Volume 220,
Issue 1,
2007
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1月第1土曜特集【PPARと疾患】
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医学のあゆみ 220巻1号, 1-1 (2007);
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■基礎病態
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医学のあゆみ 220巻1号, 5-9 (2007);
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PPARは脂肪酸派生物などと結合してDNA配列に結合し標的遺伝子のmRNA発現を制御する核内レセプター型転写因子である.ヒトではα,β/δ,γの3種類の遺伝子が存在し,発現組織の違いからそれぞれ異なる生理作用を有する.またこれらは転写共役因子と相互作用することで遺伝子mRNA発現を制御するが,PPAR自体の修飾や細胞外シグナルによっても制御を受けることが知られている.本稿ではPPARの構造・機能について最近の知見も交え報告する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 10-20 (2007);
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肥満は先進諸国でもっとも罹患人口の多い現代病となっている.肥満は,高血圧・糖尿病・高脂血症などの原因として心血管病の発症を高率に引き起こすことから,発症の分子メカニズムの解明と治療法の開発がもっとも求められている.著者らは,メタボリックシンドロームの発症メカニズム,そしてこれを是正する治療法について,転写因子SREBPや核内受容体などさまざまな代謝の転写調節機構を個別に解明してきたが,持久運動あるいはカロリー制限時の遺伝子転写解析から,生活習慣病の発症のあらたな治療パラダイムをもたらす端緒的な成果を得ている.“センサー”となる転写因子・核内受容体の探索から得られたPPARperoxisomeproliferators activated receptorδを中心に,生理的機構と肥満・2型糖尿病を主症状とするメタボリックシンドロームへの治療の可能性について概説する.
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■PPARとメタボリックシンドローム
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医学のあゆみ 220巻1号, 23-26 (2007);
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PPARは脂肪細胞の分化誘導や脂肪酸代謝にきわめて重要な役割をもち,メタボリックシンドロームにおいてもインスリン抵抗性,脂肪毒性,ブドウ糖毒性を惹起する因子のひとつとして研究されている.PPARはそれ以外にもインスリン分泌や膵の線維化などに関与することが明らかにされており,PPARのアゴニストはインスリン抵抗性改善薬や抗高脂血症薬としてだけでなく,急性および慢性膵炎や膵癌の新規治療薬としても注目されている.
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医学のあゆみ 220巻1号, 27-32 (2007);
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わが国の死因の第一位を占める動脈硬化性疾患心筋梗塞,脳梗塞などの最大の原因は,糖尿病,高脂血症,高血圧,肥満が重積するいわゆるメタボリックシンドロームによるものと考えられている.2005年4月,わが国においてもメタボリックシンドロームの診断基準が策定され,動脈硬化のハイリスクグループを抽出し,生活習慣の改善を中心とした介入を行っていくための第一歩が踏みだされた.このメタボリックシンドロームの基盤病態は肥満に起因するインスリン抵抗性と考えられており,肥満によってインスリン抵抗性が惹起される分子メカニズムを解明し,個体のインスリン抵抗性を改善する治療法を確立することがきわめて重要であると考えられている.本稿ではPPARγを中心に,PPARとインスリン抵抗性を中心に概説する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 33-40 (2007);
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PPARsは脂質代謝,高脂血症,糖尿病,動脈硬化症治療のターゲットとして注目を集めており,PPARα,PPARγとPPARδPPARβが存在する.高脂血症治療薬として使われているフィブラートはPPARαのアゴニストであり,リポ蛋白リパーゼ活性の亢進,脂肪酸のβ酸化促進,アポ蛋白A−合成亢進を介した血清トリグリセリドTG低下作用,HDLコレステロールHDL−C増加などの作用がある.一方,PPARγは,インスリン感受性を亢進させ,糖尿病治療薬として使用されているが,高TG血症や低HDL−C血症の改善効果もある.
