医学のあゆみ
Volume 212, Issue 5, 2005
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1月第5土曜特集【悪性リンパ腫up-to-date──混沌よりあらたなエビデンスを求めて】
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- ■疫学・発症機構
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悪性リンパ腫の疫学──おもな亜型項目の地理病理学的分布
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫は疫学的あるいは地理病理学的にきわめて多様性に富む.とくに20世紀後半以降,アフリカにおけるEpstein−Barr virus(EBV)によるBurkittリンパ腫,わが国におけるhuman T−cell leukemia virus type 1(HTLV−1)に起因する成人T細胞白血病リンパ腫があいついで発見・認識された.それらが解明される過程で疫学研究が与えた影響は大きく,リンパ腫研究の金字塔といえよう.すなわち,悪性リンパ腫の発生には種々のウイルス感染,染色体転座などによる分子異常, -
悪性リンパ腫の染色体・遺伝子異常
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionB細胞リンパ腫発症のおもな分子機構は,IGH染色体転座による癌関連遺伝子の脱制御,BCL6遺伝子の転座と点突然変異,API2−MALT1再構成などである.これらの染色体遺伝子異常の検出はWHO分類による病型診断と治療方針の決定に欠かせない.また,核型進展として認識される付加的染色体異常は(t 14;18)で認められるように,リンパ腫発症の初期変化である遺伝子再構成の重複や増幅に関連している場合がある.一方,T細胞リンパ腫に特異的とされる染色体異常の切断点でもっとも頻度の高いものは14q11.2と14q32 -
HTLV-I感染と発癌
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionヒトT細胞白血病ウイルスは約60年という長い潜伏期間の後に一部のキャリアに成人T細胞白血病を引き起こす.Taxを中心としたウイルス蛋白質はTリンパ球の増殖を促し,アポトーシスを抑制することで感染細胞数を増加させるが,この副産物として発癌が惹起されるものと考えられる.一方でTaxは細胞傷害性Tリンパ球のおもな標的であり,その発現はATL細胞の生存にとって不利にも働く.このためATL細胞となった時点ではTaxを発現できないものも多い.Tax発現不活化の機序としては,tax遺伝子の変異・欠失,5′側LTRの欠失 -
EBウイルス感染
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の発生とウイルスとの関連についての知見が蓄積しつつある.その代表的なものであるEBウイルスと悪性リンパ腫について概説する.腫瘍細胞核内にEBウイルスゲノムの検出されるものをEBウイルス陽性とすると,B細胞性リンパ腫の数%,T細胞性リンパ腫の30〜50%が陽性である.EBウイルス陽性率が高いリンパ腫としては,膿胸関連リンパ腫,鼻腔NK/T細胞リンパ腫,副腎リンパ腫の節外性リンパ腫がある.Hodgkinリンパ腫も陽性率が高いが,リンパ節発生である.免疫抑制状態下にある患者に発生するリンパ腫を日和見 -
悪性リンパ腫とHelicobacter pylori感染──胃MALTリンパ腫の発症機構を中心に
212巻5号(2005);View Description Hide Description粘膜内リンパ濾胞からは濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)やびまん性リンパ腫(diffuse lymphoma)の各型が発生するが,MALTリンパ腫はmarginal zone(マントル層外層)由来の成熟B細胞の腫瘍化したものと考えられている.胃MALTリンパ腫の60〜90%はHelicobacter pylori(H.pylori)陽性であり,H.pylori除菌治療にて60〜90%はMALTリンパ腫が消失・改善する.本腫瘍は抗原刺激(おもにH.pylori)反応性ヘルパーT細胞から - ■診断と病態評価
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悪性リンパ腫分類の変遷とWHO分類の意義──リンパ腫分類の過去・現在・未来
