医学のあゆみ
Volume 212, Issue 6, 2005
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2月第1土曜特集【脳卒中──基礎研究と臨床の最前線】
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- ■基礎研究の現況と将来展望
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フリーラジカルと脳卒中治療
212巻6号(2005);View Description Hide Description地球上の多くの生物は酸素の利点を利用して生命活動を行っているが,一方で酸素の利用はフリーラジカルなどの活性酸素毒性の危険にさらされるという二重性をもっている.脳は酸素消費率の高い臓器で脂質を多く含むことから,フリーラジカル増加による酸化的ストレスにさらされやすく,また脆弱であると考えられている.脳卒中のような血管障害は酸素供給の障害と細胞障害が一体となって進行する病態であり,活性酸素の脳卒中病態での役割とその制御による臨床治療の可能性が重要である.本稿ではフリーラジカルと脳卒中との関連のなかで,主として脳 -
高脂血症と脳卒中──スタチンによる脂質低下療法は脳梗塞を予防するか
212巻6号(2005);View Description Hide Description高脂血症は脳卒中のなかでも脳梗塞の危険因子と考えられている.なかでも心筋梗塞と同様なアテローム硬化を基盤として発症するアテローム血栓性脳梗塞にもっとも強く関与していると考えられる.脳梗塞の責任血管として重要な頸動脈を超音波で観察した場合の動脈硬化重症度と高脂血症との関連性は,多くの疫学的研究で示されている.一方,脳出血に関しては臨床疫学的には低コレステロール血症が危険因子である可能性が示されてきた.しかし,高脂血症と脳卒中,なかでも脳梗塞の関係が最近とくに注目されるようになったのは,コレステロール低下作用 -
新しい抗血小板薬,抗凝固薬──アスピリン,ワルファリン,ヘパリンとの違い
212巻6号(2005);View Description Hide Description抗血小板薬,抗凝固薬は血栓症の治療,再発予防に重要な役割を果たしている.従来から使用されてきた代表的抗血小板薬はアスピリン,抗凝固薬はヘパリン,ワルファリンである.これらの薬剤の有効性は多数の臨床試験により確立されているが,実際に患者に投与する際にはいくつか問題となる点もある.これらの薬剤に代わって使用しうる,あるいは併用してより高い効果を期待しうる薬剤がいくつか開発され,臨床試験の成績が報告された.本稿ではそれらの薬剤のなかで海外で施行された臨床試験の結果,有効性が確認され,今後本邦でも使用可能になるこ -
炎症,とくに高感度CRPと脳卒中
212巻6号(2005);View Description Hide Description近年,動脈硬化の発生・進行の過程において炎症が重要な役割を担うことが明らかにされ,血清中のC−反応性蛋白(CRP)が虚血性心疾患および虚血性脳血管障害の予知因子となることが明らかとなった.CRPの値が高いほど虚血性脳血管障害または一過性脳虚血発作(TIA)の発症リスクは増加し,CRPが0.69 mg/dl以上の場合では0.11 mg/dl以下に比べてその相対的なリスクが男性では2倍,女性では約3倍とされる.著者らの検討では頸動脈超音波のB−mode法において頸動脈の最大狭窄率が高い群ほどCRPの平均値が高 -
遺伝子異常と脳卒中
212巻6号(2005);View Description Hide Description脳卒中の遺伝性疾患は,単一遺伝子異常によるものよりもむしろ多くの遺伝子の異常に起因すると考えられるもののほうが多いが,原因遺伝子あるいは遺伝子座が特定され,脳血管を中心とした異常を認める疾患は脳卒中の病態,個々の遺伝子の役割を考えるうえで重要である.虚血性脳卒中をきたす疾患には,びまん性白質脳症をきたすCADASIL,CARASILのほか,脳および網膜の細血管に閉塞を認め,3番染色体短腕に連鎖するHERNSなどの一連の疾患群や,種々の遺伝性疾患との合併が報告されている家族性もやもや病が報告されている.一方 -
細胞移植と脳卒中
212巻6号(2005);View Description Hide Description脳卒中のなかでも脳梗塞は治療開始時間に制限があり,その時間をすぎると不可逆的な損傷が脳に起こり,治療効果が期待できないことが知られている(therapeutic time window).脳梗塞に対する細胞移植治療は,こうした従来の治療法の限界を超えるものとして臨床応用が期待されている.しかし,移植に用いる細胞の種類,投与方法,対象疾患の種類など,さまざまな要素が未解決であり,臨床応用は現在はじまったばかりである.現時点でもっとも期待されているのは完成脳梗塞ではなく,急性期の脳梗塞に対する細胞療法である. - ■疫学と診断の現況──臨床の最前線
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最新の本邦脳卒中の傾向──脳卒中データバンクより
