Volume 219,
Issue 9,
2006
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12月第1土曜特集【システム生物医学】
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introduction
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医学のあゆみ 219巻9号, 645-647 (2006);
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座談会
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医学のあゆみ 219巻9号, 629-644 (2006);
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システム生物医学の理論
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医学のあゆみ 219巻9号, 651-657 (2006);
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生物の特徴のひとつに,環境や変異などに対する対応力“ロバストネス(robustness)”がある.これは,生命を構成する個別の部品の特徴ではなく,それらの組み合わさった“システム”としての特徴である.本稿では,このロバストネスがシステムレベルでの基本的な原理を反映したものであるという考えに基づいて,生命システムの理論的側面を議論する.また,とくに最近のゲノムワイドな解析から明らかになりつつある大規模ネットワークの側面から,生物学的ロバストネスの基本的枠組みについても言及する.
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医学のあゆみ 219巻9号, 658-662 (2006);
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近年概日時計を構成する遺伝子(蛋白質)とシステムの同定が急速に進み,概日時計を積極的に制御することも現実的な課題として議論できるようになってきた.概日時計システムの制御のためにはその動作原理を正確に理解することが必要である.真核生物における概日時計の分子メカニズムとしては,時計遺伝子の転写・翻訳過程のネガティブフィードバック制御モデルが広く受け入れられている.しかし,原核光合成細菌であるシアノバクテリアの概日時計が3種のKai蛋白質とATPだけで再構成されうることが明らかになり,真核生物の分子モデルも再検討の必要に迫られている.本稿では哺乳類およびシアノバクテリアにおける概日時計の分子メカニズムについて紹介し,概日時計研究の今後の方向性について議論する.
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医学のあゆみ 219巻9号, 663-668 (2006);
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体節はマウスの場合2時間周期で形成されるが,この周期性は生物時計によって制御される.この生物時計の実体は長らく不明であったが,最近になって転写抑制因子がネガティブフィードバックを介して自律的にリズムを刻むことがわかってきた.さらに,このような数時間という短周期の生物時計が体節形成だけでなく,他の幅広い局面でも働くことが明らかにされてきた.本稿では,短周期発現リズムを刻む遺伝子について概説する.
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医学のあゆみ 219巻9号, 669-675 (2006);
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細胞のなかで,遺伝子あるいは蛋白質は,いつどこでどのようにふるまうことで複雑な生命現象を担っているのであろうか.この問いに対して蛋白質・遺伝子の相互の関係性,とくに分子間の相互作用を網羅的に調べ上げ,時間および空間的な相互作用の変化から生命現象を理解しようとするのがインタラクトームのアプローチである.自然言語処理を用いる方法を採用し,集めた蛋白質/遺伝子名に対してPubMedから相互作用を表す動詞について二項関係を網羅的に抽出,その二項関係を組み合わせた動詞ごとの相互作用ネットワーク,および全動詞を重ね合わせた全相互作用ネットワークを構築した.そのスケールフリー性をグラフ理論的に解析した.HUVEC細胞のマイクロアレイ実験による詳細な時系列遺伝子発現データから得られる相関関係を,文献からの全ネットワークにマッピングしたところ,時間ごとに機能的にまとまった確度の高い相互作用ネットワークを選び出すことができた.
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システム生物医学のための方法論
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医学のあゆみ 219巻9号, 679-683 (2006);
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マススペクトロメトリーの発展とともに,多数の微量蛋白質の迅速な同定が可能となってきた.この高感度分析技術を用いて網羅的な蛋白質の解析を行い,これまでのひとつの分子の振る舞いの記述により生命反応を説明しようとする生化学から,多数分子の挙動を一挙に分析して,ひいては生命現象の解析に迫ろうとするシステム生物学へのアプローチのツールとしてプロテオミクスを利用する試みがなされている.DNAアレイと異なり蛋白質の網羅的解析にはかなりの困難が横たわっているが,サンプルをカラム分画するとか抗体アフィニティーを用いて濃縮するなど,解析の対象を目的に応じてターゲットすることにより有用なプロテオミクス解析ができる.高親和性抗体と低ノイズビーズを用いて目的蛋白質をアフィニティー濃縮することにより,内在性蛋白質の複合体解析への道を探る.
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医学のあゆみ 219巻9号, 684-692 (2006);
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ゲノム配列にコードされる遺伝情報の読み出しに際してはゲノム配列自体には変化は伴わず,ゲノムメチル化やヒストンのアセチル化やメチル化のような修飾などのエピジェネティックな調節が重要である.転写開始点近傍のプロモーター配列と転写因子複合体の生体内相互作用,ヒストン修飾をはじめ,より高次の調節機構として核内ドメインのダイナミクスをはじめとするクロマチン構造変化を明らかにすることが,ゲノム機能調節機構を解明するために必要である.さらに,遺伝子発現のプログラムは細胞分裂を超えて維持される必要があることから,エピジェネティックな記憶の仕組みが必要であり,その代表がゲノムのメチル化である.エピジェネティックな調節機構に関する体系的な解析(エピゲノミクス)を中心に,転写調節の包括的解析(転写レギュローム)について概説する.
