Volume 209,
Issue 9,
2004
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5月第1土曜特集【抗菌薬UPDATE】
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医学のあゆみ 209巻9号, 507-507 (2004);
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■第1章 耐性菌の分子メカニズム
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医学のあゆみ 209巻9号, 510-515 (2004);
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MRSAは,Staphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)を,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が獲得することにより誕生する.1990年代から,きわめて多様な遺伝的背景をもった黄色ブドウ球菌がtype—IV,type—V SCCmecによりMRSAに変化しつつあり,MRSAはもはや市中感染起因菌として重要となりつつある.一方,従来の病院内のMRSAはますます多剤耐性化の傾向を強め,バンコマイシンの奏功しないMRSA院内感染症が増加している.その耐性機構
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医学のあゆみ 209巻9号, 516-518 (2004);
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バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は,院内感染の原因菌として欧米では分離率が高く,MRSAと同様に社会的にも大きな話題になっている.幸い現在,日本での分離率はきわめて低いが,今後増加することも予想されるので第二のMRSAにならないように,常々,医療従事者は院内感染対策やVREの分離動向等に十分な注意を払う必要がある.
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医学のあゆみ 209巻9号, 519-524 (2004);
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肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeは市中肺炎の主要な起炎菌のひとつであり,急性気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症や中耳炎,副鼻腔炎,化膿性髄膜炎などを引き起こす.近年,肺炎球菌のペニシリン系抗菌薬,セフェム系薬に対する耐性が進行しており,さらにマクロライド系薬,クロラムフェニコール,キノロン系薬などに対しても耐性を示す多剤耐性株が市中分離菌からも検出されるようになり,治療上の大きな問題となっている.これら薬剤耐性肺炎球菌の出現背景には抗菌薬の種類や使用方法などが大きな要因とされる.今後
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医学のあゆみ 209巻9号, 525-528 (2004);
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インフルエンザ菌は呼吸器感染症の主要な起炎菌である.本菌において従来から知られているβラクタマーゼによる耐性ではないあらたな耐性菌が急速に増加してきており,その耐性メカニズムは菌が本質的に保持する隔壁合成酵素のPBP3の変化によるものである.PBP3をコードする遺伝子はftsIとよばれるが,遺伝子上には変異箇所が3カ所認められている.化膿性髄膜炎由来のtype bのBLNARについて遺伝子学的解析を行うと,変異パターンによって低いレベルの耐性から高い耐性レベルまで多様化しつつあることが明らかにされた.さら
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医学のあゆみ 209巻9号, 529-533 (2004);
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クラスA型β—ラクタマーゼは本来ペニシリン系抗菌薬をよく分解することから,以前はペニシリナーゼとよばれていた.しかし1980年代以降,ペニシリナーゼには分解不可能といわれていた,いわゆる第三世代セフェム系抗菌薬を分解するβ—ラクタマーゼを産生する菌種が臨床材料から分離されるようになってきた.このようなβ—ラクタマーゼを基質特異性拡張型β—ラクタマーゼ(extended spectrum β—lactamase:ESBL)とよんでいる.現在までに200種類以上のESBLが発見されている.さらに欧米では,ES
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医学のあゆみ 209巻9号, 535-540 (2004);
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細胞内に透過した抗菌薬などを細胞外への輸送する排出システムは,細菌に広く分布している自己防衛機構であるが,化学療法の点からみれば抗菌薬耐性菌を生み出す原因である.これらの排出システムは現在のところ5つのファミリーに分類される.そのほとんどは細菌の染色体上にコードされ,制御遺伝子の変異や薬物などでの誘導により発現する.排出システムが他の耐性機構と違う点は,化学構造的に類似性のない抗菌薬にまで耐性が及ぶ,すなわち広域交差耐性が引き起こされる点にあるが,どれだけ広い抗菌薬に対する耐性がもたらされるか,また抗菌治
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医学のあゆみ 209巻9号, 541-544 (2004);
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近年の淋菌の抗菌薬耐性化は顕著であり,多剤耐性化が進んでいる.かつて使用されたペニシリンの耐性菌であるPenicillinase産生株(PPNG)は減少したものの,β—ラクタム薬の標的酵素であるPBPの変異株が増加している.テトラサイクリンおよびキノロン耐性株も増加し,唯一有効な薬剤であった第三世代経口セフェム系薬についても耐性株による臨床的無効例が増加傾向を示している.したがって,保険適用を有し確実に有効な薬剤はセフォジジムとスペクチノマイシンの2剤のみとなってしまった.キノロン耐性のメカニズムはDNA
