医学のあゆみ
Volume 217, Issue 13, 2006
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あゆみ 薬物依存の神経科学──違法ドラッグと覚せい剤による神経精神毒性
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MDMAによるセロトニン放出および神経毒性発現の分子機序
217巻13号(2006);View Description Hide Description3,4−メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)は,最近麻薬指定された“違法ドラッグ”のひとつである.MDMAのおもな作用点としてはセロトニン神経終末に存在するセロトニントランスポーター(SERT)が知られており,セロトニン再取込み阻害作用を示すだけでなく,MDMA自身がSERTからシナプス前終末に取り込まれ,小胞性モノアミントランスポーターの取込み阻害,モノアミン代謝酵素MAO−Bの阻害などにより細胞質内のセロトニン濃度を高め,SERTを介してセロトニンをシナプス間隙に放出するものと考えられている.また,MDMAを長期間使用すると,比較的選択的にセロトニン神経に対して毒性を生じ,細胞内セロトニン含量の低下,セロトニン神経終末の変性などを引き起こす.本稿ではこれらのMDMAのセロトニン放出および神経毒性の分子機序について,最近著者らが行っている研究の成果を交えながら概説する. -
違法ドラッグと依存性薬物による精神障害の分子病態
217巻13号(2006);View Description Hide DescriptionMDMAなどの違法ドラッグやアンフェタミン類,コカインなどの中枢刺激薬は,その濫用によりしばしば統合失調症に類似した精神症状を引き起こす.このような症状は一度出現すると,たとえ薬物使用を長期間中断していても,ごく少量の薬物使用により容易に同じ症状が出現しうる.これは逆耐性現象あるいは行動感作とよばれるが,中枢刺激薬を動物に投与した場合にも発達依存性に類似の行動異常の薬物感受性変化が起こることから,脳の情報処理回路の発達に依存した現象として理解される.その分子生物学的基盤として,報酬系を構成する中脳皮質辺縁系ドパミン神経投射路に対する大脳皮質グルタミン酸神経伝達系の調節機構が推定され,これにかかわる複数の遺伝子発現を介した神経シナプスの可塑的変化(長期増強および長期抑圧)が現在明らかになりつつある. -
違法ドラッグと覚せい剤の精神神経毒性と標的分子への作用機序
217巻13号(2006);View Description Hide Description最近では覚せい剤であるメタンフェタミンに加え,3,4−methylenedioxymethamphetamine(MDMA)や5−methoxy−N,N−diisopropyltryptamine(5−MeO−DIPT)の使用が深刻な社会問題になっている.MDMAはメタンフェタミンの類似化合物であり,モノアミントラスポーターが精神神経毒性の標的分子となると考えられている.また,違法ドラッグである5−MeO−DIPTは,モデル動物においてけっして“安全な薬物”ではなく覚せい剤と同程度の神経毒性を呈したことか -
覚せい剤およびMDMAによる精神障害の発現と依存形成の分子機序──ドパミン作動性神経系とグルタミン酸作動性神経系のクロストーク
217巻13号(2006);View Description Hide Description覚せい剤や通称“エクスタシー”とよばれる3,4−methylenedioxymethamphetamine(MDMA)は,インターネットや携帯電話などの情報手段の普及により入手が容易になった結果,わが国で深刻な社会的影響を及ぼしている依存性薬物である.覚せい剤およびMDMAの乱用により自発性の障害や認知障害などの精神障害が発現し,精神依存が形成される.これらの分子機序として,覚せい剤やMDMAを連続投与するとドパミン作動性神経系とグルタミン酸作動性神経系の双方の機能亢進に伴う細胞内情報伝達系の異常が異常な -
ストレスと覚せい剤依存性形成──ヒスタミン神経系の役割
217巻13号(2006);View Description Hide Descriptionヒスタミン神経系は後部視床下部の結節乳頭核から脳のほぼすべての領域に出力している.ドパミン,セロトニン,ノルアドレナリン神経と同じモノアミン神経系に属し,脳の局所の興奮を全体に伝える拡散系の構造をもっている.神経終末から放出されたヒスタミンは,H1,H2,H3,H4受容体を介して多彩な機能の調節を行っている.ヒスタミン神経の作用は,興奮性のものと抑制性のものに分けることができる.興奮性作用には覚醒の増加,学習・記憶の増強,自発運動量増加,痛み受容の増強などが含まれ,抑制性作用には摂食行動抑制,痙攣抑制,メタンフェタミン逆耐性形成抑制などがある.本稿では著者らの研究をもとに,ストレスと覚せい剤依存形成におけるヒスタミン神経系の役割を概説する. -
依存性薬物としてのMDMAの臨床ならびに行動薬理学的特徴
