医学のあゆみ
Volume 212, Issue 1, 2005
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1月第1土曜特集【G蛋白質共役受容体研究の新展開──疾患メカニズムの解析と制御へのあゆみ】
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- ■総論:受容体の解析・制御の新しい視点
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受容体シグナルと制御──インバースアゴニスト
212巻1号(2005);View Description Hide DescriptionG蛋白質共役受容体はゲノム中最大のファミリーを形成し,驚くべき多様性を有している一方,受容体によるG蛋白質の活性化の分子メカニズムは進化上きわめてよく保存されている.この普遍的なメカニズムの理解は,任意の受容体シグナルの解析と制御に結実することが期待される.本稿では,アゴニストによらない受容体の活性化とインバースアゴニストによる制御について,AT1に焦点をあてて解説する. -
7回膜貫通型受容体の構造と機能──ロドプシンを中心に
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionロドプシンは,原子分解能で構造の全貌が明らかになった,最初で唯一のG蛋白質共役型受容体(GPCR)である.網膜中に存在し,視覚認識の初段階を担う光受容体であるロドプシンの立体構造は,7回膜貫通ヘリックス領域にリガンドである11−シス−レチナールが結合した休止状態である.このロドプシンの結晶構造解析の結果,最後の膜貫通ヘリックスVIIに続いて8番目の両親媒ヘリックスが細胞質側の膜表面に存在することが明らかとなり,このヘリックスVIIIが細胞内信号伝達機能発現において中心的役割を果たしていることがわかりつつあ -
Gα12/13共役GPCRによるRho活性化機構
212巻1号(2005);View Description Hide DescriptionGα12およびGα13はトロンビン,トロンボキサンA2,LPAなどのG蛋白質共役受容体からの刺激を受け取り,ストレスファイバー形成,神経突起の退縮などの細胞形態の変化を引き起こす.Gα12/13の直接のエフェクターとして3種類のRhoGEF(p115RhoGEF,LARG,PDZRhoGEF)が同定され,RhoGEF活性に依存して上記の細胞形態変化が引き起こされることが明らかとなった.これらのRhoGEFはエフェクターとしての機能だけでなく,そのRGSドメインを介してGα12/13を負に制御し,Gα12/ -
G蛋白共役型受容体刺激を介したEGF受容体トランスアクチベーションの生理作用
212巻1号(2005);View Description Hide Description生理活性物質として多くの生体機能をつかさどるG共役型受容体は,その名のとおりG蛋白を活性化することにより,その下流にシグナルを伝える.ところが,G共役型受容体を刺激した際に同じ細胞膜上の受容体であるEGF受容体がほとんど同時に活性化することが知られている.EGF受容体は代表的な増殖因子であるepidermal growth facto(r EGF)の受容体であり,下流に増殖シグナルを伝える.ひとつの受容体シグナルにより別の受容体が活性化されることをトランスアクチベーションとよぶが,この系は典型的な例とされ -
G蛋白質共役受容体の解析方法──ハイスループットスクリーニングによるリガンド検索
212巻1号(2005);View Description Hide DescriptionG蛋白質共役受容体(GPCR)は,現在使用されている臨床薬の約5割以上のターゲットとなっている.したがって,GPCRのリガンド検索は盛んに行われ,各種のGPCR機能の解析方法が開発された.実際にどのような手法を用いるかは,いろいろな要因が検討課題となる.創薬研究の一環としてGPCRに対するリガンドスクリーニングを行う場合は,ターゲットとするGPCRの性質のほかに装置,ランニングコストなどの問題も解決しなくてはならない.ここでは,基本的なGPCRの活性測定方法であり,かつハイスループットスクリーニング(hi -
G蛋白質共役型受容体(GPCR)を標的とした最近の創薬研究
212巻1号(2005);View Description Hide DescriptionG蛋白質共役型受容体(GPCR)研究には2つの大きな流れがある.既存のGPCRをおもな研究素材とした機能解析,もう一方はオーファンGPCRとそのリガンド探索である.GPCRの研究領域は,いままで各疾患領域で個々に得たデータを近年行われている機能解析結果とそれに基づく機能類似性の発見に基づいて体系化してきた経緯がある.さらなる具体的な体系化のための機能解析が基礎研究機関で行われる一方で,おもに製薬企業がゲノム科学(genomics)の担い手としてオーファンGPCR関連研究を精力的に行っている.後者の場合,ご - ■各論:受容体機能の新しい展開
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新しいAT1受容体活性化機構──メカニカルストレスによるアンジオテンシンII非依存性AT1受容体活性化機構
212巻1号(2005);View Description Hide Description心肥大は高血圧症,心臓弁膜症,心筋梗塞後などのさまざまな原因で血行力学的な負荷が加わると誘導され,虚血性心疾患や不整脈による突然死の危険因子であることが知られている.心肥大の形成にはレニン−アンジオテンシン系が重要な役割を果たしており,アンジオテンシンIIの作用が注目されている.これまで,メカニカルストレスは心筋細胞からのアンジオテンシンIIの分泌を促進し,分泌されたアンジオテンシンIIがオートクライン/パラクライン的に働き,アンジオテンシンII1型受容体を活性化し,心肥大の形成に関与していると考えられて -
