Volume 218,
Issue 14,
2006
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9月第5土曜特集【心不全UPDATE】
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医学のあゆみ 218巻14号, 1107-1107 (2006);
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心不全発症の分子メカニズム
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医学のあゆみ 218巻14号, 1111-1116 (2006);
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心臓リモデリングとは心臓のサイズ,形,その機能が,機械的因子,神経体液性因子,または遺伝的因子により変化することである.この現象は心筋梗塞,心筋症,高血圧,先天性心疾患または弁膜症などの病的な心臓負荷により,その変化が形成されていく.この心臓リモデリングが慢性心不全を引き起こす原因ともなり,心不全死,急死につながる.この心臓リモデリングにはレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系がおおいに関与し,これらの系を抑制する薬剤を有効に使用することにより心臓リモデリングが抑制され,心不全治療はおおいに進歩した.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1117-1123 (2006);
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アポトーシスによる心筋細胞の脱落が心不全の進行の原因である可能性が示唆されている.たしかに心筋細胞においてアポトーシスは実験的には比較的容易に誘導できる.しかし,心不全を含め実際の心疾患における心筋細胞アポトーシスの直接証明である形態学的証拠はいまだに示されていない.したがって,心不全における心筋細胞の抗アポトーシス治療の有効性は不明である.一方,心筋の間質細胞などの非心筋細胞は心筋梗塞巣において大量にアポトーシスで消失することがわかっている.このアポトーシスを阻害すると,梗塞後慢性期の左室リモデリング・心不全が軽減されるため,将来心不全予防法のひとつとなる可能性がある.また近年,第2のプログラム細胞死であるオートファジーが不全心の心筋細胞に見出されており,病態との関与が示唆されている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1125-1130 (2006);
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心不全における心筋収縮・弛緩障害の重要な要因に,細胞内Ca2+調節異常がある.心筋細胞内Ca2+濃度は心筋興奮収縮連関に携わる種々のCa2+制御蛋白が協調的に作用することにより,生理的変動範囲内で適正に維持されている.とくに筋小胞体(SR)からのCa2+放出をつかさどるリアノジン受容体(RyR)は,他の多くのイオンチャネルと異なり巨大な高分子蛋白として存在し,種々のRyR結合型修飾蛋白がチャネル開閉機能を調節している.最近,心不全時にRyRから異常なCa2+漏出が生じており,このCa2+漏出は心収縮・弛緩能の障害を惹起しうること,さらに,致死的不整脈の要因となることが示された.また,このような細胞内Ca2+制御異常を是正することにより心不全や致死的不整脈の発現を抑制することが実験的に試みられており,その臨床応用が期待されている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1131-1135 (2006);
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血管内皮は種々の物質を産生・放出し血管機能調節を行うとともに,血管構築に深く関与している.血管内皮が産生する代表的因子が内皮型NO合成酵素(eNOS)により産生される一酸化窒素(NO)であり,内皮依存性血管弛緩・拡張反応(EDR)をもたらす.心不全においてはEDRが低下しており,その機序としては,血流の慢性的低下による血管壁eNOS発現の低下などによるNO産生の減少に加え,酸化ストレス・スーパーオキシドの産生増加によるNO作用の減弱が大きく関与する.EDRの低下はすなわち内皮障害が存在することを示唆し,実際に心不全患者の末梢血において内皮障害マーカーは増加している.EDRの低下の程度と心不全の予後とが関係するということも明らかになってきており,一方においてアンジオテンシンをブロックする薬剤により心不全を加療すると,減弱していたEDRも改善する.心不全における内皮障害の病態的意義としては,骨格筋でのEDR低下が運動時の血流障害により運動耐容能の低下をもたらす可能性や,全身においては心不全での易血栓・炎症性に関与している可能性があり,心不全の治療戦略において内皮機能改善という観点も視野に入れる必要がある.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1137-1142 (2006);
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動脈硬化の発症・進展だけでなく,さまざまな心血管系の病態にサイトカインが関与していることが明らかにされている.たとえば,ウイルス性心筋炎後の心不全の発症はもとより,代償性心肥大から心不全への進展や心筋梗塞後のリモデリングに至るまで,サイトカインは心筋細胞や心機能に直接影響を与えることによりこれらの病態に関与している.臨床的にも,TNF−αやIL−1β,IL−6などは心不全患者の心筋や血中で増加しており,心不全の重症度と相関することが明らかにされている.サイトカインにはpro−inflammatoryサイトカインとanti−inflammatoryサイトカインがあり,また同じサイトカインであっても誘導される時期および発現レベルによって保護作用と傷害作用といった相反する作用を示すことがあり,複雑なクロストークが存在する.
