Volume 216,
Issue 11,
2006
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あゆみ Wilson病──最新の概念と治療戦略
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医学のあゆみ 216巻11号, 797-797 (2006);
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医学のあゆみ 216巻11号, 799-802 (2006);
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Wilson病は進行性の脳疾患として19世紀からヨーロッパで記述され,剖検で発見される肝硬変と角膜周囲の色素沈着が特徴とされた.久しく本態不明であったが,1940年代から欧米で尿,肝,脳などの銅の高濃度,1950年代にアメリカで銅蛋白である血清セルロプラスミンの先天的低下が発見され,神経症状はなくとも診断可能となった.日本では1960年ごろから,とくに子どもの肝疾患の死亡例にWilson病が高率で,無症状でも幼児期から肝の病変が進行していることを確認し,早期診断と早期治療,とくに銅の蓄積を制限し発病を予防する努力が世界にさきがけて普及した.1950年代まで,Wilson病は発病数年で大多数が死亡する病気であった.日本におけるその後50年間の研究は,適切な時期の診断と適切な治療を継続すれば,50年以上,おそらくは生涯の健康を保証できることを示している.しかし,診断の遅れはいまなお死か重い後遺症の危険を意味し,医療の責任は重い.
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医学のあゆみ 216巻11号, 803-807 (2006);
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Wilson病の原因遺伝子(ATP7B遺伝子)は染色体13番長腕に位置する.産生される蛋白は6個の銅結合部位をもつ膜蛋白であり,P−type ATPaseと考えられている.Wilson病におけるATP7B遺伝子変異はきわめて多岐にわたっており,なおかつ人種差が認められる.日本人症例に対して効率よく遺伝子解析を行うためには,独自の解析方略が必要であると考えられる.このATP7B遺伝子解析を用いたWilson病の遺伝子診断は,非侵襲的に本症の確定診断を行うことが可能である.とくに年少例や非定型例などの診断に有用である.また,本症の家族内検索においては,発端者の遺伝子変異が決定した後は患者,保因者ならびに健常人の診断を確実に行うことができ,非常に有効な診断法となりうる.
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医学のあゆみ 216巻11号, 808-814 (2006);
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Wilson病は遺伝性銅代謝異常症の代表的疾患である.第13染色体長腕(13q14.3)に座位するWilson病遺伝子の異常により細胞内銅輸送膜蛋白(ATP−7B)が働かず,おもに肝細胞からの胆汁中への銅排泄障害と銅結合蛋白であるセルロプラスミン合成障害があり,肝に銅が蓄積し,さらに大脳基底部,角膜,腎などにも銅蓄積を生じる.臨床的には肝硬変,Kayser−Fleischer輪,錐体外路障害,腎障害を主病変・主症状とする.診断は,血清セルロプラスミン低値,尿中銅排泄過多にてなされるが,肝生検による肝銅含量の著増あるいは遺伝子診断も有用である.発症年齢は幼児期〜50歳と幅広い.小児期は肝型が多く,思春期以降は肝神経型,神経型が多くなる.本症は治療および発症予防が可能である.基本は銅キレート薬内服による除銅および低銅食である.銅吸収阻害効果を有する亜鉛薬も有効であり,劇症肝炎型など重篤な肝障害・肝不全例は肝移植の適応となる.
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医学のあゆみ 216巻11号, 815-818 (2006);
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Wilson,SAKが1912年,progressive lenticular degenerationと報告したのが病名の由来である.その後,肝病変のない本症は存在しないことからhepato−lenticular degenerationと改称され,肝臓病であることの証拠は1993年のATP7Bのクローニングによりなされた.その肝病変は血液生化学や組織学的にも脂肪変性を伴う慢性肝炎・肝硬変に類似するため,本症が念頭にないとウイルス性肝疾患などと誤診する.血清のセルロプラスミン(ceruloplasmin:Cp)の低値,尿中銅排泄の増加,肝の銅含有量の増加は有力な診断根拠である.肝硬変に進展した患者でも,低下した肝機能は除銅治療によく反応して改善され,社会復帰も可能となる.溶血ではじまる劇症型の内科的治療予後は不良であるが,肝移植により救命しうる.男性患者では鉄過剰もみられ,高齢者では肝癌の合併が報告されている.
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医学のあゆみ 216巻11号, 819-821 (2006);
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神経型Wilson病は思春期から青年期にかけて言語障害,不随意運動,意欲低下,性格変化などで発症する.進行例では緩徐かつ不明瞭な言語とジストニーによる姿勢異常がみられる.精神症状が前景に出る患者は内因性精神病と見誤られやすい.神経症状出現時には肝障害はすでに代償性肝硬変となっており,一般的な血液化学検査では異常がみられないことが多い.Kayser−Fleischer輪はかならず存在する.脳の画像所見が診断に際して有用であり,CTではレンズ核の低吸収性病変,とくに両側被殻部における壊死性 *胞性変化はWilson病に特徴的である.MRIのT2強調画像は,より早期の脳病変を検出でき,被殻・淡蒼球に加えて視床腹側部,尾状核頭部,中脳,橋,小脳にも異常信号が出現する.神経型Wilson病患者は早期診断とその後の適切な治療により,通常の社会人として活躍できる.
