Volume 210,
Issue 1,
2004
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7月第1土曜特集【アトピー性皮膚炎】
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医学のあゆみ 210巻1号, 1-3 (2004);
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アトピー性皮膚炎は1933年にアメリカのSulzbergerにより提唱された疾患概念で,彼はそれまでにさまざまな疾患名で分類されていたいくつかの疾患がひとつの疾患の異なる表現型であることを見出し,以後この病名は一気に世界的に認知されるに至った.ちなみにアトピー性皮膚炎の“アトピー”とは,“奇妙な”“とらえどころがない”という意味のギリシャ語由来であり,多彩な病態やいまだ十分に解明されていない病因を有する本疾患の本質を適切に表現していると思われる.本症は当初アレルギー疾患としての側面が強調されたが,実地臨床
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■病態生理──現況と最近の進歩
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医学のあゆみ 210巻1号, 7-12 (2004);
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アトピー性皮膚炎はTh2の活性化により引き起こされる疾患と広くみなされているが,Th1も重要な役割をしている.Th1はE—セレクチンリガンドの発現により炎症のない皮膚に遊走しやすいが,局所がTh1優位の炎症となった場合にはTh2が遊走しやすくなる.Th1もTh2サイトカイン優位の環境におかれたとき,皮膚に遊走しやすい分子を発現する.このような相互の巧妙な制御機構に加えて,血中のケモカインや可溶性セレクチンなどはむしろこれらのT細胞の皮膚への過度の浸潤を抑制する制御因子として機能している可能性がある.アトピ
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医学のあゆみ 210巻1号, 13-16 (2004);
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アトピー性皮膚炎の病因は,免疫学的異常に加え,バリア機能の異常,遺伝的背景などさまざまなものが複合している.バリア機能の異常は皮膚の保水能の低下,抗原への曝露,皮膚の易刺激性を引き起こし,アトピー性皮膚炎の痒みや皮膚の炎症のひとつの原因となっている.軽症のアトピー性皮膚炎では皮膚の乾燥がみられるが,皮膚が乾燥するメカニズムは長い間わかっていなかった.最近になり,皮膚の水分を保持しバリア機能を担うセラミドとよばれる角層間脂質が減少していることがわかってきた.さらに,詳しい研究ではセラミドの前駆物質の代謝酵素に異常があるため,セラミドの産生が少なくなることがわかっている.バリア機能はそう破によっても悪化し,そう破は痒みのある場合だけでなく,ストレスなどの精神的な背景によるそう破行動によっても生じる.皮膚のバリアの保護には保湿とそう破の両者をコントロールすることが必要である.
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医学のあゆみ 210巻1号, 17-22 (2004);
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アトピー性皮膚炎(AD)は痒みの強い湿疹病変を主体とするアレルギー性皮膚炎であり,日常診療において接する頻度が増えている.本疾患は多因子疾患であるが,その病態にはアレルギー的側面である免疫学的な異常が基盤に存在すると考えられる.免疫疾患の病態で重要な役割を果たすヘルパーT細胞は,その産生するサイトカインからIFN—γを産生するTh1細胞と,IL—4,IL—5,IL—10を産生するTh2細胞に分類される.AD患者では末梢血レベルではつねにTh2細胞が優位であるが,病変部ではその病態の時期によってそのサイトカ
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医学のあゆみ 210巻1号, 23-28 (2004);
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アトピー性皮膚炎は皮膚に慢性の炎症をきたす疾患であり,皮膚にはT細胞,マクロファージ,肥満細胞,好酸球などの浸潤を認める.これら白血球が炎症局所へ浸潤する過程は細胞接着分子などによって高度に制御されている.アトピー性皮膚炎やその動物モデルとされるマウスの耳に抗原を繰り返し投与して形成される慢性接触皮膚炎では,細胞接着分子の皮膚炎形成への重要な関与が明らかにされつつあり,これらの分子があらたな治療のターゲットになる可能性が示唆されている.
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医学のあゆみ 210巻1号, 29-34 (2004);
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アトピー性皮膚炎(AD)の病因,治療には多くの課題が存在し,その解決には動物モデルが必要である.ライフサイクル,遺伝背景などからマウスモデルが最適とされている.ADのマウスモデルには経口,経皮的感作モデルと自然発症,遺伝子改変モデルがある.経口感作モデルは再現性が低く,経皮感作モデルは作成にかかる時間が長く,皮膚炎が限局し,遺伝背景に制限がある.自然発症モデルのNC/Ngaマウスではダニの寄生が不可欠でSPFでは発症しない.遺伝子導入マウス(Tg)として著者らが作成したcaspase 1TgとIL—18TgはSPF下にIgEの上昇とともにそう痒の強いAD類似の皮膚炎を発症する.ノックアウトマウスとの交配から皮膚炎発症にはIgEは必須ではなくIL—18が不可欠であり,IL—1が発症促進因子と判明した.この2系統やAD治療に反応するところから,ADのメカニズムの解明だけでなく,薬剤の評価や新規治療法の評価に寄与すると考えられた.
