Volume 216,
Issue 9,
2006
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3月第1土曜特集【水・電解質異常の新展開】
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医学のあゆみ 216巻9号, 629-629 (2006);
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概念
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医学のあゆみ 216巻9号, 633-636 (2006);
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上皮細胞を経由する物質輸送は上皮輸送とよばれるが,従来から上皮輸送を担う機構としてチャネル,トランスポーター,ポンプなどの存在が示唆されてきた.近年の分子生物学の進歩により,これら上皮輸送にかかわる分子のクローニングが可能となり,その実体が明らかとなった.いずれも細胞膜を複数回貫通する膜蛋白質であり,分子内に存在する通過路の特異性が,透過する物質の種類や透過量などを決定すると考えられている.さらに,実際に上皮細胞内を通過する経細胞経路に加えて細胞間隙を通過する傍細胞経路を調節する分子も発見され,上皮輸送の全体像が解明されつつある.
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医学のあゆみ 216巻9号, 637-640 (2006);
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近年の分子生物学の進歩は著しく,生理学の分野にも革命的な進歩をもたらした.チャネル病はその恩恵により明らかとなったものであり,多くの疾患がその概念のもとに報告されつつある.チャネルとは,水,イオンなどを選択的に通過させる膜上の蛋白であり,神経細胞の興奮伝導には必須であることから,報告されたチャネル病の多くは神経・筋疾患である.しかし,腎尿細管での選択的イオン輸送にもチャネルの存在は必須であり,いくつかの遺伝性尿細管疾患の原因遺伝子としてチャネル蛋白が同定されている.その代表的なものは,Bartter症候群,Liddle症候群である.トランスポーター病という用語はまだ認知されていないが,トランスポーターも膜上に存在して選択的イオン輸送に必須であり,いくつかの疾患も報告されていることから,今後認知されていくと考えられる.
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医学のあゆみ 216巻9号, 641-650 (2006);
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腎生理学の情報,チャネル・トランスポーターの分子同定,さらに連鎖解析の手法を組み合わせ,多くの遺伝性腎疾患の原因が明らかにされている.本稿では水・電解質異常,酸塩基平衡異常を呈し,その一次的な原因が尿細管機能異常による遺伝性腎疾患(尿細管機能異常症)について記す.低K血症,高K血症,自由水輸送異常,尿細管性アシドーシス,低Mg血症,低P血症を呈する疾患についてその責任遺伝子と分子病態について要点を述べる.
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医学のあゆみ 216巻9号, 651-654 (2006);
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水・電解質異常を伴う遺伝性疾患の大半はすでに解明された.その多くが尿細管各セグメントに発現している主要な輸送体の異常であり,従来の生理的研究のつみ重ねによる類推を裏づけるものであった.しかし,なかには難聴を合併する遠位尿細管性アシドーシスなど,責任遺伝子が解明されてはじめて認識が広がった合併症なども存在する.本稿では,輸送体異常による細胞機能障害の代表としてCLC5変異によるDent病とNBC1変異による近位尿細管性アシドーシスを取り上げ解説する.
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医学のあゆみ 216巻9号, 655-659 (2006);
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腎遺伝病の治療は困難なものが多く,遺伝子操作技術や細胞培養技術が進んだ現在においても臨床的なレベルにおいて治療には成功していない.腎遺伝病の根治的な治療は遺伝子治療により機能欠損する細胞に遺伝子を導入し,正常に機能させることをめざすが,糸球体上皮細胞への遺伝子導入は困難であり,また,尿細管細胞への導入もアデノウイルスベクターによる近位尿細管細胞への導入が報告されるのみであり,特定の尿細管細胞への遺伝子導入技術はいまだ未熟である.もうひとつの可能性は,欠損した機能を補完する細胞治療である.前駆細胞や幹細胞を腎細胞へ分化させ,機能異常を示す腎細胞と入れ替えることができれば,腎遺伝病の治療への期待が膨らむが現在まで臨床レベルでの成功はない.今後,腎遺伝病の治療に応用できるような遺伝子治療,細胞治療の開発・進展が期待されている.
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臨床
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医学のあゆみ 216巻9号, 663-667 (2006);
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最近の分子生物学的手法の進歩は,多くの内分泌疾患,尿細管機能異常による水・電解質異常症の原因を明らかにした.すなわち,それまで推定にすぎなかった多くの疾患における分子レベルの病因が,それぞれの酵素や尿細管トランスポーター遺伝子異常にあることがつぎつぎと証明されたのである.本稿ではこれらの代表的疾患とその病態を概説する.しかし,その一方では単一の遺伝子異常だけでは症状の多様さを説明できない例の存在も明らかとなった.これは水・電解質代謝がいかにさまざまな因子の影響を受けて複雑に制御されているかを逆に証明することとなった.実際の遺伝子検査に際しては遺伝子の膨大かつ複雑な構造をどこまで解析対象とするかという点,変異を認めた際の病因としての証明法,ヘテロ接合体・多型の解釈などが課題である.また,現段階では施行可能な施設が限られており“どの施設で”“どの検査が可能なのか”という情報を共有するシステムの構築が急務である.