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医学のあゆみ 220巻1号, 41-45 (2007);
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Peroxisome proliferator−activated receptorγPPARγは主として脂肪細胞やマクロファージに発現する.そのアゴニストであるチアゾリジン薬は脂肪細胞の分化を促進し,小型脂肪細胞を増加させる.さらに,チアゾリジン薬は脂肪細胞やマクロファージからの種々のアディポカインの分泌を調節し,インスリン抵抗性,脂質代謝異常,炎症機転を改善する.このようにチアゾリジン薬には抗糖尿病作用に加えて抗動脈硬化作用や抗炎症作用などの多面的な効果がある.最近,2型糖尿病にピオグリタゾンを用いた大規模試験において心血管イベントの再発のリスクを低下させることが明らかにされた.また,2型糖尿病のハイリスク者からの糖尿病新規発症をチアゾリジン薬が有意に抑制するとのエビデンスが報告されている,膵β細胞の保護作用がその理論的根拠となりうるであろう.今後,さらなる臨床的エビデンスの蓄積が待たれる.
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医学のあゆみ 220巻1号, 47-52 (2007);
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メタボリックシンドロームから動脈硬化を起こす原因として,耐糖能異常や高血圧,高脂血症のそれぞれが独立した動脈硬化性疾患のリスクであるが,肥満に伴いアディポサイトカインの産生異常が起こり,血管内皮機能障害が全身の易炎症性・易血栓性を引き起こし,血管に対する直接作用によっても動脈硬化を引き起こす.PPARγは脂肪細胞だけでなく,血管内皮細胞,平滑筋細胞,マクロファージなどに発現し,チアゾリジン誘導体がこれらの細胞に直接作用し,PPARγの活性を増強させ,平滑筋細胞の増殖や炎症性サイトカインの産生を抑制し,単球・マクロファージの動員などさまざまな過程を抑制し,動脈硬化の進展を阻止させることが明らかになった.
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医学のあゆみ 220巻1号, 53-57 (2007);
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核内レセプターファミリーの一員であるPPARペルオキシソーム増殖剤応答性レセプターγは,脂肪細胞に顕著な発現を示し,そのコアクチベータの共役のもとに脂肪細胞分化に重要な役割を果たすことが明らかとなっている.また,糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体以外にも,食事性脂肪酸やさまざまな天然由来物質がPPARγのリガンドとして作用することも明らかとなってきており,薬物治療だけでなく食事療法の標的としてもPPARγの重要性が増してきている.さらに近年,コアクチベータ系による調節以外にもPPARγの転写調節領域のSUMO化がその活性調節に重要な役割を担っていることが指摘され,PPARγ−コアクチベータ系を中心とする脂肪細胞分化の分子機構がさらに詳細に解明されてきた.PPARγをキーステーションとして,肥満をベースとしたcommon diseaseに対するあらたな治療・創薬の標的が見出されることがおおいに期待される.
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医学のあゆみ 220巻1号, 58-62 (2007);
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核内受容体ファミリーに属するPPARは肝細胞やマクロファージに発現し,脂質代謝において中心的な役割を演じているが,血管内皮細胞や血管平滑筋細胞においても発現し,心血管リモデリングの調節にも重要であることが明らかにされてきている.PPARαとPPARγは,LXRαの活性化を介して,コレステロール逆転送系に重要な遺伝子の発現を増加する作用およびHDLの主要なアポ蛋白であるapoA,apoAの産生を増加することから,泡沫細胞の形成を抑制することが明らかにされている.最近,PPARαおよびPPARγの選択的アゴニストは異なる機構でマクロファージの泡沫細胞化を抑制することが明らかにされた.また,心筋PPARαの糖尿病に伴う脂肪毒性への関与やPPARγの心肥大抑制効果についての報告がある.
