医学のあゆみ
Volume 213, Issue 10, 2005
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6月第1土曜特集【AIDS治療:2005-2006】
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- ■座談会
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- ■AIDS治療の新展開
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1日1回処方の時代を迎えたHAART療法
213巻10号(2005);View Description Hide Descriptionわが国において1997年から可能となった抗HIV多剤併用療法(HAART)は,HIV感染者の予後を劇的に改善させた.しかし,当初の投与法は3種類以上の薬剤を1日5回に分け,1日20錠近くも服用する必要があった.したがって,予後がよくなったとはいえ,患者のQOLはかならずしも改善されなかった.その後薬剤の改良がなされ,投与回数や服用錠数は減ってもそれまでの治療と比べ同等以上の治療効果が得られる治療法が可能となってきた.そのなかで1日1回の服用でよい薬剤がいくつか開発され,それらを組み合わせることにより1日1 -
HAART──いつ治療を開始するか:REVISIT
213巻10号(2005);View Description Hide Description強力なHIV治療(HAART)が開発されて10年たらずであるが,この間にもとくに無症候期における治療開始時期に関しては大きな議論をよんできた.現在では治療開始時期として推奨されているものとして,AIDSと定義される疾患などを合併した症候期の患者,および無症候期でもCD4+Tリンパ球数が200個/mm3未満の患者は治療開始,無症候期でもCD4+Tリンパ球数が200〜350個/mm3の場合は治療開始を考慮,無症候期でCD4+Tリンパ球数が350個/mm3以上の場合は治療を延期して経過観察とされている.この推奨 -
HIV-1感染症と日和見感染症
213巻10号(2005);View Description Hide Description日和見感染症を発症し,いわゆるAIDSの状態で医療機関を受診してくる患者が増え続けている.日和見感染症の適格かつ迅速な診断が救命につながるが,HIV感染が念頭にないと誤診や診断の遅れに直結する.HIV感染症で比較的多くみられる日和見感染症の診断・治療,およびそれらの一次予防,二次予防の開始基準,終了基準,再開基準,使用薬剤など具体的な点について概説した.取り上げたおもな疾患はニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia,Pneumocystis jiroveci pneumonia, -
HIV-1感染症に伴う日和見悪性腫瘍
213巻10号(2005);View Description Hide Description23のAIDS指標疾患のなかには日和見悪性腫瘍としてKaposi肉腫,原発性脳リンパ腫,非Hodgkinリンパ腫,浸潤性子宮頸癌の4疾患がある.その多くは,HHV−8,EBVなどHIV以外のウイルスの関与が示されている.海外では1995年ごろに登場したHAARTの普及によって,AIDSの年間新規発症例は徐々に低下し,AIDSに伴うKaposi肉腫の新規発生数も減少したが,AIDSに伴う日和見悪性腫瘍である非Hodgkinリンパ腫はいぜん増加傾向にあると報告されている.HAARTによって免疫が再構築され,悪 -
免疫再構築症候群の実際と対応
213巻10号(2005);View Description Hide Description免疫再構築症候群とは,強力な抗HIV療法(HAART)が開始された高度免疫不全患者が,免疫力が回復し日和見感染症のリスクが軽減したと思われる状態で,逆説的(paradoxical)に発症する日和見感染症のことをいう.これは免疫不全状態では十分認識されずに体内に存在していた病原体(抗原)に対して,回復した免疫がいっせいに応答したことによって発生すると考えられており,けっしてまれではない病態である.治療としては適切な抗菌薬の投与と消炎鎮痛剤や副腎皮質ステロイドホルモンを用いて過剰な炎症をコントロールする必要が -
AIDS/HIV-1感染症とウイルス性肝炎
213巻10号(2005);View Description Hide Description多剤併用抗レトロウイルス療法の登場以降,HIV感染者の予後は著しく改善してきているが,その死因も従来に比べて大きく変化してきている.HIV感染患者の死亡のうち,AIDS関連死(日和見感染症による死亡)は約半数にとどまり,非AIDS関連死が約半数となり,その90%が慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染症による死となっている.したがって,HIV感染者に合併した慢性HCV感染症をいかに治療するかは大きな懸案事項であり,治療法の開発をめざすことが急務といえる. -
HIV感染症に対する新しい治療薬開発の動向
213巻10号(2005);View Description Hide Descriptionわが国で現在臨床に用いられている抗HIV−1剤はおもに逆転写酵素阻害剤(RTIs)とプロテアーゼ阻害剤(PIs)の2種類である.新規開発中のRTIs,PIsのなかには薬剤耐性HIV−1に対しても強力な抗ウイルス活性を発揮し,またより服用しやすいものが多数みられる.そうしたことからRTIs,PIsは今後もHIV−1感染症治療に対して有用であると思われる.しかし,侵入阻害剤など新規の作用機序を有する抗HIV−1剤の開発の進展にも驚くべきものがある.最近はHIV−1の構成部分の結晶構造解析をもとに薬剤の設計が行 -
HIV感染症治療へのアクセスと世界
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIV感染症に対する化学療法は1987年にアジドチミジンが最初の抗HIV薬としてアメリカで認可されて以来長足の進歩を遂げ,いまや先進工業国においてはかつて“死の病”とされたHIV感染症は“コントロール可能な慢性感染症”と定義しうるほどとなったが,サハラ砂漠以南のアフリカ,インド・東南アジア地域,および南米の開発途上国ではAIDS発症・死亡者数は増大の一途をたどっている.しかし,今世紀に入るまでHIV感染症に対する具体的な対策がほとんど取られていなかったこれらの地域でも抗HIV薬の劇的な価格低下や,各国での - ■AIDS/HIV-1研究の新展開
