医学のあゆみ
Volume 213, Issue 6, 2005
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5月第1土曜特集【肥満症・メタボリックシンドローム(MS)──最新診療コンセンサス】
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- ■肥満症・メタボリックシンドロームの病態
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肥満症・メタボリックシンドロームの病態──Overview
213巻6号(2005);View Description Hide Description高血圧や糖尿病,高脂血症は個々人に別々に発症するよりもお互いに重なり合って,(内臓)肥満に伴って発症することの多い疾患群であることが明らかにされつつある.そこでこうした症候群をWHOは「メタボリックシンドローム(代謝異常症候群)」と定義し,わが国においても2005年4月,日本内科学会が中心となり診断基準が発表された(「サイドメモ」参照).本稿ではこれらメタボリックシンドロームのわが国における特徴について述べる.そしてその発症の分子基盤として著者らが明らかにしてきたアディポサイトカイン(脂肪組織由来内分泌因 -
肥満症診断基準とメタボリックシンドローム診断基準のポイント
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満,とくに内臓脂肪蓄積を主体にした病態が明らかにされ,メタボリックシンドロームとよばれるあらたな病態も提唱されている.この肥満をひとつの疾患概念としてとらえ,“肥満症”として積極的に診断・治療するために,2000年に日本肥満学会から“新しい肥満の判定と肥満症の診断基準”が発表された.また,動脈硬化性心・血管病に対する予防医学の観点から,コレステロールに次いでコントロールするべき病態としてメタボリックシンドロームの診断基準が,日本内科学会を含めた複数の学会から発表された.本稿ではこれらの診断基準について概 -
メタボリックシンドロームにおける高血圧
213巻6号(2005);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームでは高頻度に危険因子が集積し,心血管系疾患発症も有意に高い.一方,合併する危険因子のなかでは高血圧がもっとも高頻度で,高血圧治療においてもメタボリックシンドロームの合併に留意すべきである.メタボリックシンドロームの成因にはアディポサイトカインの異常が関与するが,とくにTNF−α増加とアディポネクチン低下の役割は重要因子である.ARB・ACE阻害薬はこれらアディポサイトカインの異常を正常化し,降圧と同時に代謝面での改善効果を有している.本症合併高血圧の治療においてはまず肥満是正,運動 -
メタボリックシンドロームにおける高脂血症──そのメカニズムと対策
213巻6号(2005);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの中核をなすところに脂質異常,すなわち高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症がある.しかし,メタボリックシンドロームの特徴は,これに小型高密度LDLが出現したりレムナント(食後高脂血症の指標)が上昇していたりするということがあげられる.このようなリポ蛋白異常は,肥満に起因するところのインスリン抵抗性を基盤として発症すると考えられている.従来の高トリグリセリド血症の治療ではイベント抑制が示しえなかったが,糖尿病をベースとした高トリグリセリド血症の治療ではイベント抑制を示しえ -
メタボリックシンドロームにおける虚血性心疾患
213巻6号(2005);View Description Hide Description内臓肥満の基準に差異はあるが,わが国におけるメタボリックシンドロームの頻度は約25%で,欧米の報告とほぼ同等であった.また,日本人においてもメタボリックシンドロームは動脈硬化性疾患の独立した危険因子であると考えられる.メタボリックシンドロームでは内臓肥満,インスリン抵抗性を背景とし,リポ蛋白異常,高血圧,アディポサイトカイン,炎症反応の増悪などの病態が相互に影響し,動脈硬化性疾患の発症・進展に寄与している.欧米に比べLDLコレステロールがそれほど高くない日本人において,メタボリックシンドロームの動脈硬化性 - ■肥満症・メタボリックシンドロームの診断
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メタボリックシンドロームの診断──Overview
213巻6号(2005);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームはインスリン抵抗性,動脈硬化惹起性リポ蛋白異常,血圧高値を個人に合併する心血管病易発症状態である.高コレステロール血症に対する対策がほぼ確立された現在,心血管病の重要な予防ターゲットとなっている.海外では複数の診断基準が発表されていたが,National Cholesterol EducationProgram(NCEP)とInternational Diabetes Federation(IDF)の両コミティーの統一見解(World Global Definition)がまもなく -