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心不全の病態解析と重症度評価
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医学のあゆみ 218巻14号, 1145-1149 (2006);
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心不全は心臓のポンプ機能の低下により末梢臓器の酸素需要にみあう十分な量の血液が供給できない状態であり,左室拡張末期圧の上昇により肺うっ血をきたした状態である.心エコー法により非侵襲的に簡便に左室収縮機能,心ポンプ機能の評価が可能であるが,心不全の病態の把握・重症度評価には収縮機能のみならず拡張機能を評価し,左室拡張末期圧,肺動脈楔入圧の評価が重要である.パルスドプラ法をはじめとして連続波ドプラ法,組織ドプラ法,カラーMモード法を駆使することにより詳細な拡張機能評価が可能である.さらに,薬物治療抵抗性の心不全に対して最近導入された心臓再同期療法の適応決定には心エコー法によるdyssynchronyの評価が不可欠であり,心不全の病態解析,治療に対する心エコーの役割はますます大きくなっている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1151-1156 (2006);
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本稿の前半は,わが国の心臓核医学検査ガイドラインに沿って心機能の評価,虚血性と非虚血性の鑑別,心筋バイアビリティの判定,重症度の評価,治療効果の予測と判定,予後の予測といった目的ごとに,心不全における核医学検査の適応とエビデンスについてまとめる.後半では,心不全のための新しい核医学的な試みとしてエネルギー効率の評価,交感神経β受容体密度の測定,心臓再同期療法のための心臓同期性の評価,細胞移植治療における移植細胞の追跡の4つのトピックスを紹介する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1157-1163 (2006);
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心臓CTと心臓MRIの近年の進歩はめざましく,心機能,心筋灌流,冠動脈の評価が1回の検査で可能となり,その優秀さを日々競いあっている.このうち心不全の診断にもっとも関連の深い心機能の解析についても,CTとMRIで詳細な評価が可能であり,客観的な診断が可能なことと左室全体が死角なく観察可能なことがCTとMRIに共通した利点である.CTとMRIを比較すると,現状では空間分解能はCTが,時間分解能はMRIが優れているが,今後もモダリティの急速な進歩が予想される.現時点での具体的な評価方法と将来展望についても示したい.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1164-1172 (2006);
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呼吸困難を訴えてくる患者が心不全であるかどうかを診断することは,専門外の医師にとってかならずしも容易ではない.このような場合,心不全かどうかの診断ならびにその重症度を技量に関係なく診断できるバイオマーカーがあれば好都合である.これを可能にするのが利尿ペプチドファミリー(ANP,BNP)である.診断のみならず治療の効果判定,予後の予測まで可能にする可能性を秘めている.さらに,心不全の原因が心筋傷害に起因しているかどうかを判断することを可能にするもうひとつのバイオマーカーが心筋トロポニンファミリー(cTnT,cTnI)である.これらのバイオマーカーをうまく駆使すれば診断と重症度を正しく評価できる.重症患者を適切な施設にタイミングよく急送することも可能になる.これからの心不全の治療は,バイオマーカーをガイドとし適切な治療を行うことにより,入院の機会を減らすことを可能にする.このようなバイオマーカーの迅速簡易測定機器の環境も整いつつある.
