Volume 219,
Issue 13,
2006
-
12月第5土曜特集【うつ病のすべて】
-
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 883-889 (2006);
View Description
Hide Description
-
診断・臨床
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 893-897 (2006);
View Description
Hide Description
近年,マスメディアで盛んに“うつ病”を取り上げているが,いまだメランコリー型うつ病についての報道であることが多い.ところが,実際の臨床現場ではそのような典型的なうつ病がすべてでないことが,もはや精神科以外の科においても周知のこととなっているようである.極端な例では境界性人格障害のうつ状態やアルコール依存症のうつ状態でも,入院依頼の紹介状や診断書に“うつ病”あるいは“うつ状態”と書かれていることがまれではない.うつ病の概念は病前性格であるメランコリー親和型や執着性格1()「サイドメモ1,2」参照)との関連で論じられることが盛んな時代を経て,現在はそのスペクトラムが拡大し,百花繚乱ともいえるほどの多様な概念が存在している.とくに若年層から壮年ではメランコリー親和型は減少し,反対に他者配慮に乏しく,どちらかというと自己中心的,秩序や規則にとらわれず自由奔放,自責的ではなく他責的といった性格をもつうつ病が少なくない.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 899-904 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病のなかで双極性障害(躁うつ病)が典型例といわれるが,一方で最近は軽症うつ病が増加しているといわれる.この軽症うつ病とは抑うつなどの精神症状が顕著でなく,不眠,食欲不振,体重減少,身体各部の痛みなどの症状が前面に表現されている状態である.うつ病治療の専門科は精神科であるが,このような症状のため軽症うつ病患者の多くは精神科以外のプライマリケア医を受診することが多いということが指摘されている.そしてプライマリケア医を受診したうつ病患者の半数が正しく診断されていない,また,正しく診断されたケースも適切で十分な治療を受けていない.そこで著者らは多くの施設の協力を得て,プライマリケア医用の“簡易うつ病評価スケール”を作成するためのパイロットスタディを開始した.“抑うつ”“興味の喪失”“自責感”の3項目にてうつ病の重症度を判定可能なことが示された.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 905-910 (2006);
View Description
Hide Description
GoldbergとHuxleyが提唱したディメンジョナル・モデルは,患者が精神医療サービスにたどりつくまでの受療パターンについて5レベルと4フィルターを想定しており,プライマリケアの精神疾患の実体をとらえるにはこのモデルは有用である.このなかで第2フィルターにおけるプライマリケア医の精神疾患についての認知を高めることや第3フィルターにおいてプライマリケア医から精神医療サービスへの紹介が適切に行われることが求められる.地域社会や一般診療科受診者における精神疾患をもつ人びとのための適切な対処と支援のために世界保健機関(WHO)は“プライマリケアにおける精神疾患と診断と診療指針”(ICD−10/F;PC)や“プライマリケアにおける精神疾患の診療パッケージ”を開発している.また,プライマリケア医における精神疾患の認識と診断に有用な簡易構造化面接法としてMini−international Neuropsychiatric Interview(M. I. N. I.)がある.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 911-916 (2006);
View Description
Hide Description
本稿では症状評価方法について概説し,続いてうつ病の症状評価と評価尺度について要約する.個別の治療経験を共通した知見として蓄積し,医学のなかで体系化していくためには,標準化された基準で症状評価を行うことが望ましく,そのためには評価尺度が用いられる.ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)は40年以上にわたり広く用いられてきたうつ病の重症度を評価するための評価尺度であるが,DSMの診断基準を網羅していないなど,限界も指摘されている.一方,抗うつ薬の効果を鋭敏に検出できるように症状項目の選択が行われたMontgomery−Asbergうつ病評価尺度(MADRS)は,身体症状の影響を極力除外して,うつ病の精神症状を重視したスケールである.これは構造化面接ガイドSIGMAを用いることで,評価者間信頼性の高い均質なデータの得られることが示されている.このほか,自己記入式のうつ病評価尺度としてはBeckやZungらが開発したBDIやSDSが広く用いられている.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 917-922 (2006);
View Description
Hide Description
今日的なうつ病の概念は多様化しており,うつ病における診断・治療における種々の問題点が明らかになってきている.そのなかでも,もっとも重要な問題は単極性うつ病と双極性うつ病の鑑別である.精神疾患の診断基準として頻用されている操作的診断基準であるDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:㈿th Edition(DSM−㈿−TR)においては,感情障害のなかに,双極性障害と単極性障害の2つのカテゴリーとして分類が行われている.しかし,初回エピソードがうつ病相の場合,その鑑別が非常に重要な問題となる.双極性障害と単極性障害では薬物療法やその他の治療法が異なり,最初の段階での誤診はその後の予後に大きく影響するからである.本稿では,双極性うつ病および単極性うつ病の鑑別およびそれらの疫学的データについて報告したい.
