医学のあゆみ
Volume 220, Issue 11, 2007
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あゆみ 広がる薬疹の世界──最新の概念・病態・治療
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薬疹と遺伝
220巻11号(2007);View Description Hide Description薬疹の発症と病態は,遺伝的素因と感染症などの外因によって影響を受ける.遺伝的素因として薬物代謝にかかわる薬理遺伝学的素因とは別に,薬疹のHLA拘束性がいくつかの薬剤で注目を集めている.著者らは最近,アロプリノールによる薬疹で,共通のHLAを有するにもかかわらず,Stevens−Johnson症候群,薬剤性過敏症症候群DIHS,中毒性表皮壊死TENの,異なる3つの重症薬疹を呈した症例を経験した.これを踏まえ,同じ薬剤が同じHLAをもつ個体で,なぜ異なる臨床像を呈しうるのかを細胞傷害性T細胞の機能的側面から考察する.重症薬疹においてHLAプロファイリングが日常的に行われるようになれば,薬疹の発症機序を解明するうえで重要な情報となるだけではなく,個々の症例においても薬剤の特定や発症の予測において優れたマーカーとなりうる.マススケールでの国家的戦略が求められる. -
薬疹の検査法update──リンパ球刺激試験
220巻11号(2007);View Description Hide Description薬疹の原因薬剤を検索するための検査のひとつに,リンパ球刺激試験DLSTがあげられる.内外の報告によるDLST陽性率は全体で40〜60%台であり,特異度は薬剤によって異なる.プロスタグランジンE2産生を抑制するNSAIDなど,薬剤によっては非特異的なリンパ球の活性化がみられる.Human herpesvirus−6HHV−6の再活性化を伴う薬剤性過敏症症候群DIHSでは陽性率が高く,とくに皮疹の消褪後に強い増殖反応を示す症例がある.DLSTは薬剤による過去の感作の有無をみるものであり,薬疹の原因薬剤の確定には詳細な病歴の聴取や皮膚テストなど結果との組合せによる判断が重要である. -
薬疹の発症機序──不思議な現象に焦点をあてて
220巻11号(2007);View Description Hide Description薬疹の多くはT細胞を中心とした免疫反応による.薬剤のような小分子における免疫反応はそれが蛋白などの大分子と結合して抗原と認識されるハプテン化を介した反応によると信じられてきた.しかし,このハプテン説では説明できない現象が近年発見されており,皮肉にも研究が進むほどに,その機構の複雑さが明らかになっている.本稿では薬疹においてみられる不思議な現象を紹介し,最近の新知見を合わせて解説する.なお,本稿で議論される薬疹は,蕁麻疹型を除く紅斑,紅斑丘疹型,多型紅斑型,Stevens−Johnson syndromeSJS/toxic epidermal necrolysisTENなどのT細胞による免疫反応を介した薬疹に関するものであり,薬剤投与量に依存的な中毒性の障害や,色素沈着を呈するもの,固定薬疹,薬剤過敏性症候群など特殊なタイプのものは除いている. -
DIHSの診断におけるHHV-6再活性化の意義──HS,DRESS,DIHSの疾患概念
220巻11号(2007);View Description Hide Description従来hypersensitivity syndromeHSと称されてきた発熱と多臓器障害を伴う薬疹のなかには,とくに遷延化して重症の経過をとる一群があったが,これらの一群を診断するための明確な基準がなかった.この一群がHHV−6の再活性化を伴っていることが判明し,わが国ではdrug−induced hypersensitivity syndromeDIHSという診断名のもと診断基準が作成された.一方,海外では重症のHSを診断するためにDRESSという病名が提唱されているが,それにはHHV−6の再活性化の要因が加味されていないため,軽症も含まれてしまう.DIHSの診断基準は疾患概念を明確にするという役割を果たしている. -
薬疹とGVHDの接点──薬疹とGVHD
