医学のあゆみ
Volume 216, Issue 5, 2006
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2月第1土曜特集【上気道アレルギー疾患研究 ──最近の進歩から】
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- 疫学・基礎研究up-to-date
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アレルギー性鼻炎の疫学──2005年の調査から
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionアレルギー性鼻炎患者の増加が指摘されているが,実態はかならずしも明らかではなく,国内での疫学調査は不足している.2005年のスギ・ヒノキ花粉飛散終了後に行った山梨と千葉でのアレルギー性鼻炎の検診をもとに検討を行った.わが国特有ともいえるスギ花粉症であるが,スギ花粉に対する感作率・発症率の上昇は小児から中・高年者まで広い年齢層でみられ,2005年のようなスギ・ヒノキ花粉の大量飛散はこの傾向を助長している.小学生でもスギ花粉に対する感作率は60%,発症率は40%を超えており,増加が著しい.ただ,関東地方で異なる花粉飛散数を示す地域での調査から,花粉飛散のみでなく,児童の“体質”に変化を及ぼす他の因子の関与が想定される.一方,ダニに対する感作についても小児で増加しているが,中・高年では変化していない.ただ,小児,成人とも重複感作の割合は高く,小児スギ花粉感作陽性者の約80%がダニに重複感作を示している. -
メモリーTh2細胞のTh2サイトカイン産生維持メカニズム──Th2サイトカイン遺伝子座における転写記憶
216巻5号(2006);View Description Hide DescriptionナイーブCD4T細胞は,IL 4存在化で抗原刺激を受けるとエフェクターTh2細胞へと分化する.分化したエフェクターTh2細胞の一部はTh2細胞としての性質を維持しながらメモリーTh2細胞へと分化して生体内に長期間存在し,つぎの免疫反応に備えていると考えられている.メモリーTh2細胞はアレルギー疾患の病態に深くかかわっていることが予想されてはいるが,その分化・機能維持に関する研究はほとんど行われていない.メモリーTh2細胞の性質の多くは,産生するTh2サイトカインによって担われている.そこで本稿ではメモリーTh2細胞におけるTh2サイトカイン産生能の維持機構をクロマチンリモデリングを介したエピジェネティックな制御の側面から概説し,メモリーTh2細胞の機能維持の分子機構について考えたい. -
アレルギー性鼻炎と遺伝
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionアレルギー性鼻炎に代表されるようなアレルギー性疾患は,多発家系がしばしば観察されることから,遺伝要因の関与が早くから推測され,その遺伝様式について古くから種々の解析がなされてきた.アレルギー性鼻炎の遺伝性は免疫応答遺伝子として抗原特異性に関与するHLA,ならびに,抗原非特異性に関与する遺伝子群に大別される.近年のゲノム科学は後者に関与する複数の要因を候補としてあげている.本稿では著者らによるスギ花粉症(CP)の遺伝学的解析結果1,2)を中心に,アレルギー性鼻炎の遺伝について概観する. -
アレルギー炎症と好酸球up-to-date
216巻5号(2006);View Description Hide Description好酸球はアレルギー性炎症において重要な炎症細胞のひとつと認識され,さらに近年,好酸球欠損マウスによる検討で気道リモデリングへの関与が報告され,好酸球のアレルギー炎症での役割がよりいっそう明らかとなってきた.好酸球はその表面に免疫グロブリン,補体,サイトカイン,ケモカイン,脂質メディエーターなどに対するレセプターを発現し,その機能を発揮する.脂質メディエーターのなかでもプロスタグランジンとロイコトリエンの受容体を好酸球が発現し,活性化作用をもつことが明らかとなった.一方で,それらの代謝物質が好酸球の核内レセプターPPARとも結合して炎症抑制作用を発揮し,生体内で炎症を制御する可能性が考えられる. -
アレルギー炎症のコンダクターとしてのマスト細胞(肥満細胞)
