医学のあゆみ
Volume 221, Issue 8, 2007
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あゆみ 癌免疫制御法の進歩と展望──細胞性免疫による癌治療はどこまで可能か
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WT1癌抗原ペプチドを用いた癌免疫療法の今後の展開
221巻8号(2007);View Description Hide DescriptionWilms腫瘍遺伝子WT1は転写因子をコードし,癌抑制遺伝子と定義されているが,著者らは一連の研究から根源的な癌遺伝子であることを提唱している.WT1は白血病やほとんどの固形癌で高発現する汎腫瘍マーカーであり,かつ,汎腫瘍抗原である.WT1 mRNAの定量により末梢血では10万個のなかに1個の白血病細胞を検出することができ,本検査は商品化され,保険採用が待たれている.WT1蛋白は癌抗原性が非常に高く,癌患者ではWT1抗体やWT1特異的細胞傷害性細胞が誘導されており,癌抗原としてはもっとも優れたものであると考えられる.著者らはWT1癌抗原ペプチドを用いた癌の免疫療法を世界に先がけて実施した.第相臨床研究で,本免疫療法の安全性が明確になり,現在第相臨床研究を行っている.現在までに200例以上の症例に本免疫療法を実施し,末期癌患者に対して十分な臨床効果を得ている.分子再発のAMLの3症例では4年以上にわたって本免疫療法を継続しており,完全寛解が持続している.また,再発グリオブラストーマでは病勢コントロール率は56.5%で,満足すべきものであった.高齢者社会を向え,体にやさしい癌の治療法として免疫療法はその中心的役割を果たすときがくると考えられる. -
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HSPを用いた免疫増強とHLA消失による免疫回避
221巻8号(2007);View Description Hide Descriptionあらたな治療法として注目を集めはじめた腫瘍特異的ワクチン療法であるが,現在のところ十分な治療効果を得ていない症例が多数ある.その対策としては,ワクチン抗原性を高める有効なアジュバンドの開発と癌免疫逃避機序の解明が重要である.著者らは新規アジュバンドとしてHSPを用いて,癌抗原ペプチドとの複合体を担癌マウスに免疫したところ,高いCTL誘導効果と腫瘍縮小効果を認めた.これはHSP−抗原ペプチド複合体が抗原提示細胞によって効率的にcross−presentationされた結果,抗原ペプチド特異的CTLが誘導されたためと考える.一方で,HLA class発現の低下は免疫逃避の主要な原因になっており,各種悪性腫瘍においてHLA classの発現低下/消失は,患者生存率が有意に低く,治療後の再発率も有意に高い.そこで著者らは,恒常的なB2M発現レベルと細胞表面のHLAレベルが低下している乳癌細胞株または前立腺癌細胞株にヒストン脱アセチル化阻害剤を作用させたところ,B2M発現レベルの増加とともに細胞表面HLA発現の回復が観察された.このことは免疫逃避を克服する治療薬としてHDAC阻害剤が用いられる可能性を示しており,まったく新しい免疫療法として注目される. -
制御性T細胞による免疫抑制とその克服──有効な癌ワクチン療法の開発に向けて
221巻8号(2007);View Description Hide DescriptionCD4+制御性T細胞(Treg)はその多くが細胞表面に恒常的にCD25を発現し,また転写因子Foxp3が,その免疫抑制機能の獲得・維持にかかわっている.CD4+CD25+Tregは自己寛容の維持に重要な役割を果たしており,その数的・機能的異常は重篤な自己免疫病を引き起こす.近年マウスモデルにおいて,CD4+CD25+Tregを除去するか,CD4+CD25+Tregの抑制を解除する可能性のある物質をアジュバントとして使用することにより,癌に対する免疫応答を増強し,癌を駆逐できること,またCD4+CD25+Tregによって認識される抗原を免疫することにより,癌に対する免疫応答を強く抑制し,化学発癌剤による発癌促進,マウス移植癌の増悪が起こることが報告され,Tregが腫瘍免疫応答をも制御していることが強く示唆された.ヒトにおいても種々の癌患者で,末梢血および癌局所に浸潤しているCD4+CD25+Tregの割合が健常人に比較して増加していること,末梢血でのCD4+CD25+Treg数の増加,腫瘍局所でのCD8+T細胞/FOXP3+CD25+Treg比の低下は予後不良因子となりうることが報告され,Tregが腫瘍免疫応答を制御していることが示されてきた.このことから,癌局所に浸潤しているTregの活性をいかに制御するかが有効な癌ワクチン療法にはきわめて重要であると考えられ,種々の試みがはじめられてきている. -
NKT細胞免疫系を利用した癌免疫療法