212巻6号(2005);View Description Hide DescriptionJSSRS groupでは日本人のためのEBMを確立するためのインフラとして,国際標準指標を用いた全国レベルで継続性のある脳卒中急性期患者データバンクを構築しつつある.本システムは急性期脳卒中を扱う中核病院の臨床データベースとして継続的に機能するものであり,全国的には日本脳卒中協会の脳卒中データバンク部門として登録を継続している.ここでは脳卒中データバンクのデータから脳卒中病型別頻度,病型別発症来院時間,年代別特徴,加齢とともに増加する心房細動頻度,脳梗塞のなかでもっとも悪い心原性脳塞栓の退院時予後,心房 -
脳卒中の画像診断──最近の進歩
212巻6号(2005);View Description Hide Description急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法のランダム化比較試験においては,CT所見が画像診断の適応基準となっている.一方,MRI拡散強調画像は超早期の梗塞巣をCTよりも明瞭に描出することができる.ただし,治療適応決定に際して本当にMRIが必要なのかどうかについて現時点でエビデンスとなるデータはない.不必要な検査の実施は患者予後への否定的な影響に結びつく可能性があり,明確な画像診断の指針を示し,それに従って診療を進めていくことが求められている.脳卒中では血管自体の評価も重要である.MRAは必要不可欠のものとなっている -
脳卒中の超音波診断──超音波検査の進め方とトピックス
212巻6号(2005);View Description Hide Description超音波検査は心・血管系の評価を短時間にベッドサイドで行うことができるため,迅速な心・血管評価が必要な脳卒中急性期に広く用いられている.ルーチン検査として頸部血管超音波検査と経胸壁心エコー検査を行う.経頭蓋超音波検査を併用すれば血管評価の精度が増す.頭蓋外内頸動脈遠位側の病変は経口腔頸部血管超音波検査で評価される.若年者脳梗塞や塞栓源不明の脳梗塞は経食道心エコー図検査のよい適応である.塞栓源として卵円孔開存や大動脈複合粥腫病変が注目されている.卵円孔開存があると右心系の血栓が左心系に流入して奇異性脳塞栓症( - ■治療ガイドライン──今後の展望
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脳卒中の一次予防──ガイドライン改訂に向けて
212巻6号(2005);View Description Hide Description脳卒中の危険因子と一次予防対策について『脳卒中治療ガイドライン2004』刊行後に報告されたエビデンスを中心に紹介し,ガイドライン改訂に向けた展望を述べた.『脳卒中治療ガイドライン2004』では脳卒中の確立された危険因子として高血圧,糖尿病,高脂血症,心房細動,喫煙,飲酒を取り上げたが,これらの危険因子に関するあらたなエビデンスを紹介するとともに,生活習慣病として重要性を増している肥満とメタボリックシンドロームを取り上げ,脳卒中の危険因子という観点から,これまでに得られたエビデンスを紹介し,各危険因子につい -
脳梗塞・一過性脳虚血発作の内科的治療の進展のために
212巻6号(2005);View Description Hide Description『脳卒中治療ガイドライン2004』のページをめくりながら,今後の方向性を考察した.急性期の治療には組織プラスミノーゲンアクチベーターの認可の後,さらに超急性期の治療の時間枠が広がり,他の薬剤との併用療法が進歩し,抗血小板薬の急性期使用,脳保護薬の進歩を期待する.慢性期の治療の中心は抗血小板薬,抗凝固薬である.特色ある薬剤の参入による小梗塞の再発予防,血管性痴呆の予防の進歩がかかっている.卵円孔開存,動脈解離などの話題の病態への対処は未解決である.女性医療学はスタートした.超高齢者医療はまだ否定的方針の段階 -
脳出血治療のガイドラインと今後の問題点──ガイドライン改訂に向けて
212巻6号(2005);View Description Hide Description脳出血はわが国では欧米に比較し,脳卒中に占める頻度が高い疾患である.多数例を対象とした治療成績のまとめが過去にわが国で行われ,生命予後への手術の効果が明らかにされたが,機能予後への効果については結論が出ておらず,エビデンスレベルの高い基準はいまだなく,今後の大きな課題として残されている.脳出血の危険因子に高血圧があるが,最近では高血圧治療中あるいは正常血圧から発症する症例が過半数を占めており,今後,降圧の目標値をさらに低くすることで脳出血の予防をどの程度はかれるのか,また,他の危険因子を明らかにすることも -
くも膜下出血診療ガイドライン──改訂時の課題
212巻6号(2005);View Description Hide Descriptionくも膜下出血はわが国では人口10万人に対して年間10〜23人に発症し,全体の10〜67%が死亡し生存者の約30%は重度の障害を残すとされる重篤な疾患である.脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の治療は開頭クリッピング術を中心とした外科治療がおもに行われてきたが,近年の医療技術の進歩により脳動脈瘤塞栓術や脳血管攣縮に対する選択的動注化学療法や経皮的血管形成術などの血管内治療も選択肢に加えうるようになってきた.くも膜下出血診療ガイドラインはEBMの手法により収集・選択された科学的に妥当性の高い根拠によるガイドライン -
無症候性脳梗塞と白質病変
212巻6号(2005);View Description Hide DescriptionMagnetic resonance imaging(MRI)の普及および脳ドック受診者の増加に伴い,無症候性脳梗塞や無症候性白質病変を呈する例が増加している.しかし,このような病変が有症候となる可能性については不明な点が多く,予後・治療の必要性を明確にしたガイドラインはまだない.本稿では無症候性脳梗塞や無症候性白質病変の定義,診断,予後について現状を分析し,治療の方針について最近の動向を要約する. -
