医学のあゆみ
Volume 211, Issue 1, 2004
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10月第1土曜特集【ユビキチン研究の新展開──メカニズムから疾患研究へ】
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- ■基礎編
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プロテアソームシステムのメカニズム
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionプロテアソームはユビキチン(蛋白質に共有結合して分解シグナルを形成する修飾分子)をパートナーとする真核生物のATP依存性プロテアーゼである.本酵素は生命科学史上もっとも巨大で複雑な多成分複合体であり,単なるプロテアーゼというよりも蛋白質分解のための大がかりな細胞内装置とみなすことができる.実際,ユビキチン化された標的蛋白質は,プロテアソームにトラップされるとエネルギー依存的に変性された後,複数の触媒部位が存在する分子内部に取り込まれてから分解される.このようにプロテアソームは動物が食物を捕捉し,口から飲み -
ユビキチンシステムの構造生物学
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionユビキチンシステムは生体内における不要蛋白質分解系において中心的役割を果たしている.さらに,このシステムに異常をきたすことを原因とする疾病も多く報告されている.ユビキチンシステムが生体内でどのように機能しているかを分子レベルで理解することは重要であり,ユビキチンシステムに関与する種々の酵素の構造生物学的研究が行われている.本稿ではユビキチンシステムを構成する酵素群,すなわちユビキチン活性化酵素(E1),ユビキチン結合酵素(E2),ユビキチンリガーゼ(E3)について,単量体型および複合体型酵素群の立体構造よ -
脱ユビキチン化酵素
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionここ2〜3年,脱ユビキチン化酵素研究はあらたな時代に入った.従来,ユビキチン化された蛋白質からユビキチンを切り出す酵素群を脱ユビキチン化酵素と総称し,UCH(ubiquitin C—terminal hydrolase)とUBP(ubiquitin specific protease)に大別しつつ,ユビキチンの着脱に関する研究が行われてきた.しかし,疾患との関連性でこれまでの古典的な考え方からだけでは説明が困難な現象も報告され,またユビキチン以外の数多くのユビキチン様蛋白質と脱ユビキチン化酵素との相互作用 -
ユビキチンファミリーのクロストーク
211巻1号(2004);View Description Hide Description近年,ユビキチンと1型UBLs(type 1 ubiquitin—like proteins)の緊密なクロストークが細胞内シグナル伝達ネットワークの制御にかかわる例を数多く目にするようになってきた.本稿ではユビキチン修飾とNEDD8,ISG15,SUMO修飾間でみられるクロストークを4パターンに分類し,ユビキチンファミリーメンバー間の関連性について考察する. - ■病態生理編
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SCF型ユビキチンリガーゼと発癌──2つのF-box蛋白質による蛋白質分解制御機構
211巻1号(2004);View Description Hide Description近年,癌を含めたさまざまな疾患がユビキチンシステムの異常により引き起こされていることが明らかになってきた.F—box蛋白質はSCF型ユビキチンリガーゼのコンポーネントで,基質蛋白質を認識するレセプター分子であり,そのひとつFbw7はNotch,サイクリンE,c—Mycなどのユビキチン化依存的蛋白質分解にかかわっている.実際に癌細胞におけるFbw7遺伝子変異も報告され,Fbw7は癌抑制遺伝子であることがわかってきた.一方,CDKインヒビターp27Kip1の分解にかかわるF—box蛋白質Skp2はまた,サイク -
p53・RBファミリーのユビキチン依存的代謝機構
211巻1号(2004);View Description Hide Description癌抑制遺伝子産物であるp53はDNA障害によりリン酸化され,安定化・活性化され,細胞周期停止あるいはアポトーシスを誘導する.最近p53はMdm2,E6—E6AP,Pirh2,COP1など複数のユビキチンリガーゼにより量的制御されることが明らかになってきた.一方でRB蛋白質やそのファミリーであるp130はリン酸化によりおもに活性制御されているが,癌においてはユビキチンシステムによる分解亢進も起こっていることが示唆される. -
