要因,薬理学的要因を念頭に置いて進める必要がある.▪ 睡眠障害は単なる睡眠の問題だけではなく日中に起こる心身のあらゆる疾患の原因にも結果にもなりうるため,総合医療的な視点でみていくべきである. -
現代の日本社会における睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 本邦の社会は,この半世紀の間に,ストレス社会,24 時間社会,超高齢社会へと変化した.この社会的変化は,人々の睡眠に対して深刻な影響を及ぼしている.▪ その影響としては,夜間睡眠の量的・質的低下,サーカディアンリズムに逆らうような生活による睡眠障害,および高齢者と認知症にみられる睡眠障害の増加をあげることができる.▪ 一方,睡眠障害は,交通事故や産業事故をはじめとする甚大な経済的損失をもたらしている. - 不眠の原因と治療
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睡眠習慣と睡眠衛生の改善
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 不眠の背景には,睡眠習慣の問題が関連している場合も多い.▪ 睡眠衛生指導は,良質な睡眠をとるうえで好ましくない睡眠習慣についての知識をもち,生活を改善するための指導方法である.▪ 快適な睡眠環境の確保や,就床前の嗜好品の摂取(カフェイン,飲酒,喫煙)を避けることを指導する.▪ 就床,起床時刻のばらつきや,睡眠時間帯のずれ(後退あるいは前進),長時間の昼寝(午睡)も不眠の原因となる.▪ 睡眠覚醒のメカニズムを理解することは,睡眠衛生指導の内容をより明快にし,患者への説得力を増すうえでも有用である. -
原発性不眠症に対する薬物治療
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 不眠は心身への影響だけでなくQOL 障害を引き起こす可能性がある.▪現在処方されている睡眠薬は大きく5 つに分類される.▪薬剤の選択はリスクベネフィットを考慮する.▪慢然とした薬物治療ではなく治療のゴールを明確にする. -
レストレスレッグス症候群と周期性四肢運動障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 不眠症患者においてレストレスレッグス症候群(RLS)や周期性四肢運動障害(PLMD)の鑑別は重要である.▪ 前者は主に下肢の不快感を伴う動かしたいという衝動により入眠困難をきたし,後者は主に睡眠中の下肢の周期性,律動的な不随意運動により中途覚醒をきたし,双方ともに睡眠関連運動障害に分類される. -
薬剤性睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 薬剤には,その直接作用,間接作用により睡眠に影響を及ぼすものがある.▪ 薬剤性睡眠障害のうち,夜間の不眠および薬剤の鎮静による日中の眠気は臨床的に問題になりやすい.▪薬剤性睡眠障害について十分な知識をもつことは,治療上重要である. -
レム睡眠行動異常症
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ レム睡眠行動異常症(RBD)は,睡眠随伴症(パラソムニア)の一つであり,レム睡眠中に生じる夢の行動化を特徴とする.▪ 正常のレム睡眠の特徴である抗重力筋の筋活動の抑制が十分に保てないために,夢内容が寝言や四肢の動きとなって発現するとされている.▪ 典型例では臨床症状から診断可能であるが,確定診断のためには常時監視睡眠ポリグラフ検査を実施し,筋活動低下を伴わないレム睡眠とその際の行動を記録することが必要となる.▪ RBD はLewy 小体型認知症の診断基準の中核的徴候の一つにあげられており,睡眠関連疾患であるとともに認知症鑑別診断のための重要な睡眠症状である.また,Lewy 小体型認知症においてRBD のみが数年~10 数年先行する場合がある. -
更年期女性の不眠
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 閉経移行期から閉経後にかけて,入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒などの不眠症状を訴える女性は増加する.▪ 更年期にみられる不眠の原因として,エストロジェンの低下に伴って夜間に頻発するホットフラッシュ・発汗などの血管運動神経症状,および更年期に増悪するうつ・不安症状の影響が考えられる.▪ 不眠を含む更年期障害に対してはエストロジェンを補充する閉経期ホルモン療法が行われるが,不眠症状の改善に関しては催眠鎮静薬のほうがより有効であることが示されている. -
高齢者の不眠