212巻5号(2005);View Description Hide Description2001年にあらたな悪性リンパ腫の国際分類(WHO分類)が出版され,これまで少なからず混乱のあった悪性リンパ腫分類にひとつの国際標準が設けられた意義は大きい.WHO分類はその前身であるREAL分類と同様に,病理組織所見,免疫学的表現型,遺伝子所見,臨床像を総合して同定しうる疾患単位のリストからなり,近年確立した疾患単位も網羅的に取り入れられている.可能なかぎりリンパ球の分化・成熟段階を考慮した分類になっており,従来の分類との関係ではupdated Kiel分類に近い.しかし,分類の理念が異なるWorkin -
表現型および染色体・遺伝子型解析からのアプローチ
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionWHO分類に象徴されるように,従来からの古典的な病理形態学的所見のみで悪性リンパ腫の詳細な細分類を行うことは,今日ではもはや不可能と考えられ,免疫学的手法(免疫組織化学,flow cytometryなど)を用いたリンパ腫細胞の表現型,すなわち細胞膜抗原および細胞質内抗原解析(immunophenotyping)や,細胞遺伝学的手法を用いたリンパ腫細胞の染色体および遺伝子解析(genetics/cytogenetics)がきわめて重要である.これらの解析は悪性リンパ腫の診断のみならず,分子標的療法の適応を決 -
悪性リンパ腫の病期分類
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の病期は病変の広がりによって決定され,治療方針や予後を決定する因子のひとつとして重要である.一般に病期決定には病歴や身体所見のほか,胸部X線写真,CTなどの画像所見と骨髄検査により決定される臨床病期が用いられる.病期はAnn Arbor分類(Cotswolds修正案)を用い,横隔膜を境にして上または下に限局するI〜II期,上下に進展しているIII期,さらにびまん性または多発性の浸潤を認める場合はIV期に分類される.原因不明の発熱,体重減少や夜間盗汗がある場合は予後が悪く,B症状ありとして病期の -
悪性リンパ腫の新しい画像診断
212巻5号(2005);View Description Hide Description現在,画像診断の各分野では新しい技術・機器が多く登場している.これにより,いままで比較的長い時間トレーニングを必要としていた画像診断がより直感的に理解できるようになってきている.本稿では悪性リンパ腫の診断について比較的有用と思われる各画像診断検査の解説を行った.PETや核医学検査(Gaシンチ)ではCTを重ね合わせることによって小さな病巣の検出を可能とするとともに,解剖学的情報を同時に表示できるようになった.これにより診断能が向上し,さらに手術や生検の際により有用なナビゲーション情報を得ることができるように -
IPS,IPIによる一般的予後判定──層別化治療をめざして
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の治療戦略には,予後因子を使用した層別化治療が行われるようになってきた.Hodgkinリンパ腫では,1.血清アルブミン,2.ヘモグロビン,3.男性,4.病期,5.年齢,6.白血球数,7.リンパ球数の7つの因子によるinternational prognostic score,非Hodgkinリンパ腫では,1.年齢,2.臨床病期,3. performancestatu(s PS),4.血清LDH,5.節外病変数の5つの予後因子によるinternational prognostic indexが一 -
遺伝子発現解析に基づく予後判定
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionすでに病因となる遺伝子が明らかなリンパ腫においては,その遺伝子の発現をRT−PCR法で定量することにより鑑別診断および患者の予後判定が可能になりつつある.一方,病因が不明なリンパ腫においては,DNAマイクロアレイを用いた患者の層別化が新しいリンパ腫の予後予測法として注目されている.DNAマイクロアレイを用いることで数千〜数万種類の遺伝子の発現量を一度の実験で明らかにすることができるが,これら膨大な発現データのなかから患者の治療反応性・長期予後にリンクした遺伝子を同定することが現在研究されている. -
NHLの効果判定規準の標準化