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医学のあゆみ 209巻9号, 545-549 (2004);
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著者は2000年と2002年,札幌において薬剤耐性の遺伝子変異(23SリボソームRNAドメインVにおける2063番目のアデニンがグアニンに置換)を有するマイコプラズマ野生株を分離した.同種の野生株は,最近日本各地で分離されている.また,2002年北海道の池田町において,それぞれ前述の変異とは異なる変異を有する2株の野生株が分離された.このように,薬剤耐性マイコプラズマは普遍的に野生に存在する.一方で,臨床的には著者自身が診た札幌の2例は前者でクラリスロマイシン,後者でアジスロマイシンが著効を奏していた.単
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医学のあゆみ 209巻9号, 550-555 (2004);
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重要な抗結核薬であるイソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両者に耐性の場合を多剤耐性結核(MDR—TB)とよぶ.初回治療例でMDR—TBの頻度が3%以上の国があり,世界保健機関(WHO)と国際結核肺疾患予防連合(IUATLD)はその広がりを危惧している.薬剤耐性の分子機構は主要薬剤ですこしずつ明らかにされてきている.RFPとピラジナミド(PZA)耐性菌の90%以上は既知の分子機構で説明可能であるが,その他の主要抗結核薬については50〜80%の間であり,さらなる研究の進展が待たれる.
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医学のあゆみ 209巻9号, 556-563 (2004);
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抗菌薬に比べて抗真菌薬の場合には,病原真菌の耐性獲得が感染症患者のマネジメントに及ぼす影響は一般に小さいと考えられてきた.しかし近年,易感染患者の間では治療に反応しにくい深在性真菌症の発症例が増加し,それとともに各種抗真菌薬,とりわけ現行の治療法の主流となっているアゾール系薬に対する二次耐性の問題が顕在化した.本稿ではアゾール系薬を中心に,ポリエン系,フルオロピリミジン系,キャンディン系を合わせたすべてのクラスの抗真菌薬について二次耐性が確認されたCandida albicansその他の病原真菌(とくに臨
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医学のあゆみ 209巻9号, 564-568 (2004);
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1950年代後半からのクロロキン耐性マラリアの拡散は全世界に及び,現在はすべての抗マラリア薬に対して一定の耐性マラリアが分布しているものと考えられる.薬剤耐性マラリア原虫の出現は薬剤の広範な使用による原虫の遺伝的突然変異と選択に理由を求められ,その分子メカニズムの研究は薬剤トランスポーター様の分子をコードする遺伝子の変異に集中し,分子遺伝学的な薬剤耐性マラリアの疫学に関する報告もあいついでいる.一方,薬剤耐性マラリアの拡散は,戦争,災害,飢饉などによる大規模な人口移動など,社会・経済的ファクターも重要であ
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■第2章 抗菌薬をめぐるエビデンス
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医学のあゆみ 209巻9号, 570-577 (2004);
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慢性気道感染症に対するマクロライド療法は当初,慢性炎症・感染性呼吸器疾患であるびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)に対する治療として工藤により発見・体系化され,著しい生命予後の改善がもたらされた.おもにエリスロマイシン(erythromycin:EM)が通常の半量で用いられたため,EM少量療法ともよばれる.マクロライドの作用機序を検証する過程で,さまざまな抗炎症作用が明らかとなった.これまでDPBに対する有効性が証明されているが,現在では気管支拡張症をはじめ,気
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医学のあゆみ 209巻9号, 579-582 (2004);
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心臓血管手術の合併症としての手術部位感染は,発生率は数%であるが,発症すれば臓器(心臓や血管)の機能は著しく障害され,患者の治療経過・予後に大きく影響する.手術部位感染予防を目的とした抗菌薬投与における留意点は,1皮膚切開時の汚染菌(ブドウ球菌属)をターゲットとして有効な血中・組織内濃度が得られるような投与タイミング(麻酔導入前)と, 2長時間手術における追加投与である.予防投与の期間は3日以内,できれば24時間以内が望ましい.また,原因菌として頻度の高いMRSAの鼻腔内保菌は手術部位感染のリスクファ
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医学のあゆみ 209巻9号, 583-587 (2004);
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現在の結核の標準治療は,最初の2カ月間イソニアジド,リファンピシン,ピラジナミド,ストレプトマイシンまたはエタンブトールによる4剤併用,その後4カ月イソニアジド,リファンピシンによる2剤併用,もしくはそれにエタンブトールを加えた3剤併用で計6カ月の初期強化短期化学療法である.ピラジナミドを含んだ初期強化短期化学療法は費用対効果の面で評価が高い.結核治療で重要なのは治療を完遂することであり,治療終了時の判定として重要なのは結核菌の培養所見である.抗結核薬の副作用,とくに肝機能障害には細心の注意が必要である.