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拡張不全の新知見と治療戦略
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医学のあゆみ 218巻14号, 1175-1179 (2006);
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従来は“心不全=左室駆出率低下”という概念であったが,疫学調査の結果,左室駆出率が保持されている,あるいは低下が軽度であるにもかかわらず心不全をきたす症例が少なくないことが明らかとなった.このタイプの心不全では左室拡張機能障害が主病態であることから,拡張不全とよばれている.基礎疾患として高血圧症が多く,代償性肥大とは異なる性質を有する肥大の進展,それに伴う線維化の亢進により左室拡張機能障害が進行し,心不全に至ると考えられる.この過程には機械的刺激により活性化された神経体液性因子,サイトカイン,炎症反応,酸化ストレスなどの系が集合的に寄与していると考えられている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1180-1186 (2006);
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拡張期心不全は高齢者,女性に多いことが明らかにされている.また,心電図や心エコー図検査で左室肥大がみられることが多く,基礎疾患として高血圧症,糖尿病や肥満を有する症例が多く,心筋梗塞の既往や冠動脈疾患を有する症例は少ない.心不全の診断は収縮期心不全と同様であるが,拡張能障害の診断として非侵襲的手法である心エコー図検査が有用である.これにより収縮能が正常であることを確認し,拡張能の指標を評価する.また,心不全診断の血液マーカーであるBNPは拡張期心不全の診断においても有用である.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1187-1192 (2006);
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収縮機能の保持された心不全は,収縮機能低下に基づく心不全に比べて,やや高齢で女性に多く,高血圧の既往も多く,心房細動を有する者も多い.一方で冠動脈疾患は少なく,糖尿病はほぼ同じである.これらの傾向はわが国の心不全患者にもあてはまる.頻度は心不全全体の30〜50%を占めるが,診断の進歩や高齢化に伴って増加しつつあると考えられる.予後については,収縮機能の保持された心不全のそれは従来考えられていたように収縮不全に比べて明らかに良好であるわけではない.したがって今後は,予後の改善,心不全入院などの予防のための治療を考慮していく必要がある.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1193-1197 (2006);
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拡張不全の治療は,拡張不全をきたしうる高血圧,糖尿病,高脂血症においては生活習慣の是正,食事療法,運動療法に加えて,適応があれば薬物療法を実施するが,高血圧ではACE阻害薬またはARB,長時間作用型Ca拮抗薬,β遮断薬,高コレステロール血症ではスタチン,2型糖尿病ではインスリン感受性増強薬(体液貯留によるうっ血に注意)に拡張障害改善の臨床または基礎的データが存在する.このなかで,スタチンは収縮不全のみならず拡張不全に対する効果も期待され,さらなる検証が待たれている.拡張機能の制御には,(冠)血管eNOS由来のNOも深く関与していると考えられる(上記薬剤に加えてKATP開口薬,ナトリウム利尿ペプチドもあげられる).しかし,臨床的に拡張不全の改善にいかに寄与するかについては不明の点も多く,今後のさらなる検討が必要である.
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心不全における不整脈の発症機序と治療戦略
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医学のあゆみ 218巻14号, 1201-1206 (2006);
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心不全においては心筋細胞のさまざまなイオンチャネルの量的変化が起こり,電気生理学的特性が変化して,リエントリーあるいは異常自動能の亢進による不整脈が起こりやすい状況となっている.心不全に伴う不整脈はしばしば治療抵抗性であり,抗不整脈薬を用いたdownstream approach(下流療法)は無効であるか,ときにはむしろ生命予後を悪化させることもある.心不全に伴い交感神経系,レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系,エンドセリン系などの神経液性因子が活性化することが知られているが,これらを拮抗薬を用いて制御するupstream approach(上流療法)は心不全そのものの治療ばかりでなく,イオンチャネルのリモデリングを軽減し,重症不整脈の発生を抑制する可能性がある.今後,イオンチャネルのリモデリングの細胞内機構が解明され,より有効な治療手段の確立が望まれる.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1207-1212 (2006);
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心不全発現過程では,心機能が保持されているにもかかわらず致死性不整脈を合併することが多い.不整脈の発生・維持に関与する因子のひとつとして,心筋細胞や間質組織の変化による構造的リモデリングやさまざまなイオンチャネルの変化による機能的リモデリングが考えられている.心筋細胞間の興奮伝播はgap junctionを介して行われ,隣接する細胞間を種々のイオンや情報伝達物質が交通し,心筋細胞の正常な興奮伝導はgap junctionに依存していると考えられている.虚血心筋細胞,肥大心筋細胞,不全心筋細胞,さらにはリモデリングをきたした心臓ではgap junctionに質的・量的変化が生じ,回帰性不整脈の一因になると考えられている.心不全での不整脈基質としてgap junctionの質的・量的異常の関与が明らかにされること,さらにgapjunctionを調節する新しい不整脈治療法の開発が期待されている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1213-1216 (2006);