-
疫学
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 925-929 (2006);
View Description
Hide Description
世界各国における地域住民中のうつ病の頻度に関するこれまでの疫学調査からは,うつ病を過去12カ月に経験した者の割合(12カ月有病率)は1〜8%,これまでにうつ病を経験した者の割合(生涯有病率)は3〜16%であり,うつ病は頻度の高い疾患であることがわかる.わが国の最近の疫学調査ではうつ病の12カ月有病率は1〜2%,生涯有病率は3〜7%であり,欧米に比べると低いが,なお高頻度の疾患であるといえる.うつ病は一般的には女性,若年者に多いが,わが国では中高年者でも頻度が高く,うつ病の社会経済的影響および自殺リスクへの影響は大きい.しかし,うつ病の経験者中,医療機関を受診した者はわが国では27%(うち精神科医を受診した者は14%)と,アメリカに比べて約半分である.うつ病の予防と早期受診の促進が重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 930-934 (2006);
View Description
Hide Description
日本と諸外国のうつ病における性格と症状との相違を検討する.性格面では両者に共通する次元レベルでのパーソナリティ特性として“対人面での過敏性”,“他者への依存性”が確認できた.症状面では不安,喜びの消失,緊張,意欲の欠如,興味の喪失,集中力低下,不全感,不適切感,無価値感などが共通して認められた.一方,罪責感を訴える患者の比率に相違は認めないが,その内容,とくに罪責感を示す対象には文化的な差異が認められ,日本ではより対人的葛藤が問題となっていた.身体症状は西洋対非西洋社会という構図での差異は認められず,受療場面における患者−医師関係などの医療制度が未整備な地域で身体症状の頻度が高かった.今後,比較文化的な検討を進めていくには,生物−心理−社会的な要因を評価できる共通の客観的指標の開発が必要とされている.
-
薬物治療・他
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 937-942 (2006);
View Description
Hide Description
現在わが国では3剤の選択的セロトニン再取込み阻害薬と1剤のセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬の合計4剤が,いわゆる新規抗うつ薬として臨床で使用可能である.この2種類の抗うつ薬はすでに海外では合計9剤用いられており,さらに異なった作用を有する抗うつ薬が5剤上市されており,わが国では1/3以下の新規抗うつ薬しか使用できないのが現状である.新規抗うつ薬が上市されにくい原因として,海外にならった臨床試験制度を導入したものの,実際にそれを行う臨床現場がなかなか臨床試験を遂行できないことや,プラセボ対照試験に関する種々の問題などが考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 943-948 (2006);
View Description
Hide Description
抗うつ薬のプラセボに対する優越性は,再現性高く示されているわけではない.したがって,うつ病における非劣性試験において事前に非劣性マージンを設定する根拠は脆弱といわざるをえず,プラセボ群を含まない実薬のみを対照とした非劣性試験から得られる試験結果は,無効同等の可能性が否定できない.したがって,科学的により頑健な形で薬効を検証するためには,抗うつ薬開発においてはプラセボ対照試験を行う必要があると考えられる.また,日本でプラセボ対照比較試験を行うことは,開発,審査を科学的かつスムーズに実施するというだけではない
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 949-953 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病の薬物療法において,薬の開始や中止のタイミングや薬物の選択に関する判断は重要なポイントである.近年,精神科領域でもEBMの実践が意識され,うつ病治療に関してもガイドラインやアルゴリズムが作成され,医療の質の向上や平均化が期待される.現在のうつ病の薬物療法に関して,とくに単極性うつ病に対する抗うつ薬の開始と,その後の変薬・追加について,さらに中止(維持療法)について主要な点をまとめる.一方で,これらの指針が単なるマニュアル化しないためには,主治医が個々の患者と向き合い,コミュニケーションをはかって治療関係を確立することが不可欠である.治療を成功させるためには患者の話を十分に聞いてその患者の背景を知ること,また,患者やその家族に対する心理教育的アプローチが重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 955-962 (2006);
View Description
Hide Description
難治性うつ病は,作用機序の異なる2つ以上の抗うつ薬を投与しても改善が得られない治療抵抗性うつ病とする定義が一般的で,うつ病の10〜20%程度に認められ,近年注目を集めている.難治性うつ病に対する治療法として,抗うつ薬にリチウム,甲状腺ホルモン,ドパミンアゴニスト,非定型抗精神病薬などを併用する増強療法や電気痙攣療法などが臨床使用されているが,その治療戦略に関しては,エビデンスに基づき治療を標準化するための十分な数の臨床研究はまだない.米国ではSTAR*Dプログラムによる大規模二重盲検試験に基づくエビデンスの蓄積が行われているが,日本では市販されている抗うつ薬の種類が少ないこともあり,難治性うつ病の臨床研究やアルゴリズム作成は遅れをとっている.わが国でも標準化された治療戦略を確立するため,エビデンスを蓄積していくことが緊急の臨床課題である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 963-968 (2006);
View Description
Hide Description
今年(2006),第3のSSRIであるsertralineが発売となった.さらに,mirtazapine,venlafaxine,bupropionなどの抗うつ薬が現在国内で開発中である.本稿では,これらの今後国内で承認される可能性のある新規抗うつ薬の薬理的・臨床的特徴と,今後期待される既存薬による増強治療を紹介する.アメリカで最近行われた大規模な臨床試験STAR*Dでは,SSRIとこれらの新規抗うつ薬を用いて薬物変更・併用の効果を系統的に検討し,個々の治療の反応率・寛解率が明らかになった.多様な作用機序の抗うつ薬を工夫してうつ病治療を行うことが,多くの患者を回復に導くうえで重要であり,今後本稿で紹介したさまざまな新規抗うつ薬・増強治療が,わが国で承認・適応拡大されることが期待される.