BRCA1ユビキチンリガーゼと乳癌
211巻1号(2004);View Description Hide Description家族性乳癌および卵巣癌の原因遺伝子として同定されたBRCA1は,その多様な生物学的作用と発症前遺伝子診断などの臨床における重要性から,現在乳癌領域においてもっとも盛んに研究されている遺伝子のひとつである.BRCA1は構造的にBRCA1と類似するBARD1とともにRINGヘテロダイマー型ユビキチンリガーゼを形成するが,BRCA1—BARD1は一般的なLys—48結合型ポリユビキチン鎖とは異なり,Lys—6結合型ポリユビキチン鎖を触媒し,蛋白質分解以外のシグナルをつかさどると考えられる.ユビキチンリガーゼ活性 -
ユビキチンと抗癌剤の作用
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionプロテアソーム阻害剤(bortezomib:PS—341,Velcade)が,抗癌剤として認可され,制癌の標的としてのユビキチン—プロテアソーム系に大きな期待が寄せられている.プロテアソーム阻害剤を用いた解析などから,ユビキチン—プロテアソーム系の阻害は癌細胞に選択的にアポトーシスを誘導し,制癌に結びつくものであることが明らかになってきた.また,プロテアソーム阻害剤が種々の抗癌剤や放射線の効果を増強することなどから,ユビキチン—プロテアソーム系が他の抗癌剤の作用においても重要な役割を演じていることが明ら -
ユビキチン化を介するβ-カテニンの分解制御とその異常による発癌
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionβ—カテニンは細胞膜貫通蛋白質であるカドヘリンの結合蛋白質として同定され,細胞接着や細胞運動の制御に重要な働きをする.一方,β—カテニンは細胞質や核にも存在し,そのおもな役割は転写因子のLefやTcfと結合して遺伝子の発現を制御することである.このβ—カテニンによる遺伝子発現は,β—カテニンの蛋白質量の制御に基づく.すなわち,細胞質や核に存在するβ—カテニンは通常ユビキチン化を受けてプロテアソームで分解されるために低いレベルに保たれているが,細胞外の刺激によりユビキチン化が阻害されると安定化して遺伝子発現 -
APC/サイクロソームとSCFによるサイクリンの分解機構──サイクリンのユビキチン化分解機構
211巻1号(2004);View Description Hide Description単一受精卵細胞が生物個体になるまで繰り返される生命現象の基本,細胞分裂は細胞周期〔G1間期—S期(染色体DNA複製期)—G2間期—M期(染色体分配期)の反復周期〕に沿って秩序正しく遂行される.その細胞周期進行をつかさどるのが,サイクリン分子とCdc2関連蛋白質リン酸化酵素からなる複合体である.この複合体の活性化と不活性化は,S期とM期の開始・進行・終了に必要である.その制御機構に狂いが生じると,染色体不分離,異数体形成が引き起こされ,その結果,出生異常,遺伝子疾患,癌化の原因になる.複合体不活化過程におい -
ユビキチンと色素性乾皮症
211巻1号(2004);View Description Hide Description遺伝情報を担うDNAはさまざまな要因によって損傷を受けるが,地上で生活する生物にとって日常的に曝される危険が高いもののひとつとして紫外線があげられる.紫外線によるDNA損傷をゲノムから取り除くヌクレオチド除去修復機構,および複製フォークが損傷部位で停止したときにこれを正確に乗り越えて複製を完了させる機構は,細胞死や突然変異の発生を防ぐうえで非常に重要な役割を果たしている.色素性乾皮症の患者ではDNAの紫外線損傷に対するこれらの防御機構が遺伝的に欠損しており,きわめて皮膚癌を起こしやすいことで知られる.色素 -
ユビキチンとFanconi貧血──モノユビキチン化シグナルで制御されるFanconi anemia-BRCA pathway
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionユビキチンが病態にかかわる疾患としてFanconi貧血(Fanconi anemia:FA)が注目を集めている.FAはシスプラチンなどのDNA架橋剤に対する高感受性,高発癌を特徴とする常染色体劣性遺伝疾患である.11の相補群のうち8つの原因遺伝子がわかっている.FAの原因蛋白は家族性乳癌卵巣癌原因蛋白BRCA1,BRCA2とともに,DNA架橋剤抵抗性に必要なpathway(FA—BRCA pathway)を形成する.これはDNA損傷によって活性化されるシグナル伝達経路であり,FANCD2(FA—D2相補群 -
