医学のあゆみ
Volume 218, Issue 13, 2006
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あゆみ 感染制御におけるパラダイムシフト──感染制御における新しい流れ・最新情報と将来展望
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医療の質・医療評価の観点からみた感染制御
218巻13号(2006);View Description Hide Description病院感染を減らすことが医療の質を高めることにつながる.病院感染を減少させ,有効な対策を行う上でつねに考えなければならないことは,1患者に対する病院感染を有効に予防する,2健康な医療従事者に痛ましい職業感染を起こさない,3科学的根拠に基づいた感染対策を実行する,4むだな感染対策を見直して経済的にも有効な方法を考慮することである.日常の臨床では多くの判断が経験主義に陥りやすいが,優れた医療とはそれまでの経験とその時点でのもっとも優れた客観的な根拠の両者に基づいて診療を実践することであり,優れた経験と客観的根拠がうまくかみ合わなくてはならない.今後,病院感染を確実に減少させて日本の医療の質を高めるためには,科学的根拠に基づいた対策を着実に実行することがもっとも大切である. -
医療経済と感染制御──安全原価と説明責任
218巻13号(2006);View Description Hide Description感染制御に求められる活動は増加しているが,医療費の伸びへの抑制の圧力は強まってきている.医療の質・安全の確保のためにはそれ相応の資源が必要である.一般産業界で品質保証に必要な原価を品質原価(quality cost)とよび,エラーや低品質といった失敗による原価とその予防・評価のための原価に分けて把握する.医療においても質・安全に必要な原価を把握し,社会に示すべきである.感染制御に関する予防や失敗の原価を計算した原著論文はまだ少ないが,感染制御の個々の取組みが感染率と費用の削減に貢献することを示している.しかし,感染制御の経済性に関する研究はまだ十分な水準に達しておらず,とくに予防原価に関しては国内外問わず対象が局所的な範囲に限られているのが現状であり,総体として必要な原価がだされていない.そこで著者らは,感染や事故の予防のための医療安全確保諸活動に病院組織レベルで要する増分原価を測定した. -
国家危機管理の観点からみた感染制御──わが国における感染症危機管理の現状
218巻13号(2006);View Description Hide DescriptionSARSや現在の鳥インフルエンザの流行で経験されているように,感染症のアウトブレイクは単に医療,保健の問題ではなく,経済,産業,交通,治安,教育,そして一般市民生活に大きな影響を与える.危機管理はある危機に接して,あるいはある危機に近づいてその対策を始めても遅いのであって,日常からある程度のものに対して備えをしておく必要がある.また,“危機”に関してのみ目を奪われることなく,日常での有無や程度,動きなどについていつもアンテナを高く張っておく必要がある.厚生労働省では,危機管理実施要領として厚生労働省健康危機管理基本指針,感染症健康危機管理実施要領などを定めている.しかし,これらが絵に書いた餅にならないためには,臨床現場における感染症に関するセンスの向上,サーベイランスの充実,そしてそのための臨床現場と地域,国,そして国際間などの対話を常に保つことの努力,などが日常から行われている必要がある. -
国際保健の観点からみた感染制御──WHOにおけるあらたな取組みと将来展望
218巻13号(2006);View Description Hide Description2003年に起こったsevere acute respiratory syndrome(SARS)は,世界各地の病院での院内感染から流行へとつながっていった.このことは現行の感染制御のシステムがSARSのような新興感染症に対して十分に機能しなかったことを示すものと考えられる.世界規模の院内感染の実態を示すデータは限られているが,とくに発展途上国においては貧弱な医療設備や院内感染に対する意識の低さなどのために,院内感染の実態は深刻なものであると考えられる.しかし,これまで感染制御は多くの発展途上国で医療分野における重要課題として取り上げられてこなかった.このような状況を改善するためにWHOは,各国政府やさまざまなパートナーとともに感染制御に関する国際的な取組みを行っている.新興感染症などのあらたな感染症の問題に対応するためには,グローバルな視点から世界各国の感染制御の基盤を強化し,国際的なネットワークをつくっていくことが求められている. -
欧米にみる感染制御の新しい流れ──アメリカCDC,イギリスHPAなどの取組み