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 加齢に伴い,深睡眠の減少,中途覚醒の増加および睡眠効率が低下する.さらに,概日リズムも加齢の影響があり,高齢者では睡眠・覚醒リズムの位相が前進する.▪ 生理的変化も影響し,高齢者では約30%が不眠を訴える.不眠はうつ病の初期症状として重要であり,うつ病再発リスクを高める.また,不眠は高齢者の転倒・骨折のリスクも上昇し,高血圧・動脈硬化を促進する.▪ 睡眠時無呼吸症候群,レストレスレッグス症候群,周期性四肢運動障害およびレム睡眠行動障害などの睡眠障害も加齢で増加する.これら多くの睡眠障害では不眠症状が共通に認められるため,多数の睡眠障害を適切に除外することが必要であり,問診のみでは鑑別できないこともある.睡眠習慣に起因する不眠を訴える高齢者も多いため,睡眠日誌およびアクチグラフィーを用い,睡眠衛生指導は薬物療法前の基礎的介入として位置づけられる.▪ 安全性・持続性の高い認知行動療法は高齢者の不眠においても有効な非薬物療法であり,予防的効果も期待される.ベンゾジアゼピン系睡眠薬は催眠作用に加え,筋弛緩作用および抗不安作用などももたらし,転倒・せん妄および認知機能の低下などの問題があるので,使用は最小限かつ短期間が望ましい.また,生体リズムの位相変位をもつメラトニン受容体作動薬および覚醒系神経核群の活動を抑制するオレキシン受容体拮抗薬は今後の検討が必要である. -
循環器疾患における睡眠時無呼吸
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 高血圧,冠動脈疾患,心不全,不整脈といった循環器疾患は睡眠時無呼吸を高頻度に合併する.▪ 閉塞性の無呼吸は胸腔内の陰圧化,交感神経活性の亢進,動脈硬化の進展を介して循環器疾患を発症し,結果として中枢性の無呼吸が出現する場合がある.▪ 高血圧と心房細動の再発予防には持続陽圧呼吸(CPAP)療法によって一定の効果が期待できるが,CPAP を十分な時間使えるかどうかが重要である.▪ 睡眠時無呼吸の症状が乏しい患者を対象とすることが多く,CPAPの使用状況と治療効果を評価しながら,治療継続の要否を判断していくことが重要である. -
喘息,COPD における睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患(COPD),睡眠障害の有病率は高く,合併することもある.▪ 喘息は夜間に症状を認めることが多いほか,合併症のために睡眠障害をきたすこともある.▪睡眠障害が喘息の悪化をもたらす可能性もある.▪COPD は夜間に低酸素血症をきたしたり,合併症による睡眠障害をきたすこともある.▪ 閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)との合併をオーバーラップ症候群と呼び,合併のないCOPD 患者より予後が悪い. -
消化器疾患における睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 症状の日内変動が睡眠にどのような影響を及ぼすかは疾患によって異なる.▪ 潰瘍性大腸炎と逆流性食道炎では症状によって夜間や早朝に覚醒することになるが,過敏性腸症候群では逆に症状が睡眠の妨げにならない.こうした点に着目すると診断の精度が上がるとともに,その後のマネージメントの質も向上する.▪ 肝不全症例においては睡眠のリズムをモニタリングすることで肝性脳症を初期段階で察知できるようになる. -
内分泌・代謝疾患における睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description【糖代謝と睡眠障害】▪糖尿病患者のおよそ40%が何らかの睡眠障害を自覚している.▪ 夜間頻尿や有痛性末梢神経障害,睡眠時無呼吸症候群などの合併によりさまざまなタイプの睡眠障害をきたす.▪睡眠習慣の乱れは糖尿病発症・悪化のリスク因子となる.▪血糖コントロールの悪化は夜間の交感神経活性を賦活化させ睡眠障害を惹起する.▪睡眠障害はうつ症状や心血管系疾患発症の原因となる.▪睡眠時無呼吸症候群に伴う持続的な夜間低酸素血症は腎症の発症・増悪に寄与する.▪睡眠障害を治療することで血糖コントロールを改善しうる可能性がある. 【脂質代謝と睡眠障害】▪慢性的な短時間睡眠の習慣は脂質異常の発生・悪化のリスク因子となる.▪ 閉塞性睡眠時無呼吸症候群は肥満とは独立した脂質異常発生・悪化のリスク因子となる. -
認知症と睡眠障害
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ Lewy 小体型認知症のレム睡眠行動異常は早期発見,鑑別診断など臨床上役立つ.▪ 認知症患者は環境要因のみでも夜間せん妄になり,環境調整を中心とした非薬物療法が重要である.▪ せん妄が起こった場合は急性脳不全として感染,臓器不全,薬剤など原因の検索・除去を優先する.▪ 抗精神病薬が不穏のコントロールには必要だが,対症療法であり短期間投与を心がける.▪ 認知症患者の睡眠障害には,認知機能に影響しにくいベンゾジアゼピン受容体作動薬以外の薬剤を選択することが重要である. -
