医学のあゆみ
Volume 211, Issue 10, 2004
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12月第1土曜特集【超高齢社会における感覚器医学──眼科学は何をめざしているのか】
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- ■眼再生医療最前線
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角膜上皮のステムセル移植
211巻10号(2004);View Description Hide Description再生医療とは,幹細胞などを利用することによって生体組織を再生あるいは各種臓器機能の代替を行おうとする新しい医療分野である.近年,再生医療研究の波は眼科領域にも押し寄せており,眼表面再建における角膜上皮ステムセル移植の役割が注目されている.In vitroで培養しin vivoへ移植する手法は細胞移植という新しい概念を打ち立てたことになる.そのストラテジーとしては,組織幹細胞,基質,増殖因子などに対する知見を集積し,生体外で細胞を正常に分化・増殖させ,組織構築をはかる必要がある.よってその応用には幹細胞研究 -
角膜の再生医療
211巻10号(2004);View Description Hide Description角膜の再生医療は失明者を救済することを目的としているため,角膜の構造を保つだけではなく,良好な屈折機能が得られるように透明性と角膜表面の曲率を維持しなければならない.血管が存在しない角膜では新生血管は視力の妨げとなるため,血管の再構築を抑制しながら角膜全体を再生する必要がある.血管新生や線維増殖による瘢痕化を抑制することは創傷治癒の観点からは矛盾することであり,ここに角膜再生医療の難しさがあるといえる.最表面の上皮層についてはここ数年の間に著明な進歩が得られた.自己幹細胞や口腔粘膜上皮細胞をさまざまなキャ -
網膜再生──未分化細胞を増殖させ,分化誘導する
211巻10号(2004);View Description Hide Description網膜は6種類の神経細胞と1種類のグリア細胞からなる神経網膜と,1層の網膜色素上皮で構成される(図1).疾患や外傷で神経網膜の細胞が一部脱落し視機能障害をきたした場合,自然治癒は望めないので,ここに同等の機能をもつ細胞を補って再生治療を行いたいところだ.その方法としては,増殖力旺盛で生存力の高い未分化細胞を増殖させ,障害された網膜組織内に導入して分化誘導するという考え方が一般的である.網膜再生プロジェクトはまさにスタートしたところで,分化後に網膜細胞になりうる未分化細胞を探している段階にある.至適分化条件の -
人工網膜
211巻10号(2004);View Description Hide Description網膜色素変性症や加齢黄斑変性症で視細胞が消失し失明に至った場合,現在のところ有効な治療法は存在しない.この問題を克服する手段のひとつとして,網膜への電気刺激よって生み出される光感覚を利用して失明者の視機能回復をめざす人工網膜の研究が世界各地で活発に進められている.人工網膜の実現のためには安全性の問題や電力供給の問題などまだまだ課題は残っているが,近年の研究により徐々に解決されつつある.今後はより臨床応用に向けた研究が必要になってくると思われる. - ■眼科における抗加齢医学
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視力回復手術の最前線−−LASIK
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionわが国は人口の1/3が視力が悪く,何らかの矯正を要する“近視大国”である.視力の矯正方法としては眼鏡やコンタクトレンズが一般的であるが,最近では屈折矯正手術によって裸眼での生活を手に入れることが可能になった.超高齢社会に向けて国民がより長く,より快適で質の高い生活(QOL)を送れることは非常に重要であり,屈折矯正手術はその一助を担う.Laser in situ keratomileusis(LASIK)は現在もっとも多く行われている屈折矯正手術で,精度,安全性,安定性に優れた方法である.手術時間は約10分 -
有水晶体眼内レンズ──後房型レンズ(ICL)の治験成績
211巻10号(2004);View Description Hide Description屈折矯正手術として現在主流となっているLASIK手術では最強度近視の治療はできない.白内障手術に準じて水晶体を摘出することで屈折を矯正することが可能であるが,この場合,調節力が失われ,老視状態となる.調節力を温存したまま強度近視を治療する方法として,水晶体を残したまま眼内レンズを移植する有水晶体眼内レンズ手術(Phakic IOL)が試みられている.わが国における治験が現在進行中であるが,これまでのところ白内障など重篤な合併症もなく,術後経過は良好であり,術後の高次波面収差も少ない.有水晶体眼内レンズ手術 -
老視に対するモノビジョン
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionモノビジョンとは,老視期の調節力の低下または欠如に対し片眼を遠方用,他眼を近方用に矯正することにより眼鏡などの補助具なしで遠方から近方まで良好な視力を得ようとする矯正法である.近年ではその適応が拡大し,白内障手術や屈折矯正手術の術後矯正法として用いられる場合もある.モノビジョンにより,調節力が低下した老視患者においても眼鏡の装用なしで遠方から近方まで良好な視力が期待できるが,一方で意図的に左右の眼に屈折差をつけるため,両眼視機能(ものの立体感を感じる力など)や見え方の質の低下が生じたり違和感を感じたりする -