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医学のあゆみ 216巻11号, 823-827 (2006);
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わが国ではWilson病の肝移植の歴史は浅い.Wilson病のなかで劇症肝炎型Wilson病(Wilsonian fulminanthepatitis)は,いったん内科的に救命できても長期予後は不良であり,肝移植の絶対的適応があると考えられる.そのほかに内科的治療に抵抗する慢性肝不全型,神経型にも肝移植の適応は拡大されている.わが国では肝移植は生体肝移植が主体であり,血縁者がドナーになる場合は,移植肝にヘテロ遺伝子異常を有することになり,術後,銅代謝が完全に正常化しない可能性がある.幸い,生体肝移植後にキレート剤を投与しなくても現在までに再発例の報告はない.Wilson病の移植成績は良好であるが,神経合併症の予後は不明である.移植後の銅代謝に関する報告は少なく,今後も詳細な検討が必要である.
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医学のあゆみ 216巻11号, 828-831 (2006);
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Wilson病は銅キレート剤などによる薬物療法が可能であり,しかもわが国でも比較的発症頻度が高く,マススクリーニングの対象として取り上げられるべき疾患と考えられている1).スクリーニング実施時期は,本症の発症時期などから3〜6歳までの間であることが望ましいとされている2).著者らはWilson病の早期診断を目的として抗ヒト活性型セルロプラスミン(CP)モノクローナル抗体によるELISA法を用いた尿中CPの測定を試み,本症では正常対照者に比べて尿CP値が有意に低く,尿CPを測定して本症の早期診断は可能であり,また同時に採取した血清CP値とも比較的よい相関があることを確認した.しかし,少数ではあるがCP値が正常な例もみられ,このような症例の早期発見は困難と思われた.著者らは1998〜2005年の間に,学童および3歳児健診で使用される尿,および東京小児科医会会員施設外来を受診する1〜6歳児の尿,合計約5万8千名の尿を対象にELISA法による試験的スクリーニングを行い,そのうち学童のなかから2名のWilson病患者を発見しており,本法はWilson病患者の早期発見に有用な方法であると考えられた.
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医学のあゆみ 216巻11号, 832-836 (2006);
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LECラットでは,Wilson病と同様にATP7B遺伝子の変異によって肝に銅が蓄積する.急性肝障害に伴い,肝に蓄積していた銅は血中に遊離し,腎など他の臓器に蓄積し,障害を引き起こす.銅は生体内で活性酸素を産生し,LECラット肝では障害発症前にすでに肝細胞のDNAに損傷が生じ,酸化ストレスやDNA損傷に関連した遺伝子の発現が増加し,早い週齢から高い酸化ストレス状態にあると考えられる.LECラットへのトリエンチンなど銅特異的キレート剤の投与や亜鉛の大量投与,肝細胞移植によって肝・腎への銅の蓄積は抑制され,組織障害の発症などは抑制される.また,ウイルスベクターを用いた遺伝子治療が試みられ,部分的ではあるが,症状が改善され,また,ヒトATP7B遺伝子を導入したLECラットでは急性肝障害の発症が抑制され,LECラットはWilson病の病態解明や治療戦略を検討するための有効なモデル動物である.
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フォーラム
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医学のあゆみ 216巻11号, 837-837 (2006);
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医学のあゆみ 216巻11号, 839-841 (2006);
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TOPICS
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生化学・分子生物学
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医学のあゆみ 216巻11号, 845-845 (2006);
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医用工学・医療情報学
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医学のあゆみ 216巻11号, 846-846 (2006);
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循環器内科学
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医学のあゆみ 216巻11号, 847-848 (2006);
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腎臓内科学
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医学のあゆみ 216巻11号, 848-848 (2006);
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連載 五感の生理,病理と臨床(最終回)
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医学のあゆみ 216巻11号, 849-854 (2006);
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音楽療法はこれまで聴覚の生理・病理についてはほとんど関心を払わないできた.その理由は音楽療法では音楽が正常に聴けていることが前提だったからである.しかし,音楽療法の普及によりその範囲が拡大するなかで,これまで扱わなかったさまざまな神経難病にかかわることになり,同時に臨床場面でもかつて遭遇したことのない興味深い現象に出会うようになった.本稿はそういった経験を紹介し,人間の生存に欠かせない聴覚の役割などを考察しながら新しい音楽療法の可能性について論じる.まず,昏睡の回復に用いられる音楽療法について述べ,そのあと失音楽や統合失調症の幻聴について話題にし,最後に現在行われている音楽療法がそれぞれの対象に対して,なにをめざして活動しているのかを紹介する.