212巻5号(2005);View Description Hide Description“非ホジキンリンパ腫の効果判定規準の標準化─国際ワークショップレポート(1999,Chesonら)”は,標的病変,非標的病変,肝・脾・腎腫大,腫瘍関連症状・検査値異常,骨髄浸潤,新病変の有無を総合的に判定する効果判定規準である.画像診断にはCT横断面像を用い,標的病変については二方向積和を計算し,非標的病変についてはリンパ節病変であれば正常化を,節外病変であればその消失を総合評価する.肝・脾・腎腫大の有無については触診を併用する.本効果判定規準は国際的には新規薬剤の効果判定に頻用されているが,国内では治験 - ■治療法
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化学療法の進歩──フルダラビンなどのアデノシンアナログの開発
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionフルダラビン,クラドリビンといったアデノシンアナログは核酸合成阻害作用を有する新しい抗腫瘍薬である.造血器腫瘍,とくにリンパ性腫瘍で高い抗腫瘍効果が認められており,今後anthracycline,anthraquinone系薬剤との併用化学療法に期待がもたれる.悪心嘔吐,脱毛といった従来の抗癌剤で認められた副作用が少ない点も特徴で,quality of lifeも重視される今後の悪性腫瘍治療に貢献すると考えられる.臨床試験の結果より,好中球減少など従来の骨髄抑制は問題ない投与量が設定されているが,CD4+ -
抗体療法の現状と今後の展開──抗体医薬の将来は?
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性腫瘍に対する抗体医薬には,1.非抱合型抗体,2.抗癌剤あるいは毒素を抱合したimmunotoxin/chemoimmunoconjugate,3.放射性同位元素を標識したradioimmunoconjugateの3種があり,いずれもリンパ系腫瘍の有効な治療手段になりうる.もっとも高い臨床的有効性が判明したのはB細胞リンパ腫に対するキメラ型抗CD20抗体rituximabで,単剤で高い有効性を発揮することに加えて,化学療法との併用によってB細胞リンパ腫患者の治療成績を改善することが判明した.Rituxi -
悪性リンパ腫に対する分子標的治療の開発
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionリンパ腫に限らず広い意味での“癌”は,特定の遺伝子におけるさまざまな変異が蓄積し,増殖,分化,アポトーシスという細胞制御に破綻を生じ,“癌化”に至ると考えられる.そこで,“癌”の分子病態に基づき,標的分子を特定し,それにピンポイントで攻撃しようとする治療法を“分子標的治療”と称している.慢性骨髄性白血病の原因分子BCR−ABLを標的としたAblキナーゼ阻害剤がその代表といえよう.しかし,リンパ腫においては未開拓な分野といえよう.標的探しにはじまって標的手段の探索,効果の検証,薬理動態・薬力学など,臨床開発 -
放射線治療の適応と実際
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionリンパ腫細胞は化学療法剤にだけでなく,放射線治療にも高感受性である.限局期の疾患に対しては単独で根治の可能性が高い.病理病態に関する研究の進歩,化学療法剤とその適用法や造血幹細胞移植の進歩などでリンパ腫治療は著しい進歩変遷を遂げ,放射線治療に関しては全般には照射範囲の縮小,投与総線量の減少で対応して,副作用をより軽減・分散させる方向にある.さまざまな場面で化学療法に加えて放射線治療の必要性が議論されている.一方で,なお放射線治療が優先されるべき病態があることも銘記したい.また,放射線領域でも機器技術の進歩 -
免疫療法の現状と展望
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫を特異的に認識し,これを排除する細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導を目的とした細胞免疫療法の開発が進んでいる.CTLは標的細胞上のHLA分子と,それに結合した腫瘍特異抗原由来ペプチドを複合体として認識する.T細胞が認識しうる悪性リンパ腫関連抗原のうちもっとも解析が進んでいるのは,イディオタイプである.イディオタイプを標的とした免疫療法の臨床試験が進行しており,臨床効果が得られた症例もある.IAPファミリーのひとつであるsurvivinも標的抗原として期待される分子である.抗原特異的免疫応答を効率 -
