医学のあゆみ
Volume 220, Issue 13, 2007
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3月第1土曜特集【メタボリックシンドローム時代の糖尿病研究の最前線】
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- ■メタボリックシンドローム研究の最前線
- 【脂肪細胞とアディポカイン】1.アディポカインネットワーク
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アディポネクチンの作用とその受容体
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionKOマウスの解析から,AdipoR1・R2が生体内においてアディポネクチンAdの結合と作用に必須の主要な受容体であることが明らかとなった.また,AdipoR1・R2が生体内において,実際に糖・脂質代謝,炎症・酸化ストレスの制御において重要な役割を果たすことが明らかとなった.さらに,AdipoR1がAdによるAMPK活性化の経路と,R2がPPARα活性化の経路とより強くリンクしていることが明らかとなった.肥満症ではAd,AdipoRの両方が低下してメタボリックシンドロームMSの原因となっており,その作用低下を補充することが治療法となることが示唆された.高活性型である高分子量HMW−Adのヒトにおける測定は,MSのよりよい指標となることが示唆された.PPARγ作動薬はHMW−Adを,PPARα作動薬はAdipoRを増加させ,両者の活性化は相加的に脂肪組織におけるマクロファージ浸潤・炎症を抑制し,MSを改善させる.野菜・果物に含まれるオスモチンがAdipoR作動性分子になりうることを見出した. -
アディポネクチンの抗動脈硬化作用
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionわが国における糖尿病と動脈硬化合併症増加の原因として,肥満の関与は周知の事実である.著者らはその病態機構を明らかにするため,ヒト脂肪組織発現遺伝子解析を行い,脂肪組織がさまざまな生理活性ペプチドアディポサイトカインを分泌することを明らかにし,脂肪細胞特異的分泌蛋白であるアディポネクチンを発見した.アディポネクチンは内臓脂肪蓄積に伴って唯一減少するアディポサイトカインであり,増加する多くの炎症性アディポサイトカインと拮抗して動脈硬化を抑制する作用がある.耐糖能異常,高血圧,脂質代謝異常に加え,アディポサイトカインの異常を念頭におくことがメタボリックシンドロームの病態を理解するうえで重要である.アディポネクチンはその測定がインスリン感受性,高血圧における内皮機能,冠動脈疾患リスクなどを反映するため病態評価のよい指標となり,動脈硬化治療の標的分子となることが期待される. -
脂肪細胞とマクロファージのクロストーク
220巻13号(2007);View Description Hide Description肥満の脂肪組織においてマクロファージ浸潤の増加が報告されて以来,脂肪組織の炎症性変化と肥満あるいはメタボリックシンドロームの関係が注目されている.脂肪細胞とマクロファージの共培養を用いた検討により脂肪細胞に由来する飽和脂肪酸がマクロファージの炎症性変化を誘導し,これによりマクロファージにおけるTNF−αの産生が増加して脂肪細胞における脂肪分解と炎症性変化を増大するという“悪循環”が存在する.マクロファージにおける飽和脂肪酸の炎症促進作用は自然免疫反応に関与するTLR4を介するが,食事性にも摂取される飽和脂肪酸は全身の代謝異常と炎症反応をリンクする有力な候補分子である.肥満の脂肪組織に浸潤するマクロファージは脂肪分解を促進することにより飽和脂肪酸の産生を増加し,これがTLR4の内因性リガンドとして脂肪組織局所のみならず全身に炎症性変化をもたらす可能性がある. -
脂肪組織の炎症の誘導とマクロファージの集積──脂肪組織の炎症によるインスリン抵抗性の惹起にはMCP-1が関与する
220巻13号(2007);View Description Hide Description脂肪組織における炎症の誘導とマクロファージの浸潤が,肥満によるインスリン抵抗性のメカニズムのひとつと考えられている.生活習慣の欧米化した日系アメリカ人では高感度CRPが糖尿病発症の有意な予知因子であり,日本人の糖尿病にも炎症は大きくかかわっていることがわかった.脂肪組織の炎症を引き起こす候補のひとつとして,monocyte chemoattractant protein 1MCP−1があり,脂肪組織特異的MCP−1トランスジェニックマウスの成績から,1脂肪組織局所のMCP−1によるマクロファージ浸潤によりTNF−αやIL−6といった炎症性サイトカイン,血中FFAが上昇するだけでなく,2脂肪組織から循環血液中に分泌されたMCP−1が肝や骨格筋に直接作用することにより,インスリン抵抗性を惹起する可能性がある. - 【脂肪細胞とアディポカイン】2.メタボリックシンドロームの脂肪細胞
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アディポカインを調節する因子──メタボリックシンドローム原因遺伝子
220巻13号(2007);View Description Hide Description脂肪細胞は単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく,さまざまな重要な生理活性因子,アディポネクチンなどのいわゆるアディポカインを分泌し,生体に影響を与えていることが明らかになってきた.著者らは理化学研究所との共同研究で,全ゲノムのSNP解析を用いて肥満2型糖尿病発症と関連する複数の遺伝子多型転写因子TFAP2B,Wnt5B,およびKruppel like factor 7:KLF7を同定した.転写因子TFAP2Bは,脂肪細胞にインスリン非依存的に糖取込みを亢進させることにより中性脂肪の蓄積を引き起こし,脂肪細胞の肥大化やアディポカイン分泌異常を誘導すること,Wnt5やKLF7は脂肪細胞の分化に深くかかわることが判明した.これらの蛋白は脂肪細胞の分化・肥大化・機能異常を引き起こすことによりメタボリックシンドロームを発症させる原因遺伝子である可能性が示唆される. -
脂肪細胞の数を調節する因子
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームにおいてもっとも重要な病態は肥満である.肥満は脂肪組織の過剰状態であるが,生体が余剰なエネルギーを蓄積していく過程において,脂肪細胞の肥大化とともに脂肪細胞数の増加が認められる.後者の脂肪細胞数の増加は脂肪前駆細胞の増殖・分化による新規な脂肪細胞の出現と,アポトーシスなどによって生体から排除される脂肪細胞死とのバランスにより決定されている.この脂肪細胞数を制御する分子機構の解明によって,あらたな肥満・メタボリックシンドローム治療の分子標的が見出される可能性がある.最近著者らは,細胞周期のブレーキ役であるp27Kip1蛋白のユビキチンリガーゼSkp2SCFSkp2複合体が肥満発症における脂肪細胞増殖を制御する分子であることを見出した. -