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医学のあゆみ 209巻9号, 588-593 (2004);
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H.pylori除菌治療にはプロトンポンプインヒビター(PPI)および抗生剤2剤を用いた3剤併用療法が標準的に用いられている.現在わが国で認可されているレジメンは,成人に対してランソプラゾール1回30 mg,アモキシシリン1回750 mg,クラリスロマイシン(CAM)1回200 mgの3剤を同時に1日2回,7日間投与.なお,CAMについては1回400 mg,1日2回までを上限として適宜増量が許可されている.PPIとしてオメプラゾールを用いる場合はCAMは400 mg bidという用法になっている.この方法
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医学のあゆみ 209巻9号, 594-598 (2004);
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成人市中肺炎のおもな病原微生物は肺炎球菌,インフルエンザ菌,嫌気性菌,マイコプラズマ,クラミジア,レジオネラなどである.レスピラトリーキノロンはこれらの病原微生物に対し高い抗菌活性を有しているので,もっとも有効な薬剤と考えられる.しかし,日本呼吸器学会の市中肺炎に対するガイドラインでは軽症,中等症肺炎のエンピリック治療の第一選択薬からはずした.耐性菌産生防止のためである.すなわち,レスピラトリーキノロンは抗菌域が広く抗菌活性も優れているため,安易に使用されすぎて耐性化をきたす可能性が高いためである.重症肺
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医学のあゆみ 209巻9号, 599-603 (2004);
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薬剤耐性菌の増加防止・耐性化抑制の新戦略として抗菌薬のサイクリング療法が提唱され,さまざまなパイロットスタディが実施されつつある.抗菌薬のサイクリング療法とは,エンピリックセラピーを行う際に,選択使用する抗菌薬を一定の期間をおいて変更・サイクル(cycling)していく抗菌薬使用法であり,抗菌薬の使用量(抗菌薬による薬剤耐性菌の選択圧;antibiotic pressure)を分散・コントロールしていくことで薬剤耐性菌の耐性化を抑制しようとするものである.サイクリング療法はいまだ確立された方法ではなく課題
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医学のあゆみ 209巻9号, 604-608 (2004);
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“ペニシリン耐性肺炎球菌”は2つの理由で,看板に偽りあり,である.第1に,ペニシリンのみならず多くの抗菌薬に感受性が低下しており,ペニシリンだけに耐性を獲得したわけではないからである.欧米での一般的な呼称である“薬剤耐性肺炎球菌”がより的確な表現であろう.第2に,“ペニシリン耐性”という表現はあたかもペニシリンが効かない肺炎球菌であるかのような印象を与えるためである.肺炎球菌のペニシリン判定基準は抗菌薬の移行性がもっとも悪い髄膜炎をもとに決定されたものであるため,抗菌薬の移行性の良好な肺炎や耳鼻科感染症で
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医学のあゆみ 209巻9号, 609-614 (2004);
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感染症の診断には迅速性が要求される.従来,微生物検査は細菌,真菌の分離培養やウイルス抗体価の測定が主流であり,迅速検査とよべるものは塗抹鏡検検査による原因菌の推定に限られていた.しかし近年,抗原検査,遺伝子検査などのさまざまな迅速検査法が臨床の場に登場し,早期診断,早期治療が可能になってきている.抗原検査は病原体の特異抗原を凝集法や標識抗体法などで検出するものであり,遺伝子検査は病原体に特異的な遺伝子を核酸プローブ法や核酸増幅法などで検出するものである.これらの検査法のなかには,キット化され,検体から直接
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■第3章 抗菌薬をめぐるコントラバーシ