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心不全患者の突然死・心室性不整脈の予防・治療にはβ遮断薬,アンジオテンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬および抗アルドステロン薬による上流治療が必要である.さらに,低カリウム血症,低マグネシウム血症などの電解質異常の是正も有効である.大規模臨床試験によると,現在植込み型除細動器に勝る抗不整脈薬はないが,無症候性の非持続性心室頻拍を合併した非虚血性拡張型心筋症患者においてはアミオダロンに予後改善効果が期待できる.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1217-1221 (2006);
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心不全患者における不整脈の治療は重要な問題であるが,頻脈性不整脈を伴った心不全患者においては,その診断にかならず頻脈依存性心筋症を鑑別にあげる必要があると考えられる.心機能が低下している場合,抗不整脈薬の安易な使用はかえって心不全を悪化させたり,抗不整脈薬の催不整脈作用によってむしろ病態や生命予後を悪化させるおそれがあると考えられることから,カテーテルアブレーションによる非薬物療法が重要な意味を有すると考えられる.また,心不全に合併した致死性不整脈治療においては,カテーテルアブレーションによる致死性不整脈の治療が著効する症例も多く存在すると考えられるが,現時点では致死性不整脈に対するカテーテルアブレーション治療はあくまでもチャレンジングな治療であるため,かならずICD植込みを要することが前提である.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1222-1226 (2006);
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慢性心不全患者においては30〜50%が突然死するといわれており,予後の改善には心不全死のみならず突然死への対策が重要である.β遮断薬やアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアミオダロンは突然死のリスクを低下させると報告されているが,それらの効果は十分ではなく,心不全患者における突然死の予測が困難な状況では植込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)が不可欠な治療法となっている.欧米で行われた大規模試験では突然死の一次予防,二次予防を問わずICDの有効性が明らかとなっており,その適応が拡大している.また,心不全患者においては心室内の伝導障害に伴う心収縮の同期障害が存在することがあり,両心室ペーシング機能を合わせもったICDが欧米では普及している.欧米ではICDの適応が拡大しているが,医療費の問題を考慮すると,今後はわが国における適応,すなわち心不全患者においての突然死のリスク評価が重要になると考えられる.
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心不全の薬物療法に関する最近の進歩
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医学のあゆみ 218巻14号, 1229-1234 (2006);
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アルドステロンは心血管リモデリングを引き起こすが,その作用に関する重要な共役因子を見落としてはならない.それは食塩であり,アルドステロンの心筋傷害には食塩の存在が不可欠である.アルドステロンそのものは心血管系にかならずしも悪い作用をするのではなく,高食塩下ではごく短時間の間,抗細胞脱水作用(細胞保護作用)を示すことがわかった.しかし,長期にアルドステロンが高食塩下で心筋に作用すると細胞は著しく肥大する.この一連の作用は,Na+/H+exchanger 1(NHE1)と密接な関係にあることが示唆された.興味深いことに,MR阻害薬はアルドステロンの悪い作用(心肥大作用)を抑制しても,好ましい作用(抗細胞脱水作用)を阻害することはない.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1235-1239 (2006);
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心不全の薬物療法において,レニン−アンジオテンシン系(RAS)を抑制する薬物であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬や,アンジオテンシンⅡ1型(AT1)受容体拮抗薬(ARB)がおもに使用されている.また,ACE阻害薬やARBは降圧効果以外にさまざまな作用が報告されており,その臓器保護作用を期待して使用されることが多い.ARBはACE阻害薬の副作用である空咳がなく,忍容性に優れるというだけでなく,ACE阻害薬と異なる薬理作用をもつ降圧薬として注目されている.そのようななかであらたに,著者らはARBの新しい薬理作用として,AT1受容体に対するインバースアゴニスト活性を報告した.ARBのインバースアゴニスト活性についてはまだ不明な点が多いが,インバースアゴニスト活性の有無が臨床においてどのような効果の違いを表すのか,ARBの多面的な臓器保護作用にどのように影響しているのかなど,今後明らかにされていくことが期待されている.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1240-1244 (2006);
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慢性心不全症例に対するβ遮断薬の投与は,現在ほぼ認知されてきた.当初は禁忌とされていた慢性心不全患者に対してもβ遮断薬の使用が推奨されるようになってきた.近年では軽症例から重症慢性心不全患者にまでその適応が広がりつつある.しかしその適応,薬剤クラス,投与後の副作用の出現には注意を要する.一方,血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)値の測定は,いまや日常の循環器診療には欠かせない検査となっている.心疾患のスクリーニング,心不全の重症度判定,治療効果判定などに有用な検査として利用されている.適正に用いれば,診断の感度や特異度ともに優れ,医療従事者のみならず,患者自身にも到達可能な治療目標を数値化して表すことができる.大いに励みになる臨床指標である.欠点は全症例に適応されるわけではない点にある.本稿では,BNPにガイドされた心不全診療での留意点をあげ,今後の展開についても言及した.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1245-1250 (2006);