アディポステロイド活性化と代謝異常──11β-HSD1の脂肪組織における病態的意義
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム診断基準では,代謝病を重積させる共通の基盤としての内臓脂肪の過剰蓄積を病態の上流に位置づけ,“未病”の段階から心血管病の高リスク群として積極的介入を行うことを勧告している.メタボリックシンドロームの治療標的は“内臓脂肪肥満の感受性因子”に関する分子機構に絞られ,メカニズム解明の鍵として“脂肪組織の機能異常”が注目される.細胞内グルココルチコイド活性化酵素,11β−HSD1はPPARγの標的遺伝子であり,チアゾリジン誘導体による内臓脂肪減少効果の分子メディエータでもある.その発現レベルは肥満者脂肪組織において著明に上昇し,BMIやウェスト周囲長,内臓脂肪面積と強い正相関を示す一方,血中アディポネクチン濃度とは明らかな逆相関を示す.11β−HSD1を脂肪細胞で過剰発現するトランスジェニックマウスは,内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性,高脂血症,高血圧を発症するが,11β−HSD1ノックアウトマウスや11β−HSD1に拮抗する11β−HSD2を脂肪組織で過剰発現させた脂肪組織特異的11β−HSD1ノックアウトマウスでは,過栄養に対するメタボリックシンドローム発症に明らかな抵抗性を示す.本稿では,メタボリックシンドローム診断・治療の分子標的としての11β−HSD1の意義を概説する. - 【炎症・酸化ストレス】
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メタボリックシンドロームにおける酸化ストレスの意義──酸化ストレスとインスリン抵抗性
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームは内臓脂肪型肥満腹部肥満を基盤とし,高血糖,高血圧,脂質代謝異常という各病態を構成要素とする症候群として理解される.内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性発症と密接に関与することが知られてきたが,インスリン抵抗性は耐糖能障害のみならず高血圧,脂質代謝異常の成因や病態にも関与する.このインスリン抵抗性発症の分子メカニズムのひとつとして,生体ストレスの一種である酸化ストレスの関与が示唆されてきた.メタボリックシンドロームにおいては,炎症性サイトカインであるTNF−αや遊離脂肪酸がインスリン感受性臓器に細胞内酸化ストレスを誘導する.細胞内に生じた酸化ストレスはJNK/SAPKなどのストレス経路を活性化し,これが細胞内インスリン作用伝達を障害することが明かされている. - 【中枢と末梢肝臓のクロストーク】
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中枢神経を介した肝糖産生の制御
220巻13号(2007);View Description Hide Description肝はグルコースを産生する唯一の臓器であり,代謝恒常性の維持に重要な役割を担う.中枢神経がグルコース濃度の変化に伴い肝糖産生を制御することは知られていたが,最近,インスリンやレプチン,脂肪酸なども中枢神経への作用を介して肝糖産生を調節することが明らかとなってきた.これらの栄養素やホルモンによる肝糖産生制御のシグナルは,視床下部のATP依存性Kチャネルの活性化を介して副交感神経によって肝に伝達されるらしい.STAT3は糖新生系遺伝子の発現を抑制する作用をもつ転写調節因子である.中枢神経におけるインスリン受容体の活性化は肝でIL−6の産生を促し,STAT3を活性化する.すなわち,インスリンは肝への直接作用により活性化するPI3K経路と中枢神経のインスリン受容体を介して活性化するIL−6/STAT3経路という2つの経路により肝糖産生を抑制し,正常なインスリン作用が発現するためには両経路の活性化が必要であると考えられる. -
肝臓から中枢脳へ──迷走神経求心路を介するエネルギー代謝調節
220巻13号(2007);View Description Hide Description生体が適切なエネルギー代謝を行うためには全身のエネルギー収支を的確に把握し,個体を構成する臓器の相互作用を調整する必要がある.肥満症やそれに合併する糖尿病は,精妙に調整されている臓器間相互作用が破綻した状態ともいえる.脳がエネルギー代謝の調節において中心的な役割を果たしていることはいうまでもないが,近年の精力的な研究によりエネルギー情報の脳への入力経路の解明が進展した.本稿では自験例も含め,肝から脳への末梢神経求心路を介する情報伝達機構について概説してみたい. -
消化管と中枢を結ぶ摂食情報伝達
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの効果的な治療には,その上流に位置する摂食調節機構の解明が重要である.摂食は,中枢と末梢で産生される摂食亢進物質と抑制物質の複雑な相互作用により調節されている.液性あるいは神経性に脳に伝達された満腹および空腹情報は,視覚,嗅覚,味覚などの外界感覚刺激,さらには学習,記憶,認知,情動といった種々の因子とともに視床下部で統合され,摂食亢進系または抑制系に作用する.摂食調節には視床下部や大脳辺縁系などの中枢神経系だけでなく,消化管や肝,脂肪細胞などの末梢臓器からの情報も重要である.消化管や肝からの摂食やエネルギー代謝に関する求心性情報は,迷走神経や血液を介して脳幹部や視床下部などに伝達されている. - 【あらたな摂食調節ペプチド】
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Nesfatin-1──あらたな食欲抑制蛋白
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionNesfatin/Nucleobindin 2NUCB2は,摂食行動に関連深い視床下部に発現し,prohormone convertasePCと共存する.Nesfatin−1はPCによりプロセッシングされると考えられ,ラット脳脊髄液中にもNesfatin−1の存在が確認された.Nesfatin/NUCB2およびNesfatin−1は第三脳室内投与によりラットの摂食を抑制するとともに,抗Nesfatin−1抗体の脳室内投与はラットの摂食を増加させた.Nesfatin−1の脳室内への慢性投与はラットの体重増加を持続的に抑制し,体脂肪量を減少させた.一方,Nesfatin−1に対するantisense morpholinooligonucleotideの持続脳室内投与によりラットの体重増加が認められた.このような事実よりNesfatin−1の生理的な摂食行動調節への関与が示唆されるとともに,将来の肥満治療への応用の可能性が期待される. -