自家造血幹細胞移植の有効性と適応
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫に対する自家末梢血幹細胞移植は,患者に治癒をもたらす可能性の高い治療法として近年その移植数が増加している.非Hodgkin aggressiveリンパ腫で再発・難治性,化学療法に感受性のある患者では標準治療となっており,予後不良群では初回治療において自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法の有効性を示す報告が多い.本稿ではその適応と成績について概説する. -
同種造血幹細胞移植(フル移植・ミニ移植)の有効性と適応──現状と今後の展望
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionリンパ腫に対する造血幹細胞移植は自家移植が中心であり,同種移植は進行期の患者のみを対象として行われていたため,移植関連死亡率が非常に高いということが問題であった.近年になり,支持療法の進歩,より早期の同種移植の施行などによって,リンパ腫に対する同種移植の治療成績は確実に改善している.しかし,現時点ではリンパ腫に対する同種移植の適応は明らかではない.また,化学療法や自家移植と比較して毒性が強い治療であるということに変わりはない.今後,リンパ腫に対する同種移植の位置づけを明らかにしていくためには,化学療法や自 - ■エビデンスに基づくリンパ腫の治療とあらたな展開
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最近のリンパ腫治療における大規模スタディ
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の治療はここ10年間で歴史に残る大きな転機を迎え,治療成績の向上がみられている.とくに非Hodgkinリンパ腫においては抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブに代表される分子標的治療の開発と臨床への応用により,過去の標準的治療法が大きく塗り替えられようとしている.この進歩に多大なる貢献を果たしているのが,多施設共同によって行われる科学的かつ倫理的に適切にデザインされたランダム化比較試験であり,それらにより得られたクリニカルエビデンスの蓄積である.本稿ではHodgkinリンパ腫,非Hod -
Hodgkin病の治療戦略──確立された標準治療とさらなる改善への試み
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionHodgkin病はリンパ球由来の血液悪性腫瘍であり,最新の病理分類であるWHO分類(2001)ではHodgkinリンパ腫の名称が用いられている.放射線や抗癌剤に対する感受性が高く,もっとも治りやすい悪性腫瘍のひとつと考えられており,現在の治療の目標はいかに少ない副作用で治癒が得られるかということにある.従来,放射線を中心とした治療方法で良好な治療成績が達成されてきたが,長期生存者の二次発癌が問題となり,近年Hodgkin病に対する治療戦略は化学療法主体に変化してきた.現時点で,限局期症例に対しては短期間の -
濾胞性リンパ腫
212巻5号(2005);View Description Hide Description低悪性度リンパ腫のもっとも代表的な疾患群である濾胞性リンパ腫は従来の化学療法では腫瘍の縮小効果が得られるものの,化学療法は生存の延長には寄与せず,さらに,併用する薬剤をより強力なものにしても生存延長には寄与しないことが明らかとなっており,最近まで,濾胞性リンパ腫の大部分を占める初発進行期症例に対しては,腫瘍増大による圧迫症状,腹水,胸水などの体腔液貯留,汎血球減少といった病状進展時まで化療実施を待つ,“watchful wait”の考え方が中心であった.しかし,最近のキメラ型抗CD20モノクローナル抗体( -
マントル細胞リンパ腫
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionマントル細胞リンパ腫(MCL)は,染色体転座(t 11;14()q13;q32)による細胞周期制御因子サイクリンD1の高発現とCD5+で特徴づけられ,予後不良なB細胞リンパ腫である.抗CD20抗体であるリツキシマブの導入や,強力な化学療法による初回治療と自家末梢血幹細胞移植併用超大量化学療法によって治療成績が向上している.また,同種移植では移植片対リンパ腫(GVL)効果が示唆されており,ミニ移植による再発・不応例における高成績が報告されている.さらに,新薬剤の登場で今後も治療成績の向上が期待されるとともに -
