医学のあゆみ
Volume 218, Issue 2, 2006
Volumes & issues:
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あゆみ ナノバイオ・メディカルデバイス−表面ナノ制御による細胞ハンドリング
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- 工学系の基礎技術開発
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新規細胞アレイ作製法
218巻2号(2006);View Description Hide Description機能を保持した細胞を基板上に配置した細胞アレイは,創薬や環境分析におけるあらたな評価系として実験動物の代替となる可能性を秘めている.一方で,細胞のかたちや細胞どうしの相互作用を制御する目的で細胞アレイを活用することが提案されており,基礎研究の分野でも関心が高まっている.著者らは,自在かつ簡易に細胞アレイを作製するためのあらたなナノバイオデバイスとして,“ケージド細胞培養基板”を作製した.この基板は光に応じて細胞接着性が劇的に変化するため,光照射を制御することで,任意のパターンの細胞アレイを作製できる. -
基材に接着した生細胞を光で操作する技術
218巻2号(2006);View Description Hide Description細胞工学の急速な伸展に伴って細胞操作のニーズがますます多様化する一方で,これまでに開発・実用化されている生細胞の個別操作技術は,もっぱら分散状態にある細胞に適用が限られている.そうした状況において著者らは最近,培養基材上で接着した状態にある細胞に光照射することで,細胞を基材表面に強く固定化できることを見出し,この原理に基づく新しい細胞操作技術の開発を進めている.この技術によってユーザーは,パソコン画面上での簡便な操作により“いま観察しているこの細胞”を選択的に /離回収する,あるいは基材表面にとどめ,詳細に解析することが可能になる. -
細胞マイクロアレイチップを用いた単一細胞スクリーニングシステムの開発
218巻2号(2006);View Description Hide Description抗体医薬の開発や免疫機能診断に有用な抗原特異的Bリンパ球の迅速スクリーニングを目的として,細胞マイクロアレイチップを用いた単一細胞スクリーニングシステムを開発した.細胞がちょうど1個ずつ入る大きさのウェルが1チップ上に数十万個並んだ細胞マイクロアレイチップにBリンパ球を入れて抗原を加えたときに応答を示す細胞,すなわち抗原特異的Bリンパ球を螢光プローブ色素により検出し,その細胞のみを1個ずつ回収する.これらの作業を自動化する装置を開発した.さらに,それらを一体化させて細胞の分注から検出,回収までの一連の操作をほぼ自動化してハイスループットな細胞スクリーニングを可能にするシステムについても試作した.これらの装置を紹介するとともに,細胞マイクロアレイチップのための新しいバイオセンシング技術についても言及する. -
バイオプリンティング──生体組織と臓器作製へのチャレンジ
218巻2号(2006);View Description Hide Description大きなビルディングの建築は地面の掘り起こし,土台づくりにはじまり,やがて鉄骨が打ち込まれ,1階,2階,3階とつくられていく.そのうち大きなクレーンが姿を現し,鉄骨や建材が上へ上へと組み上げられて,やがて何十階にもなる高層ビルディングとなる.ビルの骨組み,各階の構造,柱や壁,窓やドア,トイレや給排水設備など,設計士の設計に基づき,鉄鋼,コンクリート,ガラスや板壁などの建材が適材適所,確実に設置されていく.見上げるばかりの巨大高層ビルも当たり前のように完成させていく建築工学技術には科学の威力を感じさせられる.サイズこそ違え,生体組織や臓器の場合も顕微鏡レベルで考えると,それぞれ特殊な三次元構造をもち,種々の細胞,細胞外マトリックスが適材適所で配置構成され,配管構造ともいえる脈管組織をもつ.まさに高層ビルディングのミニチュア版である.ならば生体組織や臓器を,ビルディングを建てるかのように工学技術を使ってつくることはできないであろうか.新しいチャレンジがはじまっている. - 医学研究さらに医療への展開
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ISFETセンシングシステムによる迅速細胞機能評価法の開発
218巻2号(2006);View Description Hide Descriptionイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)を用いたpHおよびPCO2センサによるCO2,NaHCO3,乳酸(LA)分泌量のリアルタイム測定法を開発した.本システムの感応部容積は0.8μl以下と微小で1μlの基質溶液の計測が可能であり,全pH変化およびそのうちのCO2の占める割合をリアルタイムにモニタリングすることにより,培養細胞の呼吸・代謝状態を評価することができた.2本のISFETのうち1本は全pH変化を,他方はシリコンチューブで被覆されCO2産生によるpH変化を計測した.細胞からのおもな代謝産物は -