うつ病,不安障害と不眠
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 不安障害とうつ病では不眠を呈しやすい.▪不眠は,うつ病や不安障害の発症や重症化のリスクとなる.▪精神疾患に伴う不眠は臨床症状的にも睡眠検査所見上も特徴が分かれる.▪不眠を原疾患と独立したものと位置づけ,その双方への働きかけが重要である.▪急性期において,SSRI やSNRI は不眠を惹起する可能性がある. - 睡眠時無呼吸症候群
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睡眠呼吸障害の病態生理
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 睡眠呼吸障害の最も代表的な閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)において,近年① 顎顔面形態的要因,② 呼吸調節系の反応性(LG),③ 換気ドライブの増加に対する上気道筋の反応性,④ 覚醒閾値による病因モデルが提唱された.▪ これら疾患多様性(phenotype)を理解することは,OSAS の個別化医療につながるものである. -
睡眠時無呼吸症候群の検査と診断
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は臨床で最も遭遇しやすい睡眠呼吸障害である.しかし,画像診断や血液検査,酸素飽和度測定のみでは確定診断できないため,検査の前に病歴や症状・身体所見からOSA を疑う必要があり,いくつかの有用な補助的評価法がある.▪ 客観的診断は重症例では脳波記録を省いた簡易的検査から得られる呼吸障害指数(RDIあるいはREI)のみで診断できる.▪ 軽症や中等症例および中枢性無呼吸など,OSA 以外の睡眠障害や心不全が合併する場合には,終夜の脳波記録を含む睡眠ポリグラフ検査(PSG)による無呼吸低呼吸指数(AHI)や呼吸努力,睡眠の分断など所見を確認する必要がある.▪ 診断後の治療である経鼻的持続気道陽圧療法(nCPAP)の健康保険適用要件として,現時点では簡易検査ではREI 40 以上,PSG でAHI 20 以上を確認する必要がある.▪ 軽症(REI 5~19)から中等症(REI 20~39)例で,とくに臨床症状がみられる場合には確定診断と治療選択のためにPSG が可能な施設に紹介するのが適切である. -
睡眠時無呼吸症候群の治療 ①:CPAP
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 持続陽圧呼吸(CPAP)療法は,中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療として第一選択である.▪ CPAP 療法は呼吸イベントを減少させ,症状の改善し,心血管系合併症の進行の予防が期待できる.▪ そのためには,CPAP による副作用に対処し,アドヒアランスを維持,向上することが重要で,教育・サポートが有効である.▪ 遠隔医療と結びついた管理が始まっており,将来的には,より小型化,リアルタイムに人工知能による評価,介入が行われる可能性もある. -
睡眠時無呼吸症候群の治療 ②:口腔装置の併用
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 情報化で多様性が好まれるようになり,口腔装置治療(OA)を望む患者が増えている.▪健康保険が適用されるモノブロック型OA と複雑な構造のバイブロック型OA がある.▪ 顔面軸角(Fx)は閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)のリスクファクターである.▪下顎の開閉口量と前方移動量はFx という1 つの指標によって評価できる.▪OSAS の診断には,病因診断,病態診断,適応診断が必要である.▪ OA に健康保険を適用するには医師が適応診断を行うという運用上のルールがある.▪OA の適応は無呼吸低呼吸指数(AHI)ではなくて上気道開存維持圧(90%圧)で決める.▪ 併用療法は ① CPAP を継続し,② CPAP の心抑制を防ぎ,③ OA で代替する手段となる. -
閉塞性睡眠時無呼吸患者の周術期管理
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を合併した手術症例は,全身麻酔導入時の気道確保困難,術後の上気道閉塞,OSA に合併しやすい疾患(虚血性心疾患・脳血管障害など)の増悪などのリスクが高い.▪ 術前におけるスクリーニングと夜間簡易酸素飽和度モニタを用いた重症度評価,術中の慎重な気道管理戦略と覚醒の速やかな麻酔法の選択,術後の上気道閉塞の対策や呼吸モニタなど,周術期全般にわたっての介入が必要である.▪ 術前訪問の際に初めて麻酔科医がOSA を指摘しても,手術予定日までの日程的な余裕がなく十分な対応ができないことも多い.▪ 麻酔科医のみでなく,OSA精査以外の理由で術前評価を依頼される内科医からも,OSA評価を重要な術前評価項目として外科医,麻酔科医にフィードバックすることで,周術期患者の安全性と質向上に大きく貢献できると考える. - トピックス