びまん性大細胞型リンパ腫──diffuse large B-cell lymphomaを中心に
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionリツキシマブの出現により,B細胞性リンパ腫の治療に従来の標準とされるCHOP療法から進展がみられた.進行期diffuse large B−cell lymphoma(DLBCL)においては,リツキシマブとCHOPの併用により若年の低リスク患者および高齢者に対し有意にCHOPを上まわる成績が報告され,あらたな標準として認められるに至った.限局性DLBCLに対してもCHOP 3コースと放射線照射が標準とされてきたが,長期追跡調査では再発が問題とされ,これに対してもリツキシマブを加えた臨床研究が行われている.今 -
未分化大細胞型リンパ腫の病態と治療
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionAnaplastic large cell lymphoma(ALCL)は,WHO分類のなかでT/null細胞起源として記載されている中等度悪性群のリンパ腫である.細胞膜,Golgi装置においてCD30が陽性であり,形態的に腫瘍細胞が大型異型細胞であることが特徴である.皮膚に発症するprimary cutaneous ALCLと全身発症型のprimary systemic ALCLの2タイプがあるが,primary systemic ALCLはさらにALK(anaplastic lymphoma kina -
Burkittリンパ腫
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionBurkittリンパ腫はWHO分類では成熟B細胞腫瘍としてFAB分類の急性リンパ性白血病(ALL L3)と同列に扱われ,Burkitt’s lymphoma/leukemia(BL)と定義されている.臨床的にはendemic type,sporadic type,immunodeficiency typeに分けられる.腫瘍細胞は遺伝子学的にc−mycの再構成が共通して認められ,本遺伝子の異常発現が腫瘍発症・進展の機序に密接に関連していると考えられる.Highly aggressive lymphomaであ -
MALTリンパ腫──治療法の多様化
212巻5号(2005);View Description Hide DescriptionMALTリンパ腫は低悪性度リンパ腫のひとつで,新WHO分類では節外性辺縁帯B細胞リンパ腫MALT型(extranodal marginal zone B−cell lymphoma of MALT type)としてあげられている.B細胞性リンパ腫の約7〜8%を占め,びまん性大細胞型にtransformすることもある.1991年Hericobacter pylori(H.pylori)感染とMALTリンパ腫の関連が報告されて以降,治療方法の選択に進展がみられるようになった.また,腫瘍発生の基礎的研究も急速に -
血管内大細胞型B細胞性悪性リンパ腫──困難な診断と治療の現状
212巻5号(2005);View Description Hide Description血管内大細胞型B細胞性悪性リンパ腫はWHO分類により正確な定義がなされたが,非常にまれな病態であること,初診の迅速な病理診断がしばしば困難であることなどの理由から,大規模な臨床試験によるエビデンスとなるような治療指針はいまだ示されていない.臨床病理学的な分析に基づいた発症時の症状,臓器特異性,臨床的亜型の存在,自然経過および至適治療の選択肢についていくつかの示唆が与えられる報告がなされつつある.治療としては中枢神経病変に対してはシタラビン,メトトレキセートの化学療法,それ以外ではCHOP療法ベースの積極的 -
成人T細胞性白血病──難治性疾患からの脱却をめざして
212巻5号(2005);View Description Hide Description成人T細胞性白血病(ATL)は原因ウイルスであるHTLV−Iが同定されたにもかかわらず,長年治癒困難な造血器腫瘍の代表的疾患とみなされてきた.近年HTLV−Iの機能,ヒトリンパ球への感染機構の詳細が明らかにされつつあり,ウイルス感染と腫瘍化との深い溝も埋まりつつある.臨床面においてはATLに対する化学療法には着実な進歩が認められ,最近では生存期間中央値が1年を超える治療法も報告されるようになった.化学療法の進歩に加え,感染症などに対する支持療法の進歩により,ATLに対しても同種造血幹細胞移植が積極的に行わ -