216巻5号(2006);View Description Hide DescriptionⅠ型アレルギーのメインストリームはIgE FcεRⅠ マスト細胞(肥満細胞)枢軸にあり,マスト細胞はアレルギー炎症における一方のコンダクターとして働いている.組織の定着細胞であるマスト細胞はアレルギー反応の即時相のみならず,自身の産生するサイトカイン,ケモカインを介して血管内皮細胞や炎症細胞の接着分子などの発現を誘導・増強し,顆粒球,単球,リンパ球などの炎症細胞を末梢組織へ遊走させることによって,さらに慢性炎症へとつながっていく遅発相の反応を惹起する.マスト細胞はアレルギー炎症の場である粘膜などでB細胞のIgE産生を増強し,IgEはFcεRⅠの細胞表面への集積を促進するので,ここに抗原・IgEの刺激に過敏に過剰に応答するアレルギーの“増悪サイクル”が形成される.一方で,マスト細胞はTLRなどを発現し自然免疫のフロントラインを構成するなど,多彩な役割を演じることが明らかになってきており,それぞれの役割に応じたより緻密な制御が必要とされ,そのための分子的な研究が展開されている. -
アレルギー性鼻炎とT細胞up-to-date
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionアレルギー性鼻炎は難治疾患であり,いったん発症すると自然寛解はほとんど見込めず,抗原に曝露されるたびに症状が発現し,長期的にも予後は不良である.この原因のひとつは,免疫記憶をつかさどるT細胞であるといってもよいであろう.アレルギー性鼻炎患者の末梢血からは抗原特異的なIL 4産生T細胞(特異的Th2メモリー細胞)が特異度・鋭敏度とも,血清中IgE検査であるRAST診断に比肩するほどの精度で検出される.これら特異的Th2メモリー細胞のクローンサイズは抗原刺激を受けないでいると減少する.スギ花粉症の非飛散期に測定した特異的Th2メモリー細胞のクローンサイズの減少率は,6カ月間で平均約6割であった.スギアレルギーの免疫学的記憶維持は長命な記憶T細胞によってのみ行われるばかりではなく,反復的な抗原曝露によるメモリーT細胞の分裂と転写が記憶維持に強く関与している可能性が示唆された.メモリーT細胞が抗原再刺激で親細胞と同じ形質のまま転写されるかどうか,クロマチンリモデリングの視点での患者T細胞の検討が待たれている. -
線維芽細胞up-to-date──どのようにアレルギーと関連するのか
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionこれまで線維芽細胞は,組織の支持組織,物理的バリアー,障害を受けた組織の修復を行うとともに,樹状細胞やマクロファージの代用としてセンチネル細胞の機能を有する細胞であるとされ,炎症反応ではさほど重要な役割はないと言われてきた.しかし今日,アレルギー反応や自己免疫疾患において慢性炎症の概念が発達するにつれ,線維芽細胞が急性反応から慢性炎症へのスイッチ因子のような役割をすることが判明してきた.とりわけToll like receptorや炎症性サイトカインによって炎症細胞の浸潤を誘導するためのケモカインやサイトカイン産生においては,大変重要な役割を担っている.また,肥満細胞,好酸球,T細胞などとも直接的に作用しあっていることがわかってきた. - 治療up-to-date
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抗IgE抗体療法──基礎から臨床まで
216巻5号(2006);View Description Hide Description抗IgE抗体(omalizumab;E25)は,ヒトIgEの定常領域でFcε受容体 Ⅰと結合するCε3に特異性をもつもので,マウスのモノクローナル抗体をベースにして抗原特異的な部分を残し,他の部位をヒトIgG1κに置換したヒト化モノクローナル抗体である.この抗体の結合部位Cε3と血中においてフリーの状態にあるIgEのFcε受容体 Ⅰとが抗原抗体反応により結合するとIgE 抗IgE複合体が形成され,その結果フリーの状態のIgEは減少する.さらに,B細胞のIgE産生細胞への分化の抑制を生じさせることが確認された.2002年,2003年にスギ花粉症を対象にしたomalizumabの臨床試験が行われた.ランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験では,プラセボとの効果の差はいままでのどの花粉症治療薬においても大きかった.またさらに海外ではomalizumabと抗原特異的免疫療法を組み合わせて,より効果を増加させる方法も考えられている. -
免疫制御リポソームによる根本的治療