-
精神療法・他
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 971-975 (2006);
View Description
Hide Description
認知行動療法(CBT)はうつ病をはじめとするさまざまな精神疾患に幅広く適用される体系的な心理療法である.CBTではツールを使って問題の整理をしたり,さまざまな技法を患者に実践してもらったりするなどして,治療者と患者が協力しながら積極的に作業を進めていくことがその最大の特徴である.CBTではまず,基本的なモデルを使って患者の問題の全体像を循環的に把握するというアセスメントの作業が行われる.うつ病の病態は多様であるので,うつ病に対するCBTではまず,アセスメントを通じて個々の患者に特有なうつのあり方を正確に理解することが行われる.つぎに,患者自身がCBTのモデルや諸技法を身につけることをめざす.なぜなら,うつ病は慢性化や再発を招きやすい疾患であり,患者自身がCBTの考え方や技法を身につけ,維持期や治療終結後に自助のためにCBTを実施し続けることが再発予防に役立つことが諸研究により確かめられているからである.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 976-983 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は過去20年間に拡大し,治療方法と患者数,うつ病を認識し治療する医師の数は倍以上に増えた.この20年間の変化は,新規抗うつ薬,認知行動療法が“バブル的”な拡大と普及を遂げた時期と特徴づけることができる.DSM−Ⅲが登場し,うつ病の病因に関するセロトニン仮説と認知モデルが提唱され,プラセボ対照無作為割付比較臨床試験(randomized controlled trial:RCT)によって裏づけを得た治療法が続々と現れた.疫学調査からは,うつ病の大半が見すごされており,実地に行われている治療の大半は根拠に従っていないと批判された.理想的な治療を普及するために治療ガイドラインがまとめられた.選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)と認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)はガイドラインの主役になった.そして,21世紀に入ってからの数年間,この“バブル”は批判的に吟味されはじめた.都合の悪い結果を無視できなくなったのである.最近になればなるほど,RCTにおいてプラセボ反応が増大した.また,セロトニン再取込み阻害も認知の特異的な変容もうつ病から回復するための必要条件ではないことがわかったのである.本稿では過去20年間の知見について批判的に考察する.そして実地の医療における臨床判断はどうすればよいか,うつ病の大多数の患者が受診するようになったプライマリケアや外来精神医療における薬物療法と精神療法はどうあるべきかを検討し,薬の定期的・計画的な服用と快感を伴う活動が自然に増える方向に援助することの必要性についても論じる.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 984-988 (2006);
View Description
Hide Description
近年,副作用の少ない新しい抗うつ薬が使われるようになり,うつ病の治療は進歩している.しかし,なかには遷延化し,再発することも多い.そういった例は家族背景に問題がみられることが多いため,家族に対するアプローチも大切である.本稿ではうつ病患者を抱える家族の特徴について触れ,必要な対応について実際の臨床で著者が指導している内容を示した.具体的にはうつ病は経過によって対応を変えることが必要であり,初期は患者が休めるように協力してもらうこと.病状には波があるため一喜一憂しないこと.そして患者が回復し家族が安心したころ,自殺に至る場合があるため患者への注意を続けてもらうこと.ある程度回復し,患者自身で身のまわりのことや簡単なことができるようになれば,できるだけ自分のことは自分でするように背中を押してやること.そのことで自尊心の回復を促せることなどを伝えるようにしている.そして,このような指導をしていくことは,薬物治療が容易になったとしても忘れてはならない治療のひとつである.