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AIDS/HIV-1疫学:2005 Update──世界と日本の動向
213巻10号(2005);View Description Hide Description世界のHIV(AIDSウイルス)感染者数は全地域で増加傾向にあり,2004年末現在HIV感染者および生存AIDS患者の合計数は3,940万人に達すると推定されている.最近数年間の動向をみても世界の年間の新規感染者数は多少減少傾向にあるが,依然として500万人を超えており,AIDSは結核,マラリアと並んで,人命にもっとも深刻な影響を与えている感染症である.日本のHIV感染率は0.02%程度と推定されており,先進国のなかでも低値ではあるが,毎年の患者・感染者報告数は持続的に上昇しており,なかでも日本人男性が国 -
HIV感染症における多様なCD4+T細胞減少のメカニズム
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIVがAIDSの原因ウイルスであることは間違いない.ではなぜAIDSは引き起こされるのか.それはHIVの感染により血中のCD4+T細胞が減少するからである.CD4+T細胞は免疫反応において非常に重要なエフェクター細胞である.また,この細胞はHIVの標的細胞でもある.HIVの感染が起こるとCD4+T細胞が漸減していく.そして長い無症候期を経てCD4+T細胞数減少が臨界点に達すると感染宿主は免疫不全状態となり,日和見感染などの臨床症状を呈するようになる.HIVは非常に複雑かつ多様なメカニズムでCD4+T細胞 -
薬剤耐性機序を明らかにする結晶解析学の最近の知見
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIVの特性である急速な遺伝的変異は,主として感染個体でおびただしい数のウイルスが産生されることに起因する.この高い変異原性ゆえにHIVは化学療法とワクチン開発にとって“動く標的”となっている.感染個体間でHIVにサブタイプとよばれる遺伝子的・表現型的に大きな違いがある変異体が不断に出現することが,化学療法とワクチン開発をさらに困難なものにしている.当然“動く標的”は“静止標的”よりも狙いにくいが,“動く標的”を捕捉するには2つの道がある.ひとつはその動きを理解することで,他のひとつはもっとも動きの少ない -
明らかになってきたHIV-1のGag蛋白の構造と機能
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIV−1の構造蛋白のなかでPolをターゲットにした抗HIV−1薬はすでに臨床効果をあげており,Envをターゲットにした薬剤は臨床導入されたばかりである.つぎはGag蛋白をターゲットにした薬剤が期待される.それぞれのGag蛋白は比較的小さく,その構造も早くから明らかにされており,機能についても研究が進んでいる.マトリックス蛋白,capsid蛋白,nucleocapsid蛋白がその主要な蛋白であり,それぞれHIV−1の感染・増殖には不可欠である. -
HIVに対する中和抗体──メジャーリーグへの復帰なるか?
213巻10号(2005);View Description Hide Description最近になってHIVに対する中和抗体についての興味深いデータが得られている.HIVのエンベロープの保たれている部分の抗原決定基を認識するヒトのモノクローナル抗体が,異なったサブクラス(clades)を含む臨床株を強力に中和することが判明したのである.霊長類でヒトモノクローナル抗体の組合せによる受動免疫が経粘膜的ウイルス接種に対しても感染を完全にブロックすることも示されている.防御的モノクローナル抗体によって認識されるエピトープは防御に関する重要な抗原決定基であり,AIDSワクチン開発の理論的基盤を提供すると -
HIV-1ワクチンの開発は可能か──HIV-1ワクチン開発の現状と将来
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionAIDSワクチンの開発は約20年間にわたって行われてきているが,いまだ有効なワクチンの開発に至っていない.現在数多くの候補が臨床治験に入っているが,これらの最近の評価から,そのハードルは非常に厳しいことが明らかになってきた.ウイルスの変異に対応する免疫の誘導法,生ワクチンに代わる免疫法の開発,ヒトの免疫学的多様性,HIV−1感染動物モデルの開発などの問題があり,この課題をひとつずつ解決していく必要がある.このことはAIDSワクチンの開発だけでなく,今後人類に脅威を与えるさまざまな微生物に対する戦略としても - ■AIDS/HIV-1とコミュニティ
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AIDSと報道──ゆるやかに拡大する危機にどう対応するか
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIVの感染が拡大を続けているのに,AIDS対策に対する社会的関心は低下したままの状態が続いているのはどうしてなのか.HIV/AIDSとの闘いには,政治の高いレベルでのリーダーシップが必要である.そのことはすでに,国際社会のいわば常識となっているのに,先進国を任じる日本国内のいったいどこで,そのようなリーダーシップにお目にかかることができるのだろうか.政治,経済,文化,そして場合によっては医学界も含むさまざまな分野の指導者たちが心安らかに,AIDS対策に対する無関心を決め込み,ときには拒絶の姿勢すら示すこ -
HIV/AIDSの予防とケアに関するNGOの活動と役割
213巻10号(2005);View Description Hide DescriptionHIV/AIDSは社会に大きなインパクトを与えている.感染の広がりということだけでなく市民社会が深く関与しているからである.患者(当事者)以外の市民たちが啓発,予防,ケアに関する活動をし,国連が特別総会を開催するような単独の疾患は他になかった.なぜであろうか.性感染であることは感染の有無にかかわらず人間の存在にかかわり,不治であることは医療についてさまざまな面で本質的な問いを発するからである.AIDSは社会を映す鏡であり,教師でもある.AIDSに関してNGOの活動がなぜ必要なのか,その役割はなにか,行政や
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