GPR103生体内リガンド,QRFPは摂食・覚醒・血圧を制御する
220巻13号(2007);View Description Hide Description7回膜貫通型の受容体であるG蛋白共役型受容体GPCRは,現在上市されている医薬品の約25%の標的となっている,創薬上重要なターゲットである.一方,遺伝子が同定されていながらリガンドがいまだ不明のGPCR,すなわち“オーファンGPCR”もまだ多く存在しており,この機能解析は今後の創薬につながると考えられている.著者らはオーファンGPCRであったGPR103のネイティブリガンドをラット脳から精製し,構造を決定した.このペプチドは既知のQRFPと同一のものであった.脳室内投与での検討によって,QRFPGPR103は摂食や行動量・血圧といった体内代謝の調節に関与していることが明らかになった.また,QRFPの遺伝子は絶食や肥満状態に応じて発現が上昇した.QRFPとその受容体であるGPR103の配列はマウスからヒトに至るまで高く保存されており,QRFP−GPR103システムは高血圧を伴うメタボリックシンドロームの一要因として重要だと考えられる.本稿ではこれらについてこれまで得られた知見を紹介する. - 【エネルギー過剰と転写因子】
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転写因子SREBP-1c,TFE3の関与
220巻13号(2007);View Description Hide Description肝におけるインスリン感受性は,メタボリックシンドローム,糖尿病における病態形成においてきわめて重要である.インスリンは肝におけるエネルギー代謝への関与が大きく,特に糖新生の抑制をはじめとする糖代謝へもたらす影響は大きい.そのため,肝でのインスリンシグナル分子の機能不全がインスリン抵抗性を引き起こし,糖尿病を発症することが知られている.特にインスリン受容体IRの下流分子であるIRS−2は,いくつかの糖尿病モデルマウスの肝で発現の低下がみられ,IRS−2のノックアウトマウスは糖尿病を発症する.そのため,IRS−2の発現の低下はインスリン抵抗性の原因のひとつとして考えられている.著者らは,IRS−2の発現制御にかかわる分子についての検討から,SREBP,Foxo1とともにあらたな転写因子としてTFE3の関与を明らかにした.SREBPは脂肪酸の合成から高脂血症の原因のひとつに考えられているが,それだけではなく,IRS−2の発現を抑制することにより糖尿病の発症にも積極的に関与することが明らかになった.TFE3はSREBPとは逆にIRS−2の発現を上昇させ,糖尿病の病態を改善させるとともに,もうひとつのFoxo1と強調的にその効果を増大させる.さらなる機能としてTFE3はInsig−1の発現を上昇させることにより脂肪酸合成を抑制し,高脂血症の改善にも働くことから,生活習慣病の包括的な改善効果が期待される. -
PPARγとインスリン感受性
220巻13号(2007);View Description Hide Description食生活の高脂肪食化,車の普及などによる運動不足などのいわゆる“ライフスタイルの変化”に伴い,個々人のインスリン抵抗性は増悪し,糖尿病のみならず,肥満,高血圧,脂質代謝異常などの動脈硬化の危険因子を複数有する,いわゆるメタボリックシンドロームを発症することとなる.その結果,虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患の発症率は増加の一途をたどっている.いずれも遺伝的素因に加え,ライフスタイルの変化によるインスリン抵抗性の増大がその発症の第一歩といっても過言ではない.2005年4月,メタボリックシンドロームの診断基準が策定され,日本においても動脈硬化のハイリスクグループを初期より抽出し,生活習慣の改善を中心とした介入を行っていくための第一歩が踏み出された.本稿ではインスリン感受性調節に重要な役割を果たしているPPARγに焦点を絞り,概説していきたい. -
FoxO1──糖代謝における役割とその活性調節
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionFoxO1はPI3キナーゼ/Akt依存性にリン酸化され,核内より細胞質へ転出され,その転写活性が抑制される転写因子である.FoxO1はインスリン反応性臓器に発現し,糖代謝において重要な役割を担っている.また,カロリー制限下において,SIRT1による脱アセチル化を受け,転写活性が調節される.インスリン反応性臓器におけるSIRT1の発現量および活性調節がFoxO1の活性調節につながり,最終的に糖代謝に影響を及ぼしうると考えられる.さらに,細胞質においてはユビキチン化による分解のほかに,TSC2と結合することによりインスリンシグナルを調節しうる.FoxO1はさまざまなシグナル経路とクロストークをもち,個体レベルでの代謝疾患治療の標的分子になりうることが考えられる. - 【細胞内メディエーター】
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AMPキナーゼによるエネルギー代謝調節作用
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionAMPキナーゼAMPKは5′−AMPによって活性化するセリン/スレオニンキナーゼである.AMPKは近年,虚血や低酸素のみならず,運動,レプチン,アディポネクチン,抗糖尿病薬メトフォルミンによって活性化し,脂肪酸酸化の促進,グルコースの取込み,糖新生の抑制などさまざまな代謝調節作用を引き起こすことが明らかとなった.また,レジスチンやTNF−αは反対にAMPK活性を抑制することによってインスリン抵抗性を悪化させる.さらに,最近になって視床下部AMPKが摂食行動を調節することも判明した.このように,AMPKは代謝と摂食行動の両方の調節に関与し,メタボリックシンドロームの発症と関連する.AMPKの活性調節機構はいまだに不明な点が多いが,これらを明らかにすることでエネルギー代謝の調節機構,抗糖尿病薬の作用機構を解明する糸口になると期待される. - ■メタボリックシンドローム最新TOPICS
- 【診断基準をめぐる問題点】
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診断基準をめぐる問題点1
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームを診断する意義は,心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患の高リスク者をスクリーニングすることにあるといってよい.平成172005年4月に策定・発表されたわが国におけるメタボリックシンドロームの診断基準が,日本人において心血管疾患の高リスク者をスクリーニングするうえで最適であるかについては議論がある.とくにウエスト周囲径のcut−off値については,女性においては高すぎる可能性が示唆されている.また,すでに心血管疾患のリスクを上昇させることが明らかな2型糖尿病を診断基準に含む意義についても議論がある.メタボリックシンドロームのよりよい診断基準策定のためには,メタボリックシンドロームの分子病態の解明と疫学的なデータの積み重ねが不可欠である. -