217巻13号(2006);View Description Hide DescriptionMDMA(通称:Ecstasy)は覚せい剤methamphetamine(MAP)と幻覚薬mescalineの2つの化学構造を合わせもつ薬物である.MDMAはパーティ感覚で使用するクラブ・ドラッグとして近年急速な乱用の拡大を示し,わが国では2005年に麻薬指定された.本稿ではMDMAの依存性を中心に概説した.乱用性薬物は“自己投与”が基本であることから,薬物の依存性に関する研究にもっとも適した実験方法として薬物自己投与法が繁用されている.サルおよび齧歯類を用いた実験ではMDMA自己投与行動が成立し,その休薬時には薬物探索行動(薬物への“渇望”)が再燃することが知られている.この点で,MDMAはMAPやcocaineと同様に報酬効果を有するが,幻覚薬とは異なることがわかる.一方,セロトニン神経系の持続的な機能低下を引き起こすなど,従来の中枢興奮薬とは異なる点も指摘されている. -
覚せい剤により誘発される記憶障害──発症機構と薬物治療
217巻13号(2006);View Description Hide Descriptionメタンフェタミン(MAP)などの覚せい剤を摂取すると,初期には病的爽快,注意力の増強,疲労軽減,食欲低下などの症状が認められる.しかし,長期間使用すると幻覚や妄想などが出現するようになる.これらの精神症状は長期断薬後にも遷延性の障害として認められ,またストレスや少量の覚せい剤の再使用により容易に再燃(フラッシュバック)する.最近の臨床研究により,これら統合失調症様症状に加えて,覚せい剤依存者では認知や記憶に障害があることが明らかになっている.本稿では覚せい剤依存者の記憶障害について概説するとともに,モデル動物を用いた研究からその発症機構と薬物治療について考察する. -
違法ドラッグを含む多剤乱用の実態と物質誘発性精神病の遺伝子リスクファクター
217巻13号(2006);View Description Hide Description精神科病院ベースでの調査では覚せい剤,コカイン,大麻,LSDなどの重度多剤乱用者は薬物依存者の38%にみられ,とくに5種以上の乱用者はMDMAやマジックマッシュルームといった新規ドラッグも乱用していることがわかった.また,これら新規ドラッグ乱用者の精神科受診がきわめて低く,治療機会はほとんど得られていない.薬物依存脆弱性を規定する遺伝子ファクターとしてドパミンD1受容体,μオピオイド受容体,GABAA受容体遺伝子多型が重要で,また,物質誘発性精神病の脆弱性や予後を規定するものではドパミントランスポーター,
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フォーラム
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TOPICS
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- 遺伝学
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- 癌・腫瘍学
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- 脳神経外科学
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- 皮膚科学
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連載 現代医療におけるコメディカルの役割15
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携帯電話と医療3
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携帯電話を用いた死体検案支援システム──全国展開に向けて
217巻13号(2006);View Description Hide Description死体検案支援システムは,デジタル画像を用いた遠隔診断,ウェブ機能を用いたコンテンツの提供を通じて死体検案を支援し,その質の向上をはかるものである.携帯電話を用いて検案を行う一般臨床医が,検案現場から専門家(指導者)の助言・指導を直接受けることができる.本システムの最大の特徴は,一般臨床医を対象としたオープンなシステムを指向していることである.本来ならば監察医制度の全国拡充が望まれるが,その可能性が低い現状ではこれを補完する意味で本システムの全国展開が必要であり,とくに初期臨床研修への組込みが効果的と考える.類似の小規模システムはすでに運用中であるが,全国展開するうえでは単なる規模の拡大だけでは不十分で,セキュリティの確保,運用ガイドラインの策定などが必要である.技術的には既存の技術の組合せで対応可能であり,また比較的低予算で実現可能であると考えられ,実際の運用を想定したシステム開発および実証実験を行う段階にあるだろう.
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注目の領域
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