医学のあゆみ
Volume 215, Issue 1, 2005
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10月第1土曜特集【Behcet病──病因の解明と難治性病態の克服に向けて】
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- ■疫学
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Behcet病の最近の疫学像の動向
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病の全国疫学調査は1972年にはじめて実施された.以後5〜7年間に1回の頻度で行われているが,今回の第5回目の調査は前回(1991)から11年目を経て実施された.本調査は患者数を推計する一次調査と臨床疫学像を明らかにする二次調査からなり,厚生労働省難治性克服研究事業特定疾患の疫学に関する研究班,ベーチェット病に関する調査研究班が共同で実施した.その結果,2002年1年間にBehcet病で受診した患者数は15,000人(95%信頼区間14,000〜16,000)と推計された.1972年以降,患者 - ■病因・病態
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Behcet病の疾患感受性遺伝子
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病は全身の諸臓器に急性の炎症を繰り返す原因不明の難治性炎症性疾患であり,口腔内アフタ,眼症状,皮膚症状,陰部潰瘍を4主症状とする.本病はシルクロード周辺のモンゴロイドに多発し,欧米人にはまれな疾患である.また,本病は人種を越えてHLA−B51抗原と顕著に相関しており,特定の内的遺伝素因のもとに何らかの外的環境要因が働いて発症する多因子疾患と考えられている.本稿ではBehcet病の疾患感受性遺伝子について,現在までに考えられていることをまとめてみたい. -
Behcet病発症における細菌抗原の意義
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病患者はTh1有意の免疫反応や好中球の活性化などが特徴である.これには何らかの外来微生物が関与していると思われる.Behcet病患者の口腔内より分離したStreptococcus BD113−20株の菌体成分で患者の末梢血を刺激し,IL−8の産生,Th1関連のサイトカインの上昇を認めた.このBD113−20株のHSP60およびHSP70の遺伝子配列を決定し,この蛋白を大腸菌に発現し精製した.しかしBD113−20のHSPに対する患者の抗体価は低く,またHSP刺激による患者リンパ球からのサイトカ -
Behcet病とToll-like receptor
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病の病態形成にはTリンパ球を主体とする免疫異常,なかでも自己熱ショック蛋白に対する自己免疫応答の関与が強く示唆されている.しかしBehcet病で認められる好中球機能過剰と免疫異常との関連は十分明らかではない.近年,微生物感染の初期に働く自然免疫系の役割が明らかにされつつある.自然免疫系の活性化は,リンパ球主体の獲得免疫系に対して,その効果的な誘導をもたらす.Behcet病における自己免疫応答でも,その初期段階で自然免疫系の異常が関与する可能性がある.そこで著者らは,Behcet病患者末梢血,皮 -
Behcet病の病態形成におけるTリンパ球の役割
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病(BD)は眼,皮膚,粘膜を中心とした炎症性疾患であるが,その病態はいまだ明らかでない.これまでの末梢血CD4+T細胞のTh1への偏倚や熱ショック蛋白に対する自己反応性CD4+T細胞の存在からCD4+T細胞の病態における重要性が示されてきた.最近,著者らはBD末梢血中にHLA−B51拘束性の自己反応性CD8+T細胞を同定し,それらが血管内皮や上皮を傷害することでBDに特徴的な臨床症状を誘導する可能性を示した.この知見はBDがCD8+T細胞をエフェクターとする自己免疫疾患として把握できる可能性を -
Behcet病におけるヘムオキシゲナーゼ1の役割──治療応用をめざして