診断基準をめぐる問題点2
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionWHOがメタボリックシンドロームとよぶことを提唱し,臨床診断基準を提示して以来2005年までに7つの異なるメタボリックシンドロームの診断基準が提案されている.わが国においては腹囲による腹部肥満を必須条件とし,1血圧高値,2血糖高値,3脂質代謝高TG症,低HDLコレステロール血症の3つのうち2つ以上を条件としている.腹部肥満として腹囲が男性85 cm,女性90 cmとしているが,リスク集積には男性で腹囲85 cm以上,女性では77 cm以上がcut−offポイントであるとの報告もある.わが国の状況では腹部肥満を示す内臓脂肪面積が男女でどの程度になり,それに相当する腹囲の妥当な基準値はどのようになるのかについて,肥満学会を中心に検討のうえ,提示されることが期待される.また,女性のHDLコレステロールを50 mg/dl未満にするかどうかについても,動脈硬化学会のガイドラインにおける今後の検討が待たれる. - 【メタボリックシンドロームのエレメント】
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メタボリックシンドロームでなぜ組織レニン-アンジオテンシン系が活性されるのか
220巻13号(2007);View Description Hide Description近年の大規模臨床研究は,メタボリックシンドロームの時間の流れのいずれの段階においても組織レニン−アンジオテンシンRA系が重要に関与することを示唆した.最近発見された受容体随伴プロレニンRAP系において,従来不活性と考えられていたプロレニンは,組織に存在するプロレニン受容体と結合することによって非蛋白融解的に活性化され,組織RA系を活性化する.糖尿病においてはプロレニンが上昇し,高血圧においてはプロレニン受容体発現が増加して,RAP系が活性化し組織RA系亢進による臓器障害に至ることを著者らは明らかにした.危険因子の重積が時間経過とともに連鎖しあい重篤な心血管イベントに至るメタボリックシンドロームの特徴を考慮すると,メタボリックシンドロームにおける組織RA系活性化にRAP系が関与する可能性が示唆される. -
脂質代謝異常と内臓脂肪
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームの主要な脂質代謝異常は高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症であり,異常リポ蛋白を高率に合併することが動脈硬化を促進する原因となる.その病態にはリポ蛋白の合成や代謝過程の障害がかかわり,とりわけリポ蛋白リパーゼの発現がインスリン作用に制御されることから,血中トリグリセリド値の上昇とHDLコレステロールの低下へと導く.その機序に内臓脂肪でTNF−αなどのサイトカインを分泌するようになる脂肪細胞の病的機能変化がかかわり,高脂肪摂取が内臓脂肪の質的変化を誘導する可能性がある.メタボリックシンドロームに伴う脂質代謝異常の治療は内臓脂肪を臨床的に把握することが重要と考えられる. - ■膵β細胞の分子生物学
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インスリン分泌の分子機構研究の最近の進歩
220巻13号(2007);View Description Hide Description膵β細胞におけるインスリン分泌機構においては細胞内シグナルが重要な役割を果たしており,そのなかで遊離脂肪酸FFA,cAMP,活性酸素ROSについて最近の研究の進歩を概説する.脂肪酸によるインスリン分泌促進機構については細胞内長鎖脂肪酸CoALC−CoAを中心とする代謝シグナル伝達機構,および細胞外からの長鎖脂肪酸の細胞膜受容体に対する作用が重要である.前者はAMPキナーゼAMPKによるmalonyl−CoA−LC−CoAネットワークの活性化,トリグリセリドTG/FFAサイクリングの制御が重要であり,後者としてはGPR40を介する細胞内シグナル伝達機構が重要である.インスリン分泌の重要な調節因子である細胞内cAMPのインスリン分泌増強作用は,従来,プロテインキナーゼAPKAの活性化で説明されていたが,最近,PKA非依存性のEpacを介する経路が同定された.また,内因性ROSを介するインスリン分泌抑制機構についてもSrc活性化を介する経路が明らかとなった. -
インスリン分泌のapparatus
220巻13号(2007);View Description Hide Description膵β細胞に発現する転写因子は,インスリン分泌機構に必要なさまざまな構成分子の発現を制御している.転写因子HNFの遺伝子異常はインスリン分泌不全型の2型糖尿病を引き起こすことから,インスリン分泌に必須な転写因子であると考えられる.コレクトリンは最近同定されたHNF−1αの標的遺伝子であり,インスリンの開口放出を促進する作用をもつ.標的遺伝子の解析を通じて膵β細胞におけるインスリン分泌機構の理解が進み,2型糖尿病治療のあらたな分子標的が得られることが期待される. -
β細胞量の調節機構
220巻13号(2007);View Description Hide Description近年,2型糖尿病の病態において膵β細胞の機能のみならず,膵β細胞の量が注目されつつある.それゆえ,膵β細胞量の調節機構を解明していくことは,2型糖尿病の病態の解明やあらたな治療戦略につながると考えられる.IRS−2欠損マウスでは,インスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成が障害され糖尿病を呈することから,膵β細胞量の調節機構においてIRS−2が重要な役割を果たしていると考えられた.また,高脂肪食誘導性インスリン抵抗性状態では,グルコキナーゼへテロ欠損マウスは野生型と異なり膵β細胞の代償性過形成を欠き,耐糖能の悪化が認められた.さらに,高脂肪食負荷IRS−2ヘテロ欠損マウスでも膵β細胞過形成障害を認めたことより,高脂肪食負荷に対する膵β細胞の代償性過形成においては,グルコキナーゼ,IRS−2が重要な役割を果たしていると考えられた. -
膵腺房細胞からインスリン分泌細胞への分化転換
220巻13号(2007);View Description Hide Description膵β細胞はそれ自体の複製・増殖によってのみ再生するのではなく,β細胞以外の細胞からもあらたに生じることがある.In vitroでは肝細胞や膵導管細胞,膵腺房細胞などからインスリン分泌細胞がさまざまな方法で誘導されている.著者らはマウスの膵腺房細胞から分化転換によってインスリン分泌細胞を誘導する方法を見出した.分化転換の過程で,腺房細胞は脱分化を生じて未成熟な膵細胞の特性を備えた細胞に変化している可能性が高いと思われ,誘導された細胞ではインスリン産生能は低いものの,分泌特性は正常膵島と類似のものであった.膵腺房細胞からインスリン分泌細胞への分化転換は,膵β細胞におけるインスリン分泌機能獲得のメカニズム解明のためのモデルシステムとして有用であると同時に,糖尿病の再生医療実現へ向けた道をひらく可能性がある. -