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β遮断薬は慢性心不全患者の予後を改善する(死亡率を改善したり心事故を減少させる).ここで強調すべきことが2つある.ひとつは,これまでに示されたエビデンスが収縮不全を伴う慢性心不全におけるものであることである.もうひとつは,β遮断薬が不全心の特徴であるリモデリングを抑制するだけでなく,長期的には心臓のサイズを縮小し,収縮性を増強(逆リモデリング)させるポテンシャルをもつことである.拡張型心筋症のなかにはβ遮断薬によって左室駆出率(LVEF)が50%近くまで改善する症例があり,これまでLVEFが改善する症例をresponderと定義することが多かった.しかし,LVEFが改善した症例が突然死をきたすこともあり,LVEFの改善と予後や心事故の改善とはかならずしも一致しない.LVEFのresponderは左室にviableだが収縮の低下した心筋を多く含んでいる必要がある.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1251-1256 (2006);
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心不全患者にβ遮断薬を導入する際に直面するもっとも大きな問題点はβ遮断薬の陰性変力・変時作用である.極端な場合は,心不全増悪や顕著な徐脈をきたして有効とされるβ遮断薬治療が導入されずに終わることがある.この鍵を握る薬理学的特性がインバースアゴニズムである.この作用は内因性アゴニストとは無関係に受容体を活性型から不活性型にシフトさせることで定義される.この現象はβ遮断薬の“guanine nucleotidemodulatable binding”という現象やβアドレナリン受容体のupregulationの有無ということとも密に関係する.この作用はメトプロロールに顕著で,カルベジロールに少ない.重症心不全例にβ遮断薬を導入する際には,インバースアゴニズム作用の少ないβ遮断薬が望ましい.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1257-1261 (2006);
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慢性心不全の治療薬として予後およびQOLを改善することが証明されているのは,ACE阻害薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,抗アルドステロン薬,β遮断薬および硝酸薬である.これらの薬剤はそれぞれ独立してその効果をもたらすと考えられ,大規模臨床試験で得られたエビデンスとしては可能なかぎり上乗せしていくのが標準治療ということになる.ただし,個々の症例において認容性や有効性が大きく違うことが予想される.やみくもに上乗せするのではなく,種々の臨床所見,患者の治療に対する考え,希望なども加味したオーダーメイド医療を考慮すべきであろう.それが真のEBMである.
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心不全の非薬物療法
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医学のあゆみ 218巻14号, 1265-1270 (2006);
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外科的治療の適応となる慢性心不全には,進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの,虚血性心筋症(ICM)や拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性増悪など,多種多様の原因がある.このうち,ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全をきたしたものについては,長らく心臓移植のみが有用な治療法とされてきた.しかし,心臓移植ドナーのきわめて限られた状況から,そのほかの外科治療が試みられるようになった.ここでは左室形成術と補助人工心臓を用いた重症心不全治療について概説する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1271-1276 (2006);
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重症心不全患者にしばしば認める心室内伝導障害は左室収縮の同期不全を招き,その非協調的・非効率的収縮様式はポンプ機能を低下させる.両室ペーシングによる心臓再同期療法(CRT)は左室を2方向からペーシングすることによりこれを是正し,血行動態を改善する.CRTは,重症心不全患者の自覚症状,運動耐容能,QOLを有意に改善し,その継続は左室の逆リモデリングをもたらし,心不全入院頻度,死亡率を有意に減少させる.CRTの適応は,薬物治療によってもNYHAクラス㈽/㈿から改善しない左室駆出率≦35%,QRS幅≧130 msecの症例であるが,この適応での有効性は約70%である.無効となる理由として,1左室リード位置が不適切,2末期心不全,3左室自由壁に貫壁性梗塞巣を有する場合,4心室同期不全が軽度の場合があげられる.デバイスの進歩はめざましく,すでに除細動機能が付加されたCRT−Dが主流となり,肺うっ血などの生体情報モニタリング機能も充実しつつある.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1277-1282 (2006);
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心不全とは種々の原因により心機能が低下し,末梢組織の酸素需要に必要とされる血液を駆出できなくなった状態であり,すべての心疾患の示す終末的な病態である.近年の病態解析の進歩により,慢性心不全では交感神経系,レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系などの著明な亢進や血管拡張機能の低下が認められ,神経体液性因子や血管機能が複雑に関連しあった症候群と考えられるようになった.健常人にとっては,心身のリラックス効果や疲労回復にも有用である温水浴・サウナ浴も従来,心不全患者には禁忌または不適切とされてきた.著者らが10数年前から展開している温熱療法は,60℃の遠赤外線均等低温乾式サウナ浴と出浴後の安静・保温を連動させたもので,血管内皮機能を改善させ,神経体液性因子,交感神経系の異常亢進など,心臓を取り巻くさまざまな悪循環を是正し,心不全を改善させる.軽症から重症心不全患者まで幅広くかつ安全に施行でき,かつ医療費効率のよい包括的な心不全の治療手段である.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1283-1289 (2006);