220巻11号(2007);View Description Hide Description重症薬疹のひとつである薬剤性過敏症症候群は薬剤中止にもかかわらず,その経過中に多彩な臓器障害をもたらす疾患である.この薬疹ではヒトヘルペスウイルス6の再活性化が症状発現に関与することが広く知られるようになったが,近年はヒトヘルペスウイルス6以外にもさまざまなヘルペスウイルスがsequentialに再活性化することが明らかになった.一方,以前から骨髄移植後にもヘルペスウイルスが再活性化することが知られ,これらがgraft−versus−host diseaseGVHDの発現に関与することが指摘されている.薬剤性過敏症症候群とGVHDに共通して認められるいくつかの臨床所見を考えると,これらは両疾患で検出されるsequentialなヘルペスウイルスの再活性化に関連して引き起こされている可能性がある. -
薬疹と水疱症の接点
220巻11号(2007);View Description Hide Description薬疹は多様な臨床像を呈するが,そのなかには水疱型といわれる一群の疾患群がある.水疱を主体とする薬疹のさらに亜群には,通常の水疱症の診断基準を満足してしまうものが含まれる.これらは薬疹なのであろうか,それとも薬剤がきっかけにすぎない水疱症なのであろうか.また,薬疹に分類される水疱症は通常の水疱症と同じ臨床を呈するのであろうか.これまでの臨床観察の集積から薬剤誘発性水疱症は,通常の水疱症とは異なった臨床像,組織所見,臨床経過をたどるものがあることが知られている.薬剤誘発性水疱症の特徴を表皮内水疱症に絞って,薬剤性と典型例での共通点と異なる点とについて自験例を提示しながら概説する. -
薬疹と自己免疫の接点──薬疹の後遺症としての自己免疫疾患
220巻11号(2007);View Description Hide Description薬疹のなかでも薬剤性過敏症症候群は,潜伏感染しているウイルスヒト6型ヘルペスウイルスの再活性化を特徴的に認める重症薬疹である.当初は6型ヘルペスのみが特異的に再活性化すると思われていたが,EBウイルスやサイトメガロウイルスなど他のヘルペス属のウイルスも,6型に前後して連続的に再活性化していることがわかってきた.興味深いことに,同様のヘルペス属の再活性化は移植片対宿主病graft−versus−hostdisease:GVHDで典型的に認められる.しかも薬剤性過敏症症候群の発症時にはGVHDに似た重篤な免疫不全があり,軽快後も後遺症として慢性GVHDにみられるような自己免疫疾患を生じることがある.おそらくウイルスに反応するリンパ球が,この自己免疫の発症に関与しているものと考えられる. -
重症型薬疹の最新治療──薬疹の治療2006
220巻11号(2007);View Description Hide Description重症型薬疹はしばしば急速な経過をとり,多臓器障害の合併などにより死に至ることがあり,また一命を取りとめた場合でも失明をはじめとする後遺症を残しうる.その治療に対し長年にわたり是非が論じられてきたステロイド全身投与療法も,その使用時期や使用量により有効であることが一般に受け入れられてきている.本稿ではステロイド療法を含め良好な治療成績が報告されている免疫グロブリン療法,血漿交換療法プラズマアフェレシスについて解説する.
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フォーラム
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連載
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- 臨床研究のあたらしい潮流─わが国発の臨床研究推進に向けて
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10.厚生労働省戦略的アウトカム研究J-DOIT2研究──かかりつけ医の糖尿病受診中断率の抑制に向けて
220巻11号(2007);View Description Hide Description厚生労働省戦略研究の第2課題である“かかりつけ医を対象とした糖尿病患者の受診中断率の抑制に関する研究”はかかりつけ医を対象とした大規模研究であり,また患者介入による受診中断率抑制をめざした新しい研究である.現在医療機関への受診率が50%であり,これらの患者から合併症が発症するものと考えられ,受診中断率を半減することがこの研究の目標とするところである.糖尿病患者の80%を治療しているかかりつけ医を対象とした,医師会を中心としたはじめての前向き大規模試験でもある.アウトカム達成指標として受診中断率の低下,糖尿病診療目標の実施率・達成率,HbA1Cや血圧・脂質などの患者アウトカムを中心とし,これらの達成,すなわち介入による改善がみられるのかを明らかにすることにより,患者の行動変容に対する支援のあり方,中断抑制への患者指導について明らかにする本研究は重要であり,結果が待たれる.