医学のあゆみ
Volume 215, Issue 10, 2005
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12月第1土曜特集【神経保護・再生医療研究の最前線】
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- ■神経保護
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アセチルコリンと神経細胞死──ニコチン性受容体を介する神経保護作用
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionアセチルコリンおよび塩酸ドネペジルやガランタミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は,ニコチン性受容体を介してグルタミン酸誘発神経細胞死やAβ誘発神経細胞死に対して神経保護作用を示す.これらの結果は,ニコチン性受容体を介するカスケードがアセチルコリン神経伝達による記憶・知的機能の発現という役割のほかに,ニューロンの生存・維持機構に重要な役割を果たしていることを示唆している.ニコチン性受容体を介するアセチルコリン賦活療法は,認知症の改善・進行の抑制,さらには発症予防へと発展する可能性がある. -
アポトーシス制御分子:Bcl-2ファミリー蛋白
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionアポトーシスはプログラム細胞死の一形態であり,その基本メカニズムは進化的によく保存されている.アポトーシスを含むプログラム細胞死は,形態形成,組織の恒常性の維持,有害な細胞の除去などに貢献している一方で,その制御破綻は種々の疾患の原因になっていると考えられている.しかし,疾患にかかわる細胞死にアポトーシスがどの程度関与するかに関しては不明な部分も多く,細胞がもつ細胞死メカニズムの包括的な理解が急務であると考えられる.本稿ではアポトーシスに焦点を合わせて,Bcl−2ファミリー蛋白による制御機構を概説するとと -
酸化ストレスによる神経障害と神経保護療法──ドパミン神経特異的酸化ストレスとしてのキノン体毒性
215巻10号(2005);View Description Hide Description脳組織は酸化ストレスに対して脆弱な組織であり,活性酸素・窒素種といった一般的な酸化ストレスはさまざまな神経障害に共通の最終障害過程で“実弾”として働く.このような酸化ストレスに対する脳内の内在性抗酸化機構を高め,複数の障害機転に抑制性に作用する薬剤などは神経保護療法として有用と考えられる.また,ドパミン(DA)キノンなどのキノン体による神経毒性は,Parkinson病の病態形成,とくに過量のL−DOPAによる神経障害に関与していると考えられ,“DA神経特異的な酸化ストレス”として注目されている.キノン体( -
ケモカインと脳細胞傷害
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionケモカインは白血球走化活性化作用を有し,炎症反応あるいは免疫反応のメディエーターとして重要な役割を果たしている一群の生理活性ペプチドである.近年,脳内においてもケモカインが産生され,種々の神経変性疾患や虚血性脳細胞傷害の病態形成に関与していることが示され,注目を集めている.脳虚血負荷によりMCP−1やMIP−1α,CINC−1などのケモカイン類が,主として脳内グリア細胞で産生誘導される.また,ケモカイン受容体拮抗薬やケモカイン遺伝子ノックアウトが脳細胞保護効果を示すことも明らかにされており,ケモカイン類が -
細胞外・細胞内Aβオリゴマーによるシナプス機能障害と神経細胞死
215巻10号(2005);View Description Hide DescriptionAlzheimer病(AD)は細胞から分泌されたアミロイドβ蛋白(Aβ)が凝集して不溶性の線維を形成し,細胞外に沈着することで引き起こされると考えられてきた.しかし最近の研究では,細胞内で形成され分泌された可溶性のAβオリゴマーがシナプスに作用し,その機能障害をもたらすことでADが発症するらしいことがわかってきた.また,ADでみられる神経変性はAβの細胞外沈着よりもむしろ細胞内蓄積によって引き起こされるとする論文が増えてきている.Aβの細胞内蓄積とそれに続く神経変性のメカニズムはよくわかっていないが,分泌 -
封入体形成と神経細胞死
215巻10号(2005);View Description Hide Description神経変性疾患における神経細胞死には,アンフォールド蛋白の蓄積が関与していると考えられる.真核生物にはアンフォールド蛋白を細胞内の一部に集積させる仕組み(アグレソーム)があり,神経変性疾患でみられる封入体形成の元になっている可能性がある.封入体形成が変性に対する防御機構であるのか変性の過程であるのか,今後解明していく必要がある. -
神経細胞死の分子機構とCa【2+】依存性プロテアーゼカルパイン
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionカルパインは細胞内システインプロテアーゼであり,おもにCa2+による活性化によって基質を限定的に分解し,さまざまな細胞機能に関与する.細胞内のCa2+濃度に対するホメオスタシスの破綻は細胞死を引き起こす要因であり,それに付随するカルパインの過度な活性化が神経変成・細胞死を伴うさまざまなヒトの疾患においても観察される.実際に,さまざまな神経変性のモデル系でカルパインの活性化阻害がさまざまな傷害刺激による細胞死を抑制できることが示されている.線虫を用いた遺伝学的解析の結果,ネクローシスによる神経細胞死における -
ニューロトロフィンは両刃の剣──プロセシングと細胞死制御
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionニューロトロフィンは先駆体として合成された後,細胞内でプロセシングを受けて成熟型分子となって細胞外に分泌され,高親和性受容体Trksを介して神経細胞に神経保護作用を示す一方で,低親和性NGF受容体を介してNGF前駆体が高親和性で結合して細胞死を誘導する,というのがこれまでのニューロトロフィン(おもにNGFおよびBDNF)像の骨子であった.近年の研究により,1. BDNFの調節性分泌経路へのソーティングや,NGFおよびBDNFによる細胞死を誘導するp75の共受容体としてあらたにソーチリン分子が同定された,2 -
神経変性疾患におけるグリア細胞のかかわり──ヘムオキシゲナーゼ-1誘導と神経保護