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心不全とは,心機能障害により惹起される運動制限とうっ血症状を主体とする症候群であり,心臓突然死とともにすべての心疾患の終末像である.そのため,心不全の治療の第一は安静であり,労作は増悪因子として長い間禁忌と考えられてきた.実際,1988年のBraunwaldの教科書『Heart Disease』には,“うっ血性心不全治療の基本はスポーツや重労働を避け,家のなかで坐位または臥位の安静をとること”となっていた.しかし1990年代,運動心臓病学の進歩に伴い,慢性心不全患者に対し日常活動を制限することはかならずしも妥当ではないとする考え方が主流となった.さらに,適切な運動療法は患者のQOLならびに生命予後を改善する事実が認められ,2005年の慢性心不全の診断と治療に関するACC/AHAのガイドライン1)では,運動療法は利尿薬などと並んでclass㈵に分類されている.わが国においても2006年4月からは,心大血管リハビリテーションの適応に慢性心不全が収載された.そこで本稿では心不全に対する運動療法について,運動生理学的背景と実施方法について解説する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1291-1296 (2006);
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慢性心不全患者の約半数に睡眠呼吸障害(SDB)が観察される.これらは閉塞型睡眠時無呼吸と中枢型睡眠時無呼吸を伴うチェーンストークス呼吸に大別され,後者は心不全に特異的である.SDBは繰り返す低酸素血症,交感神経活性の亢進,心臓への前負荷および後負荷の増大などを介して心不全の病態を悪化させ,心不全患者の予後に影響を与えると考えられる.近年,慢性心不全に併存するSDBをあらたな治療ターゲットとしてとらえ,積極的に治療することの必要性を支持する報告が集積してきている.なかでも非薬物療法として夜間酸素療法や持続気道陽圧療法の有効性が示され,個々の心不全患者の病態に立脚した治療法として期待されている.しかし,いずれの治療法も長期予後に与える影響は明らかではなく,治療適応や治療法の選択に関して議論の余地が多く残されている.適正な治療の確立に向けて,さらなるエビデンスづくりが必要である.
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最近のトピックス
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〔心血管再生療法〕
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医学のあゆみ 218巻14号, 1299-1303 (2006);
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循環器領域における再生医療の興隆は,以前にはなかった細胞移植療法という新しい分野を切り開き,とくにこの領域での先がけである血管再生に関しては血管内皮前駆細胞の発見以来,数多くの知見が集積している.臨床的にも下肢虚血疾患や虚血性心疾患において血管再生現象として観察され,有効な治療法として証明された.一方で,不全心における心筋細胞自体の脱落には病的組織を直接修復できるような治療が望ましいが,骨髄細胞を用いた検討ではその心筋再生能はきわめて低い.これに対し,近年,自家骨格筋芽細胞を用いた臨床試験が欧米を中心に行われ,有効な生着と心機能の改善が報告されているものの,やはり心筋細胞自身の再生ではないため,致死性不整脈誘発の危険性などが指摘されている.本稿では重症心不全に対するこれら骨格筋芽細胞移植療法と,近年徐々に注目されてきた骨格筋由来幹細胞による細胞移植療法の可能性について報告する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1305-1308 (2006);
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難治性心不全の新しい治療法として,心筋再生療法が注目されている.心筋再生にはES細胞や各種の幹細胞が細胞源として期待されているが,癌化や心筋以外の細胞へ分化してしまうおそれがあるなど,まだ多くの問題が未解決である.著者らは心筋細胞自体を増殖させることにより,リスクの少ない心筋再生治療が可能ではないかと考え,研究を進めてきた.その結果,最近,心筋細胞で細胞周期を回して心筋細胞を増殖させることに成功した.本稿ではその結果の一部を紹介し,新しい心筋再生療法の可能性について解説する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1309-1314 (2006);
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G−CSFは,皮下注射するだけで骨髄中の血管内皮前駆細胞を末梢血に動員する作用を有する造血性サイトカインである.動物実験では血管の新生を介して虚血を軽減したり,心筋梗塞後の心機能を改善させることが示されている.さらに,治療の手軽さゆえ,すでに臨床応用へ向けて重症冠動脈虚血や急性心筋梗塞の症例でその有用性を調べるための試験も行われている.しかし現在のところ,その効果については不定である.今後,基礎実験に戻っての詳細な機序の解明や,それに基づく高い有効性と安全性をめざした治療プロトコールの策定が望まれる.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1315-1319 (2006);
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心不全の原因の約半数は,虚血性心疾患によるものである.血管新生療法は,難治性虚血性心疾患に対するあらたな治療法として期待されている.血管新生治療法には血管新生促進因子の投与などさまざまな方法があるが,二重盲検臨床試験での有効性は十分に証明されていない.一方,近年の研究により骨髄細胞はさまざまな液性因子(VEGF,bFGF,PDGFなど)を産生すること,骨髄細胞中に含まれる未熟な幹細胞は血管内皮細胞などへ分化することが明らかになった.さらには虚血性心不全モデルに対する骨髄細胞移植による治療後の血流増加と心機能改善効果も証明された.現在までに自己骨髄細胞移植による血管新生治療は世界中で試みられ,良好な結果が報告されている.しかし,いずれの報告も小規模研究で短期間の観察にとどまるため,本治療の有効性と安全性の証明のためには大規模二重盲検臨床試験の実施が求められる.今後,自己骨髄細胞移植による血管新生療法は虚血性心不全に対する有効な治療法として期待されている.