膵β細胞の発生・分化──糖尿病発症機構の解明,治療にむけて
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionβ細胞の発生・分化に関する研究は,器官形成を研究するうえでモデルシステムとして研究者の知的好奇心をそそるとともに,糖尿病の成因や治療に関する多くのあらたな知見をもたらしうる点で,臨床医学の面からもきわめて魅力的な研究課題のひとつとなっている.一方,糖尿病は膵β細胞からのインスリン分泌が絶対的あるいは相対的に低下することにより,血糖の恒常性が維持できなくなる疾患である.糖尿病において認められるインスリン分泌の低下は膵β細胞機能の質の低下とともに,膵β細胞容積の絶対量の低下が認められる.よって糖尿病の根治を可能とするためには,失われた膵β細胞機能・細胞量を補正することが必要となる.現在,ES細胞や組織幹細胞などの非β細胞を標的として,分化誘導により代替β細胞を生み出す再生医療が注目されているが,その背景には発生生物学の進歩を基盤とした膵β細胞の発生・分化の仕組みの理解が近年著しく進んだことがある. -
酸化ストレス,小胞体ストレスを介した膵β細胞機能障害
220巻13号(2007);View Description Hide Description2型糖尿病の二大特徴として,1膵β細胞におけるインスリン生合成,分泌の低下と,2肝や末梢組織でのインスリン抵抗性の増加があげられる.糖尿病状態において膵β細胞が慢性高血糖にさらされると,インスリン生合成・分泌はさらに低下し,耐糖能異常もさらに悪化する.こういった悪循環の現象は“膵β細胞ブドウ糖毒性”として臨床的にも広く知られているが,その原因のひとつとして,糖尿病状態において惹起される酸化ストレス,小胞体ストレスなどが関与することが見出されてきている図1. - ■1型糖尿病研究の最近の進歩
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劇症1型糖尿病の診断と治療
220巻13号(2007);View Description Hide Description劇症1型糖尿病は,著者らが2000年に報告した糖尿病の新しいサブタイプであり,“非常に急速でほぼ完全な膵β細胞破壊の結果生じる糖尿病”がその本態である.日本人糖尿病の約0.2%を占めると推計され,従来1型糖尿病のマーカーとされてきた自己抗体は陰性である.膵β細胞の破壊機構としては,ウイルス感染とそれに伴う免疫反応の両者が関与していると考えられる.本疾患のスクリーニング基準として,1糖尿病症状発現後1週間前後以内でケトーシスに陥る,2初診時の随時血糖値が288 mg/dl以上であるという2項目が提示されている.劇症1型糖尿病は診断が1日でも遅れると患者の生命予後にかかわる救急疾患であり,また糖尿病合併症のハイリスクグループでもある.すべての医師はその存在を銘記し,スクリーニング基準を活用して的確な診断を下すよう努めなければならない. -
1型糖尿病成因研究の進歩
220巻13号(2007);View Description Hide Description1型糖尿病は膵β細胞に対する臓器特異的自己免疫疾患のひとつである.近年の免疫学と糖尿病学の発展により,モデル動物のみならずヒト1型糖尿病の発症機構とその制御システムが明らかにされてきた.臨床で測定できるGAD抗体などの自己抗体は膵β細胞破壊に直接関与していないが,抗体を分泌するB細胞自体がエフェクター細胞の活性化に関与している.1型糖尿病ではT細胞が主体となって膵β細胞破壊に関与しているが,このT細胞の測定がすくなくとも研究室レベルでは可能になった.T細胞にはエフェクター細胞のみならず,1型糖尿病発症を抑制する制御性T細胞が存在するため,活性化することにより疾患を制御できる可能性がある.さらには自己抗原は単に自己免疫反応の標的という意味だけではなく,自己免疫そのものの誘引として働いている可能性があることが最近の研究で明らかにされてきた.今後の病因研究の進展により臨床応用が期待される. - ■ゲノム解析:糖尿病原因遺伝子
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ゲノム解析による2型糖尿病感受性遺伝子の解明
220巻13号(2007);View Description Hide Description2型糖尿病は,インスリン分泌低下の遺伝素因に加えて過食・高脂肪食・運動不足などの環境因子と遺伝素因の相互作用によってインスリン抵抗性が加わることにより発症する図1.日本人はインスリン分泌低下の遺伝素因を欧米人よりも強くもっていると推測されており,インスリン抵抗性を基盤とするメタボリックシンドロームの増加は2型糖尿病の増加に直結する.メタボリックシンドローム時代の糖尿病研究は日本人におけるインスリン分泌低下の遺伝素因とインスリン抵抗性の遺伝素因両者を解明していくことが望まれている.本稿ではインスリン分泌低下とインスリン抵抗性の両面から,これまで明らかとなってきた糖尿病感受性遺伝子について概説する. -
糖尿病細小血管症疾患感受性遺伝子研究の進歩
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病腎症などの細小血管障害の発症・進展に遺伝因子の関与が想定されている.病因に基づく候補遺伝子解析により,腎症疾患感受性遺伝子としてのアンジオテンシン変換酵素遺伝子など有力な候補遺伝子も報告されているが,現時点では多くの感受性遺伝子は不明である.近年のヒトゲノム解析研究の進歩はめざましく,膨大な量のヒトゲノム情報の利用が可能となっている.疾患関連遺伝子研究においても全ゲノム領域を網羅することが可能となってきており,既知・未知を問わず,全遺伝子を標的とした解析に注目が集まっている.糖尿病腎症に関してもSLC12A3,ELMO1といった新規糖尿病性腎症関連遺伝子が報告されている.今後,全ゲノム領域を対象とした疾患関連遺伝子研究はさらに加速するものと推察され,糖尿病性細小血管障害に関してもすべての関連遺伝子の同定およびあらたな治療法・予防法の開発がなされることが期待される. - ■糖尿病合併症研究の進歩
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糖尿病腎症研究の最近の進歩──寛解をめざした治療とあらたな腎症治療薬