NK/T細胞リンパ腫
212巻5号(2005);View Description Hide Description近年,NK/T細胞リンパ腫の予後改善につながる知見が急速に集積されてきている.限局期鼻NK/T細胞リンパ腫においては,CHOP療法などanthracyclineを含む化学療法の後に放射線照射を行った場合の治療成績は不良である.1.診断後早期に45〜50 Gyの放射線照射を行う,2.放射線治療計画はCTを用いて行う,3.照射後または同時並行的に化学療法を行う,の諸点が現在推奨される治療戦略である.現在わが国では放射線治療と化学療法の同時併用療法に関する2つの臨床試験が進行中である.本リンパ腫はEpstein -
末梢T細胞性リンパ腫──治療の現状
212巻5号(2005);View Description Hide Description末梢T細胞リンパ腫(PTCL)はまれな疾患であり,またその複雑な疾患構成ために前向きの治療法研究が少ない.多くは過去の研究を後ろ向きに解析している.限られたデータからいえることは,1.通常の化学療法ではB細胞由来の非Hodgkinリンパ腫(B−NHL)と比較して予後不良であること,2.未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)は例外的に予後良好であるため,除外して治療法を考慮すべきであること,3. ALCL以外のPTCLに対する治療法は確立していないが -
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫──病理・病態・治療
212巻5号(2005);View Description Hide Description血管免疫芽球性T細胞リンパ腫は末梢性T細胞リンパ腫の一病型であり,わが国では全悪性リンパ腫の2.4%と報告される.全身性リンパ節腫脹,肝脾腫,発熱,皮疹,自己免疫性溶血性貧血,多クローン性高γグロブリン血症など,多彩で特徴的な臨床症状を呈し,病理組織所見からは反応性か腫瘍性かの区別が困難で,従来は多数の名称が付されてきた.現在はクローナルな染色体異常とT細胞抗原受容体遺伝子に再構成を認めることから,T細胞リンパ腫であることが明らかにされている.標準的治療は確立しておらず,ステロイド薬単独から造血幹細胞移植 -
皮膚T細胞リンパ腫
212巻5号(2005);View Description Hide Description皮膚T細胞リンパ腫にはさまざまな臨床型や細胞型をもつリンパ腫が含まれるので,治療の選択と予後判定には正確な診断と病期評価が欠かせない.菌状息肉症はもっとも高頻度にみられ,独立した病期分類が提唱され,予後解析が進んでいる.菌状息肉症の病態にはいまだに不明な点が多いが,治療のコンセプトについては世界的なコンセンサスが確立されようとしている.皮膚T細胞リンパ腫は皮膚という臓器特異性を基盤にした独特の腫瘍進展様式をとるために,他臓器のリンパ腫に用いられるような画一的治療プロトコールでは対応できない.病期に適合した -
まれな節外性リンパ腫──中枢神経,骨,生殖器
212巻5号(2005);View Description Hide Descriptionまれな節外性リンパ腫として中枢神経,骨,精巣原発リンパ腫について解説する.中枢神経原発リンパ腫は,免疫に異常のない症例の発症年齢は50〜70歳で中央値は55歳,男女比は1.5:1.0と男性にやや多い.B細胞リンパ腫で組織型は大細胞Bリンパ腫がほとんどである.脳血液関門を通過する薬剤を用いた治療法(大量MTX療法やAra−C療法)と放射線療法との集学的治療法が治療成績を改善させている.骨原発リンパ腫は成人より小児に多く認められる.大半がびまん性大細胞Bリンパ腫(DLBCL)であるが,Burkittリンパ腫, -
小児の悪性リンパ腫──その特殊性と新しい治療法
212巻5号(2005);View Description Hide Description小児悪性リンパ腫は成人と異なり,ほとんどが非Hodgkinリンパ腫(NHL)である.その発症率はわが国では年間150名前後といわれている.NHLは腫瘤性病変を形成するが,全身の免疫組織を構成するリンパ系細胞の腫瘍化であるため,白血病と同様に全身性の悪性腫瘍ととらえて治療する必要がある.組織型はリンパ芽球性リンパ腫,Burkittリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫,未分化大細胞型リンパ腫の4種が約90%を占める.小型円形細胞腫瘍と鑑別が困難な場合も少なくないため,複数の病理医による中央病理診断システ -