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医学のあゆみ 216巻9号, 669-673 (2006);
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嚢胞とは,液体の入った 嚢(ふくろ)を意味する.腎においては尿細管あるいは糸球体Bowman嚢が拡張してできる.多くの遺伝性の嚢胞性腎疾患の解析から,そのメカニズムが明らかになってきた.嚢胞腎を起こす原因分子は尿細管細胞の線毛(cilia)に局在する.Ciliaは尿の流れを感知することにより尿細管径を調節する働きをもっており,その機能が破綻すると嚢胞が形成される.その分子メカニズムとして嚢胞腎原因分子であるポリシスチン1が尿流を感知するセンサーの役割,ポリシスチン2が細胞内へカルシウムを流入させるCaチャネルの役割を果たしており,その破綻が腎嚢胞形成へと導く.
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医学のあゆみ 216巻9号, 675-679 (2006);
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多発性嚢胞腎はもっとも頻度が多い遺伝病であり,腎不全と腎,肝などの臓器に多発する嚢胞による腹部膨隆,さらに高血圧,脳動脈瘤などを生じる全身疾患である.疾患責任遺伝子PKD1,PKD2が同定され,細胞内カルシウム代謝異常が細胞内病態の本体であることが解明されてきた.分子病態の理解が急速に進み,とくにcAMPが嚢胞の増大と,結果としての腎不全に関与する重要な分子であることが動物モデルで明らかになった.バソプレシンV2レセプター阻害薬が腎におけるcAMP嚢胞の縮小と腎不全の改善をもたらすことから,この分子標的薬の臨床治験が開始されている.本稿では多発性嚢胞腎の最近の知見を,とくに分子標的創薬に焦点をおき,紹介する.
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医学のあゆみ 216巻9号, 680-684 (2006);
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蛋白尿はその発症部位で分類されるが,臨床上もっとも重要なものは糸球体性蛋白尿である.腎糸球体血管壁は内皮細胞,糸球体基底膜,糸球体上皮細胞足突起の3層からなる.従来,血漿蛋白の透過を防ぐメインバリアーは糸球体基底膜とする考え方が一般的であったが,近年,その外側の上皮細胞がバリアーとして重要な働きをしていることを示唆する研究が報告されている.上皮細胞は足突起をもち,その突起間にはスリット膜とよばれるフィルター様の構造物がある.多くの病態における蛋白尿はスリット膜の機能異常が関与していると考えられてきている.スリット膜の機能分子としてnephrin,podocin,CD2APなどの蛋白が報告されている.これら分子の機能解析は,糸球体血管壁のバリアー機構,蛋白尿発症機序の解明につながるものと期待されている.
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医学のあゆみ 216巻9号, 685-691 (2006);
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腎の尿酸輸送機構はその輸送形式の複雑性(二方向性,不均一性,種差)より,共通の尿酸輸送機構の想定が困難であった.2002年,著者らのグループが同定した腎特異的尿酸トランスポーターURAT1は尿酸値を変動させる薬物の作用点であり,また特発性腎性低尿酸血症の原因となる.この分子同定が契機となり,その後の新しい尿酸輸送分子(OATv1,MRP4,SMCTなど)および関連蛋白質(ウロモデュリン,PDZK1)の同定がなされ,腎の尿酸輸送に関与する個々の分子の情報の蓄積につながっている.本稿ではこれまでに指摘されている尿酸輸送の複雑性の包括的な理解への一助として,尿酸輸送分子複合体(尿酸トランスポートソーム)という概念を提唱したい.複合体を形成する分子群の協調・連動した動きの結果としてのマクロの経細胞性尿酸輸送ととらえ,血清尿酸値異常を呈する病態の理解へと展開されることが期待される.
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医学のあゆみ 216巻9号, 692-698 (2006);
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アミノ酸トランスポーターはアミノ酸の細胞膜透過を媒介する膜蛋白質である.その全体像の複雑さから分子同定は難航したが,最後に残された吸収上皮管腔側の中性アミノ酸輸送系がHartnup病の遺伝子座から同定され,主要なトランスポーターが出揃った.アミノ酸トランスポーターはその欠損によりアミノ酸尿症などの上皮輸送障害を生じる.その疾患起因性変異の解析から病態形成の分子基盤が明らかになると同時に,いままでの研究では得られなかった新しい考え方が生まれることがある.シスチン尿症の日本人あるいはアジア民族に特異的な変異のひとつは,いままで機能上重視されていなかったトランスポーターのC末端にあり,この部位へ他の蛋白質が結合して機能上重要な役割を果たすことを示唆し,あらたな展開をもたらすものと期待される.今後,トランスポーター分子の三次元構造の解明とともに,シグナル分子も含めた細胞の他の構成分子とどのようにかかわりあって機能しているかを明らかすることにより,病態の分子レベルでの理解により近づいていけるものと思われる.