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionアレルギー疾患に対する現行の治療法は,アレルギー症状や炎症反応を抑える薬剤を用いる対症療法が主であるため,病気を根本的に治癒させるあらたな治療法の研究開発に大きな期待が寄せられている.花粉症,アレルギー性鼻炎や結膜炎,アトピー性喘息は肥満細胞や好塩基球の細胞表面に結合したIgE抗体にアレルゲンが結合することによって引き起こされる ㈵型アレルギー反応が原因である.著者らはアレルギー疾患の根本的治療法を開発する目的から,IgE抗体産生を抑制する免疫制御機構を解明し,それを生体内で活性化する薬剤を探索している.本稿では,IgE抗体産生を抑制する能力をもつ制御性T細胞(Treg)を生体内で分化・増殖させる活性をもつリポソーム複合体の設計と制御機構について概説する. -
スギ花粉症におけるDNA免疫療法
216巻5号(2006);View Description Hide Description微生物由来DNAに存在するメチル化されていないCpGの配列には,Th1型免疫誘導の強いアジュバント能がある.このCpGモチーフはNK細胞,樹状細胞,B細胞を活性化し,IFN α,β,γやIL 12の産生を促すことができる.これらのサイトカインにより,アレルゲン特異的Th1型反応が誘導されると考えられる.このCpGのメカニズムを利用した新しいスギ花粉症に対する免疫療法として,Th1型T細胞反応を誘導するDNA免疫療法が考えられている.このDNA免疫療法には大きく分けてつぎの2つがある.1.CpGやアレルゲンをコードするDNA配列を含むプラスミドを作製し,これをワクチンとして接種する遺伝子免疫療法と,2.アジュバントとしてCpGモチーフをアレルゲンに結合させて,これをワクチンとして接種するアジュバント免疫療法である. -
免疫療法──新しい知見
216巻5号(2006);View Description Hide Description免疫療法(減感作療法)の国際的な標準ガイドラインとして1998年にWHO見解書が上梓され,アレルギー性鼻炎に有効な治療法であることが示されている.さらに,最近の臨床および基礎研究の進展によって,本治療法に関する新しい知見が集積されている.作用メカニズムに関しては,免疫療法によって誘導される制御性T細胞やIL 10などの制御性サイトカインが奏功機序に関与する可能性が示唆されている.また,薬物治療にはない免疫療法の特徴として,アレルギー疾患の自然経過を修飾する作用が注目されている.すなわち,アレルギー性鼻炎に対する免疫療法は新規感作の予防効果および喘息発症の予防効果を示す.さらに免疫療法終了後の長期作用(再燃予防効果)も明らかとなった.免疫療法は全身性の副反応を生じうる治療法であるが,H1受容体拮抗薬などで前処置を行うことで安全性を向上させうる.さらに,将来の免疫療法として,投与経路を改変した舌下免疫療法や,キメラ蛋白,あるいはシグナル伝達阻害薬などの開発が進んでいる. - 関連疾患up-to-date
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上気道感染とアレルギー性鼻炎
216巻5号(2006);View Description Hide Descriptionアレルギー性鼻炎に及ぼす急性上気道炎の影響についてこれまでの知見をまとめた.喘息同様,アレルギー感作・アレルギー性鼻炎発症に及ぼす感染の影響については亢進と抑制といった相反する結果がみられ,いまだ明らかにはなっていない.一方,アレルギー性鼻炎症状,すなわち感作成立後の実行相についての影響についての動物実験,スギ花粉症患者の鼻ぬぐい液中のウイルス検出の検討, @桃摘出児のアレルギー性鼻炎に及ぼす影響を検討したが,鼻症状の増悪に作用することが強く示唆された.アレルギー性鼻炎患者の管理を行っていくうえで考慮すべき重要な増悪因子と考えられる. -
口腔アレルギー症候群up-to-date
216巻5号(2006);View Description Hide Description口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)は,食物摂取時に口腔咽頭粘膜を中心に生じるIgE抗体伝達性即時型食物アレルギーである.原因食物は新鮮な野菜・果物が中心であり,その機序としては花粉との交差反応性が知られている.最近は従来の経腸管感作による食物アレルギーをクラス1食物アレルギーとし,花粉など他の抗原の吸入・接触感作で抗原の交差反応性により生じる食物アレルギーはクラス2食物アレルギーとして区別される.OASの原因としてもっとも知られている花粉症はシラカンバ花粉症であるが -
好酸球性中耳炎