高齢者の中・高悪性リンパ腫に対する治療──エビデンスに基づいた治療法
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫は高齢者に多い疾患であるにもかかわらず,加齢に伴う臓器機能の低下などにより成績が劣悪であるため,近年まで大規模治療研究はなされなかった.抗生物質,造血因子であるG−CSFなどの開発により抗腫瘍剤の副作用を軽減・コントロールすることが可能になり,2000年代に入り急速に研究が進展し,治療成績が向上している.ひとつはG−CSFを積極的に使用し,短期間に多量の抗腫瘍薬を投与する方法である.75歳までの前期高齢者を対象としたCHOP−14は代表的なものであり,寛解率も76%に達している.一方,高齢者に - ■特殊病態・合併症の治療
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臓器障害を有する患者の治療──肝障害(とくにB型肝炎ウイルスキャリアなど),腎障害合併例など
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫に対し化学療法を開始する前に,臓器機能を把握しておく必要がある.臓器障害を有する患者に対する抗癌剤投与は不明な点が多い.効果・有害事象の発生に関して個人差が大きく,減量規準に関する正確な指針を示すことは難しい.最近,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)キャリア患者においては,強力な抗ウイルス作用を有する逆転写酵素阻害剤であるラミブジンにより,化学療法後のB型肝炎の再燃・増悪が抑えられることが明らかになってきた.本稿では,主としてHBVキャリア患者における化学療法施行時 -
リンパ腫に関連した血球貪食症候群
212巻5号(2005);View Description Hide Description高熱が持続し,汎血球減少や肝機能障害(AST>ALT),高LDH血症,高フェリチン血症,播種性血管内凝固症候群(DIC)などの検査所見を特徴とし,骨髄をはじめとするリンパ網内系組織での組織球の増殖と血球貪食がみられるものが,血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)である.HPSには一次性/遺伝性のもの(乳幼児期に発症)と二次性のもの(乳児から高齢者まで広範に分布)があり,頻度的には二次性HPSが圧倒的に多い.その二次性HPSのなかでも頻度が高く重症型に分類されるのが,リンパ -
髄膜浸潤の治療──治療の実際
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の髄膜浸潤は難治性で,予後不良の要因となっている.治療としては,1.抗癌剤髄腔内注入,2.放射線療法,3.抗癌剤全身投与の3本の柱がある.抗癌剤髄注はmethrotrexate(MTX),cytarabin(Ara−C),hydrocortisoneなどを単独あるいは併用する.放射線治療には全脳照射,全脊髄照射があるが,後期白質脳症などの合併症に注意する.抗癌剤全身投与には,髄液移行の良好なMTX,Ara−Cなどの大量療法が用いられ,これに抗癌剤髄注や放射線照射を併用する. -
悪性リンパ腫治療,多剤併用療法施行時の支持療法──悪性腫瘍化学療法後貧血に対するrEPOの展望
212巻5号(2005);View Description Hide Description悪性リンパ腫の治療における多剤併用療法の安全な施行のためには,的確な支持療法が不可欠である.そのなかで,悪性腫瘍化学療法時の感染症対策の特徴としての発熱性好中球減少症(febrile neutropenia)の概念と治療法,好中球減少に対する造血コロニー刺激因子(colony stimulating factor:CSF)の適切な使用法が大きな位置を占め,さらにこれまでは輸血に頼る以外に方策のなかった悪性腫瘍の化学療法後の貧血に対してrEPO製剤(recombinant erythropoietin)の有
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