-
サポート・医療環境
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 991-995 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病については実証的な事実が蓄積されつつある一方,臨床現場での治療的対応はまだまだこれからである.とくに適切な入院施設がわが国には圧倒的に不足している.その不備に対応しているのが,うつ病専門の入院施設であるストレスケア病棟である.現在,日本ストレス病棟研究会が受け皿となり,治療的・実践的な体制を整えようとしている.うつ病患者の入院には医学的観点のみならず,患者の社会的状況,心理的要因などが複雑に絡み合い,一筋縄ではいかない.専門精神科医の正確な診断と適切な治療導入が患者の利益に大きく貢献する.専門的対応を受けなかったばかりに起こる悲劇は看過できない.うつ病専門施設として必要な時期に必要な患者を入院させることのできるストレスケア病棟を組織化していくためには,各医療施設の意識改革とともに,法律上・行政上の後押しも必要であろう.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 997-1001 (2006);
View Description
Hide Description
精神疾患のために長期間会社を休務している企業社員が職場復帰する際の,精神疾患の再発を防ぐためには,リハビリテーションプログラム(職場復帰援助プログラム)が必要である.NTT東日本関東病院精神神経科では,1997年から週4日の職場復帰援助プログラムを行っている.プログラムの目的は,1生活リズムの改善,2作業能力の改善,3参加者どうしの心理的な支え合いであり,スタッフは参加者がより適切な認識をもてるようにサポートし,また参加者の状況について客観的な評価を行う.職場復帰援助プログラムにおける対人関係への働きかけとしては,認知や行動に焦点をあてた集団認知療法プログラムがある.プログラムはスタッフが作成したテキストによる講義,グループディスカッション,ワーク(課題作業)から構成される7回のセッションで行われる.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1002-1006 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病や不安障害で仕事を休む会社員の増加が著しいといわれている.虎ノ門にあるメンタルクリニックでの診療からみると,不安障害を基盤にして発症したうつ病が若い年齢層にきわめて多いことがわかった.仕事を休み自宅で静養を続けてもうつ病の症状が改善しても復職がうまくいかない場合が多いことから,病状の回復とともに虎ノ門までの通勤とその後の6時間30分のプログラムを用意したリハビリテーション(リワーク・カレッジ)を用意した.リワーク・カレッジを開始して1年7カ月間にこのプログラムを終了した100人を対象として解析した結果,このプログラムに耐えられるようになれば復職は比較的安全に行え,復職後の再休職も少なく,復職に際しての判定においても有用性があると考えられた.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1007-1010 (2006);
View Description
Hide Description
職域におけるうつ病ケアでは精神医学に基づく臨床的視点のほかに,労働安全衛生法および企業の責務である安全(健康)配慮義務も含めた視点が必要であり,秋山の稿,五十嵐の稿で述べられた職場復帰支援のほかに,うつ病の発症予防や早期発見・早期治療に結びつけるための教育や体制づくりが重要となる.職域でのうつ病ケアでは,職場で訴えられやすい症状について注意を払うことが大切であり,また治療においても眠気や集中力の低下といった副作用には十分注意する必要がある.さらに,EAP(従業員支援プログラム)など家族による気づきや支援を活用しながら効果的な早期発見・早期治療に結びつけるためのシステムづくりも重要である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1011-1016 (2006);
View Description
Hide Description
日本の産業界は成果主義導入,徹底したコスト削減,リストラ,海外生産によって業績を回復させた.しかし,職場生活はめまぐるしく変化して,労働者の心の危機が強まっている.職場の心の病は統合失調症,躁うつ病,人格障害などさまざまであるが,そのなかでうつ病が大きな問題になっている.実際,1998年以降,年間自殺者は一気に3万人を超え,うち労働者の自殺は約9,000〜8,000人で推移している.うつ病は有効な治療法が確立しているにもかかわらず,多くの労働者は適切な治療を受けていない.企業は,労働安全衛生法に基づく,“労働者の心の健康の保持増進のための指針について”によってメンタルヘルス対策を推進している.ポイントは,1 4つのケア(セルフケア,ラインケア,産業保健スタッフなどによるケア,事業場外資源によるケア)の推進,2労働者の家族による気づきや支援の促進などである.職場のうつ病対策は,予防対策から早期発見・早期治療の社内システムづくり,主治医と産業医との連携,職場復職支援対策,危機管理対策と多くの内容を含んでいる.具体的には,1社内の啓発・教育活動,2早期発見・早期対応・相談体制の仕組みづくり,3復職支援による長期休職防止,4上司・健康管理・人事労務部門の連携(三位一体支援体制)等である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1017-1021 (2006);
View Description
Hide Description
がん患者においては高頻度に抑うつが認められることが知られており,抑うつはQOLの全般的低下,がん治療に対するコンプライアンス低下,家族の精神的負担の増大,入院期間の長期化,自殺など多岐にわたる問題に影響を与えうることが明らかにされている.一方で,がん患者の抑うつはがん医療の現場で看過されやすいことも知られている.がん患者における抑うつ発現のメカニズムは明らかではないが,先行研究の結果から中枢神経系の機能異常に加えて患者に固有の心理社会学的側面,がんによってもたらされる側面が複雑に絡みあっていることが想定される.がん患者の抑うつ状態に対する精神医学的アプローチの中心は,一般の精神科診療と同様,精神療法と薬物療法であるが,いずれにおいても担がん状態を念頭においた柔軟な対応および応用が必要である.本稿では抑うつ状態を含めたがん患者の精神症状を早期に発見し,包括的にマネージメントするための“がん患者支援プログラム”について紹介する.