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病の臨床症状は多彩であるが,その病態の根底には好中球機能亢進が関与しており,治療戦略上も重要な標的となっている.近年,ストレス刺激に誘導されるヘム分解酵素であるヘムオキシゲナーゼ(hemeoxygenase:HO)−1の細胞保護作用が解明され,その抗炎症作用も治療応用の観点から注目されている.現時点までの解析ではBehcet病患者における血清HO−1蛋白レベル,循環白血球におけるHO−1 mRNAレベルには発現異常はなく,その病態における役割はいまだ明らかでない.しかし,マウスエアポーチモデル - ■臨床・病理
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Behcet病の診断──臨床像と自然歴を含めて
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病は診断に有用な特異的検査法はなく,主として臨床症状の組合せにより診断が行われている.本症は長期にわたって多彩な全身症状を繰り返し,臨床像が完成されていく.また,個々の例において出現する症状や出現様式が異なり,非常に多彩なスペクトラムを有する疾患単位とされている.それゆえ,診断に苦慮することも少なくないが,本症の臨床像や自然歴を念頭におくことが診断の手助けとなる.ここでは本症の診断基準を概説するとともに,診断の際に役立つと思われる本症の臨床像の特徴,自然歴,多数例を対象にした病型分類の試みにつ -
Behcet病の皮膚・粘膜病変──病態・診断・治療
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病(BD)は全身の臓器を侵しうる全身性疾患であるが,皮膚・粘膜症状は多くの場合,本症の初期症状として出現し,その特徴的所見は診断の大きな手がかりになる.とくに口腔内粘膜および外陰部粘膜の小潰瘍(アフタ)は特徴的であることと,皮膚症状では :瘡様皮疹と結節性紅斑様皮疹をみることによってBDと診断することができる.これらの皮膚・粘膜症状は生検によって組織学的に解析して容易にその病態を把握することができる.著者らはBD患者の多くが口腔内に存在する特異的なS.sanguinisおよびその関連抗原(死菌 -
Behcet病の眼病変(病態・診断・治療)──新しい治療を求めて
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病が臨床疾患単位として認識されて半世紀以上経つが,その病態に関しては不明な点も多く,最新の診断基準をもっても鑑別に迷う例が少なくない.また,治療法に関してもコルヒチンあるいはシクロスポリンが使用されるが,いまだに対症療法である.しかし最近,いくつかエポックメイキングとなりそうな治療法が開発された.現在,そのいくつかが臨床治験されている.なかでも抗TNF−α抗体治療は格段の眼炎症発作の抑制効果が期待できる.新規発症は以前と比べ減少してきているが,患者累積数は増加の一途であり,現在の治療法でコント -
神経Behcet病の臨床
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病における中枢神経病変(NB)においては多彩な精神神経症状が出現するが,その主要な症候が小脳・脳幹部および大脳基底核の障害に基づく点に大きな特徴がある.このような神経病変の分布と寛解・増悪を繰り返す経過は,ときとして多発性硬化症と酷似し,鑑別の困難な場合がある.NBは大きく急性型と慢性進行型に分けられる.急性型NBは一般的に発熱を伴った髄膜脳炎の型をとり,ときに片麻痺や脳神経麻痺などさまざまな脳局所徴候を伴う.障害部位はMRIのT2強調画像やフレア画像において高信号域として描出される.シクロス -
神経Behcet病の病理
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病は原因不明の炎症性疾患で,神経系では中脳・視床が高頻度に障害され,脳神経麻痺・錐体路徴候・進行性認知症(痴呆)が主症状となる.神経病理学的には,髄膜脳炎のかたちをとる.髄膜炎はくも膜下腔の小血管周囲のリンパ球浸潤よりなる.脳実質炎は,一部脱髄の要素をもった虚血性病変が主体であり,微小出血を伴うことが多く,病変部は進行性の萎縮をきたす.剖検時,小血管周囲を中心とするリンパ球浸潤と浮腫よりなる進行性病変を局所性に認めることが一般的で,慢性進行性の経過を示す.大動脈炎様病態をとる場合もある.HLA -
腸管Behcet病の臨床