エンドセリン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionエンドセリン受容体はエンドセリンペプチドファミリー(ET−1,2,3)に対する受容体で,ET−A受容体とET−B受容体の2つのサブタイプが存在する.循環系の種々の病態に関与し,最近では肺高血圧症に対する受容体拮抗薬の臨床応用が注目されている. -
アドレナリン受容体──遺伝子改変動物からみたアドレナリン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionアドレナリン受容体はG蛋白質共役型受容体のスーパーファミリーに属し,もっとも古くから研究されている受容体である.交感神経や心臓においてとくに重要な機能を果たしている.アドレナリン受容体は3つのグループに分かれ,それぞれに3つのサブタイプが存在している(α1:α1A・α1B・α1D,α2:α2A・α2B・α2C,β:β1・β2・β3).本稿では各アドレナリン受容体について遺伝子改変動物を用いて得られた結果を中心に,最新の知見を紹介する.また,最後にβ2アドレナリン受容体の単一塩基変異多型(SNP)がもたらす -
アドレノメデュリン受容体と臓器保護──酸化ストレスと臓器保護
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionアドレノメデュリン受容体は,7回膜貫通型の受容体CRLRと修飾蛋白のRAMPが結合することによりアドレノメデュリン特異的受容体となる.アドレノメデュリンは高血圧,腎不全,糖尿病など各種の疾患で血中濃度が上昇し,臓器保護的に働くことがわかっている.一方,受容体も血管障害,心肥大,糖尿病性腎症,肥満などで増加し,臓器保護的に作用すると考えられている.アドレノメデュリンノックアウトマウスの検討でも,臓器保護作用が確認されている.また,RAMPのノックアウトマウスも作製中であり,今後の研究が期待される.一方,創薬 -
Pael受容体/GPR37とParkinson病──Parkin変異によるドパミンニューロン変性のメカニズム
212巻1号(2005);View Description Hide Description家族性Parkinson病,常染色体劣性若年性パーキンソニズム(AR−JP)はユビキチンリガーゼ(E3),Parkinの変異による不活性化により,基質蛋白質が異常蓄積して黒質ドパミン細胞死に至ると想像されている.現在では約10種類報告されているParkinの基質のなかで,著者らが見出したパエル受容体(Pael−R)はもっともよく解析され,その蓄積はAR−JPの病理病態を説明できる.Pael−Rはリガンド不明のG蛋白質共役型受容体で,黒質ドパミン細胞に高度に発現している.Pael−Rは折りたたみ(フォールデ -
セロトニン受容体と精神疾患
212巻1号(2005);View Description Hide Description生理活性アミン“セロトニン”は,セロトニン受容体に結合して様々な生理機能を発現する.セロトニン受容体は現在までに14種のサブタイプに分類され,イオンチャネルによって構成される5−HT3受容体以外はG蛋白質共役型受容体である.選択的セロトニン再取込み阻害薬が様々な精神疾患に対して有効であることは,セロトニン受容体機能の多様性を示唆しており,精神疾患の病因・病態に深くかかわっていると推察される.セロトニン受容体と精神疾患との関連性については,神経精神薬理学的解析をはじめとして遺伝子多型解析,画像解析による脳機 -
嗅覚受容体の機能──G蛋白質共役型受容体最大のファミリー
212巻1号(2005);View Description Hide Description体内バランスが崩れた結果であるさまざまな疾病を治癒することが人類福祉に重要であるとともに,外界からのシグナルを適切に情報処理する五感のバランスを保つことが,現代の情報社会で疲弊しがちなメンタル面の維持にとって大切な課題となっている.五感のなかでも嗅覚感覚は生活における密着度とその神秘的な力ゆえに崇高される感覚である一方,もっとも軽視されがちな感覚でもある.人類以外の生物にとっての嗅覚は,生きていくうえで一番大切な感覚であることはいうまでもない.嗅覚神経系の末梢における匂いの受容を担う嗅覚受容体(匂い受容体 -
オレキシン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionオレキシン(ヒポクレチン)は当初,摂食行動を制御する神経ペプチドとして注目を集めたが,最近は覚醒・睡眠との関係に注目が集まっている.その背景にあるのは,睡眠障害のひとつであるナルコレプシーとオレキシンの深い関係が明らかになってきたことである.ナルコレプシーは100年以上前から知られている睡眠障害であり,睡眠・覚醒の構築が乱れることを特徴とする原因不明の神経疾患であった.その病態生理にオレキシンが深く関与することが明らかになったため,オレキシンが正常な睡眠・覚醒の構築の維持・制御に重要な役割をもっていると推 -
ロイコトリエン受容体──遺伝子欠損マウスの解析と臨床応用へ