肝再生医療──局所環境制御と細胞環境制御に重点をおいたあらたなアプローチ
218巻2号(2006);View Description Hide Description各臓器疾患に対し細胞を利用した治療の開発が進められている.細胞の移植方法は大きく2つに分けられ,細胞を懸濁液状態で血流を介して移植するか,細胞単独あるいは高分子支持体とともに局所に移植し組織を構築するアプローチがとられている.肝分野においては前者は肝細胞移植(「サイドメモ」参照)として近年臨床試験が開始され,世界で70例以上の患者に施行されている.後者は肝組織工学と称される分野で,その開発は途に着いたばかりであるが,これまでにないまったく新しい治療分野として技術開発が期待されている. -
ナノ層マイクロカプセルによる細胞移植
218巻2号(2006);View Description Hide Description膵から分離したLangerhans島を移植することでⅠ型糖尿病患者を治療する試みがある.また将来,ES細胞からインスリン分泌細胞を得ることができれば,ドナーを必要としない移植医療が実現するであろう.しかし,移植後の拒絶反応をコントロールする必要がある.副作用の心配な免疫抑制剤を用いない移植法として,細胞を半透膜内に封入した後移植するバイオ人工膵の研究が進められている.細胞膜成分であるリン脂質は水中で直径数十nmの閉鎖小胞構造のリポソームを形成することから,超分子化学,ナノテクノロジー,また薬のDDSの分野で熱心に研究されてきた.リポソームをポリエチレングリコール(PEG)で化学修飾(PEG−リン脂質複合体)を行うと,生体に異物として認識されなくなる.このPEG−リン脂質複合体を用いて細胞表面に数十nmの厚さの膜を形成させ,免疫隔離膜として用いる試みが開始されたので紹介する. -
微小流体技術による体外受精
218巻2号(2006);View Description Hide Description体外受精とは体外で卵子を受精させる不妊治療の方法で,採卵・精子選別・受精・胚培養,そして胚移植という過程からなる.このうち精子選別,受精,胚培養については,細胞(卵子・精子)を効率よく操作し,細胞に適した環境を提供することが求められる.近年,微小なサイズの細胞とその近傍の環境とを明確に最適なものとするために,工学的な見地(微小な流れ特有の性質を知り,それをうまく制御すること)からのアプローチが注目されている.実際に,微小流体を扱う素子をつくり,そのなかで体外受精を行うという試みがなされ,体外受精の成功率が
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フォーラム
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 細菌学・ウイルス学
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- 消化器内科学
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- 皮膚科学
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連載 現代医療におけるコメディカルの役割16
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携帯電話と医療4
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ポピュレーションストラテジーとモバイルコミュニケーション
218巻2号(2006);View Description Hide Description現在,私たちの社会は少子高齢化が進み,生活習慣に起因する慢性疾患への対応や,医療制度など諸制度の枠組みの変革により,“自分の健康は自分で守る”ということの必要性が増加している.このことは,歴史的な医療の発達の基本形であった,“病気になったら医師に診てもらい,治療を経て元気になり,復帰する”というパターンでは包括しきれない社会に至っているということを意味している.また一方で,より多くの人びとに健康管理の機会を提供し,多様化する個々人の生活パターンにあったケアサービスの普及が望まれている.多数の人びとで構成されるさまざまな集団に対して効果的な働きかけを行うことをポピュレーションストラテジーといい,その実行には,普及著しい携帯電話の利用は当然考えられるべきことである.本稿ではその試みを紹介し,効果的な運用について検討した.
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