ユビキチンとAlzheimer病
211巻1号(2004);View Description Hide DescriptionAlzheimer病脳内で異常神経病変として認められる神経原線維変化は,分解されずに疾病の進行に並行して増加することが知られている.“ユビキチン異常蓄積”はニューロンでの神経原線維変化においてはじめて同定され,以後Parkinson病のLewy小体で見出されて以来,多数の神経変性疾患に共通する病変として見出されるようになってきた.本稿ではAlzheimer病での標的分子であるタウに視点をおき,その異常性を中心に解説してみたい.疾患脳ニューロン内のタウは異常リン酸化され,線維状に変化してユビキチン化されるが -
孤発性Parkinson病の解明に向けて
211巻1号(2004);View Description Hide Description最近になり,家族性Parkinson病(FPD)の原因遺伝子がつぎつぎと報告されてきている.そのなかで常染色体劣性遺伝形式を示すparkin(Park2)と常染色体優性遺伝形式を示すUCH—L1(Park5)の遺伝子産物は,ともにユビキチン—プロテアソーム系での関与が指摘されている.とくにparkinは細胞内の異常タンパク質を分解するユビキチンリガーゼの機能をもち,神経保護的に働くとの認識が一般化しつつある.その他のParkinson病の原因遺伝子産物であるα—synuclein(Park1),PINK1 -
ユビキチンとポリグルタミン病──MJD1をユビキチン化するE3:UFD2a/E4B
211巻1号(2004);View Description Hide Description近年,さまざまな疾患の病態形成にユビキチン介在性蛋白質分解が関与していることが報告されている.蛋白質分解システムとしてユビキチン化の分子論的機序自体,この10年間で徐々に理解されてきたレベルであるが,神経変性疾患を含むさまざまな疾患の発症における病態生理においてその重要性を示しはじめている.多くの神経変性疾患に共通してみられる病理学的所見として,神経細胞内封入体の形成があげられる.この細胞内封入体は抗ユビキチン抗体で染色されることから,神経変性疾患とユビキチン—プロテアソーム系との関係が示唆されてきた.最 -
ユビキチンと筋萎縮性側索硬化症(ALS)
211巻1号(2004);View Description Hide Description筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,中年以降に発症し全身の随意筋が障害される予後不良の神経変性疾患である.進行性に脱力,筋萎縮を呈するものの,基本的に痴呆や感覚障害は伴わない.このため患者の苦痛ははかりしれないものがある.現在のところ有効かつ根本的な治療法は存在しない.病理学的に,ALSは脊髄,脳幹,大脳の運動ニューロンの脱落変性を特徴とし,孤発性・家族性ともに病変部位の運動ニューロン内にユビキチン陽性封入体を認める.家族性ALSの原因遺伝子である変異SOD1は神経細胞内に異常蛋白質として蓄積し,ユビキチン— -
ユビキチンとウイルス感染
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionウイルスはさまざまな方法を用いて宿主の免疫機構を回避することが明らかとなっている.近年著者らは,ウイルスが抗原提示関連分子であるMHC classI,B7—2,ICAM—1をユビキチン化する分子をもっていることを明らかにした.これらの分子はKaposi肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)がコードしている分子であり,K3,K5蛋白とよばれている.さらに,その活性ドメインはBKS—PHD/LAP zinc fingerと名づけられており,RINGドメインに構造上極似している.K3はMHC classIを標的と -
ユビキチンとウイルス出芽──ウイルス出芽とMVB sorting pathway
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionウイルス出芽は感染細胞におけるウイルス増殖過程の最終段階であるが,これまであまり解析が行われず,謎のベールに包まれていた.ところが,最近になってユビキチン化,メンブレントラフィックがウイルス出芽機構解明のあらたなキーワードとなったことで,この研究領域がにわかに活性化し,その理解も格段に深まった.現在ではユビキチン化蛋白質の細胞内膜輸送系のひとつであるMVB sortingとウイルス出芽はその場がエンドソーム膜と細胞膜で異なるが,関与因子やメカニズムに関しては基本的には同一であると考えられており,近い将来そ -