-
研究〔1〕基礎的・生物学的研究
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1025-1030 (2006);
View Description
Hide Description
気分障害の遺伝子研究は,病態仮説や治療薬の作用部位に基づいた候補遺伝子を解析する相関研究と,家系サンプルを用いて染色体上に効果の比較的強い感受性領域を絞り込む連鎖研究が中心に行われてきた.気分障害は生活習慣病などと同様に,複数の遺伝子と環境因子が絡みあって発症に至る“複雑遺伝疾患”と考えられている.Mendelの遺伝法則に従って遺伝するまれな疾患が単一の強い効果の遺伝子で発症するのに対し,複雑遺伝疾患では関与する多数の遺伝子多型の一つひとつの効果は弱く,一般人口にも広く分布していると考えられている.そのため,候補遺伝子研究では弱い効果の遺伝子を検出する感度を上げるために,複数の研究結果をまとめて多数のサンプルで検討するメタ解析が盛んに行われるようになった.メタ解析の結果,弱い効果のいくつかの遺伝子が脆弱因子として明らかになってきた.また,遺伝子研究の結果から気分障害と統合失調症の病態に共通の分子が関与している具体例も判明してきている.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1031-1034 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は遺伝子,性格,養育,ストレス,身体因,薬剤など,多様な要因が複雑にからみあって発症する症候群であり,その分子生物学的研究には多様な方法と視点が必要となる.セロトニントランスポーター遺伝子とストレス・養育要因との相互作用,セロトニン合成酵素のまれな変異との関連など,興味深い報告がなされたが,その後の追試では確認されていない.ストレス脆弱性にDNAメチル化の関与が疑われている.抗うつ薬の作用メカニズムの研究から,うつ病では神経細胞が形態レベルで変化しており,抗うつ薬がこれを是正するという仮説が提示され,現在この方向での研究が多く行われている.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1035-1041 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は慢性的なストレスを誘因として発症するストレス性精神疾患であり,ストレス応答において中心的役割を果たす視床下部−下垂体−副腎皮質系(HPA系)の機能亢進がみられる.この機能異常を調べる検査として,デキサメタゾン抑制テストやデキサメタゾン/CRHテストがあり,後者は感度の高い検査として近年注目されている.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1042-1046 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病の発症に前駆してストレス体験がみられることから,うつ病の病態メカニズムを解明する方法としてストレスを用いたうつ病動物モデルが考案されてきた.代表的なモデルとして強制水泳テスト,学習性無力,social defeatがあげられる.いずれのモデルも完全ではないが,病態モデルとしての表面妥当性,構成概念妥当性,予測妥当性を満たしている.強制水泳モデルでは急性の抗うつ薬投与によっても,うつ病類似の無動時間の短縮がみられることから,抗うつ薬のスクリーニングとして用いられている.学習性無力モデルも数日の抗うつ薬
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1047-1050 (2006);
View Description
Hide Description
抗うつ薬の臨床効果は,長期間の連続服用によりはじめて生じる.近年,遺伝子発現量を網羅的に解析する手法が開発され,長期間の抗うつ薬服用により生じる脳内変化を遺伝子の発現変化という形でとらえることが可能となってきた.現在,著者らはこうした手法を用いて,「真のうつ病治癒メカニズムの分子機構とは,機能蛋白質の発現を介した脳システムの神経可塑性変化・神経回路の再構築である」という作業仮説の検証を進めている.研究の進展により,より早く臨床効果が認められる新規抗うつ薬の開発が可能になることが期待されている.本稿では抗うつ薬の作用メカニズムにおける遺伝子発現変化に注目し,最近の知見を交えながら遺伝子発現情報を利用した新規抗うつ薬の開発について総説する.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1051-1055 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は生涯有病率が15〜30%とされているが,その病態はまだ明らかにはされていない.Positron emissiontomography(PET)やsingle photon emission computed tomography(SPECT)などの画像研究では,脳内の神経伝達物質受容体やトランスポーターを生体で定量的に測定することができ,病態解明への有力な手段のひとつとなっている.また,抗うつ薬によるトランスポーターの占有や神経伝達の変化を定量化することも可能である.装置の進歩と標識化合物の合成技術の向上によって,さらなる病態解明が進むとともに,治療効果の予測・判定や治療抵抗性のうつ病に対する新しい治療法の開発につながる可能性があり,今後さらなる発展が期待される領域である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1057-1062 (2006);