212巻1号(2005);View Description Hide Description強力な生理活性脂質であるロイコトリエン(LT)は,生体防御に重要な役割を果たす一方で,過剰な炎症や気管支喘息の発症・増悪因子として知られ,受容体をターゲットとして新規薬剤の開発が行われてきた.LTはロイコトリエンB(4 LTB4)とペプチドLTに大別され,現在までに4種のLT受容体が同定されている.これまでにBLT2を除く3つの受容体の欠損マウスが作製され,表現型が報告されている.LTB4受容体BLT1は古典的な炎症反応に加え,Th1/Th2型の免疫反応を調節していることがわかった.ペプチドLTの受容体で -
PAF受容体と呼吸器疾患
212巻1号(2005);View Description Hide Description血小板活性化因子(PAF)はリン脂質性のメディエーターで,気管支平滑筋の収縮,サイトカインの産生刺激,神経伝達物質合成促進などの作用を示し,気管支喘息など炎症性呼吸器疾患発症メカニズムにおける重要な起因物質と想定されている.PAF受容体遺伝子の構造はHonda,Shimizuらにより解明され,PAFの機能探索のために作製されたPAF受容体ノックアウトマウスなどを用いた研究により,PAFと呼吸器疾患との関連が明らかになりつつある.今後,PAFを含めた脂質性メディエーターの生理的意義・重要性が解明されることに -
ケモカイン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Description動脈硬化に基づく心筋梗塞・脳梗塞,自己免疫疾患,喘息・アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患,また多くの感染症などは,炎症反応が重要な役割を果たす.この炎症反応の共通の病態は白血球の炎症組織への浸潤である.これらの白血球の遊走を制御する因子はおもにケモカインであることが明らかとなってきた.これまでに55ものケモカインが同定され,現在も精力的にそれらの産生細胞とケモカインに反応する細胞が整理されつつある.そして,ケモカインによる細胞遊走活性の制御と各病態における意義が検討され,それぞれのケモカインが脳梗塞, -
疾患の原因,治療標的としてのカルシウム感知受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Description血中カルシウム(Ca)濃度は,副甲状腺ホルモン(PTH)と1,25−水酸化ビタミンDの作用により狭い範囲に維持されている.この血中Ca濃度調節機構に中心的役割を果たすのがPTHである.血中Ca濃度とPTH分泌の間にはネガティブフィードバック機構が存在し,血中Ca濃度の低下はPTH分泌の亢進を,逆にCa濃度の上昇はPTH分泌の抑制を惹起する.この血中Ca濃度によるPTH分泌調節を媒介するのが,G蛋白共役受容体のひとつである副甲状腺Ca感知受容体(CaSR)である.CaSRの作用はPTH分泌調節に必須であるた -
新規の膜型長鎖脂肪酸受容体,GPR40
212巻1号(2005);View Description Hide Description脂肪酸が栄養素としての働きにとどまらず,糖脂質代謝を担う“メタボリックシグナル”伝達分子としても重要な役割を果たしていることが,急速に明らかとなってきている.従来,脂肪酸の細胞へのアクセス,あるいは細胞内への脂肪酸の取込みは受動拡散,あるいはトランスポーターによって担われていると考えられてきたが,最近,G蛋白共役型7回膜貫通型の新規膜型長鎖脂肪酸受容体としてGPR40が報告され,脂肪酸シグナルの新しいゲートウェイとして,糖脂質代謝の恒常性維持,あるいは糖尿病や脂質代謝異常におけるこの受容体の生理的・病態生 -
β3アドレナリン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Descriptionβ3アドレナリン受容体(β3−AR)は,おもに白色脂肪組織と褐色脂肪組織に存在する受容体である.1995年にはヒトにおいて遺伝子多型(Trp64Arg)が発見され,肥満や糖尿病発症との関連が明らかとなった.日本人には高頻度に存在している.本受容体の作動薬(β3−ARアゴニスト)は白色脂肪組織を分解し,褐色脂肪組織の熱産生に貢献する脱共役蛋白質1(uncoupling protein 1:UCP1)を活性化させることが知られており,ヒトにおいて抗肥満・抗糖尿病効果が期待される. -
グレリン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Description1970年代から成長ホルモン(GH)分泌促進作用をもつ物質がつぎつぎと発見・合成され,GH分泌促進因子(GHS)とよばれていた.GHSは7回膜貫通型のG蛋白共役型受容体であるGHS受容体を介して作用するが,GHS受容体は1996年にクローニングされた.GHS受容体は下垂体や視床下部などの中枢神経系を含め,全身の組織に広く発現している.GHS受容体の内在性リガンドは1999年に胃から単離・同定され,グレリンと命名された.それ以後,GHS受容体はグレリン受容体とよばれている.グレリンはグレリン受容体を介する強 -
アディポネクチン受容体
212巻1号(2005);View Description Hide Description脂肪細胞から分泌されて抗糖尿病・抗動脈硬化作用を発揮するアディポネクチンの受容体を,結合を指標にした発現クローニング法で同定した.7回膜貫通型のAdipoR1・R2は既知のG蛋白質共役型受容体と反対のトポロジーを示し,既知のGPCRのセカンドメッセージに影響を与えなかったが,siRNAを用いて内因性の発現レベルを低下させる実験などによりAdipoR1とR2はそれぞれ,骨格筋に強く作用するC末端側のglobular領域のアディポネクチンおよび肝に強く作用する全長アディポネクチンの受容体であり,AMPキナーゼ
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