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病腎症腎症を原疾患とした透析療法導入症例は現在増加の一途をたどっており,腎症に対する抜本的治療法の確立が望まれている.現状の治療目標は発症阻止,および進行阻止であるが,この目標達成には,厳格な血糖管理HbA1c値6.5%未満ならびに血圧管理130/80 mmHg未満,そしてレニン−アンジオテンシン系阻害薬が有効である.さらに,早期にアルブミン尿を測定することによって腎症を診断するとともに,前述した厳格な血糖管理とレニン−アンジオテンシン系阻害薬を用いた血圧管理が達成できれば,すでに存在する腎症を改善させる,つまり寛解を導くこともできる.また,あらたな治療戦略として,糖尿病モデル動物において研究されてきたPKCβ阻害薬はヒト腎症の発症・進展に対しても有効性を見出せる可能性が出てきた. -
糖尿病網膜症の血管新生誘導の分子機構
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病網膜症の病初期においては,pericyte lossが生じ細小血管を構成する周皮−内皮細胞連関が破綻して血管新生,血栓傾向,内皮細胞障害が引き起こされ,増殖網膜症へと進展していく.糖尿病状態で促進的に形成される終末糖化産物AGEsは受容体であるRAGEを介して認識され,細胞内酸化ストレスの亢進を引き起こし周皮細胞のアポトーシスを惹起する.さらに,AGEs−RAGE系は血管内皮細胞にも直接的に作用してNADPHオキシダーゼに由来する酸化ストレスの産生を亢進させ,血管新生や血栓傾向,炎症を引き起こす.AGEs−RAGEによってもたらされる血栓傾向は網膜局所の虚血や低酸素を招き血管VEGFの産生を亢進させて,さらなる血管新生を誘導する可能性が考えられる.PEDFは抗酸化活性を介してAGEsによる周皮細胞のアポトーシスを抑制するのみならず,VEGFやサイトカインの誘導を抑え,血管新生や血栓傾向,炎症反応に対しても保護的に作用する.PEDFの投与はAGEs−RAGE系による情報伝達経路を遮断することで,糖尿病網膜症の発症,進展,増悪を阻止できるかもしれない. -
糖尿病性神経障害の早期診断と治療の進歩──境界型糖尿病での神経障害の実態と治療指針
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病性神経障害についての理解が進むにつれて,糖尿病臨床のなかで神経障害の重要性が高まりつつある.神経障害をみることは,フットケアのみならず糖尿病患者の全身管理へと直結し,ひいてはQOL向上や平均寿命の延長へとつながる.簡易診断基準の導入から神経障害の診断が容易になされるようになったが,実はIGTの段階から神経障害は進んでおり,さらなる早期診断が必要となっている.また,神経障害への適切な管理・治療のためには臨床病期分類の確立が不可欠であり,それに基づいた進展の阻止をはからねばならない.最近になり,簡易診断基準をベースにした臨床病期分類の作成がようやく実現へと向かい,成因に基づく治療が神経障害の進展を真に阻止できるかを知ることが可能となりつつある.わが国では世界に先がけてポリオール代謝理論に基づくアルドース還元酵素阻害薬の臨床応用がなされており,その成果が国際的に認められつつある. - ■臨床:注目される分野の進歩と新しい治療法
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妊娠糖尿病
220巻13号(2007);View Description Hide Description妊娠中期以後に出現するインスリン抵抗性のためにインスリン需要量が増大するにもかかわらず,需要量の増大に対応できずに血糖値が上昇する場合を,元来,妊娠糖尿病と診断しており,診断基準も非妊娠時と異なる.しかし,現在の定義に従うと,妊娠前から存在していたと推測される耐糖能異常が含まれる可能性があり,注意して対応する.妊娠中の高血糖は母体のみでなく胎児・新生児にも影響を及ぼすため,厳格な血糖コントロールを行うが,軽度の耐糖能異常の場合も同様に行う.また,妊娠糖尿病の既往のある女性やその出生児においてメタボリックシンドロームの頻度が高いことが報告されており,母体は分娩後も,また児ではとくに出生体重が重かった妊娠糖尿病母体出生児で定期的なfollow−upが必要である. -
糖尿病,耐糖能障害,メタボリックシンドローム患者への心理・行動的援助
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病,耐糖能異常,メタボリックシンドロームなどは,生活習慣の是正が進展予防に有効であることが証明されている.食事や運動習慣の改善にあたっては,段階的に適切な心理・行動学的方法が用いられる必要がある.その理論的基盤となるのが多理論統合モデル変化ステージモデルである.この理論は,多くの健康に影響を与える問題行動の是正に有効であることが証明されている.大きくいえば,まず本人の考え方や気持ちを変えていくことを援助するプロセスが必要であり,望ましい行動がはじまればこれを維持することを援助する方法を使う必要がある.これが具体的に設定されているのがDPPコアカリキュラムであり,生活指導を行っていく臨床医にとって有用な指針となる. -
DPP IV 阻害薬
220巻13号(2007);View Description Hide Description栄養素の摂取とともに消化管から分泌されるインクレチンGIPやGLP−1は,食後にインスリン分泌を促進することで血糖の恒常性に寄与している.生体内では,これらのインクレチンは蛋白分解酵素DPP蠶dipeptidylpeptidase蠶によって不活性化される.そこで,このDPP蠶を阻害する薬物が糖尿病治療薬として開発され,欧米では臨床応用がはじまろうとしている.DPP蠶阻害薬は,スルホニル尿素SU薬とはまったく異なる機序でインスリン分泌を促進するとともに,膵β細胞を増やす可能性も示唆されている.インスリン分泌障害を主体とした2型糖尿病が多いわが国では,DPP蠶阻害薬などインクレチンに関連した薬物の登場は糖尿病診療を根本的に変えるかもしれない. -
メタボリックシンドローム治療薬としてのリモナバン──カンナビノイド系の機能とリモナバンの薬理作用
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionリモナバンはマリファナの成分であるカンナビノイドのCB1受容体の拮抗薬である.内因性のカンナビノイドは視床下部ではエネルギーバランス調節系,大脳辺縁系においては報酬・快楽系として食行動を促進性に調節している.リモナバンはこれらの作用を抑制すること,すなわち食欲抑制薬として抗肥満作用を発揮する.また,リモナバンは,末梢の脂肪合成抑制,エネルギー消費促進,アディポネクチン分泌促進作用などを介して肥満症患者の体重減少や脂質代謝異常改善に有効であることが明らかにされている. -
肥満に対する外科的治療
220巻13号(2007);View Description Hide Description従来の内科的治療では改善が認められない肥満症に対処するため,低侵襲治療として胃内バルーン留置術IGBと腹腔鏡下胃バンディング術LAGBをわが国に導入した.両治療法の導入に際し,3学会合同委員会日本肥満学会,日本消化器内視鏡学会,日本内視鏡外科学会でその適応と普及方法を検討した.これらの両治療法により,良好な体重減少ならびに肥満関連健康障害のめざましい改善をみている.今後,両治療法を中心として肥満に対する外科的治療の普及が予想される.その安全な普及には外科・内視鏡医と肥満や内分泌代謝を専門とする内科医との緊密な連携が重要である. -