View Description
Hide Description
近赤外線スペクトロスコピィ(near−infrared spectroscopy:NIRS)は,光を用いて脳血液量変化を非侵襲的に計測することで脳機能を簡便に検査できる新しい脳機能画像検査法である.うつ病についてのNIRS研究では,前頭葉皮質の賦活反応性低下を示す所見が一致して報告されており,これはメランコリー症状を示す内因性うつ病の脳機能の特徴を反映する所見と考えられる.被検者への侵襲がまったくなく,自然な状態で検査ができるというNIRSの特徴から,うつ病をはじめとする精神疾患の診断・治療に有用な臨床検査としての発展が期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1063-1069 (2006);
View Description
Hide Description
薬物治療アルゴリズムの有効性を検討した統計的研究は,現段階ではTexas Medication Algorithm Project(TMAP)によるものが知られている.ここではTMAPの大うつ病性障害に対する薬物治療アルゴリズムの有効性を示した結果を提示したうえで,有用性と問題点について整理した.さらに,当施設ではSaitama MedecationAlgorithm Projec(t SMAP)という,うつ病に対する薬物治療アルゴリズムを導入しており,この使用経験を通した臨床への影響を紹介する.薬物治療アルゴリズムに対する批判はあるものの,治療手段のひとつであるにすぎないことを念頭において運用法を誤らなければ,有効な手段であると思われる.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1070-1074 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は長期間の治療を余儀なくされることの多い疾患である.その原因として,抗うつ薬療法が奏効しても何らかの微小な脳器質病変が残っていて再発しやすくなっている可能性はないのであろうか.この点を脳画像解析や死後脳解析により検討しており,前頭前野におけるうつ状態依存的機能低下の基盤に微細な神経発達障害や細動脈の微小な血管障害があることを明らかにしつつある.一方,辺縁系でも前部帯状回や @桃体・海馬の形態異常が遺伝的あるいは環境要因的因子の関与で生じていることが報告されている.この小論では,これらの微細な器質的異常の存在する脳部位の回路と視床下部−下垂体−副腎皮質系機能異常との関連から,うつ病態とうつ症状の発現機制について考察した.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1075-1079 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病において不眠はほぼ必発の症状であり,診断治療を行ううえでもっとも重要な症状のひとつである.不眠,あるいは睡眠の過剰などの睡眠障害は,アメリカ精神医学会の診断基準DSM−Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準1)においても重要な診断基準となっている.不眠は,抑うつ気分,悲哀感,興味の喪失,精神運動制止といったうつ病に特徴的な精神症状に先行して出現することが多い.また,うつ病の治療経過をみる場合でも,不眠の悪化・改善は臨床的に有用な指標となる2).睡眠の異常はうつ病の病態生理学的機序と深く関連している.不眠はうつ病の症状としての重要性だけでなく,うつ病の危険因子になりうることが示されている.不眠の既往のあるものは縦断的疫学調査においてうつ病に罹患する危険率が高いことが報告されている.睡眠ポリグラフを用いた研究では,うつ病において比較的特異的なレム睡眠の異常がみられることが報告されている.また,古くからある持続睡眠療法や断眠療法などのように,睡眠を操作することでうつ病の症状が改善することも知られている.最近ではうつ病に伴う不眠に対しては,睡眠薬を用いて積極的に治療したほうが不眠以外の抑うつ症状の改善が早いことが報告されている.このように,近年の睡眠医学の発展と広がりによって睡眠とうつ病について多くの経験的知見とともに,あらたな科学的知見が報告されるようになった.しかし,これらの睡眠医学的なうつ病研究においても,睡眠とうつ病の本質的な関連についての理解を示すには至っていないのが現状である.そこで本稿では,うつ病の症状としての不眠の重要性,うつ病の睡眠脳波異常と病態理解,うつ病の危険要因としての不眠,睡眠操作による治療の進展に焦点を当て展望する.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1080-1084 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は,環境要因,生物学的要因,性格特性,遺伝子要因などの多数の因子が患者個々に複雑に関与して発症する.抗うつ薬に対する反応性の個人差も患者側の複数の因子により規定されると推測される.しかし,発症や薬物反応性に各因子が相互にどのように関連し,どの程度の重みで寄与するのかは明確ではない.本研究ではうつ病患者と健常人の臨床情報,性格特性,遺伝子多型などを調査し,多数の因子の寄与度と関連性を同時に解析できる多変量解析の手法を用いて,うつ病発症や抗うつ薬反応性に関連する因子を抽出した.その結果,うつ病発症には強
-