未破裂脳動脈瘤──患者にとって真に公平か
212巻6号(2005);View Description Hide Description未破裂脳動脈瘤の自然経過についてわが国では独自のメタアナリシス(UCAS Japan)が施行されているが,結果が得られるのは2年先になる.しかし,現時点でも未破裂脳動脈瘤は発見されており,しかも根治的治療を望む患者は少なくない.まず,治療を行うのか,あるいは見合わせて経過観察をするのかを判断しなければならず,患者が外科的治療を望んだ場合,手術的治療と血管内治療について公平な説明を行うこととなる.しかし問題となるのは,一方に偏らない公平な説明という意味である.本文中に詳述しているが,実際の臨床の場では容易な -
内頸動脈狭窄症とステント
212巻6号(2005);View Description Hide Description頸部頸動脈狭窄性病変における脳卒中予防に対する内頸動脈内膜 /離術(CEA)の有効性は多くの大規模無作為臨床試験により検討されてきた.近年,頸動脈ステント留置術(CAS)の施行件数がとくにhigh risk症例に対して急増している.たしかにCASは革新的な治療法であるが,同療法の真のリスクと適切な適応基準が明らかになるまでは無作為臨床試験や臨床研究の一環として行う以外はその使用を控えるべきと考えられる.最終的には近い将来報告されるであろう無作為ランダム化比較試験の結果を踏まえ,今後の脳卒中治療ガイドライン -
脳卒中治療ガイドラインの評価と今後の方向性
212巻6号(2005);View Description Hide Description欧米のevidence−based medicineを重視した詳細な脳卒中診療ガイドライン(GL)に続き,わが国独自のあらたなGLが5学会合同脳卒中合同GL委員会により策定・公表された.本GL策定にあたっては,1.世界に発信できるわが国のデータの取り入れ,2.わが国で欠如しているエビデンスの明確化,3.メーカーなどからの経済的援助を受けないこと,がとくに留意された.すでに脳卒中治療GLは当然ながら改訂に向けて動き出している.本稿では完成したわが国のGLに対して行われた外部評価の結果を紹介するとともに,GL - ■本邦脳卒中の今後
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脳卒中診療システム──クリティカルパスと病診連携
212巻6号(2005);View Description Hide Description現在の医療は専門高度化し,脳卒中を診療する医療機関の機能分化が進み,1.かかりつけ医,2.急性期病院,3.リハ専門病院,4.維持期のリハ・ケアを行う療養型病院や老人保健施設など,の4つのチームが必要である.脳卒中治療は急性期病院がかかりつけ医からの紹介や救急車を断らないことからはじまる.神経症候の的確な把握とともに迅速画像診断で正確な診断を行い,神経内科,脳神経外科による高度先進医療を含む積極的な治療を展開する.さらに,stroke unitやクリティカルパスの導入により早期離床,早期リハ,感染対策,栄養 -
本邦未承認脳卒中治療薬の今後
212巻6号(2005);View Description Hide Descriptionここで言う本邦未承認薬とは欧米諸国では一般に使用されているが(あるいは,第III相試験が終了しているが),わが国では何らかの理由でまだ治療薬として厚生労働省に認可されていない薬を指す.組織型プラスミノーゲン・アクティベータは,閉塞した血管を脳梗塞超急性期に再開通させることによって脳梗塞の病巣を最小限に抑え,症状改善をはかる治療薬としてアメリカではじめて認可された画期的な薬である.ただし,使用法を誤ると重篤な出血性合併症を起こすことを忘れてはならない.クロピドグレルは現在広く使われているチクロピジン(肝障害 -
脳神経血管内治療の最近の動向と今後
212巻6号(2005);View Description Hide Description脳神経血管内治療は頭蓋内外の血管に経動脈的または経静脈的に到達し,診断および治療を行う手技である.従来から手術的治療の困難な病変に対し試みられていたが,治療器材が不十分であったことや高い技術を必要とするなどのため,ごく一部の機関で限られた治療医のみが行っていた.しかし,ここ数年来の治療技術・器材の進歩は著しく,従来手術的治療を行っていた疾患にも脳神経血管内治療が応用されはじめている.歴史は浅く,EBM(evidence−based medicine)が十分とはいえないものの今後の脳卒中治療に必須な分野であ -
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医の概要
212巻6号(2005);View Description Hide Description日本脳卒中学会専門医制度は脳卒中診療の向上をはかり,国民の健康・福祉に貢献することを目的として平成14年(2002)に制定された.現在までに1,622名の認定専門医が誕生している.平成17年(2005)より試験による認定が実施されることになっている.この概要と今後の問題を解説する.
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