吸入インスリン──その特徴と問題点
220巻13号(2007);View Description Hide Description吸入インスリンは,ドライパウダーや液状のインスリンを専用器具で噴霧して吸入する.皮下注射に拒絶的な患者にも投与が可能になると期待されている.アメリカで昨年2006承認され,日本でも近く治験が開始予定である.投与量の約10%しか吸収されず,吸入インスリン1 mgは皮下注射インスリン3単位に相当する.吸入直後から作用が現れ,超速効型インスリンと同等である.作用持続時間は速効型インスリンと同等である.各食直前に吸入し,1型糖尿病では中間型などの皮下注射インスリンと併用する.HbA1cの改善は超速効型インスリンと同等かやや劣り,経口薬より優れている.低血糖の頻度は皮下注射インスリンと同程度であるが,吸入時に空咳が出現しやすい.インスリン抗体ができやすいが,効果には影響はない.血中への吸収率が喫煙者では高く,慢性肺疾患患者では低いので,使用すべきではない.吸入インスリンが“夢のインスリン”か,安全性が“不安なインスリン”かについては,見解が分かれている. -
インスリン持続皮下注入療法CSII──その有用性と課題
220巻13号(2007);View Description Hide Descriptionインスリン持続皮下注入療法CSIIはインスリンポンプ療法ともよばれ,患者腹壁などの皮下に刺入した注入ルートを通じてインスリンを携帯型の注入ポンプにより持続注入する治療法である.以前より,おもに1型糖尿病患者の厳格な血糖コントロールを目的に臨床応用されているが,とくに最近,超速効型インスリンアナログとの組合せにより本療法の有効性と安全性が高められている.さらに,CSIIは基礎インスリン補償の安定化に優れているため,不安定型糖尿病患者の血糖コントロールを改善させるほか,食事時間や食事量にみあった追加インスリン補償の実現が可能なため,患者のライフスタイルの変化に対応しやすく,患者の生活の質QOL向上が期待できる. -
膵島移植──1型糖尿病に対する細胞移植
220巻13号(2007);View Description Hide Description膵島移植は,提供された膵から特殊な技術を用いて分離した膵島を糖尿病患者に点滴の要領で移植する低侵襲の治療である.2000年にアルバータ大学が新しいエドモントンプロトコールを発表後に世界で臨床応用が広がった.わが国では,2004年に京都大学で膵島移植の1例目が実施された.以降,膵・膵島移植研究会の膵島移植実施マニュアルに従い,全国で27例の心停止ドナー膵島移植が16名の血糖値の糖尿病患者に実施されており,全例で膵島の機能が確認され,インスリンからの離脱症例も続いている.また,京都大学では世界ではじめて生体ドナーからの膵島移植に成功している.膵島移植の課題として長期のインスリン離脱状態の維持,ドナー不足の改善,施設間格差の是正,免疫抑制剤の副作用の軽減などがあげられる.これらの課題が克服されれば,膵島移植は現状の探索医療から標準治療へと進化し,糖尿病患者への真の福音となるであろう. - ■組織的な糖尿病対策のあり方
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最新の組織的糖尿病対策
220巻13号(2007);View Description Hide Description近年注目されているメタボリックシンドロームは疾患の予備群として位置づけられ,糖尿病をはじめとした各種疾病の発症予防のためにも早期からの対策が重要となる.現在,糖尿病に対しては官・民の両立場から体系的な取組みがなされている.政府は2000年から“健康日本21”を実施し,健康づくりを目的とした運動を行っている.また,予防と重症化抑止対策の確立をめざした大規模臨床研究も予定されており,今後の糖尿病診療の指針となることが期待されている.さらに平成17年2005には医師会,学会,協会の三者による“糖尿病対策推進会議”が設立され,発症予防と合併症防止を目的とした活動がはじまっている.こうした取組みや研究はいまだ途上にあるが,各関連機関における連携および専門医とかかりつけ医による連携を構築し,包括的治療を推進するための一助として有望であり,さらなるシステムの整備と活性化が必要と考えられる. -
日本糖尿病対策推進会議──糖尿病の早期発見,予備軍の把握,患者管理のために
220巻13号(2007);View Description Hide Description日本糖尿病対策推進会議は,糖尿病対策を全国的に展開するために日本医師会,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会の三者が2004年2月に設立した.都道府県医師会も2006年には90%近く糖尿病対策推進会議を設置している.実際の糖尿病対策として,1糖尿病予備軍や軽症糖尿病を早期にみつけるために検診受診率を向上させる,2検診で要指導・要医療と判定されたものへの指導を徹底する,3糖尿病患者管理を強化させることが柱となるが,地域に合った活動が重要である.それぞれの目的に合わせて多くのリーフレットや糖尿病治療のエッセンスが作成されている.これらを活用することによって啓発活動,地域におけるネットワークの構築など,医師,看護師,栄養士などがそれぞれの分野で力を発揮すれば,糖尿病の一次予防から管理の徹底まで可能になる.このシステムが稼働すれば,21世紀における日本の糖尿病対策は確実に成果を上げ,世界に誇れるものになる. -
2型糖尿病発症予防のための介入試験J-DOIT1
220巻13号(2007);View Description Hide Description2型糖尿病患者の増加は,日本の医療における重要課題のひとつである.このため平成17年度に“糖尿病予防のための戦略研究”Japan Diabetes Outcome Intervention Trial:J−DOITがスタートした.J−DOITは3つの研究からなり,“2型糖尿病発症予防のための介入試験”J−DOIT1は,ハイリスク者から糖尿病への移行を抑制し,発症率の低下を目的とするクラスター・ランダム化比較試験である.参加者は支援群と自立群に分けられ,両群とも食事と運動という生活習慣を改善し,適正体重と運動習慣の獲得と維持をめざす.さらに,支援群では電話などの非対面式介入支援サービスを受けることが特徴である.このような生活習慣支援サービスの糖尿病発症予防効果を検証することが本研究の主要な目的である.研究結果は,より効果的な糖尿病予防の施策を考えるうえで意義あるものになることが期待されている. -
戦略研究J-DOIT2