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医学のあゆみ 210巻1号, 35-38 (2004);
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アトピー性皮膚炎の痒みは一般に抗ヒスタミン薬が奏功しない難治性の痒みである.その痒み発現にはアレルギー炎症を惹起するアレルギー的要因とドライスキンというバリア異常による非アレルギー要因が関与しているものと推定される.アレルギー炎症形成に関与している因子には,マスト細胞,好酸球,リンパ球などがあり,これら浸潤細胞から放出される多くのサイトカインが痒み誘発に関与しているものと思われる.一方,ドライスキンに由来する表皮内神経線維の存在は痒み閾値の低下の本態と思われる.本稿では抗ヒスタミン抵抗性痒みの原因について
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■診断──現況と最近の進歩
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医学のあゆみ 210巻1号, 41-46 (2004);
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適切な治療には正しい診断と正確な重症度の判定が必須である.現在,日本皮膚科学会と厚生省心身障害研究班の診断基準が用いられている.この2つは相対するものではなく,前者は全年齢を対象とし,後者には小児の皮疹の特徴がわかりやすく記載されている.重症度については,信頼性があってきわめて簡便な基準は残念ながらない.たとえば,厚生省ガイドラインでは軽度の皮疹と強い炎症を伴う皮疹の分布をもとにしたグローバルな評価法を採用している.日本皮膚科学会ガイドラインは,当然のことながら専門性の高い基準,すなわちグローバルでなく,
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医学のあゆみ 210巻1号, 47-50 (2004);
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アトピー性皮膚炎は臨床所見,病歴などから診断は比較的容易と思われるが,ときとして湿疹皮膚炎群など他の疾患との鑑別に悩むことがある.日本皮膚科学会の“アトピー性皮膚炎診断基準”には,除外すべき疾患として接触皮膚炎,脂漏性皮膚炎,単純性痒疹,疥癬,汗疹,魚鱗癬,皮脂欠乏性湿疹,手湿疹の8疾患があげられている.このほか,貨幣状湿疹,汗疱,Sezary症候群などが鑑別にあげられる.とくにSezary症候群は近年アトピー性皮膚炎に用いられるようになった免疫抑制剤がリンパ腫の発育を助長させる可能性があるため,その鑑別
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医学のあゆみ 210巻1号, 51-56 (2004);
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アトピー性皮膚炎では,皮膚のバリア機能の低下によりさまざまなウイルス,細菌に対して易感染性を示す.さらに,そう破という行為も加わり,皮膚炎の病変部位に自家接種しやすい状態となっている.アトピー性皮膚炎で合併しやすい,あるいは悪化しやすい感染症としてKaposi水痘様発疹症,伝染性膿痂疹,伝染性軟属腫などがあげられる.また,合併症として意外に多いのが外用薬による接触皮膚炎である.消毒剤として用いられるポビドンヨードによる接触皮膚炎にもときどき遭遇するが,ここでは最近アトピー性皮膚炎には禁忌とさえいわれつつある非ステロイド系消炎外用剤の接触皮膚炎を紹介する.さらに,アトピー性皮膚炎の合併症として重要な眼合併症についても簡単に触れる.
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医学のあゆみ 210巻1号, 57-60 (2004);
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アトピー性皮膚炎(AD)患者は皮膚バリア機能が弱く,外来性刺激物質によって接触皮膚炎を起こしやすい.その結果として障害された皮膚から化粧品や外用薬など日常頻繁に接触する単純化学物質が吸収され,感作されアレルギー性接触皮膚炎を起こす.また,ラテックスなどの蛋白抗原の接触蕁麻疹も発症しやすい.これらの診断にはパッチテストやプリックテストを行い,合併する接触皮膚炎を早期に治療し,代替品の選択を行うことが肝要である.
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■治療──現況と最近の進歩
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医学のあゆみ 210巻1号, 63-67 (2004);
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アトピー性皮膚炎の臨床試験について総括した.エビデンスの高い治療は,ステロイド外用,タクロリムス外用,そしてシクロスポリン内服療法であった.抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬,保湿剤,食物アレルゲン除去,環境アレルゲン除去,そして紫外線療法に関してはエビデンスのレベルは低かった.しかし,治療法によっては有効性が示唆されており,今後はその研究デザインを考慮した質の高い研究が待たれる.