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■各疾患への最新アプローチ動向
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医学のあゆみ 220巻1号, 65-69 (2007);
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ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体peroxisome proliferator−activated receptors:PPARsはα,βまたはδ,γの3つのアイソフォームからなり,PPARαはミトコンドリアにおける脂肪酸のβ酸化に関与し,PPARγは脂肪細胞の分化やグルコース代謝の調節に重要な役割を果たしている.これまでPPARαはおもに肝,腎,筋肉で,PPARγは脂肪細胞で多く発現していると考えられていたが,最近になりPPARα,PPARγともに他のさまざまな組織でも発現していることが明らかになった.糖尿病薬のTZDsthiazolidinedionesはPPARγリガンドとして,高脂血症薬のfibratesはPPARαリガンドとして知られている.これらのリガンドは糖や脂質の代謝を調節するだけではなく他にもさまざまな作用を有し,心血管系疾患におけるPPARsの役割についてもしだいに明らかにされてきている.本稿ではPPARsと心疾患について最近の知見も交えながら概説する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 70-74 (2007);
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Peroxisome proliferator−activated receptorsPPARsは脂質・糖代謝だけでなく,最近はアレルギー疾患の治療ターゲットとしても注目されている.生体内PPARγリガンドとされる15−deoxy−Δ12,14−prostaglandinJ2 15d−PGJ2は,好酸球に対して複数の作用機序により異なる機能をもっており,アレルギー性炎症においてどのように機能しているかはまだ明らかではない.しかし,十分な濃度のPPARγの合成リガンドは,好酸球や他の炎症細胞に抑制的に働き,さらに気管支喘息の動物モデルに投与した場合の有効性が報告され,治療への応用が期待されている.一方,PPARαアゴニストもアレルギー抑制効果が報告されており,今後の研究の蓄積が望まれる.
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医学のあゆみ 220巻1号, 75-80 (2007);
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ラットなどの動物実験において,ある種の薬物投与によって肝肥大,肝内酵素の顕著な誘導,その薬物の長期投与によって肝癌が発生する.その変化の特徴は肝細胞内小器官ペルオキシソームの顕著な増殖である.薬物−肝ペルオキシソーム増殖−発肝癌の機構には,ペルオキシソーム増殖薬PPにより活性化される受容体PPAR,とくにそのサブファミリーであるPPARαが関与していることが明らかになっている.この現象は医薬品開発段階において,薬物の安全性評価とくに発癌性評価において注目されている.とくにラットにおけるこの現象がヒトにおいても起こるものかどうかを判断しなければならないが,これらに関するこれまでの知見について概説する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 81-86 (2007);
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Peroxisome proliferator−activated receptorγPPARγは核内受容体スーパーファミリーのひとつであり,リガンド依存的に標的遺伝子の転写活性を調節している.PPARγの生理的な役割はいまだ不明であるが,脂肪組織と並び,消化管,とくに大腸の上皮に多量に存在することが知られている.PPARγは大腸癌をはじめ種々の癌に多く発現しており,発癌メカニズムの解明にとどまらずPPARγを分子標的としたあらたな治療法の開発が進められている.PPARγと大腸癌に関するこれまでの報告を紹介するとともに,著者らの研究も含めた最新の知見と大腸癌の治療や化学予防に向けた臨床応用の現況を概説した.
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医学のあゆみ 220巻1号, 87-91 (2007);
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マスト細胞は高親和性IgE受容体FcεRをその細胞表面に発現し,抗原刺激に応じてヒスタミンやアラキドン酸代謝物などの炎症性物質を遊離する.Peroxisome proliferator−activated receptorγPPARγの内因性リガンドの候補と考えられている15−deoxy−Δ12,14prostaglandin J2 15d−PGJ2はPGD2の代謝物であり,マスト細胞は生体内におけるPGD2の主要な産生細胞である.近年,PPARγアゴニストがもつ抗炎症作用に関心が集まっているが,マスト細胞におけるPPARγの機能を報告した例はまだ少ない.本稿では,型アレルギー反応において中心的な役割を担うマスト細胞に対して,PPARγおよびそのアゴニストがどのような作用をもつのか検討した.
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医学のあゆみ 220巻1号, 93-98 (2007);
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アラキドン酸から生成されるプロスタグランジンPGは代表的な生理活性脂質である.15−deoxy−Δ12,14PGJ2はPPARの内因性リガンド候補として報告され,さまざまな生理作用が見出されている.この分子は種々の蛋白質のシステイン残基に共有結合することによりPPARγリガンドとは異なる作用機構が報告されているが,PPARγリガンド結合部分に共有結合し,合成リガンドとは異なった作用をもつ可能性も報告された.一方著者らは,PG産生の律速酵素・誘導型シクロオキシゲナーゼの発現を抑制する天然物質の探索から赤ワインに含まれるポリフェノール・レスベラトロールを見出し,この分子がPPARαおよびγのデュアルアゴニストになることを報告した.アピゲニンパセリ,フムロンビールホップについても同様な性質をもつ.これらの知見は,生活習慣病予防の視点から分子作用機構の解明が期待されるとともに,PPARがさまざまな生理活性脂質のセンサーとして働いている可能性を示している.
