Volume 220,
Issue 2,
2007
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あゆみ ヒトES細胞研究のネクストステージ
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医学のあゆみ 220巻2号, 131-138 (2007);
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ヒト胚性幹細胞ES細胞は多能性幹細胞として無限に増殖しつづける能力と,ほぼすべての細胞種へ分化する多分化能を合わせもつことが,万能細胞とよばれる理由である.ES細胞を大量に増殖させた後,目的とする細胞種へと分化させ,細胞移植治療やその他の目的に無尽蔵に利用することができる.京都大学再生医科学研究所は国内で唯一の樹立機関として,ヒトES細胞株の樹立研究を成功させて国内研究者への無償分配を行ってきた.今後,将来の臨床応用に必要となる品質の保証されたヒトES細胞株の樹立をめざす予定である.再生医療だけでなく,多くの医学研究や創薬研究において,さまざまな種類のヒト細胞を使用することが不可欠である.とくに大量に必要なのが新薬探索や安全性試験などの研究材料としてのヒト細胞である.ES細胞を用いれば大量に増殖させた後に必要とする細胞をつくることができる.また,特定の目的に応じて遺伝子改変を行ったヒトES細胞をつくることも可能である.
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医学のあゆみ 220巻2号, 139-142 (2007);
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ヒトES細胞はこれまで,マウス胎児性線維芽細胞をフィーダー細胞としてウシ血清アルブミンなどを含む培地で培養されてきた.しかし,その医療応用を視野に入れたとき,このような異種動物由来成分を排除した安全な培養法の開発が求められる.このためにはフィーダー細胞が果たしている役割を解明し,これを人工成分で置換する必要がある.近年,多くの分子がヒトES細胞の未分化性維持に寄与することが報告されているが,これらの分子の機能の普遍性はFGF2を除いてはいまだ検証待ちの状態にある.
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医学のあゆみ 220巻2号, 143-146 (2007);
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近年,網膜疾患のさまざまな治療法が開発されているが,いずれも網膜障害が可逆的な場合に網膜の機能回復を助ける治療法であり,不可逆的網膜障害を回復させるためには再生あるいは人工網膜などが必要である.これまでに網膜外層の障害をきたす網膜色素変性や加齢黄斑変性に対し胎児網膜細胞移植が行われ,効果を示す症例も報告されているが,胎児網膜に代わる移植細胞源としてES細胞が質・量の観点から有望と思われる.最近,ヒトES細胞から網膜前駆細胞を高効率で誘導する方法が報告され,また一方で,マウス幼弱網膜細胞の移植で変性網膜の機能を回復させることも報告された.純化の方法が確立され,安全性が確認されれば,ヒトES細胞からの網膜細胞移植源確保の目処がつく.今後は移植によって効果的に網膜機能回復を得る方法を開発することが必要である.
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医学のあゆみ 220巻2号, 147-152 (2007);
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胚性幹細胞ES細胞は未分化状態のまま増殖し,あらゆる組織の細胞へ分化する多能性幹細胞である.1998年にヒトES細胞株が樹立されて以来,目的の細胞へ分化誘導し移植医療へ応用しようとする試みが世界中で行われるようになった.中枢神経系の組織は他の組織に比べて再生能力が非常に低く,一度損傷を受けると再生は困難であるとされてきたが,ヒトES細胞を無尽蔵に増殖させ神経系細胞へ誘導することにより,失われた細胞を補充する細胞移植治療の確立が期待されている.その一方で,倫理的問題や免疫拒絶の問題など,ヒトES細胞を使用するにあたって解決しなければならない問題も数多くあり,再生医療への道はけっして平坦ではない.本稿では,ヒトES細胞の特性とそれを用いた中枢神経系の再生戦略,さらにES細胞が抱える問題点について,最近の知見を踏まえつつ概説する.
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医学のあゆみ 220巻2号, 153-157 (2007);
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ES細胞胚性幹細胞は初期胚から分離した多能性の幹細胞株であり,原理的には3胚葉由来のあらゆる種類の細胞に分化することが可能である.体性幹細胞と異なり,発生のごく初期過程で出現する細胞をES細胞からつくることができる点と,発生分化現象を試験管内で再現するばかりでなく,未知な分子機構を試験管内で研究できる系を提供してくれる点で,たいへん魅力的系である.ヒトの初期胚あるいはヒト組織を用いた研究は材料の入手,倫理的な面で問題が大きいため,十分な材料源を確保することが難しい.ES細胞から正常発生過程を試験管内で再現させることができれば,とくに材料入手が困難な初期発生段階のヒトの細胞をつくりだして,その性質とその発生分化の過程について研究することができる.本稿では,肝を中心に肝胆膵の発生分化と胚性幹細胞から消化器官細胞への分化誘導研究の最近の動向について概説する.
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医学のあゆみ 220巻2号, 159-164 (2007);
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Parkinson病はドパミン産生ニューロンが進行性に変性脱落する神経変性疾患であり,線状体内のドパミンが減少することにより振戦,筋固縮,無動などの症状が起こる.薬物治療が基本であり,外科的治療も行われるが,脱落したニューロンを補う目的で胎児中脳黒質細胞の移植治療も行われている.しかし,胎児の使用は現実的には困難があり,あらたな移植細胞として幹細胞の利用が検討されている.とくにES細胞にはその高い増殖能・分化能から期待が寄せられている.マウスES細胞,カニクイザルES細胞からドパミン産生ニューロンの誘導・移植による機能改善が報告されており,臨床応用に向けてヒトES細胞からの分化誘導,移植実験が進められている.すでに複数のヒトES細胞において,誘導したドパミン産生ニューロンの移植によるラットParkinson病モデルの機能改善が確認された.ただし,まだ生着率が低く,腫瘍化の問題もまだ解決されていない.今後は霊長類モデルを用いた効果と安全性の検証が必要であろう.