ユビキチンリガーゼIAPによるアポトーシス制御
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionアポトーシスはプログラム細胞死とほぼ同義で,不要・有害な細胞を除去する合目的的な細胞死の一形態である.アポトーシスの実行因子はカスパーゼというプロテアーゼで,さまざまな基質蛋白質の分解を通じてアポトーシスを実行する.一方,逆にアポトーシスを抑制する蛋白質の一群のなかにアポトーシス阻害因子(IAP)という分子ファミリーが存在する.IAPはカスパーゼに直接結合し,その活性を阻害する因子であることが知られていたが,最近になってIAPの一部の分子にユビキチンリガーゼ活性を有するものがあることがわかってきた.IAP -
関節リウマチ発症の病因分子シノビオリン
211巻1号(2004);View Description Hide Description著者らはこれまでに,関節リウマチの発症機序を解明すべく研究を行ってきた.その成果として,患者組織より新規蛋白質である“シノビオリン”のクローニングに成功し,この分子がE3ユビキチンリガーゼ活性をもつ酵素で,関節リウマチ滑膜細胞に過剰発現していることを証明した.また,シノビオリン遺伝子過剰発現マウスシノビオリン遺伝子欠損マウスを作製し解析を行った結果,シノビオリンはERADにおいて機能し,抗アポトーシス作用を通じ滑膜細胞の増殖をもたらすことを証明した.すなわち,関節リウマチとはシノビオリンの過剰発現によりE -
鉄代謝制御メカニズムとユビキチン修飾系
211巻1号(2004);View Description Hide Description鉄は生命にとって必須な微量金属であると同時に,過剰量存在すると細胞障害性のフリーラジカルを生じて酸化ストレスの原因ともなるため,その代謝は厳密に制御されている.鉄代謝制御系は細胞レベルでよく研究が進んでいる.細胞では鉄代謝はmRNAレベルで制御されており,その制御の中核を担う鉄代謝制御蛋白IRP2は鉄によって生じる酸化依存的にユビキチン化されることで活性が制御されている.また近年,腸管からの鉄吸収にかかわる分子や,肝での鉄貯蔵を反映して腸管からの鉄吸収を制御する肝由来ホルモンであるhepcidinの同定な -
ユビキチンと小胞体関連分解(ERAD)
211巻1号(2004);View Description Hide Description小胞体は新生蛋白質の折畳みを厳密に品質管理するオルガネラであり,細胞外へ分泌すると有害になる折畳み異常蛋白質はサイトゾルへ逆行輸送された後,ユビキチン—プロテアソーム系で分解される.この細胞機構を小胞体関連分解(ERAD)という.最近,ERADの逆行輸送過程に関与するあらたなチャネル蛋白質(Derlin—1)が発見された.また,異常蛋白質のサイトゾルへの引きずり出しにかかわる因子としてp97/Npl4/Ufd1複合体が同定され,逆行輸送の分子機構が解明されつつある.逆行輸送にはユビキチン化が必要であり,そ -
ユビキチンと体内時計
211巻1号(2004);View Description Hide Description体内リズムの産生をつかさどる時計遺伝子の発振原理は,時計遺伝子から産生された時計蛋白質が自分自身の転写を抑制する負の因子として働くネガティブオートフィードバックループである.体内時計の発振を担う時計蛋白質は生物種によって異なるものの,この振動原理自体は種を超えて保存されている.ショウジョウバエとアカパンカビではSCF型E3ユビキチンリガーゼ複合体がそれぞれPERとTIM,FRQというサーカディアンフィードバックループの負の因子のユビキチン化を制御している.哺乳類では時計蛋白質がユビキチン—プロテアソーム系 -
オートファジーと疾患
211巻1号(2004);View Description Hide Descriptionオートファジーとは真核細胞に普遍的に存在する細胞内大規模分解システムである.細胞を構成する蛋白質の主要な分解経路であり,細胞成分の代謝回転や飢餓時の栄養源確保などに働く.さらには発生・分化などにおいても重要であることが明らかになりつつある.一方,以前から各種の疾患についてオートファジーの亢進が報告されているものの,その意味についてはほとんどわかっていなかった.ごく最近,オートファジーが,神経や肝の変性疾患の原因となる異常蛋白質や細胞内に侵入してきた病原性細菌の排除に寄与していることが明らかになった.
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