研究〔2〕心理・社会的研究
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1087-1092 (2006);
View Description
Hide Description
1998年の自殺の急増以来,自殺予防対策およびうつ病対策が,わが国の健康政策の重要課題となった.秋田県は自殺率全国一が10年以上続いているため,2000年以来,自殺予防対策を積極的に進めてきた.秋田県の自殺予防対策では,啓発普及や相談体制の充実といった一次予防重視の施策と,自殺予防モデル事業の推進が大きな役割を果たした.啓発普及対策は,住民のメンタルヘルスリテラシーの向上や自殺に対する偏見の除去を介して,自殺率の減少に寄与しているのではないかと推測された.また,一次予防と二次予防を併用した自殺予防モデル事業では,4万人強という大規模集団を母集団として扱うことが可能になった.その結果,介入の早期から自殺対策の地域介入の効果を統計学的に検証することが可能になった.モデル事業を実施した6町の平成16年(2004)の自殺率は平成10〜12年(1998〜2000)の自殺率の平均値と比較して,53%の減少を示した.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1093-1097 (2006);
View Description
Hide Description
自殺者は8年連続して3万人を超えて推移しており,自殺対策は火急の課題である.自殺対策にあたっては多角的な検討と包括的な対策が必要であるが,わが国では複合的自殺対策に関する研究および施策はいまだ不十分な現状にあるといえる.厚生労働省は平成17(2005)年度から厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「自殺対策のための戦略研究」を実施した.戦略研究の目的は,全国の先駆的な自殺対策を踏まえて大規模共同研究を開始し,効果的な支援方法に関するエビデンスを構築し,今後の政策立案に役立てることである.現在,複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果に関する地域介入研究(研究リーダー:大野 裕),自殺企図の再発防止に対するケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究(研究リーダー:平安良雄)の2つの戦略研究課題が実施されている.本稿では,主に「複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果に関する地域介入研究」の概要について解説を行う.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1098-1102 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病に対する精神科の標準的な治療法として薬物療法,認知療法や対人関係療法などの精神療法,電気痙攣療法などがあげられる.しかし,精神科の日常臨床に携わっていると,入院するほどではないが抑うつ症状が数年にわたり,完全には改善しないという患者に出会うのはまれなことではない.患者のなかには,長期にわたり外来レベルの抑うつが続いている者から,その経過のなかで入院治療が必要だった時期があった者まで,あるいは精神科治療をはじめて受ける者から,薬物療法をはじめとする治療を長期間受けているが症状が消えない者までさまざまである.このような慢性化した抑うつ症状に対してMcCulloughが考案した精神療法(CBASP)が高い治療効果を発揮することが2000年5月,『New England Journal of Medicine』で発表された.本稿ではCBASP構築の基となっている慢性うつ病の病理に触れ,CBASPの治療原理を説明する.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1103-1107 (2006);
View Description
Hide Description
認知行動療法(CBT)は,認知療法の創始者Beckの考え方を基本にして,それに行動療法を組み合わせた治療法である.ところが治療を開始すると,うつ病者は思考・行動の抑制を中心症状のひとつとしているため,理屈でわかっていても行動の実践は容易ではない.そこで,実際に行動へ移せるためのプログラムとして開発されたのが,認知行動療法を中心としたデイケアである.週1回実施し,午前中にデイケア活動,午後はCBTを行っている.デイケアの内容は自律神経症状の緩和を期待できる気功・太極拳,達成感を味わい適度に身体を動かせる陶芸や手工芸,料理などを組み込んでいる.プログラムは3カ月1クールで,これまで3クールを終了した.新規修了した28人について開始前と修了時の心理テストの平均値を比較すると,客観評価および自己評価ともに著明に改善していた.これは認知行動療法にデイケア活動を組み合わせることによって慢性うつ病の回復が促進されたと考えられた.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1108-1113 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病経験者のうち,約3/4が医療機関を受診しない.うつ気分,興味の喪失,不眠,食欲低下,集中困難,身体がだるく重い,疲れが取れない,“死んだほうが楽なのではないか”と考える,といったうつ病の症状を長期間にわたって感じながら,なぜ彼らは受診しないのであろうか.