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医学のあゆみ 219巻9号, 693-699 (2006);
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システム生物医学を立ち上げるには,モデルに入力すべきパラメータを集める必要がある.しかし,信頼できるパラメータを用いずしてはどのような美しいモデルも砂上の楼閣である.本稿では蛋白の細胞内局在,量,活性などをどのようにパラメータ化していくかを概説する.とくに,螢光蛋白を用いて細胞内分子群の解離定数,酵素活性を生細胞で測定する手法について,著者らの手法をもとに述べる.
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医学のあゆみ 219巻9号, 700-704 (2006);
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ポリホスフォイノシタイドは哺乳動物で7種存在し,それぞれが特異的に結合するドメインを有し,それらのドメインをもつ蛋白質を膜にリクルートして活性化しさまざまな生理機能を発現している.代表的なドメインにPH,FYVE,PX,ENTHなどがあり,これらを有する蛋白質は数百を超える.ホスフォイノシタイドの細胞内局在もそれぞれの脂質に特有で,P(I 4,5)P2は恒常的に細胞膜に存在し,P(I 3,4,5)P3やP(I 3,4)P2は刺激に応答してPI3−kinaseの活性化によって細胞膜でつくられ,PDK1,AKT/PKBや低分子量G蛋白質の活性化因子のもつPHドメインに結合して細胞増殖,抗アポトーシスや細胞骨格再編を活性化する.このシグナルの乱れは,癌を誘発したり糖尿病の原因になったりする.P(I 3)PやP(I 4)PおよびP(I 3,5)P2などは細胞内小器官膜に存在し,それぞれの小器官特異的な機能をもつ蛋白質をリクルートする.これら特定のシグナル蛋白質の脂質との結合を抑制してシグナル伝達をコントロールすることで,癌や糖尿病または老化までを制御できるようになるかもしれない.
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疾患のシステム生物医学
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医学のあゆみ 219巻9号, 707-713 (2006);
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哺乳類の自然免疫のシステムは生体の感染防御に重要であるが,その分子メカニズムはここ10年ほどの研究で爆発的に理解が進んだ.しかし,いままでの方法論ではとらえきれない部分があり,システム的理解の必要性が指摘されてきた.本稿では現在までにわかっている自然免疫の分子メカニズムを概説し,さらにシステム生物学を用いたあらたなアプローチを紹介しながら,これからの自然免疫の研究においてシステム生物学が果たしうる役割について論じる.
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医学のあゆみ 219巻9号, 714-718 (2006);
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Alzheimer病(AD)患者脳に蓄積する老人斑の主要構成成分はアミロイドβ蛋白(Aβ)である.遺伝学・生化学的解析からAβ産生および蓄積がAD発症に深く関与していることが示唆されており,脳内におけるAβ代謝とその調節は,創薬標的分子機構と考えられている.したがって,Aβ量を低下させるような化合物は治療薬として有用と考えられているが,その副作用にも懸念が残されている.また,ADの早期診断をめざすうえで,脳内Aβ蓄積に伴うバイオマーカーの発見が期待されている.本稿では,Alzheimer病の治療・診断薬の創出にあたりシステム生物医学が果たすであろう役割について考察したい.
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医学のあゆみ 219巻9号, 719-722 (2006);
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血圧は多数の遺伝子の軽微な発現量の変化の組合せによって規定されるため,遺伝子背景の異なるヒトで個々の遺伝子の発現量の変化が血圧上昇の原因となっていることを明らかにすることは難しいことが多い.いままで多数のマウスモデルが作製され,いくつかの遺伝子でその軽度の発現量の変化が高血圧の原因になっていることが示されている.また,アンジオテンシン変換酵素(ACE)のように血圧の制御に重要でもその軽度な発現量の変化は血圧には変化を与えず,むしろ糖尿病性腎症など他の病気の発症・進展に影響を与える場合もある.したがって,いろいろな系の相互作用を理解することが,ただ単に血圧の数値を是正するばかりでなく,関連する代謝系,とくに糖尿病,肥満,高脂血症といった生活習慣病における制御系が適切に働くようにする治療を確立するために重要である.Stellaは,とくに洗練されたコンピュータプログラミングの知識がなくともコンピュータシミュレーションを可能とし,今後,システム生物医学の発展に役立つものと思われる.