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医学のあゆみ 209巻9号, 616-617 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 617-620 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 621-623 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 623-625 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 626-628 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 628-629 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 630-632 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 632-634 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 635-637 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 637-639 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 640-642 (2004);
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医学のあゆみ 209巻9号, 642-644 (2004);
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■第4章 新しい抗菌薬
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医学のあゆみ 209巻9号, 647-651 (2004);
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アジスロマイシン(AZM)は15員環マクロライド系抗菌薬で,既存のマクロライド薬と同様にグラム陽性菌,嫌気性菌および非定型病原体に対して強い抗菌活性を有するほか,インフルエンザ菌などグラム陰性菌にも優れた抗菌活性が示されている.本薬は酸に安定であり,消化管からの吸収,食細胞内,組織移行性に優れ,薬物動態的にみても特徴のある抗菌薬である.急性呼吸器感染症におけるAZMの有用性はとくに非定型肺炎などでは他に譲れないものがある.その一方,耐性肺炎球菌の増加と治療失敗例が臨床上問題となっている.このため,急性呼吸
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医学のあゆみ 209巻9号, 653-658 (2004);
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あらたに開発されたケトライド系抗菌薬,テリスロマイシン(telithromycin:TEL)は呼吸器感染症の主要病原微生物に対して幅広いスペクトルを有しており,また,組織移行も良好であることから,呼吸器感染症への適性が高く,とくに,近年増加傾向にある耐性肺炎球菌に対する効果が期待されている.TELの呼吸器感染症における有効率は262例で検討された結果,細菌性肺炎が90.3%,非定型肺炎が95.5%,混合肺炎(細菌性+非定型)が91.7%と良好な成績であった.市中肺炎においては,経口βラクタム薬による治癒が
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医学のあゆみ 209巻9号, 659-664 (2004);
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近年,世界の趨勢は肺炎球菌を中心とする呼吸器感染症に対する治療薬剤としてのキノロン薬の開発が進められ,レスピラトリーキノロン(呼吸器系キノロン;respiratory quinolone)と呼称される薬剤が開発・上市されるようになった.かつては抗菌薬の開発はわが国が世界をリードしており,キノロン薬に関してもこの薬剤が世に出るところから1993年ごろまではわが国で開発された製剤が質量ともに圧倒的優位を誇っていた.しかし,わが国で創薬されたレスピラトリーキノロンはわが国では内服薬しか許可されておらず,重症市中
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医学のあゆみ 209巻9号, 666-670 (2004);
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カルバペネム系抗菌薬はβラクタム系抗菌薬のなかでも幅広い抗菌スペクトラムと強い殺菌力に加え,βラクタマーゼに対する高い安定性から多くの細菌感染症に有効であり,非常に有用性の高い抗菌薬と認められている.重症感染症や免疫不全宿主に発症した感染症,他のβラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド薬に無効の症例がよい適応になると考えられる.原因菌別では他剤で効果の期待できないペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)や緑膿菌,アシネトバクター属の中等症以上の症例や嫌気性菌との混合感染症例が第一選択になりうると思われる.