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〔心不全発症の分子機序に基づいた先端的治療戦略〕
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医学のあゆみ 218巻14号, 1320-1326 (2006);
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近年,不全心では心筋細胞での筋小胞体を介するCa2+循環異常が心不全進行にきわめて重要であることが明らかになった.心不全動物モデルを用いた検討では,ウイルスベクターを用いた遺伝子導入により細胞内Ca2+循環の異常を是正すると,心不全の原因の如何にかかわらず,心不全進行が劇的に改善するという報告がなされた.その治療の分子標的として注目を集めているのが,筋小胞体上のCa2+循環制御蛋白である.本稿では,心不全治療の分子標的としての一連のCa2+制御蛋白に焦点をあてて,最近の研究について解説する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1327-1331 (2006);
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心筋細胞死による心筋細胞の脱落は,心筋リモデリングの進展および心不全発症の原因メカニズムとして重要である.心筋細胞死のメカニズムには大きく分けてアポトーシスとネクローシスがある.心負荷の増大により神経体液性因子や炎症性サイトカインが活性化し,それらの受容体を介した刺激が心筋細胞内シグナル伝達機構により伝えられ,最終的にカスパーゼなどのアポトーシス実行分子が活性化して心筋細胞のアポトーシスが起こる.アポトーシスの発生を制御する細胞内シグナル伝達機構には,MAPK経路,JAK−STAT経路,Akt経路,プロテインキナーゼC経路などがある.一方,ネクローシスの発生を制御するシグナル伝達機構は長らく不明であったが,最近になりすこしずつ明らかとなってきた.これらの細胞死制御にかかわるシグナル伝達機構は,あらたな心不全治療の有望なターゲットであると考えられる.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1333-1337 (2006);
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レニン−アンジオテンシンおよび各種サイトカインに加えて近年,心不全・リモデリングの進展に酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが知られている.著者らは,心不全における酸化ストレスの産生の原因はミトコンドリアDNAが障害を受け,ミトコンドリア呼吸鎖の機能低下が原因であることを明らかにした.つまりミトコンドリアDNAを保護する,あるいは局所で産生された酸化ストレスを即座に消去する,といった方法があらたな心不全治療として考えられる.とくにミトコンドリア内に豊富に含まれるミトコンドリア転写因子A(Tfam)は,その過剰発現によりミトコンドリアDNAを保護し,心筋梗塞後のリモデリングを抑制し,マウスの予後を改善した.あらたな細胞内小分子をターゲットとしたレドックス制御による治療戦略を紹介する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1339-1343 (2006);
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生後まもなく分裂を停止する心筋細胞は,その後,いかにその細胞機能を維持したまま長年生存できるのか.心臓疾患にかかわる心筋細胞の生存や代謝を考えるうえでこの命題に対する答えは重要な意義をもつものと考えられる.分裂しない細胞においてそのゲノムは一生複製することがない.幼少時に心筋細胞核内にいったん合成されたDNAは半世紀以上にわたりその機能を維持し続けなければならない.このような特殊な環境におかれた細胞がいかに外部の障害に対処しているかは興味深い.本稿では,HB−EGFというEGFファミリーリガンドの機能解析を通じて心臓の代謝保護機構の一端を解説するとともに,ゲノムの構造そのものにかかわる分子と心筋代謝におけるかかわりを概説する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1344-1348 (2006);
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NF−κBは炎症反応の中心的な転写因子であり,ヒトの不全心において活性化されている.本研究では種々の心不全モデルにおいてNF−κBの活性化を抑制し,心不全治療のあらたな標的分子としてのNF−κBの可能性を検討した.その結果,NF−κBの活性化を阻止することでアンジオテンシンによる心筋肥大,心筋梗塞後リモデリングおよびTNF−αによる心筋障害が有意に抑制された.NF−κBは炎症反応だけでなく,心筋の肥大やリモデリングにおいても重要な役割を果たしており,心不全治療のあらたな標的分子となりうることが示唆された.