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医学のあゆみ 220巻1号, 99-103 (2007);
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核内受容体であるPPARγの抗炎症作用,消化管粘膜保護作用が見出され,注目されている.胃粘膜傷害モデルに対してもPPARγリガンドが粘膜傷害抑制作用を有することが明らかにされ,そのメカニズムの詳細が検討されてきている.転写因子の活性化抑制を介した炎症関連遺伝子の発現抑制がおもなものであるが,その詳細は明らかになっていない.本稿ではPPARγの胃粘膜保護作用に関する研究について,著者らの成績を含めて解説した.
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医学のあゆみ 220巻1号, 105-110 (2007);
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核内受容体遺伝子PPARのうち,PPARαは肝細胞で,PPARγとPPARδは星細胞伊東細胞で発現している.PPARは糖質・脂質代謝や炎症・線維化において重要な働きをしていることが明らかにされており,種々の肝疾患における関与が検討されている.PPARαは脂質代謝を亢進させ,肝脂肪化抑制作用,抗炎症作用を有するものの,NASH・発癌に関しては病態を促進する可能性を示唆する報告もある.PPARγは糖代謝,脂肪細胞の分化,アディポカインの発現制御,抗酸化作用,抗炎症作用,線維化抑制作用,細胞増殖抑制作用,血管新生阻害などから,種々の肝疾患に対する分子標的としての可能性が期待されている.本稿では,種々の肝疾患にかかわるPPARの分子機構と,治療薬としての可能性,問題点を概説する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 111-116 (2007);
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PPARは核内レセプタースーパーファミリーに属する核内受容体であり,糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病に関する研究が数多く報告されている.その一方でPPARと神経疾患に関する報告はそれほど多くない.本稿ではPPARの神経疾患における役割について,脳梗塞,神経変性疾患,脳腫瘍,および神経幹細胞に焦点をあて,現在までの研究の動向について概説する.
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医学のあゆみ 220巻1号, 117-123 (2007);
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1990年に世界ではじめて遺伝子治療臨床研究が実施されてから現在までに施行された遺伝子治療プロトコルはすでに600を超え,実際に試験的治療が行われた患者数は5,000人以上に達している.その間,期待したほどの治療効果が得られなかった例や重篤な副作用が報告された例などから,遺伝子治療への期待が薄れた時期もあった.しかし,遺伝子治療研究は過去の教訓をいかしつつ着実に進歩しており,遺伝子治療の利点を発揮できるようなターゲット遺伝子の選択,遺伝子核酸を目的の組織・細胞・オルガネラへと送達する技術開発などが精力的に進められている.本稿では,PPARγの遺伝子デリバリーによる炎症性腸疾患に対する治療法開発研究について概説した.転写因子であるPPARγは目的とする細胞内核内へ到達しなければその薬効が期待できないことから,これはまさに遺伝子治療の利点を最大限に発揮した疾患治療法開発への試みである.
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医学のあゆみ 220巻1号, 125-130 (2007);
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近年,PPARがもつ多くの機能が明らかになってきている.その機能のなかでもプラスチック製品の柔らかさを出すために汎用されるプラスチック可塑剤の一種で,いまでは一般的な環境汚染物質でもあるフタル酸エステル類がPPARαを介して引き起こす生殖・発達毒性機序が動物モデルにより明らかにされつつある.ヒトにおけるフタル酸エステル類の生殖・発達毒性機序の解明は,今後,早急に望まれるが,いくつかの重要な研究成果が近年発表されはじめている.そこで,既知の動物実験成果から代表的な可塑剤DEHPの生殖・発達毒性と内分泌攪乱作用との関与を取り上げ,ヒトでの最新知見を織り交ぜながらPPARαとのかかわりを概説する.