215巻1号(2005);View Description Hide Description腸管Behcet病は消化管に潰瘍性病変を呈するBehcet病の特殊病型として定義されている.ときとして生命予後を左右する場合もあり,臓器病変としてはきわめて重要である.腸管Behcet病はBehcet病発症後数年を経て出現する遅発性病変で,定型的には回盲部に深い円形または類円形の潰瘍を形成する.このような定型的病変のほかに,潰瘍性大腸炎様,Crohn病様,腸管狭窄などを示す場合もみられる.近年,こうした非定型病変の割合に増加傾向がみられる.腸管Behcet病の治療には明確なエビデンスに基づいたガイドライン -
腸管Behcet病の病理
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病(BD)の長期経過中に腸管BDが出現する頻度は20%前後で,最近はCrohn病や潰瘍性大腸炎に類似した非定型例に出会うことが多くなった.単純性潰瘍もその定義によっては腸管BDと同様の臨床経過をたどるので,本稿ではこれら類似腸炎の定義を整理してから鑑別診断のための肉眼的・組織学的特徴について記述した.腸管BDの潰瘍部は非特異的炎症を示し,慢性疾患であるがゆえに組織所見もCrohn病や潰瘍性大腸炎とオーバーラップしている.腸管BDの潰瘍は肉眼形態と腸管全周における発生位置などの特徴が他疾患と異な -
血管Behcet病の臨床──血管外科医の苦悩
215巻1号(2005);View Description Hide DescriptionBehcet病の血管病変は大中血管の閉塞と拡張を引き起こす.炎症を伴う血管のため,穿刺部の仮性動脈瘤や血行再建術後の吻合部動脈瘤を高頻度に生じる.したがって,血管Behcetに対しては極力手術を避けることが肝要である.動脈の閉塞疾患に関してはまず薬物療法を施行し,間欠性跛行程度では手術をしない.動脈の拡張性病変に対しては増大傾向や形が悪い場合は破裂の危険性が高く,手術を行わざるをえない.教科書的にはできるかぎり病変部から離れた部位に吻合部を設けることであるが,それが困難な場合も少なくない.吻合部動脈瘤が高 -
血管Behcet病の病理
215巻1号(2005);View Description Hide Description血管Behcet病の動脈病変は動脈瘤,動脈閉塞で,静脈病変は血栓性静脈炎に起因する静脈閉塞であり,血管Behcet病の血管病変の特徴は動脈・静脈病変の混在がみられる症例が多いことにある.動脈病変は大動脈に起こることが多く,大動脈では高頻度に大動脈炎がみられ,大動脈炎は動脈瘤や動脈閉塞が起こっていない症例でも起こる.大動脈炎は活動期と瘢痕期に分けられる.中膜主体の壊死・炎症反応で,栄養動脈の増生,好中球主体の炎症性細胞浸潤が特徴であり,活動期には巨細胞を伴う肉芽腫性動脈炎の病態も示す.動脈病変の進行は最初に - ■治療
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Behcet病眼症に対するシクロスポリン治療
215巻1号(2005);View Description Hide Descriptionシクロスポリンは,活動性の眼底病変のあるBehcet病に対して眼炎症発作を抑制する有用な薬剤である.2000年5月からはこれまでのサンディミュンとともに,吸収効率のよいマイクロエマルジョン製剤であるネオーラルの使用が認可された.シクロスポリンは副作用として神経Behcet病様の中枢神経症状の発現があるため,通常はコルヒチンを第一選択,シクロスポリンを第二選択とすることが勧められる. -
Behcet病による難治性ぶどう膜炎の新しい治療法──抗TNF-α抗体療法
215巻1号(2005);View Description Hide Descriptionぶどう膜炎により著しい視力低下をきたす難治性疾患であるBehcet病は,炎症病態の形成にさまざまなサイトカインがかかわっていることが知られている.なかでもTNF−αはぶどう膜炎の活動性と有意に相関するため,新しい治療法としてヒト−マウスキメラ型抗TNF−α抗体(インフリキシマブ)が注目されている.本稿ではBehcet病とTNF−αのかかわりについてこれまでの報告をまとめ,合わせて免疫抑制薬が奏効せずぶどう膜炎発作を繰り返す難治例13例に対してインフリキシマブを点滴投与した治験により得られた結果を紹介する.
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