218巻13号(2006);View Description Hide Description感染制御に関して,その分野での先進国である欧米諸国の現状とあらたな動きを概観した.アメリカは巨大な国家機関であるCDCが昔から精力的かつ包括的な活動を展開しており,各施設においても専門家や優れた研究によりその活動を支えている.CDCによる感染制御も根本は変わらないものの,あらたな時代や医療体制に即したものへと変貌を続けている.一方,イギリスはおもに病原体の面から国家機関が感染制御を展開し,医療機関や研究施設における感染制御の専門家と共同で国としての感染制御を行っている.しかし,どちらの国も薬剤耐性菌による院内感染が減少しないなどの問題を抱えている. -
感染制御教育における新しい流れ──人材育成,教育法についての最新情報
218巻13号(2006);View Description Hide Description本稿では感染対策上,とくに重要と思われる情報について紹介した.わが国ではすでに医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師など,職種間横断的なインフェクションコントロールの専門資格制度が整っている.日本環境感染学会も2005年より,世界で一番多くの参加者を迎える医療関連感染の学会となった.病院機能評価などの後押しもあり,各医療機関ではここ数年めざましい感染対策上の改善を続けている.一方で,医療機関ごとの取組み方に温度差があるのも事実である.施設内の感染対策を個人単位まで周知徹底をはかる仕かけとして,講習会・ビデオ・実習や各種教育ツールの利用などさまざまな方法があるが,王道はない.感染対策身体も日進月歩で,学会や各種講演会などへの参画もレベルを引き上げるうえでは重要である. -
薬剤耐性菌制御における新しい流れ──世界,そしてわが国における課題と将来の展望
218巻13号(2006);View Description Hide Descriptionわが国の耐性菌病院感染対策は,MRSAの分離頻度の多さに象徴されるように,世界的にみれば低いレベルであると評価されている.それに対して,大学病院を中心として感染制御部が設立され,サーベイランス,コンサルテーションなどの多角的な感染制御活動を通じて耐性菌病院感染対策を実施している.感染制御部には医師,看護師,薬剤師,検査技師などの多種類の職種の職員が必要であり,それぞれにサーベイランスや適正抗菌薬使用のための業務を行っている.現状では感染制御部に専任の職員は多くは1名であり,十分な感染制御活動はできないと考える.今後,すくなくとも医師と看護師を専任とし,250床に1名の専任の感染制御担当者を配置することが求められる.耐性菌感染対策はひとつの方法で解決できる問題ではなく,抗菌薬の適正使用から手洗いの徹底まで幅広い対策を着実に実施する必要があり,そのためには多職種の感染制御専任の職員の関与が必須である. -
地域ネットワーク構築の新しい流れ──地域ネットワークの現状と将来展望
218巻13号(2006);View Description Hide Description各自治体と厚生労働省による共同モデル事業として,平成16年(2004)度から全国10道県と1政令都市の11地域で院内感染対策を支援するための院内感染地域支援ネットワークが設置され,支援活動を開始した.地域支援ネットワークでは院内感染相談業務と普及啓発事業を中心に,状況に応じてさまざまな支援活動を実施している.これらの支援活動を通じて“院内感染対策地域支援ネットワーク活動は,地域医療におけるインフェクションコントロールチーム活動である”という方向に活動が定まってきた.また,院内感染対策地域支援ネットワークが,地域全体の中小規模病院や老健施設などにおけるインフェクションコントロールチームの活動を肩代りできる可能性が示されてきた.ネットワーク活動は地域の実情によって,ネットワークの運営の中心となる支援委員の構成や活動の主体となる組織が異なるなどの多様性,地域差がみられてきた.
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フォーラム
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TOPICS
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- 薬理学・毒性学
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- 生化学・分子生物学
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- 内分泌・代謝学
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- 脳神経外科学
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連載 現代医療におけるコメディカルの役割23
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