215巻10号(2005);View Description Hide Description脳はその活動の中心的役割を担う神経細胞と神経機能を補い,脳内環境の整備に携わるグリア細胞により構成される.さらに,グリア細胞はその発生,形態や機能からアストロサイト,オリゴデンドロサイトおよびミクログリアに細分類される.オリゴデンドロサイトは神経軸索において髄鞘を形成し,すばやい活動電位の伝導に寄与している.アストロサイトやミクログリアはシナプスの構成要員である一方で,脳内の免疫担当細胞ともよばれ種々のサイトカインを産生し,脳の恒常性維持や病態に関与する.さらに,アストロサイトは血液−脳関門の形成にもかか -
胎児特異的保護物質と神経細胞死
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionグルタミン酸神経毒性は脳虚血や種々の神経変性疾患に伴うニューロン死の危険因子のひとつであり,ニコチン性アセチルコリン,ドパミンなどの神経伝達物質,NGF,BDNFなどの神経栄養因子を含む多くの内在性因子による制御を受ける.著者らはウシ胎仔血清に含まれる低分子量化合物がラジカル細胞毒性を介するグルタミン酸神経毒性を抑制することを見出し,その有効成分を探索した結果,分子量382の新規な神経保護活性物質の単離に成功し,セロフェンド酸(serofendic acid)と命名した.セロフェンド酸は細胞障害性の高い活 - ■神経再生
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エピジェネティクスと神経幹細胞分化制御
215巻10号(2005);View Description Hide Description従来,中枢神経系においては,損傷,変性疾患などにより一度組織が失われると再生しないと考えられていた.近年,哺乳類中枢神経系において胎生期から成体に至るまで神経幹細胞が存在することが明らかとなったことから,再生医療の観点からも神経幹細胞は脚光を浴びてきている.神経幹細胞は,自己複製能とニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトという3つの細胞系譜への多分化能を有する細胞であり,現在その分化制御機構の解明が精力的に行われている.その過程で細胞内在性プログラムとしてのDNAメチル化,ヒストン修飾,non− -
アストログリアによる多角的な神経再生
215巻10号(2005);View Description Hide Description神経ネットワークの機能的再生のためには,新しいニューロンの生成(神経新生),傷害された神経軸索の再伸長(軸索再生),新しいシナプスの形成(シナプス新生)が重要な要素としてあげられる.グリアのひとつであるアストログリアはヒト脳内でもっとも数の多い細胞であるが,従来は単なる受動的な支持細胞と考えられていた.しかし近年の研究により,アストログリアは神経新生,軸索再生,シナプス新生それぞれの調節役として重要な役割を果たしていることが明らかとなっている.さらに驚くべきことに,アストログリア自らが神経幹細胞として新し -
神経軸索ガイダンス分子と神経再生──軸索制御による神経再生の可能性
215巻10号(2005);View Description Hide Description神経再生・再建のゴールは,完全な神経機能の回復である.神経回路形成の機序を明らかにするという基礎的研究は,神経系に内在する神経抑制因子の発見と細胞内情報伝達系の解明に結実しつつある.いまわれわれは神経再生という目標を前に神経軸索ガイダンス分子の制御というひとつの方向性を獲得し,新しい道筋を模索しはじめた. -
軸索進展阻害因子と中枢神経再生──Rhoの活性を制御する受容体
215巻10号(2005);View Description Hide Descriptionヒトを含む哺乳類では,損傷を受けた中枢神経の軸索の再生を抑制するメカニズムが存在する.とくにオリゴデンドロサイトに発現するミエリン由来因子が注目されており,現在までに3種類の蛋白が同定されている.これらの蛋白はNogo受容体/p75/LINGO−1からなる受容体複合に結合し,Rhoを活性化することで軸索の伸展阻害をもたらしている.一連のシグナルを抑制することで,損傷中枢神経を再生させることができるのではないかと期待されている. -
接着分子の機能的多様性──再生医療に向けての視点
215巻10号(2005);View Description Hide Description近年,神経幹細胞やヒト胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)の医療への応用がほぼ目前のものとなり,神経疾患の分野においても再生医療に対する期待がおおいに高まっている.それに伴い,“未分化細胞をいかにして目的とする神経細胞に分化させ神経回路を再構築するか”という課題の早急な解決が切望されている.すでに分化誘導因子などにより未分化細胞をin vitroで特定の神経細胞へ分化させる方法は報告されているが,in vivoでの神経回路網の確立という最終目標に向けてはまだまだ解決すべき問題が山 -
異種間移植と神経再生
215巻10号(2005);View Description Hide Description初期胚由来の神経幹細胞は生着率が高く,神経回路再建に適した移植ドナーである.しかし,小さなヒト胎児にその起源を求めるには実用的倫理的問題が障壁となる.成体由来の神経幹細胞は自己移植の可能性を追求できる利点はあるものの,生着や神経細胞の供給面では満足すべき結果がでていない.胎児由来の神経幹細胞はその確保に問題があるのみならず,神経細胞への分化も制限されている.神経幹細胞移植においては各年齢の神経幹細胞の利点を生かし,欠点を克服して移植に利用する必要がある.初期胚由来の神経幹細胞を移植ドナーとした移植再生医療 -
アルギン酸を用いた新しい神経再生用材料
215巻10号(2005);View Description Hide Description末梢神経の再生軸索はSchwann細胞表面の基底膜に支持され,良好に再生する.この基底膜という細胞外マトリックスからなる有効な再生軸索の足場材料を人工的に創出することを目標として近年種々の材料による神経再生の研究が盛んに行われてきた.本稿では神経修復のための材料研究を概観し,従来神経再生材料として多く用いられてきたコラーゲンに代表される細胞外マトリックスにはない性質を示す共有結合架橋アルギン酸ゲルスポンジを用いた神経再生の研究を紹介する.
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