内臓脂肪測定法
213巻6号(2005);View Description Hide Description本稿では,メタボリックシンドロームの病態の基盤である内臓脂肪蓄積型肥満の診断方法について述べる.脂肪分布(内臓脂肪面積・皮下脂肪面積)測定に関しては従来よりさまざまな方法が試みられてきた.本稿ではこれら計測方法のうち画像法のCT(X線CT)法,MR(I核磁気共鳴)法と生体インピーダンス法を使用した体脂肪計について解説を行う.CT法では脂肪分布評価法の標準化を行っており,今後これらの方法を利用し統一した方法でのCT脂肪評価の施行が必要である.MR計測法では従来問題であった計測精度が改善された.今後はMRを用 -
メタボリックシンドローム診断における腹囲測定の役割──診断法とその意義
213巻6号(2005);View Description Hide Descriptionわが国のメタボリックシンドロームの診断において,腹囲測定の標準的部位として立位自然呼気終末時の臍レベル横断面が用いられている.腹部CTでの臍レベル内臓脂肪面積と腹囲との相関から,内臓脂肪面積の基準値である100 cm2に相当する腹囲である男性85 cm,女性90 cmを基準値としており,それらを超えるものを腹部肥満と判定する.メタボリックシンドロームと診断される例に腹部肥満が高率に存在しており,また,腹囲の変化,とくに減少はメタボリックシンドロームを構成する他の危険因子の改善に強く関与することが明らかとな -
BMIとメタボリックシンドロームの関連──その臨床的意義と限界
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満に起因する種々の疾患の発症原因にアディポネクチンに代表されるような内臓脂肪由来の生理活性物質が重要であることが明らかになってきており,このような内臓脂肪蓄積の臨床的意義,すなわちインスリン抵抗性を背景にもつハイリスク群を拾い上げるための診断カテゴリーこそがメタボリックシンドロームである.肥満の有害性を肥満の程度を表すBMIだけで解釈するのは困難であり,肥満の病態を深く理解するためには脂肪分布の概念を導入せざるをえないにもかかわらず,BMIは日常診療上もっとも簡便な指標のひとつであり,現在なお臨床的有用 -
アディポネクチンとメタボリックシンドローム──メタボリックシンドローム診断におけるあらたなバイオマーカーとしての血中アディポネクチン濃度測定意義
213巻6号(2005);View Description Hide Description脂肪細胞からはさまざまな生理活性物質(アディポサイトカイン)が分泌されており,生体のホメオスタシス維持に重要な役割を果たしている.アディポサイトカインの代表ともいえるアディポネクチンは脂肪組織特異的に発現している血漿蛋白であり,抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用を有している.内臓脂肪の過剰蓄積による血中アディポネクチン濃度の低下がメタボリックシンドローム発症の大きな原因のひとつである.とくに血中アディポネクチン濃度が4.0μg/ml未満の低アディポネクチン血症症例では,メタボリックシンドロームを呈する割合が多い - ■肥満症・メタボリックシンドロームの治療
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肥満症の治療──Over view
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満はbody mass index(BMI)≧25 kg/m2で判定する.肥満を基盤にして疾病(群)が発症すれば,医学的な治療が必要になる.この種の肥満を肥満症と診断する.内臓脂肪型肥満では肥満に伴う疾病群が発症しやすく,同時にその重積症例,つまり致死的疾病の発症例が多くなる.内臓脂肪型肥満が確認できれば,測定時に肥満に伴う疾病(群)を伴っていなくても肥満症と診断し,減量を開始する.治療の基本コンセプトとして,1.治療対象者が『新しい肥満の判定と肥満症の診断基準』に合致し,しかも,2.あくまで体重減少に -
食事療法の原則
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満症の食事療法は,1.脂肪細胞機能異常(アディポサイトカイン分泌異常)による肥満症と,2.脂肪組織の量的増加による肥満症の2つに分けて考える.肥満症の食事療法は1,000〜1,800 kcal/dayの肥満症治療食と600 kcal以下の超低カロリー食(VLCD)に分類される.脂肪細胞機能異常による肥満症ではすこしの体重減少(5%程度)で比較的十分な合併症の改善が得られるので,緩やかな肥満症治療食18(1,800 kcal),16,14,12を用いる.脂肪組織の量的増加による肥満症ではより厳しい肥満症治 -
運動療法の原則──理論的背景と指導方法