216巻5号(2006);View Description Hide Description好酸球性中耳炎は,気管支喘息に合併する原因不明の難治性中耳炎である.かならずしもIgE値が上昇しないこと,中耳粘膜でアレルギー反応が起こっていることが証明されていないことから,すくなくともⅠ型アレルギーではない.好酸球の著しい浸潤がある鼻茸を伴う副鼻腔炎を併発することが多い.ステロイドの局所あるいは全身投与が治療の基本であるが,減量が困難な症例も少なくない.ときに急速に感音性難聴が進行し,聴力の完全喪失に至る症例もある.難治性であることに関して十分に理解させておくことが必要である.好酸球性中耳炎の治療には病診連携と他科とのチーム医療が重要である. -
好酸球性副鼻腔炎
216巻5号(2006);View Description Hide Description慢性副鼻腔炎は古くから知られていた一般的な疾患であるが,最近まったく病態の異なる難治性の慢性副鼻腔炎が増加し,注目されている.この難治性の慢性副鼻腔炎は鼻茸中に著明な好酸球浸潤がみられることから,好酸球性副鼻腔炎とよばれる.臨床症状のみならず治療法も従来型の慢性副鼻腔炎とは異なる.成人発症の気管支喘息を合併することが多く,“one airway,one disease”として気道全体の好酸球性炎症の一部であるとも考えられている.病態・病因は明らかではないが,IgE依存性の ㈵型アレルギー疾患ではなく,局所で産生されるIL 5やeotaxinなどが好酸球性炎症に関与している.また,鼻腔中に常在する真菌や細菌のスーパー抗原が原因のひとつとして議論されている. -
One airway one disease
216巻5号(2006);View Description Hide Description疫学調査では気管支喘息患者の80 90%にアレルギー性鼻炎の合併が,また鼻炎患者の30 40%に気管支喘息の合併があるとされる.最近の研究から,鼻炎症状のない気管支喘息患者の鼻粘膜に好酸球が認められること,逆に気管支喘息症状のないアレルギー性鼻炎患者の下気道に好酸球浸潤があることや気道過敏性の亢進が存在することが明らかになってきた.これらの情報をもとに,近年ではアレルギー性鼻炎を上気道アレルギー疾患,気管支喘息を下気道アレルギー疾患としてとらえるのでなく,気道全体をひとつのアレルギー疾患の標的臓器として考えるべきであるとして,one airway one diseaseの概念が提唱された.最近の研究から鼻炎の存在はアトピー素因とは異なる独立した喘息発症の危険因子であると考えられる.一方,鼻炎とアトピー型喘息に共通するアレルゲン感作もやはり重要であり,アレルギー疾患を全身性疾患としてとらえる観点も必要とされる.これらの考え方は,鼻炎,喘息の治療・予防上に大きな意味をもってくる. -
上気道アレルギーと咳──喉頭アレルギー/アレルギー性鼻副鼻腔炎
216巻5号(2006);View Description Hide Description近年,肺結核,肺線維症,気管支拡張症,肺癌など肺に明らかな病変がないにもかかわらず,抗感冒薬,鎮咳薬に抵抗する持続性の咳を訴える成人患者が増加しており,臨床的に問題となってきている.その原因は慢性気管支炎,喘息,咳喘息,アトピー咳嗽,かぜ症候群後遷延性咳嗽,成人百日咳などがある.このほか呼吸器疾患ではないが,胃食道逆流症,薬剤(ACE阻害薬)誘発性咳嗽,咳チックともよばれる心因性・習慣性咳嗽とも鑑別を必要とする.耳鼻咽喉科領域で扱う持続性咳嗽には喉頭アレルギー,後鼻漏症候群,胃食道逆流症,気管支異物などがあるが,このうち上気道アレルギーが関連するのは喉頭アレルギーとアレルギー性鼻副鼻腔炎に由来する後鼻漏症候群である.この2疾患の咳の性質は前者が乾性,後者が湿性である.このような臨床的特徴など,診断および治療について本稿のなかで詳細に紹介する. - その他・TOPICS
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花粉情報サービス
216巻5号(2006);View Description Hide Description花粉症の予防には花粉を体内に取り込まないことが有効である.そのためには,いつ,どこで花粉がどれぐらい飛散するかを知ることが重要である.花粉症患者への情報提供を目的に,1時間ごとのスギ花粉飛散を最大48時間先まで予測可能なスギ花粉情報システムを開発した.このシステムは,スギ花粉濃度を自動測定する“花粉センサ”,スギ植生分布,気象条件などからスギ花粉の飛散濃度を予測可能な“花粉飛散シミュレータ”から構成される.2004年より花粉情報提供サービスを開始しており,ダーラム法との比較結果では良好な相関を示している.本稿ではその構成や原理について解説するとともに,スギ花粉が大飛散した2005年における予測結果とダラーム法との比較結果について述べる.
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