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医学のあゆみ 216巻9号, 699-704 (2006);
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上皮型Naチャネル(ENaC)は,糸球体で濾過されたナトリウムの最終的な排泄量を調節する重要なチャネルである.近年の分子遺伝学の進歩によって,遺伝性高血圧症であるLiddle症候群がENaCのgain−of−functionmutationにより生じることが明らかとなり,ENaCの高血圧発症への関与が示された.最近,セリンプロテアーゼのプロスタシンがENaCを活性化すること,アルドステロンがプロスタシンの発現を増強すること,さらにプロスタシンの過剰発現が高血圧を引き起こすことが証明され,あらたな機序によるENaCを介した高血圧発症の可能性が注目されている.
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医学のあゆみ 216巻9号, 705-711 (2006);
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水チャネル(アクアポリン)はヒトで13個みつかっている(AQP0〜AQP12).すべてのアクアポリンについてノックアウトマウスが作製され,個々のアクアポリンの重要性が明らかになった.また,水チャネル以外に脂肪代謝やガス輸送への役割もわかってきた.ヒトではAQP0,1,2,3,7が遺伝的に欠損する例が報告されている.また,AQP4のようにアクアポリンは病態を修飾する因子としても重要な場合がある.今後,重要なアクアポリンに絞って発現機能調節の機構を明らかにするとともに,アクアポリンによる病態修飾を明らかにして,あらたな治療法の開発に結びつけていく必要がある.
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医学のあゆみ 216巻9号, 713-718 (2006);
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Bartter症候群とGitelman症候群は代謝性アルカローシス,低K血症を呈する遺伝性尿細管疾患である.前者の原因遺伝子としてNa−K−2Cl共輸送体,ROMK,ClC−Kb,Barttin,後者の原因遺伝子としてNa−Cl共輸送体などが明らかとなり,遠位尿細管におけるチャネル,トランスポーターの生理機能に多くの知見が加えられた.Gitelman症候群の診断として遺伝子検査は実用レベルではなく,臨床的には低Mg血症,低Ca尿症が鑑別のポイントになる.しかし,古典的Bartter症候群との鑑別に難渋することもあり,その場合,最大利尿時の水クリアランス検査,フロセミド,サイアザイドへの反応性を検討することが有用である.
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医学のあゆみ 216巻9号, 719-723 (2006);
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Phosphate regulating gene with homologies to endopeptidases on the X chromosome(PHEX)が伴性家族性低リン血症くる病(XLH)の責任遺伝子として同定され,PHEXとその基質が骨の石灰化と生体内のリン代謝調節を担う重要な分子であるという推測のもと,研究が進められてきた.XLHの患者ではリン代謝調節ホルモンであるホスファトニンをPHEXが不活性化できないために発症すると考えられ,ホスファトニンの候補としてFGF23,MEPEおよびFRP−4が報告されている.このうち,FGF23の生理学的な役割については多くの研究成果が蓄積されつつある.これらのリン代謝系は,腎尿細管でのリン再吸収機構と骨石灰化を結ぶ重要な因子を多く含んでいる.
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医学のあゆみ 216巻9号, 724-728 (2006);
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血中イオン化カルシウム(Ca2+)濃度は1.1〜1.3 mMの非常に狭い範囲に維持されている.この血中Ca2+濃度の恒常性に大きく影響しているのは副甲状腺ホルモン(PTH)である.副甲状腺細胞はCa感知受容体(CaR)を介して細胞外Ca2+濃度変化に迅速(数秒以内)に応答し,PTH分泌を調節する.Ca(感知)受容体作動薬(calcimimetics)は副甲状腺CaRに選択的に作用し,CaRの細胞外Ca2+濃度に対する感受性を高め,PTH分泌・合成を強力に抑制する薬剤である.Calcimimeticsは二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)患者の血中PTH濃度を強力に低下させるばかりでなく,血中Ca,P濃度も低下させることから,SHPTに対してのみならずCa・P代謝異常に起因する異所性血管壁石灰化や骨病変など透析患者の予後を規定する合併症に対しても有用な手段として期待される.
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医学のあゆみ 216巻9号, 729-733 (2006);
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バソプレシン(AVP)受容体拮抗薬は標的細胞におけるAVPの受容体結合を阻害して,AVPの作用発現を阻止できる薬剤である.今日までペプチド性と非ペプチド性拮抗薬が開発されてきたが,臨床的には経口投与可能な非ペプチド性AVP受容体拮抗薬がクローズアップされる.AVPの分泌亢進に基づく水利尿不全は循環血液量を増加させるが,体内のNa含量には大きな変化がみられないため,希釈性低Na血症を招来させる.AVP受容体拮抗薬は,このような水利尿不全,低Na血症の対症療法としてその有用性が期待されている.