このうつ病の大多数を占める“受診しないうつ”に関する調査研究はいまだ十分に行われていない.著者らの研究では,うつ症状を経験している人の90%以上が受診しないことが示された.さらに,抑うつ的な会社員男性はどこも受診せず,身近な人に相談することもなく,自分で解決しようとする傾向を強く示した.このようなうつ病の受診を妨げる要因の研究がさらに進められれば,効果的なうつ病治療と受診促進のために必要な啓発活動や援助方法が明らかになるであろう.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1114-1119 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病に対する集団認知行動療法(GCBT)は,薬物療法との併用で抑うつ症状の改善や再発予防に有効であることが報告されているが,わが国では実証的研究は行われていない.そこで,広島大学病院ではうつ病のGCBTプログラムを作成し,1グループ5〜6名のうつ病患者を対象に,12セッションのプログラムを施行した.さらに,GCBT前後で抑うつ症状,心理・社会的機能を評価し,GCBTの有効性について検討してきた.その結果,うつ病のGCBTは患者間のサポート機能,教育機能,強化機能が充実しており,抑うつ症状や心理・社会的機能の改善に有効であることが明らかにされた.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1120-1124 (2006);
View Description
Hide Description
ひきこもりは世界のなかでも日本特有の病理現象で,また現代日本におけるもっとも重大な精神保健問題である.事態は深刻で,少子化の背景にもなっており,日本の存亡にもかかわっている.事態が徐々に深刻化するため,支援を待っていられないと親が立ち上がり,2000年に“全国引きこもりKHJ親の会”が結成された.Kとは強迫性,Hとは被害妄想,Jとは人格障害を意味し,どういう状況でひきこもっているか示唆している.当事者は病識に乏しいが,親はその病理性をよく確認している.全国親の会の調査によると,ひきこもりの数は163万人と推測しており,実態調査での平均年齢は29.5歳となっている.ひきこもってしまった人の社会復帰は少なく,年々平均年齢は高齢化している.ひきこもりの70%に回避性パーソナリティー障害を伴う社会不安障害がある.ひきこもりの家庭はストレスフルな状況にあり,うつになりやすく,36%にうつ病の既往がある.うつ病になったときが治療の機会でもある.逆に自殺の危険性もある.親を殺害後,自殺するような悲惨な事件も起こるようになった.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1125-1128 (2006);
View Description
Hide Description
うつ病は身体疾患の発症因子となることを認識し,また身体疾患患者ではうつ病がよくみられることを念頭におくべきである.そして,うつ病が並存することにより身体疾患は以下のような影響を受ける.1身体疾患に対する治療意欲が低下する.2身体疾患の病態を悪化させる.3身体疾患を遷延化させる.4身体疾患の死亡率が高くなる.そこで,治療としては以下のことに注意が必要である.1うつ病の治療を遅らせると身体疾患の予後が悪化する.2うつ病と身体疾患は同時に治療する必要がある.3うつ病による自殺率はある種の疾患(末期腎疾患,癌,てんかん,AIDS)ではとくに高いので,注意が必要である.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1129-1132 (2006);
View Description
Hide Description
思春期は抑うつが発症しやすい時期である.現代では抑うつ性障害が増加し低年齢化する傾向がみられ,若者のうつやそれに伴う心理社会的行動が問題になっている.しかし,子どものうつに対する診断や治療は十分になされていない.成人期に対する予防的観点からも,多様な症状や併発障害に関する研究や対応が急がれるところである.本稿では抑うつ性障害の疫学的調査,症状,病気の経過,併発障害,治療などについて最近の出版物を散見しながら解説する.また,子どもの抑うつ傾向について小・中学生を対象とした著者らの調査を示す.今後の課題としては,“子どものうつ病”の定義や診断法を明確化すること,一般小児における前駆的徴候を見出して早期対応や予防的な方策を立てることである.今後に残された研究課題は多いので,早急な取組みや発展が望まれるところである.
-
Source:
医学のあゆみ 219巻13号, 1133-1137 (2006);
View Description
Hide Description
身体疾患患者の抑うつは軽症を含めかなりの割合になるが,ケアや治療の手が届いていないのが現状である.リエゾン精神看護は,一般科看護領域において精神看護の観点からケアを提案し,医療スタッフとともにホリスティックケアを展開する仕事である.抑うつは主要な対象のひとつであり,リエゾン精神専門看護師は見逃されているうつを早期に発見し,迅速にそれを提示し,看護ケアや治療につなぎ,チームで連携してケアを展開する.また,うつに関する看護師のアセスメント能力,ケア能力を高めるためにコンサルテーションや教育活動を行う.さらに,看護師自身の抑うつもケアの対象としており,看護師のメンタルヘルスを支援することを通して看護ケアの質を高める.日本の医療に絶対的に不足している心理的支援をいかに充実させていくか,リエゾン精神看護はその方法論のひとつである.