Volume 209,
Issue 1,
2004
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4月第1土曜特集【慢性腎不全の病態と治療】
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医学のあゆみ 209巻1号, 1-2 (2004);
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■疫学
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医学のあゆみ 209巻1号, 3-7 (2004);
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腎機能の低下は徐々に進行し,透析導入が必要となる末期腎不全に至るまで発見されないこともある.わが国では疾病の早期発見・治療を目的に,学童検診,職域・住民検診,人間ドック,各種の健康診断などが実施されている.軽度の血尿,蛋白尿,血圧上昇などは無症状のこともあり,異常を指摘されてもその後放置されていることが多い.一方,すべての異常を専門医に紹介する必要もないであろう.実際,検診で指摘されるこれらの異常がどの程度,末期腎不全の発症に結びつくのか,エビデンスに乏しいのが現状である.本稿では,沖縄県下の住民検診受診
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医学のあゆみ 209巻1号, 9-12 (2004);
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わが国のような比較的均一な人種構成の国においても,末期腎不全の発症率に地域差が存在する.この事実から,遺伝的素因よりは後天的因子が,そして腎疾患の発症頻度自体よりは腎不全の進行に関与する因子が末期腎不全の地域差を発現させていると考えられる.そこで,動物実験ならびに多施設大規模研究によって,腎保護作用の確立しているACE阻害薬消費量と末期腎不全の地域差との関連を検討した.両者の間には逆相関が存在し,日本全体をマクロでとらえても,ACE阻害薬が実際に腎不全を抑制するように働いていることが明確になった.
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■病態生理
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医学のあゆみ 209巻1号, 13-19 (2004);
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腎不全は原疾患が何であれその終末像はきわめて類似している.病理学的には糸球体硬化と間質線維化という形をとる腎不全進行の病態生理がしだいに明らかになってきた.原疾患の活動性が高い場合にはその傷害により腎の組織は破壊される.一方,ある程度の障害をもつ場合には残存糸球体は腎機能を維持するために代償性に過剰濾過状態をきたし,糸球体内高血圧と糸球体肥大を起こす.これがメサンギウム細胞やタコ足細胞の負荷となり,糸球体係蹄とBowman との癒着を生じ,硬化病変を形成する.この結果,さらにネフロン数が減少し,硬化病変
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医学のあゆみ 209巻1号, 21-27 (2004);
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腎疾患はさまざまな要因によって修飾され,進行していく.なかでも高血圧は最大の危険因子として広く認識されている.どの薬剤を用いてどこまで血圧を下げたらよいのか,つねに議論されてきたところである.多くの臨床試験の結果では,血圧は低く維持できればそれだけ腎疾患の進行が抑制されることが示されている.さらに,降圧療法においては交感神経活性を亢進させない,尿蛋白を減少させる,代謝系に悪影響を与えないということも腎保護の立場からは重要である.そのような点からはレニン—アンジオテンシン系抑制薬が推奨される.以上のことから
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医学のあゆみ 209巻1号, 28-32 (2004);
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糖尿病性腎症は患者の予後を左右する重大な合併症であり,その数は年々増加し,現在では透析導入原疾患の第1位となっている.糖尿病性腎症の重要な成因は高血糖に起因する種々の異常であるが,詳細な機序に関してはいまだ不明である.近年,糖尿病性腎症の発症・進展に遺伝因子の関与が想定されて以来,候補遺伝子解析法によって腎症原因遺伝子の同定が試みられ,レニン—アンジオテンシン系,脂質代謝,ポリオール経路,細胞外基質などにかかわる遺伝子多型がその腎症原因遺伝子である可能性が示されてきた.さらに,ゲノムワイドなアプローチによ
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医学のあゆみ 209巻1号, 33-38 (2004);
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進行性糸球体障害は腎不全の原因の大多数を占める病態であり,これまで多くの研究がなされてきた.基本的には糸球体障害はその原因が何であれ,障害に対する反応と糸球体過剰濾過により発症と進行の機序が説明される.すなわち,免疫的異常,血行動態的異常,代謝的異常などさまざま刺激によって,糸球体固有の細胞(内皮,メサンギウム,上皮細胞)が活性化または形質を変化させ,さまざまなサイトカイン/ケモカイン/成長因子を産生放出するとともに,これらに対する受容体の発現を増強して炎症性細胞浸潤と糸球体硬化を引き起こす.とくに,TG
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医学のあゆみ 209巻1号, 39-43 (2004);
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近年の人口の高齢化や糖尿病患者の増加に伴い,動脈硬化症による腎動脈狭窄の頻度が高くなっていると思われる.また,動脈硬化性腎動脈狭窄は進行性であり,診断されないまま末期腎不全に陥る症例も少なくない.適切な時期での診断と治療を必要とする.本稿では虚血性腎症の疫学,病態および治療方針を述べるとともに,その問題点について考察する.