221巻8号(2007);View Description Hide DescriptionヒトNKT細胞はVα24JαQ抗原受容体遺伝子でコードされる均一な抗原受容体を発現し,CD1d拘束性に糖脂質のα−ガラクトシルセラミドを認識し活性化,腫瘍細胞に対してはさまざまな細胞傷害機構を動員して抗腫瘍活性を発揮する.マウスモデルではNKT細胞を標的とした樹状細胞療法により悪性腫瘍の肺転移をほぼ完全に抑制した.このモデルの臨床応用をめざし,αGalCer提示樹状細胞投与によるin vivoでのヒトVα24NKT細胞活性化をめざす免疫細胞療法を開始した.さらに,in vitroで培養し活性化したNKT細胞を投与する活性化NKT細胞療法を施行した.その結果,安全に施行可能であることを確認し,現在NKT細胞免疫系を標的にした免疫細胞療法は臨床効果を探索するphase−試験へと進行している. -
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腫瘍新生血管を標的とした免疫療法の可能性
221巻8号(2007);View Description Hide Description今日の癌ペプチドワクチン療法の問題点を克服し,複数の癌種を標的としうる腫瘍新生血管ワクチン療法の開発が進められている.分子としての標的はVEGFR2であるものが多いが,著者らは最近,VEGFR1も有望な標的であることを示した.これらの基礎研究をもとにしてトランスレーショナルリサーチとしての臨床試験がはじめられており,その結果が注目されている. -
悪性黒色腫における抗原特異的T細胞応答を利用した免疫療法の現状と課題
221巻8号(2007);View Description Hide Description癌免疫療法はまだ標準治療としては確立されていない.大きな進行癌に対して,あるいは治療後の再発防止を目的として,免疫療法の適応と限界を科学的に検証する必要がある.著者らは悪性黒色腫を中心に,ヒトにおける抗腫瘍免疫応答の解明と免疫療法の可能性を追究してきた.ヒト腫瘍抗原の同定は生体内での抗腫瘍免疫応答の解析を可能し,癌細胞の免疫学的排除に至る各段階での問題点を明らかし,また人為的な免疫制御法の開発を可能にした.その結果,能動免疫法においては免疫回避機構の克服が必要であること,また,体外培養腫瘍抗原特異的活性化T細胞を用いる養子免疫療法を中心にした総合的な免疫制御により,悪性黒色腫では大きな進行癌に対しても約半数に劇的な腫瘍縮小効果が得られることが明らかになった.しかし,細胞免疫による免疫制御にはまだ十分に改良の余地があり,現在世界中で,臨床試験と基礎研究を繰り返すtranslationalresearchが進められている.
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フォーラム
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第71回日本循環器学会総会・学術集会緊急レポート Cardiorenal Syndrome and Hypertensive Heart Diseases
221巻8号(2007);View Description Hide Description心血管疾患患者は腎機能が悪くなりやすく,腎機能が悪くなると生命予後が著しく低下する.一方,中程度の腎機能の低下は心血管疾患発症の重大なリスクである.すなわち,腎機能低下と心血管疾患の間には悪循環が存在する.このプレナリーセッションは腎機能と心血管疾患の関連の疫学と病態生理に焦点を当てた. -
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連載
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- 医療情報のIT化と医療情報学──電子カルテとどう付き合うか
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4.統合型病院情報システム
221巻8号(2007);View Description Hide Description医師の診療には,情報伝達・収集・共有・分析にかかわる数多くの業務があり,これを支援するシステムが統合型病院情報システムである.その役割は,単に紙の記載をコンピュータ入力に変えることではなく,紙にないあらたな価値を提供することにある.具体的には,診療業務の効率化,情報の共有化,そして患者安全管理,意思決定,病院経営管理,医学研究などの支援がある.実例の紹介として,東大病院の統合型病院情報システムを例に,その中のオーダエントリ,電子熱型表,電子カルテ,患者個別情報提供の各システムを紹介した.現在普及している統合型病院情報システム全般の課題としては,優れたユーザインタフェイスの開発およびレスポンスの改善,相互運用性やセキュリティの確保などがあげられる.今後の方向性としては,従来の病院運営面での貢献だけでなく,医師の診療上の意思決定を支援するツールとしての発展が期待されている.
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速報
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