老視に対する調節可能眼内レンズ
211巻10号(2004);View Description Hide Description老視の治療は,さまざまな外科的治療法が普及されつつある.なかでも,近年老視を克服できる調節可能眼内レンズが注目されている.レンズの支持部の特徴的な構造により調節が生じると考えられている.今後,偽調節の鑑別や後発白内障が生じた場合に,機能が残存するか検討する必要がある. -
加齢黄斑変性の基礎と臨床
211巻10号(2004);View Description Hide Description加齢黄斑変性は欧米では失明原因の首座を占めており,わが国でも高齢社会に伴い増加しつつある眼底疾患であるが,有効な治療法がないことから社会問題となっている.黄斑とは,外部からの光線が角膜・水晶体により屈折し集中する眼底の中心部であり,視力は同部位の機能に依存する.加齢黄斑変性の病型には,脈絡膜血管新生を合併し滲出性変化(出血・浮腫・ /離など)をきたし急速に視力低下が進行する滲出型加齢黄斑変性と,脈絡膜血管新生を合併せず網膜色素上皮・神経網膜の萎縮が緩徐に進行する萎縮型加齢黄斑変性がある.滲出型は萎縮型に比 -
加齢黄斑変性──サプリメントとキレーション
211巻10号(2004);View Description Hide Description加齢黄斑変性(以下,ARMD)は高齢者の失明原因の主因であり(アメリカでは失明原因の首位),進行した場合,最終的に網脈絡膜萎縮となり現時点で有効な治療がない.典型的な臨床像は黄斑部にドルーゼンとよばれる酸化蛋白を大量に含む沈着物が発生し,その後脈絡膜新生血管が発生する.本疾患の成因についてはこれまで原因不明とされていたが,いくつかの疫学調査,臨床試験,病理検査から本疾患の成立に酸化ストレスが関与していることが明らかになってきている.したがって,酸化ストレスを除去する目的の治療法が現在開発されている.アメリ - ■各領域における最前線
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高齢社会における最新の黄斑手術──最新の黄斑手術
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionわが国でも高齢社会を迎え,高齢者のquality of visionを維持することが重要になってきている.しかし,いまだ網膜硝子体疾患の領域でも視力を失う高齢者が多い.加齢に伴う網膜硝子体疾患として加齢黄斑変性,黄斑円孔,黄斑上膜などがあげられる.他に加齢が直接の原因ではないが,中高年に多い糖尿病網膜症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症および裂孔原性網膜 /離も対象疾患である.今後さらに高齢化が進むことにより,これらの患者数の増加が予想される.硝子体混濁を除去する目的で開発された硝子体手術は,最近, -
極小切開白内障手術−−1mmの創口で白内障手術を完成させる
211巻10号(2004);View Description Hide Description10 mm以上の切開が必要であった白内障手術は,超音波乳化吸引術と折り畳み眼内レンズの登場により3〜4 mmの切開創で手術を完了することが可能となった.最近,その切開創をさらに小さくするため,水晶体の新しい摘出法が検討されていた.新しい手術装置を用いなくても,現在普及している手術装置と術式を改良することにより,約1 mmの創口から摘出する術式を完成させた.現在は眼内レンズを挿入するために切開創を2 mm以上にまで広げなければならず,今後はこの極小切開創から挿入可能な眼内レンズの登場が期待されている. -
正常眼圧緑内障
211巻10号(2004);View Description Hide Description正常眼圧緑内障はわが国でもっとも多い緑内障病型である.原発開放隅角緑内障とは以前は異なる疾患患位と考えられていたが,現在は同じスペクトラム上にある一連の疾患と考えられている.正常眼圧緑内障の発症や進行には眼圧因子も非眼圧因子も関与しているが,現時点で唯一確実な治療法は眼圧下降治療であり,かつ,十分な眼圧下降によって大部分の症例で視野障害の進行が阻止できることが明らかになっている.ホームトノメータを実用化して個々の症例の眼圧日内変動に応じた治療を行えば,進行する例はさらに減少すると考えられる.将来,視神経循 -
ぶどう膜炎の新しい流れ────EBMの導入に基づいた治療開発
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionぶどう膜炎の領域での無作為多施設臨床試験の導入は比較的遅かった.しかし,現在,このような臨床試験により硝子体内ステロイドインプラントが検討されており,ぶどう膜炎領域でも高度なevidence—basedmedicineが形成されつつある.本稿では硝子体内ステロイドインプラントについて説明し,抗腫瘍壊死因子αモノクローナル抗体やinterferon—αなどの新しい治療薬も紹介する.また,ぶどう膜炎の診断,炎症程度の評価,治療効果および結果報告のための基準を国際的に作成する動きについても述べる. -
角膜パーツ移植
211巻10号(2004);View Description Hide Description角膜の機能が損なわれた場合に,これまでは角膜全層を移植する“全層角膜移植”がおもに行われてきた.しかし,近年の角膜バイオロジー,および手術手技の進歩により,“悪い部分のみを移植する”,いわば“パーツ別移植”が可能となってきた.これまでも表層の角膜混濁に対して角膜上皮および実質浅層を移植する“表層角膜移植”,輪部機能が悪く上皮障害を繰り返す例に対する“上皮移植”が行われてきたが,これらを一歩進めてDescemet膜のレベルまで実質切除を行う“深層表層角膜移植”,および研究室で上皮細胞を培養してシート状にして -