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医学のあゆみ 209巻1号, 44-47 (2004);
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慢性腎不全には各種多様な腎外の代謝異常が認められる.慢性腎不全患者には副甲状腺機能亢進症やさまざまな代謝性骨疾患が頻発するが,その背景には“骨抵抗性の増強現象”とよばれる特異的な現象が介在している.1—84PTH分画への拮抗作用をもつ7—84PTH分画,osteoprotegerin,cystatin Cなどの液性因子がこの現象を誘発する尿毒物質の候補としてあげられている.生理的リン利尿因子であるFGF—23も慢性腎不全患者では特異な動態を示す.ホモシステイン代謝異常,HTGLやLCATの活性低下に代表さ
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■治療
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医学のあゆみ 209巻1号, 48-53 (2004);
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低蛋白食療法(low protein diet:LPD)は腎不全進行抑制に有効ではないという総説があるが,よいデザインの無作為化対照試験の結果からはLPDの有効性は明らかである.わが国の透析患者は腎移植を受けるチャンスがほとんどなく,他の先進国に比べて患者がおかれた状況は劣悪である.LPDが有効であれば日本こそLPDの実用化を進めるべきである.しかし,LPDは不用意に患者に実行させると栄養障害をきたしやすい.実行に際しては24時間蓄尿などによるモニター体制,栄養士の学習,患者の十分な教育が欠かせない.有効
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医学のあゆみ 209巻1号, 54-59 (2004);
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近年の糖尿病患者の激増に伴って糖尿病性腎症も増加の一途をたどり,1998年以降は慢性血液透析導入の原因疾患の第1位となっている.糖尿病患者の透析導入後の予後はきわめて不良であり,腎症の発症・進展を予防することは糖尿病患者の生命予後を改善し,末期腎不全患者を減少させるための重要な課題である.糖尿病性腎症の治療の基本は血糖と血圧の管理と食事療法である.降圧薬のなかではACE阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)に関する数多くのエビデンスが集積しており,糖尿病性腎症に対する第一選択薬となっている.蛋
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医学のあゆみ 209巻1号, 60-65 (2004);
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腎炎や腎不全の加療も最近進歩し長期にわたり慢性腎不全で経過する例や末期腎不全に至った例でも透析療法により長期間生存できるようになり,腎性骨症が以前にも増して注目を浴びる分野となっておりその病態・治療の重要性が増している.また,透析患者においてはCa・P積のコントロール不良が冠動脈を含む動脈石灰化の危険因子であり,死亡のリスクを増やす主要因となることからも腎性骨症のコントロールの必要性はますます重要度を増している1)(図1). 腎性骨症の治療は,慢性腎不全におけるホルモンの体内動態・電解質の異常を理解し,個
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医学のあゆみ 209巻1号, 66-72 (2004);
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腎不全の進行とともにエリスロポエチン(EPO)の産生が低下し,それに伴い腎性貧血が発症・進展する.従来,腎性貧血は代償反応とも理解され,動物実験では貧血の改善により高血圧が悪化し腎機能が増悪することが報告された.しかし,遺伝子技術の進歩によりヒト遺伝子組換えエリスロポエチン(rHuEPO)の使用が可能となり,血圧上昇さえ管理すれば懸念された腎機能増悪作用は認められず,さまざまな有用性が実証されている.一方,血液透析,腹膜透析,保存期慢性腎不全(CRF)患者,それぞれの使用方法に関してはいまだ議論が多い.と
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医学のあゆみ 209巻1号, 73-78 (2004);
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わが国では慢性透析療法が公費負担医療となって以後,透析患者数が直線的に増加してきた.2002年末現在の透析患者数は約23万人で,90%以上が血液透析患者である.高齢者,糖尿病患者,長期透析例の増加にもかかわらず,粗死亡率が9%台という低死亡率を維持し,その意味で質が高い.死因の大部分は心血管死で,慢性腎不全保存期から持続する高血圧,動脈硬化症,貧血などの危険因子が病態の進展に寄与している.今後は末期腎不全からの透析療法を慢性腎疾患の1病期として位置づけ,是正可能な危険因子に対する治療を強化する必要がある.
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医学のあゆみ 209巻1号, 79-83 (2004);
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末期腎不全の腎代替療法としての腹膜透析は,残腎機能の保持,quality of lifeの向上など多くの長所を有する.しかし,現行のグルコース透析液には,1生体適合性に劣る,2除水能が不十分となりやすい,3糖・脂質代謝に影響を及ぼすなどの問題点がある.今回わが国においても使用可能となったイコデキストリン透析液はグルコースポリマーであり,生体適合性に優れている.さらにはコロイド浸透圧機序で除水がなされるため長時間にわたり除水が可能であり,除水能もきわめて高い.また,糖・脂質代謝への影響も少なく,臨床的
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医学のあゆみ 209巻1号, 84-86 (2004);
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腎移植は慢性腎不全の根治的治療であり,その成績は免疫抑制療法の進歩により飛躍的な成績を示している.慢性腎不全の治療には透析療法と腎移植があり,よく車の両輪に喩えられてきた.すなわち,医学的にも社会的にも,この両者の治療法においてバランスがとれていることが本来,健全な慢性腎不全医療である1,2).これらの治療において患者が自由に選択できることが理想的であるが,献腎提供が極端に少ないわが国ではその現状に大きな乖離がみられる.とくに成長・発育が望まれる小児例や,透析アミロイド症や骨異栄養症などを合併症している長