213巻6号(2005);View Description Hide Description生活の“文明化”に伴う身体運動量の減少と欧風化された食事(高脂肪食)は,筋におけるインスリン抵抗性を招き,“メタボリックシンドローム”を増加させている.一方,適度な食事制限と身体トレーニングの継続的な実施は個体のインスリン抵抗性を改善させ,メタボリックシンドローム・肥満症の予防,治療に有用であることが,糖尿病予防プログラム(DPP)をはじめとする多くの臨床的・疫学的長期追跡調査成績により明らかとなっている.厚生労働省はこれらの病態を“生活習慣病”とした.また,その発症予防や健康寿命の延伸をめざした“健康日 - ■脂肪細胞の質的異常による肥満症治療の意義
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減量治療と糖尿病
213巻6号(2005);View Description Hide Description糖尿病の大部分を占める2型糖尿病の患者数は戦後生活習慣の欧米化に伴って急増しており,今後も増えつづけると考えられている.肥満は糖尿病になりやすさを規定する因子の中でも最大のものであり,その予防・改善は糖尿病患者数増大を抑制する.実際減量が糖尿病の発症率を抑制するとの科学的根拠も明らかになり,また減量がなぜ糖尿病を予防する効果があるのか分子メカニズムも明らかになりつつある.今後は環境・遺伝相互作用による肥満・糖尿病発症の分子メカニズムの全貌が明らかになれば,個々人に応じた最適な減量治療と糖尿病の予防が可能と -
動脈硬化性疾患に対する減量治療の意義
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満者では心血管疾患,脳血管疾患が非肥満者に比べて起こりやすいことが知られている.最近では心血管疾患,脳血管疾患の発症が体重の増加(体脂肪の増加)よりも体脂肪分布の違い,すなわち内臓脂肪組織の増加と関連していることが明らかにされつつある.内臓脂肪細胞は各種のアディポサイトカインを産生・分泌し,糖尿病,脂質代謝異常,高血圧を生じさせるだけでなく,動脈硬化を直接引き起こす.内臓脂肪の減少を含めた体重の減少も心血管疾患,脳血管疾患の改善・予防に有用であると思われ,日常診療では実施されている.しかし,大規模臨床試 -
減量治療と病因──メタボリックシンドロームに合併する高尿酸血症の場合
213巻6号(2005);View Description Hide Description内臓脂肪蓄積が上流因子となって各種動脈硬化性疾患のリスクファクターがcomorbidityとして集積するメタボリックシンドロームでは,高尿酸血症の合併が多い.このような場合の問題点は,尿酸値の高さよりはなぜ高尿酸血症が生じるのかという点にある.実は高尿酸血症がメタボリックシンドロームの表現形のひとつとして存在し,血清尿酸値が内臓脂肪蓄積量を反映するよいマーカーとなる可能性がある.このような高尿酸血症では肥満是正などの生活習慣改善によって自然に尿酸値が低下することをまず期待し,その間に他の危険因子も同時に軽 - ■メタボリックシンドローム治療の将来展望
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PPARγアゴニストによる抗メタボリックシンドローム作用の分子メカニズム
213巻6号(2005);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム(MS)は,肥満によって肥大化し形質転換した脂肪細胞から分泌されるさまざまな生理活性物質・アディポカインによって引き起こされる.これらのいわゆる悪玉アディポカインは,種々の臓器において多様な病変(糖尿病,高脂血症,高血圧,動脈硬化など)を引き起こし,MSの病態を形づくっている.現在のMS治療はこれら個々の病状に対する各個撃破的な対症療法でしかない.一方,脂肪細胞の分化の鍵を握る核内受容体型転写因子PPARγは肥満の際の脂肪細胞の形質転換や脂肪組織や血管内皮でのマクロファージの作用も -
メタボリックシンドローム治療における抗肥満薬の位置づけ
213巻6号(2005);View Description Hide Description肥満,メタボリックシンドローム治療の基本は食事,運動による減量であり,原理は難しいものではない.しかし,その認容性,長期予後は良好とはいい難い.抗肥満薬はおもに食欲抑制,熱産生促進,吸収抑制のいずれかの作用をもち,食事・運動療法の補助的役割を担う.現在日本では中枢性食欲抑制薬のマジンドール(mazindol)のみが承認されているが,臨床試験中の薬剤で良好な減量効果を認めているものもある.抗肥満薬に求められるのは,長期にわたる減量効果の維持とそれによる代謝改善効果であるが,多くの抗肥満薬は代謝改善について一 -
食生活改善によるメタボリックシンドローム治療
213巻6号(2005);View Description Hide Description生活習慣の変化がもたらす内臓肥満(胴囲径),中性脂肪高値,HDLコレステロール低値,高血圧,空腹時高血糖の5つの特性のうち3つ以上を有する患者をメタボリックシンドロームと診断し,心血管イベントの重要な予測因子となる.これに中心的役割を果たすアディポネクチンを上昇させるような薬の開発が待たれている.ウーロン茶は中国,日本で幅広く健康茶として愛飲されているが,そのメカニズムは不明である.今回著者らはウーロン茶のアディポネクチンに対する効果と冠微小循環に対する影響を調べ,有用であることを報告した.ストレス,飽食
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