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医学のあゆみ 220巻2号, 165-169 (2007);
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ES細胞からの特異的細胞系列への分化の研究のためには細胞の可視化という作業が必須である.著者らはこれまでに,PDGFRαとVEGFR2という2つの表面マーカーを使い,ES細胞由来の2つの異なるタイプの中胚葉を分離できることを明らかとした.ES細胞由来のPDGFRα陽性,FLK1陰性分画が沿軸中胚葉に相当し,PDGFRα陰性,FLK1陽性分画が側板中胚葉に相当する.さらに,この2つの中胚葉細胞がPDGFRα陽性,FLK1陽性細胞から分化することと,この2つのタイプの中胚葉は相互に別のタイプの中胚葉に分化できる可塑性を有することが明らかとなった.一方,オルガナイザー部分の中胚葉細胞を可視化するために,特異的に発現するGoosecoidにGFP遺伝子を挿入したES細胞を樹立した.このES細胞を用いて無血清培地にactivin A添加の条件で,分化誘導後97%の細胞にGFPの発現が誘導される条件を確立した.このGFP陽性細胞から分化とともに,E−cadherin陽性の内胚葉前駆細胞,E−cadherin陰性の中胚葉細胞が出現することが判明した.
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医学のあゆみ 220巻2号, 171-174 (2007);
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近年,各種臓器の分化・再生に関する研究が進み,再生医療に対する期待は高まっている.なかでも特定条件下でほぼ無限に増殖し,生体の多様な細胞に分化する能力を有する胚性幹細胞ES細胞は,ヒトの失った臓器や機能を取り戻す細胞材料として期待されている.しかし,ヒトES細胞から成熟した細胞や臓器をつくり出しそれを生体に移植するということの問題点や困難さがしだいに明らかになり,ヒトES細胞研究も転換点を迎えつつある.それでもやはりヒトES細胞は発生・分化機構の解明の有効なツールであると同時に,再生医療における細胞材料としても大きなポテンシャルを有している.本稿では,ES細胞からの血管構成細胞の分化誘導とその血管再生治療への応用の試みを中心に解説する.
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医学のあゆみ 220巻2号, 175-179 (2007);
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心筋梗塞などの虚血性心疾患および脳梗塞などの脳血管病変は,現在日本人の死因のそれぞれ第2位と3位であり,心血管再生はこれら疾患に対する新しい治療法として期待されている.ES細胞はそのなかで欠くべからざる重要なマテリアルである.現在ES細胞を用いた心血管再生医療に向けて基礎・臨床の両面からさまざまなアプローチが試みられている.ヒトES細胞の知見を含め,心血管細胞の分化機構の解明と再生医療応用へ向けた国内外の取組みとその可能性について概説する.
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医学のあゆみ 220巻2号, 181-185 (2007);
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さまざまな血液疾患,あるいは遺伝子治療における造血幹細胞の有用性は疑う余地がない.しかし,すべての患者のニーズに適合する幹細胞の確保は難しい.ヒトES細胞から造血幹細胞を誘導できれば,新しいソースとなりうるが,その実現には患者のHLAをもつ患者専用のES細胞が必要である.一方,無核の血小板や赤血球に着目すると,HLAのマッチングを必要としないことなどの理由から,現段階においてES細胞由来の細胞療法としてもっとも臨床実現度が高いと思われる.本稿では,ヒトES細胞から分化誘導する血液細胞,とくに造血幹細胞,血小板に焦点をあて,その有用性と今後の展望について述べたい.
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医学のあゆみ 220巻2号, 186-190 (2007);
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ヒトES細胞は1998年にThomsonらによりはじめて樹立され,その後各国で樹立があいついだ.わが国でも2003年に,中辻らのグループが国産ヒトES細胞の樹立に成功している.ES細胞のもつほぼ無限の増殖能,および生体の多様な細胞に分化する能力に対して,再生医療の観点より大きな期待が寄せられている.しかし,この利点とされる特性も適切な制御がなくしては,奇形種の発症や,予期しない組織系列への分化の混在などを引き起こし,有効・安全な再生医療の確立はなされない.本稿では,1分化の方向の制御,2分化のステージの制御,といった2軸が交差するポイントに存在する,ヒトES細胞からの造血幹細胞,神経幹細胞の作成について考察する.
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フォーラム
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医学のあゆみ 220巻2号, 192-193 (2007);
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連載
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臨床研究のあたらしい潮流─わが国発の臨床研究推進に向けて
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医学のあゆみ 220巻2号, 201-206 (2007);
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Dialysis Outcomes and Practice Patterns StudyDOPPSは,維持血液透析患者の診療プロセスと患者アウトカムに関する大規模な国際的観察疫学研究コホート研究である.DOPPSでは日本,アメリカ,ヨーロッパ3極を中心とした世界12カ国から無作為抽出された血液透析患者の種々の診療プロセスと,生命予後やquality of lifeなどの患者アウトカムを,共通のプロトコールと定義を用いて詳細かつ多岐にわたって前向きに調査し,その関連や国際間の相違を検討している.すでにDOPPSからさまざまな診療プロセスや患者アウトカムにおける多数の新規な関連が見出されており,また各国間の差異や特徴も数多く報告されている.DOPPSによりあらたに提示された多岐にわたる知見は各国の腎不全医療に影響を与えはじめており,患者アウトカムのさらなる改善につながることが期待されている.