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睡眠に影響を与える環境因子と臨床応用
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 睡眠は,時間にして1 日の1/4~1/3 を占め,単一の活動としては,ヒトが最も長い時間を過ごすものといえよう.▪ 量的にも質的にもその向上が求められるが,薬剤だけではなく,環境の側面から睡眠に作用する因子に対する考慮も忘れてはならない.▪ 多くの人が経験するように,ロッキングチェアといった単調な振動・音などで,むしろ睡眠が促進されるとの知見も多い1).▪ 睡眠の質的・量的向上に対して,単なる「感覚刺激の減少」ではなく,睡眠中の生理機能・脳情報処理を念頭に置いた,よりよい睡眠環境の構築が注目されるようになってきている. -
睡眠・覚醒のメカニズムと生体応用
120巻5号(2017);View Description Hide Description▪ 睡眠・覚醒の制御には,概日リズム(サーカディアンリズム)機構および恒常性維持機構が関わっている.▪ 睡眠系および覚醒系神経核群が,相互抑制するネガティブフィードバック回路を形成することで睡眠覚醒の交代現象が生じる.▪ 視交叉上核(生物時計)から,これら神経核群に概日シグナルが入力することで24 時間周期の睡眠・覚醒リズムが形成されている.▪ 睡眠・覚醒調節の神経基盤やGABAA受容体のサブユニット構造が明らかになったことで,新たな睡眠薬の開発や既存の治療薬の作用機序の理解が進んでいる. - 座談会
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連載
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~キホンをシンプルに考える~体液・電解質・酸塩基平衡異常のとらえ方:第16回 低Ca 血症時の診療―見逃さないことが大切
120巻5号(2017);View Description Hide Description -
感染症Basicレクチャー〜明日からの診療に使えるエッセンス〜:第16回 腎尿路系感染症の診断と治療:膀胱炎,腎盂腎炎,腎膿瘍,前立腺炎,尿道炎似て非なる感染症
120巻5号(2017);View Description Hide Description「尿路感染症」で終わりにせず感染部位をさらに細かく分けて考える.「尿路感染症」は単純性と複雑性に分けて対処法を考える.無症候性細菌尿には抗菌薬を使用しない.淋菌とクラミジアは同時に存在すると考える. -
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呼吸器内科×○○科で語る!Comorbidity 患者さんの診かた:第5回 肺炎治療中に意識レベルの低下を認めた患者さん
120巻5号(2017);View Description Hide Description連載第5 回目の患者さんは,圧迫骨折の治療のために入院中に慢性心不全の増悪と誤嚥性肺炎を発症し当科転科となった80 歳代の女性です.転科後に開始した抗菌薬では誤嚥性肺炎は軽快せず,抗菌薬の変更を行ったところ肺炎は改善傾向となりました.圧迫骨折後のリハビリ目的の転院を説明した翌日の朝より本人の活気がなくなり受け答えも少なくなりました.倦怠感を訴えて昼間のリハビリを拒否していたのですが,夜になり問いかけにも反応しなくなり顔面を中心にしかめるような痙攣が出現しています. -
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Focus On:医師主導治験のススメ
120巻5号(2017);View Description Hide Descriptionこのたび,血液難病に対する医師主導治験を行い,新薬の適応拡大に成功しました.昨今,医師主導治験が流行していますが,薬事承認を得られるのはおそらく一握りと思われます.その理由として,私たち医師には情熱があっても製薬企業のような技と経験がない,日々の臨床業務に追われて時間がない,支援体制が不足していることなどが背景にあります.本稿では私が医師主導治験を始めたきっかけ,苦労話,成功の秘訣などについて,紹介したいと思います.
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投稿
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