外来角膜移植
211巻10号(2004);View Description Hide Description白内障の手術が一般的となり,また寿命も伸びてきている現在では,今後白内障術後に起こる水疱性角膜症が増える可能性がある.白内障手術は日帰り手術が増えてきているが,角膜移植は手術件数も少なく,日帰りは珍しい.その理由は角膜提供が少ないためである.アメリカでは角膜提供は豊富にあり,角膜移植は予定手術,日帰りが当たり前となっているが,日本ではドナーが出た時点での緊急手術である.日本での角膜移植を増やし,移植適応患者が待つことなく手術を受けられるようになるには,アイバンクにおける移植コーディネーターの充実が必要であ -
重症アレルギー対策
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionアレルギー性結膜炎には痒みなどを自覚症状とした花粉症などとは異なり,痛みや視力低下を伴った重症アレルギー疾患がある.花粉症などは軽症例であり,即時型の反応でマスト細胞が中心に働き,薬物治療は点眼が主体であり,マスト細胞膜安定化剤である抗アレルギー薬やヒスタミンH1拮抗薬の点眼液を使用した治療が基本である.一方,痛みなどの症状が強い重症例は好酸球が主体に働く遅発型の反応で,これらの点眼に加えてステロイド点眼の併用が考えられていたが,ここ数年であらたに免疫抑制剤点眼が使われるようになった.また,ステロイド点眼 - ■QOLを上げよう
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ドライアイとVDT
211巻10号(2004);View Description Hide Description現代ではパーソナルコンピュータ(PC)の普及などによりVDT(visual display terminal)作業の機会が増加し,それに伴うドライアイが問題となっている.VDT作業に関連したドライアイは作業中の瞬目減少に起因する涙液蒸発亢進型のドライアイであり,眼の乾きなどよりも眼の疲れなどの不定愁訴が主訴になる傾向がある.検査所見としては涙液分泌能を評価するシルマーテストは正常であるが,涙液安定性の指標である涙液層破壊時間(break up time:BUT)は異常を示すケースがほとんどである.VDT作 -
急増MGD!
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionマイボーム腺は脂質を分泌し,涙液の最表面に油層を形成し,涙液の蒸発を抑制して涙液を安定化させるという重要な役割を担っている.マイボーム腺の異常は涙の質的変化をもたらすことによる蒸発亢進型ドライアイをはじめとしたさまざまな眼表面疾患の発症と関連しているため,これらの診断においてはマイボーム腺の所見に注意を払う必要がある.マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)自体は失明するような病気ではないが,異物感や不快感などのさまざまな愁訴や,VDT作業における能率の低下な -
眼アレルギーアップデート
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionアレルギー性結膜疾患とは,結膜組織にI型アレルギー炎症を生じる疾患群の総称である.このなかにはいわゆるアレルギー性結膜炎(季節性,通年性)のほかに,春季カタル,アトピー性角結膜炎,巨大乳頭性結膜炎が含まれる.視機能という観点からみて,単に痒みにとどまるか視力障害を招くかはきわめて大切なポイントである.両者を分けるのは,病態が即時相にとどまるか,それとも遅発相から慢性炎症に陥り,組織障害が重症化して結膜組織の増殖性変化,すなわちリモデリングに至るかである.その点で春季カタルはもっとも重篤なアレルギー性結膜疾 -
最近の美容外科における二重瞼の矯正手術
211巻10号(2004);View Description Hide Description二重瞼手術は,大別して切開を加えない埋没法と二重のライン上を切開する全切開法に分けられる.日本では傷跡も残らず,より自然な仕上がりの埋没法が主流であるが,近年,埋没法の手術手技が均一化されてきたこともあり,全切開法のほうが容易に二重のラインを作製しやすいため,埋没法より全切開法を施行される例が増加している.そのため,その修正手術が必要となるケースも増加している.しかし,全切開法で施行された二重瞼を美しく修正することは困難なことが多く,特に元の一重に戻したり,二重瞼巾を狭くしたりする手術は非常に難易度が高く -
眼瞼周囲のレーザー治療
211巻10号(2004);View Description Hide Descriptionレーザー治療は炭化,蒸化,蛋白凝固,蛋白変性などの反応を応用した外科的レーザー治療(高反応レベルレーザー治療:HLLT)と活性化の反応を応用した内科的レーザー治療(低反応レベルレーザー治療:LLLT)に分類される.眼瞼周囲のレーザー治療はおもにHLLTが中心であるが,LLLTも組み合わせて治療期間の短縮や副作用の軽減をはかることが望ましい.眼瞼周囲のレーザー治療の対象となる疾患には母斑,皮膚腫瘍,美容手術などがあり,さまざまな応用が行われている.眼瞼周囲を治療する際にはレーザー光の眼に対する危険性を考慮し
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