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionDOIT2は糖尿病患者の受療中断を抑制するための戦略研究である.全糖尿病患者の半数が実際に治療されていない現状は,これらの患者の合併症発現を抑制できない.このような状態に対し,どのような方策がこの状態を抑制できるかを,糖尿病患者全体の80%に治療を行っているかかりつけ医を対象として研究するのがDOIT2である.医師会所属のかかりつけ医を対象としたはじめての大規模な研究であり,現在その実効性についてパイロット研究が行われている.パイロット研究として,1年間4医師会において患者登録がすみ,介入群と非介入群に分け研究に入っている.この研究では受診促進だけでなく,診療行為達成目標を設定し,医療の質の向上もめざし,ITによりかかりつけ医にフィードバックする研究も行っている.これにより,患者の行動変容や受診行動に対しどのような方策が有効か,また医療の質の向上にどのような働きかけが有効かなどを明らかにすることが期待できる. -
J-DOIT3──大血管合併症抑制のための大規模臨床試験
220巻13号(2007);View Description Hide DescriptionJ−DOIT3は厚生労働省による“糖尿病予防のための戦略研究”のひとつで,2型糖尿病の血管合併症抑制のための介入試験であり,2型糖尿病で高血圧または脂質代謝異常のある患者3,000人を,血糖,血圧,脂質に対する従来の治療方法従来治療を受ける群と,目標をより厳しく設定した強力な治療方法強化療法を受ける群に割り付け,心筋梗塞,脳卒中などの大血管合併症の発症を,約4年間で30%抑制しようという試みである.世界的にみても細小血管症の抑制に成功した臨床試験はあるが,大血管症を抑制する有効な治療法はいまだに確立されていない.したがって,J−DOIT3の結果により,はじめてのエビデンスに基づいた大血管合併症抑制法を,日本から世界に向けて発信できることが期待される. -
JDCS──日本人を対象にしたはじめての大規模臨床介入研究
220巻13号(2007);View Description Hide Description非欧米人糖尿病患者を対象にしたはじめての大規模臨床介入研究であるJDCSは,日本全国の2型糖尿病患者2,200人の現状を前向きに追跡しつつ,生活習慣介入を中心とした強化治療の有効性も検討している.本格的解析はこれからであるが,その中間データから日本人と欧米人の糖尿病患者にさまざまな病態の違いがあることが見出されている.日本人糖尿病患者の診療には日本人患者のエビデンスが必要であることが強く示唆される.また,合併症を予防するためには血糖,血圧,血清脂質のすべてを良好な状態にコントロールする必要があることも確認されつつある. -
地域における糖尿病対策1
220巻13号(2007);View Description Hide Description増え続ける糖尿病とその合併症に対処するためには,専門医だけではなく,とくに地域のかかりつけ医をはじめとする医師すべてに標準化された糖尿病の診断と治療を浸透させるとともに,地域における医療連携体制が重要となる.このため2005年2月に日本医師会,日本糖尿病学会,日本糖尿病協会の三者により日本糖尿病対策推進会議が設立された.そして今,各県ごとに地域の実情に即した糖尿病対策が動き出している.また,今後は糖尿病の発症そのものを抑制する一次予防への取組みが欠かせない.2008年からは健診の義務化と保健指導を行う特定健康診査制度が国の新しい制度として始まるが,われわれ糖尿病患者を診る臨床医は積極的にかかわっていく必要がある.糖尿病対策を地域から成功させるためには,時間をかけて人を育て,組織をつくってチーム医療を進めていくことが最も堅実な方法である. -
地域における糖尿病対策2──糖尿病対策推進会議設立と健診保健指導義務化のなかでの地域医療連携構築の必要性
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病は激増しているが,糖尿病専門医は少ない.メタボリックシンドロームへの指導も重要である.糖尿病治療予防対策の重要性にかんがみ,2004年2月“糖尿病対策推進会議”が設立された.現在各都道府県レベルでも設立され,活動が開始されている.2006年には“日本糖尿病協会”が“登録医”制度を設立した.糖尿病専門医でなくても,糖尿病に関心があればスキルをあげていく環境がしだいに整いつつある.一方,厚生労働省は“医療構造改革における生活習慣病対策”の一環として平成202008年度からメタボリックシンドローム,糖尿病の予防を中心とした“健診,保健指導の義務化”を実施することとした.その結果,“かかりつけ医”においても“保健指導”のスキルアップが求められることになった.このようななかで,地域連携に対する“地区医師会”の役割が重要となり,“地区医師会”を中心とした“糖尿病地域連携,健診,保健指導”システムの構築が焦眉の課題となっている. -
DNETT-Japan
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病性腎症はわが国における慢性透析導入の最大の原因疾患である.糖尿病性腎症はいったん発症すると進行性で非可逆性であると考えられていたが,近年,早期腎症は,血圧,血糖および脂質の厳格な管理により高率にアルブミン尿が減少し,さらにアルブミン尿が陰性化寛解することが明らかとなった.しかし,進行した顕性腎症の寛解が可能であるかどうかについては大規模臨床試験によるエビデンスは存在しない.DiabeticNephropathy Remission and Regression Team Trial DNETT−Japanは,顕性腎症を伴う2型糖尿病患者を対象に,医師と糖尿病療養指導士CDEJを中心としたコメディカルスタッフがチーム医療によって強力な治療介入を行う集約的治療ことにより,腎症の進展の抑制,さらには寛解が可能であるかどうかを検証する多施設共同無作為化臨床試験である.DNETT−Japanによって顕性腎症に対する集約的治療が確立されることが期待される. -
糖尿病大規模研究でなにを明らかにすべきか
220巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病に関する大規模研究において検討を期待する課題をいくつか取り上げた.急増する2型糖尿病対策の第一は発症予防である.とくに重要なのは不健全な生活習慣に対する介入・是正であり,それが有効に実践され,全国に普及することを期待する.第二は2型糖尿病患者の死因として重視される大血管症の抑制である.細小血管症と異なり,種々のリスクファクターが複雑に関与しており,それらの大血管症発症に対するウエイトの分析と対策が必要である.科学に裏づけられたエビデンスは現代医療の向上にきわめて重要であることは論をまたない.しかし,それは臨床の場で個々別々に適正に実践されてはじめて価値あるものとなる.この観点から2型糖尿病の早期診断とその後の治療がどの程度継続的に実行されているか,その実態を調査し,今後の向上に資することを期待した.
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