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〔遺伝子解析の新知見とその臨床応用〕
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医学のあゆみ 218巻14号, 1349-1354 (2006);
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わが国では近年,心筋梗塞などの虚血性心疾患が死因の上位となってきている.これらのcommon diseasesの原因は,生活習慣などの環境要因のほかに,遺伝要因も重要であることが最近の研究で明らかになりつつある.遺伝要因として一塩基多型などの遺伝子多型に関する研究が盛んに行われており,その手法にも候補遺伝子関連解析,全ゲノム領域関連解析,家系試料を用いた連鎖解析などさまざまである.疾患の発症に関与する遺伝子および遺伝子多型を発見し将来の医療に役立てるためには,それぞれの解析手法の長所・短所を理解し,多面的なアプローチを行い,より精度の高い研究を行う必要がある.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1355-1360 (2006);
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高齢化社会を迎え,循環器疾患の終末像である心不全患者数の増加が続いている.現在の慢性心不全治療はレニン−アンジオテンシン系抑制薬およびβ遮断薬を用いた薬物療法が中心である.しかし,現在の治療には限界があり,最終的には心臓移植に頼るほかない.心不全の発症予防および進行予防の開発が医学的にも社会的にも急務であり,心不全治療に対する新しい標的因子を探すことはきわめて有用かつ必要なことと思われる.21世紀に入り,DNAマイクロアレイに代表される新しい遺伝子解析法技術が登場し,遺伝子発現レベルを網羅的に解析できるようになり,臨床研究にも数多く応用されるようになってきた.著者らも,DNAマイクロアレイが登場した当初から循環器領域におけるマイクロアレイ解析を続けており,本稿においてDNAマイクロアレイを中心とした不全心筋の遺伝子発現レベルの解析について概説したい.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1361-1365 (2006);
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遺伝性不整脈という概念は比較的新しい.そもそも判然とした遺伝性がわかっていた不整脈はRomano−Ward症候群とよばれる家族性QT延長症候群であった.1990年代に入って分子遺伝学や遺伝子工学の急速な進歩がQT延長症候群にも応用され,1995年になって,その病因が心筋の興奮・伝導・収縮をつかさどる蛋白分子であるイオンチャネルをコードする遺伝子の変異により招来される機能障害であることが判明した.イオンチャネルの病気,すなわち“チャネル病”であることが明らかとなった.その後,従来,遺伝性がはっきりしなかったり,あまり議論されてこなかった不整脈についても,つぎつぎと原因遺伝子が同定されている.なかにはチャネル蛋白ではなく,細胞骨格,デスモゾームやカルシウム結合蛋白の遺伝子異常までがみつかってきている.ここではこれらの不整脈に関して現在行われつつあるゲノム解析を紹介する.
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医学のあゆみ 218巻14号, 1366-1371 (2006);
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特発性心筋症には肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症,不整脈原性右室心筋症などの異なる臨床病型があるが,最近の分子遺伝学的解析によってサルコメア収縮要素,Z帯構成要素,膜蛋白などの多彩な原因遺伝子の変異に起因しうることが判明しつつある.つまり,特発性心筋症はいずれの病型とも遺伝的に不均一な疾患であるといえる.また,それぞれの原因遺伝子変異の機能解析から,多種多様な病因変異が共通して筋収縮のCa感受性制御異常をきたし,このことが心筋症の病態形成に深くかかわることが明らかになった.さらに,たとえば心筋トロポニン㈵の変異が肥大型心筋症,拡張型心筋症,拘束型心筋症のいずれにも見出されるなど,原因遺伝子と臨床病型が1:1対応をしないことも判明しているが,このような臨床病型の多様性は遺伝子変異に起因する機能異常の特徴に基づくと考えられる.すなわち,同じ遺伝子でも変異が違えばまったく異なる機能異常をきたすために,違った病態を呈するものと推定される.