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医学のあゆみ 210巻1号, 69-73 (2004);
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日本皮膚科学会は,「治療の大きな柱であるステロイド外用剤に対して患者さらには社会一般に根拠に乏しい不信感が生じ,ステロイド外用剤忌避の風潮が強まり,必要かつ適切な治療を施せないままに重症化した患者が増加し,結果的に患者に多大なる不利益が生じている事態」に対応するために,1998年にアトピー性皮膚炎治療ガイドライン作成委員会を発足させ,2000年に治療ガイドラインを公表した.本ガイドラインは皮膚科医に対してはその治療原則の再確認を行うとともに,患者ならびに社会に対しては適切と考えられる基本的治療方針を提示し
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医学のあゆみ 210巻1号, 74-78 (2004);
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医学のあゆみ 210巻1号, 79-83 (2004);
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抗アレルギー薬,抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎のそう痒を抑制する効果があるため,本症の治療に広く用いられている.ほとんどの患者に投与の適応があるが,皮膚炎を直接改善する効果はないため,これのみで治療することはできない.ステロイドをはじめとした適切な外用療法を補助する薬剤と位置づけるべきである.抗アレルギー薬,抗ヒスタミン薬は一般に重篤な副作用が少なく,多くの症例で安全に使用できるが,緑内障や前立腺肥大など抗コリン作用に関する禁忌に留意し,眠気,内服回数,患者の年齢,臓器障害の有無,薬剤相互作用などを考慮して適切な薬剤を選択する.
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医学のあゆみ 210巻1号, 84-89 (2004);
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アトピー性皮膚炎には素因として角層の異常による皮膚の乾燥とバリアー機能異常が伴っており,これが皮膚炎の発症と増悪に深くかかわっている.したがって,アトピー性皮膚炎の治療においては皮膚乾燥とバリアー機能異常の補正のため,保湿をはじめとしたスキンケアに努めることが不可欠となる.すなわち,通常の治療の結果,炎症の鎮静が十分に得られた後も,乾燥およびバリアー機能の低下を補完し,炎症の再燃を予防する目的で,保湿外用剤などによるスキンケアを行う必要がある.保湿,スキンケアが関与する内容は広範囲にわたり,種々の保湿外用
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医学のあゆみ 210巻1号, 90-96 (2004);
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T細胞活性化を強力に抑制する移植免疫抑制薬の外用薬であるタクロリムス軟膏が,成人アトピー性皮膚炎(AD)の新規治療薬として1999年,世界に先駆けわが国で承認されたのは記憶に新しい.成人より低濃度の小児用軟膏は海外ではすでに20カ国以上で使用されており,遅れをとったわが国でも,2003年7月に2歳以上の小児ADに対して認可,同年12月に発売の運びとなった.最近では,免疫抑制薬というより免疫調整薬(immunomodulator)とよばれるカテゴリーの薬剤で,タクロリムス以外に近い将来ADへの承認が期待され
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医学のあゆみ 210巻1号, 97-100 (2004);
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アトピー性皮膚炎に食物アレルギーがどのように関与するのかは,いまだに議論のあるところである.アトピー性皮膚炎における食物除去療法は1980年後半に広く行われた後,現在ではその有効性は乳幼児のごく一部の例に限られるとの考え方に至っている.本稿ではアトピー性皮膚炎と食物アレルギーについての考え方と,アトピー性皮膚炎におけるエビデンスに基づいた食物除去療法のあり方について概説した.食物除去は栄養面や社会面などでネガティブな側面も生じうることに加え,また本人や保護者にとって非常に負担の重い治療法であるので,個々の
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医学のあゆみ 210巻1号, 101-104 (2004);
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NF—κBは多くの炎症関連遺伝子発現を誘導する転写因子である.最近,著者らはNF—κB結合配列を含む20塩基対のoligodeoxynucleotide(NF—κB decoy oligodeoxynucleotide:NDON)含有軟膏(1.6%)を皮膚炎自然発症マウス(NC/Ngaマウス)皮膚に塗布することにより浸潤肥満細胞のアポトーシスを誘導し,皮膚炎症状の改善が得られることを明らかにした.この結果をもとに,弘前大学附属病院皮膚科を受診し,NDON軟膏治療研究に参加希望した20歳以上65歳未満の重症
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医学のあゆみ 210巻1号, 105-108 (2004);
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アトピー性皮膚炎に対する脱ステロイド療法は治療の目標が不明確であり,ステロイドを無効とする根拠に乏しい.著者らは各種の脱ステロイド療法で症状悪化後,金沢大学医学部附属病院皮膚科に入院したアトピー性皮膚炎患者を対象にアンケート調査を行った.その結果,日本皮膚科学会の治療ガイドラインに基づいたステロイドとタクロリムスを中心とした外用療法によって,仕事や学業に対する障害や生活上の満足度は著しく改善していた.また,皮疹の改善とともにステロイド外用薬の使用量は減少しており,同薬剤に対し依存や耐性をきたしていないこと