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医学のあゆみ 219巻9号, 723-727 (2006);
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脊椎動物の身体支持や運動を可能とする硬組織である骨は,単なる無機的な構造物ではなく,つねに構築・維持されている動的な組織である.つねに古い組織が吸収され新しい骨が形成されるこの過程は,骨リモデリング(骨再構築)とよばれている.骨吸収をつかさどる細胞は破骨細胞とよばれる単球/マクロファージ系の特殊に分化した多核細胞である.一方,骨形成は間葉系由来の骨芽細胞によって担われる.この2種類の細胞はバランスをとって働いており,この骨リモデリングが環境の変化に対応して骨の強度を適切に保つために必須と考えられている.実際に両者のバランスが崩れると,さまざまな骨代謝疾患の原因となる.たとえば,破骨細胞の機能の低下は,大理石骨病(骨髄腔が骨基質で埋め尽くされてしまう疾患)の発症に直結する.また,破骨細胞の機能亢進は,関節リウマチや歯周病などの炎症性関節疾患にみられる骨破壊につながる.現代社会における大きな臨床的問題である骨粗鬆症には,骨芽細胞による骨形成の機能低下が主要因の低回転型と,破骨細胞による骨吸収がおもな要因である高回転型の2つの病態が知られている.したがって,破骨細胞や骨芽細胞の分化および機能にかかわる分子機構の解明は,基礎研究の分野はもちろんのこと,臨床における多くの問題の解決に重要な成果をもたらす.本稿では,破骨細胞のトランスクリプトーム解析の結果,明らかとなったマスターレギュレーターNFATc1の役割を中心に,破骨細胞および骨芽細胞分化のメカ二ズムを転写制御の観点から俯瞰したい1 3).
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医学のあゆみ 219巻9号, 728-736 (2006);
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血管系を構築する内皮細胞は1層からなるが,各臓器において微小環境因子の制御を受けて変動する非常に動的な性質を有する.おおかたにおいてこの変動は,自然免疫や創傷治癒など,生体内において必要であるが,恒常性の域を超えた場合,凝固バランス異常,白血球の接着,細胞の透過性や遊走能,増殖能の増大を引き起こし,最終的にこれらが過度の炎症,血液凝固,病的血管新生を誘発し,血管疾患に結びついていくことが想定されている.著者らは,これら外的刺激に伴う遺伝子変動の網羅的探索,時間的制御の比較解析から,これら活性化シグナルは転写カスケードを介して経時的に接着分子,増殖因子の発現誘導へと推移していくことを見出した.とくに刺激初期においてはトロンビンとVEGF(vascular endothelial cell growth factor)の共通反応として転写因子NF−ATの活性化があげられ,かつ活性化のフィードバック因子であるDSCR(Downsyndrome critical region)−1がもっとも強く誘導されてくること,DSCR−1が安定に存在した状態では血管新生,炎症を含む内皮の活性化状態を顕著に抑制することが示唆された.
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医学のあゆみ 219巻9号, 737-744 (2006);
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肥満に伴う末梢組織のインスリン感受性の低下を代償するために,膵β細胞はインスリン分泌を増加させるべく膵ラ島の肥大,分泌亢進が起こるが,その分子メカニズムは十分明らかとなっていない.著者らは食餌性マウスと通常食マウスの膵ラ島における遺伝子発現プロファイルの網羅的解析を行った.その結果,highmobility group(HMG)boxを有する転写因子ファミリーのひとつであるsex−determining region Y−box 6(SOX6)の発現量が,高脂肪食負荷マウスとob/obマウス由来の膵ラ島において顕著に減少していることを見出した.β細胞由来細胞株であるMIN6細胞にSOX6を強制発現するとグルコース刺激性のインスリン分泌が抑制されるのに対して,siRNAを用いてSOX6の発現を抑制するとインスリン分泌は増加した.SOX6は酸化的リン酸化酵素群の一部やインスリンの転写を抑制することで,細胞内ATP/ADP比およびインスリン含量を低下させ,最終的にインスリン分泌を抑制した.転写活性化因子と考えられていたSOX6は転写抑制活性を合わせもっていた.そこで,インスリンプロモーターを用いてSOX6の転写抑制機構を解析したところ,SOX6はβ細胞の分化,機能維持に重要な働きをする転写因子であるpancreatic−duodenal homeobox factor−1(PDX1)と直接結合し,その転写活性を抑制することが明らかとなった.以上の結果からSOX6とPDX1の協調的転写調節がインスリン抵抗性状態の代償性インスリン分泌亢進機構に関与していると推察された.
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医学のあゆみ 219巻9号, 745-753 (2006);
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癌は遺伝子異常が経時的に蓄積して発生するものと考えられている.異常をきたす遺伝子は増殖シグナル(Akt,GPCR),アポトーシス関連シグナル(TNF,Fas),細胞周期コントロールシグナル(G1−S transition,G2−M transition),DNA修復シグナル(ATM−ATR),発生関連シグナル(Hedgehog,Notch,Wnt,TGF−β)を伝達する経路に存在し,それぞれのパスウェイのなかで重要な位置を占めている場合が多い.シグナルは最終的には転写因子まで伝えられ,細胞機能を変える蛋白質群の産生がコントロールされていく.発癌に関与する転写因子は,スケールフリーの性質をもつ転写因子ネットワークのなかでハブという特別な性質を担っているものが多く,癌を転写因子病ととらえることが癌の理解や治療法開発に新しい視点を与える.