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医学のあゆみ 209巻9号, 672-678 (2004);
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わが国では注射用ニューキノロン薬としてシプロフロキサシン(CPFX)とパズフロキサシン(PZFX)の2剤が実用化されているが,本稿では呼吸器感染症における本系統薬の臨床的位置づけを考察する.本系統薬は,グラム陽性菌からグラム陰性菌に及ぶ一般細菌に加え,レジオネラ,クラミジアにまで幅広い抗菌活性を示すが,市中肺炎の原因菌として重要な肺炎球菌に対する抗菌力はやや弱い.したがって,市中肺炎における適応順位はやや低く,アレルギーなどでβラクタム薬が投与できない症例,βラクタム薬の無効例および入院の重症例が適応とな
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医学のあゆみ 209巻9号, 679-684 (2004);
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リネゾリドは35年ぶりに登場した新規骨格と新規作用機序を有する完全な合成抗菌薬である.その新規作用機序から他の抗菌薬との交差耐性はなく,かつ耐性菌もほぼ存在しない.しかし,歴史はどのような抗菌薬に対しても耐性菌はかならず出現することを証明しており,リネゾリドに対する耐性菌の出現も時間の問題である.この耐性菌の出現をいかに未然に抑え込むか,またいかにその出現時間を遅らせるかはわれわれの問題であり,われわれがリネゾリドという新しい抗菌薬に試されることになる.リネゾリドはVREやMRSAなどの耐性菌を含むグラム
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医学のあゆみ 209巻9号, 685-687 (2004);
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1986年に出現したバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は,いまや欧米を中心に治療に難渋する院内感染原因菌の代名詞となっている.わが国においてはVREの報告数は少ないものの,その数は右肩上がりに増加してきている.このような背景の下,わが国においても2種類の抗VRE抗菌薬が上市された.キヌプリスチン/ダルフォプリスチンは世界初のストレプトグラミン系抗菌薬で,バンコマイシン耐性Enterococcus faeciumに対し強い抗菌力を示す.VREに対し抗VRE抗菌薬が登場したことは非常に心強いことである.しかし
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医学のあゆみ 209巻9号, 689-693 (2004);
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インフルエンザは迅速診断を実施し,抗ウイルス剤で治療する疾患となった.日本ではノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitor)のオセルタミビル(商品名:タミフル)とザナミビル(商品名:リレンザ)がインフルエンザの治療に使用されている.ノイラミニダーゼ阻害薬の利点は,1 A型,B型,両方のインフルエンザに有効で,2耐性ウイルスの出現頻度が低く,耐性ウイルスは感染性が弱く,3副作用も少ないという3点である.高齢者の施設などでインフルエンザ感染が拡大した場合,ノイラミニダーゼ阻
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医学のあゆみ 209巻9号, 695-698 (2004);
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ミカファンギン(MCFG)は抗真菌薬としてはじめての細胞壁合成阻害薬であり,深在性真菌症の原因真菌として頻度が高いカンジダ属やアスペルギルス属に高い抗真菌活性を示すきわめて安全性が高い薬剤である.一方,クリプトコックスやトリコスポロン属,接合菌などには抗真菌活性がなく特徴ある抗真菌スペクトルを有する.薬物動態の特徴はチトクロームP450に関連する相互作用もなく,腎からの排泄が少ないため腎不全時にも投与量の調節は不要な点である.予防投与ではフルコナゾールと同等以上の短期的効果が示されているが,報告が限られて
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■第5章 外科における抗菌薬療法
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医学のあゆみ 209巻9号, 700-705 (2004);
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術後感染予防を目的とした抗菌薬の選択は手術部位感染を対象とし,手術野汚染菌のなかで菌数が多く,感染発症能力の高い菌のみを対象とし,すべての汚染菌や術後感染を起こす細菌を対象とすべきでない.開始時期,経路にも注意を払い,術中は血中・組織中の殺菌的濃度を保つような投与間隔で投与する.投与期間については侵襲の程度にもよるが,すくなくとも3日を超えるべきではない.もし術後感染の発症が疑われる場合にはできるだけ早く予防抗菌薬よりも広い抗菌スペクトルを有する治療抗菌薬に変更する.その際,検体が採取できればただちにグラ
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医学のあゆみ 209巻9号, 706-709 (2004);
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予防的抗菌薬投与は手術部位感染(SSI)を予防することだけを目的とする.術野外感染の発生頻度を低下させることは目的には含まれない.上部消化管手術では好気性グラム陽性球菌が起炎菌となる頻度が高いことより,これらに感受性のある第一世代のセフェム剤やペニシリン系薬剤が抗菌薬としてもっともよい選択となる.投与のタイミングとしては皮膚切開を加えるときに,抗菌作用を十分に示す血中濃度および組織濃度が得られるように投与することが大切である.手術が3〜4時間を超える場合には,血中濃度および組織濃度を維持するため,術中に再
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医学のあゆみ 209巻9号, 710-713 (2004);
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下部消化管手術での手術部位感染(SSI)発生率は,他部位に比べ12%前後と高率である.現在わが国では下部消化管手術の術後感染予防薬として第二世代セファロスポリン薬を術後3日間投与することが一般的である.欧米では24時間以内の投与や術中1回投与が報告されているが,背景が異なるため,日本での短期間投与に関しては慎重な対応が必要と思われる.今後,日常診療に即した日本独自のガイドラインが必要であり,そのためにも無作為化比較試験(RCT)を中心としたトライアルが必要である.
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医学のあゆみ 209巻9号, 714-717 (2004);
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術後感染予防はアメリカのCenters for Disease Control and Prevention(CDC)の提唱するsurgical siteinfection(SSI)を予防対象とし,術野汚染菌の発育を阻止できる抗菌薬を選択することである.肝胆膵外科領域における術後感染予防の対象は術中に切開した胆管や消化管の常在菌であり,大腸菌や肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌,腸球菌などのグラム陽性球菌およびバクデロイデスなどの嫌気性菌である.よって抗菌薬の選択は胆汁移行のよい第二世代セフェム系あるいはβラク
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医学のあゆみ 209巻9号, 718-724 (2004);
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感染制御の可否は外科治療成績を左右しうることから,感染の予防・治療としての抗菌療法の有効性については期待を寄せるところである.生体防御能の視点から,high riskとされる患者においては一般的な手術侵襲,担癌状態であっても易感染状態にあるため思いもよらぬ感染の発症やその重症化をみたり,難治となったりすることは稀でない.本稿では,まずhigh riskとはどういう病態か,それをどう評価するのか,そしてそのような宿主に対し適切な抗菌薬選択基準をどうすべきか,さらに日常臨床使用にあたって何を注意すべきか,に触
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医学のあゆみ 209巻9号, 725-729 (2004);
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抗菌療法や外科治療の進歩にもかかわらず,腹膜炎は重症化するといぜんとして死に至る可能性がある疾患である.さらに,特発性の消化管穿孔による感染症や腹部手術に合併した感染症も外科医にとって重要な課題である.腹腔内感染症の病態生理学に関する理解の進歩や救命救急診療の改善,または外科的手技の向上により重症腹膜炎に関連する死亡率は低下したが,それでもいぜんとして20〜80%と許容不可能なほど高いとの報告がある13).計画的な再開腹法やlaparostomyまたはopen packingのような新しい手術手技により
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医学のあゆみ 209巻9号, 730-734 (2004);
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肝胆道系感染症に対する化学療法の原則は,起炎菌に対し強い抗菌力をもつ薬剤のなかで胆汁移行のよいものを選択することである.しかし,多くの場合は起炎菌の同定や薬剤感受性の結果が得られないまま起因菌を想定し,抗菌薬の投与を開始しなければならない.したがって,胆汁移行の良好な第二,第三世代セフェム薬や広域ペニシリン薬を選択すべきであるが,重症例では最小発育阻止濃度(MIC)の低さならびに抗菌力の強さから,カルバペネム系抗菌薬をときに選択してもよい.しかし,これらの治療でもっとも大事なことは,胆道のドレナージや穿刺
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医学のあゆみ 209巻9号, 735-740 (2004);
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重症感染症患者に対する最近の管理方法は,各種メカニカルサポートの開発による適切な全身管理,各種薬剤の最適投与量の確立(適量のインスリン投与による厳重な血糖管理など),さらには活性化プロテインCのような新しい薬剤の開発などにより,徐々にではあるがEBMに基づいた新しい治療法が確立しつつある.しかし,その一方で重症感染症患者に対する抗菌薬治療は迅速な起因菌同定の困難さから不適切な抗菌薬の長期使用に伴う薬剤耐性菌増加の問題など,いまだ大きな進展のないまま現在に至っている.しかし,最近は抗菌作用の違いによるエンド