医学のあゆみ
Volume 221, Issue 13, 2007
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6月第1土曜特集【動脈硬化学UPDATE──動脈硬化の成り立ちを理解する】
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- ■動脈硬化の成り立ち
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動脈硬化の成り立ち──“炎症・修復学説”を中心に
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化発生・進展に関する学説を振り返り,近年注目されている“炎症説”の概要について述べる.この考えは,動脈硬化症の発生初期ならびに進展期における血液・血管壁の相互反応のみならず,粥腫破綻により生じる灌流組織・臓器虚血の急性発症時の動脈硬化症イベントを理解するうえでも有効であることから,動脈硬化の発生・進展を総合的に理解する学説として注目され,現在,心・血管病イベントの病態理解の基盤となっている.本稿では動脈硬化の発生・進展に関する“炎症説”を概説し,とくに不安定粥腫を含めた進展病変に関する分子病態のさらなる理解のために,障害組織の修復に不可欠な血管新生に着目して“炎症・修復説”を提唱する.血液・血管壁の動的な相互反応を解明し,この分野における診断,治療ならびに予防法を含めた新規の研究戦略が開発・展開されることを期待する. - ■疫学からみる動脈硬化
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わが国の動脈硬化性疾患の特徴と予防対策の視点
221巻13号(2007);View Description Hide Description日本人の平均寿命が世界一となったのは,第二次世界大戦後の脳卒中死亡率の上昇を減少に転じさせたことと,動脈硬化性心疾患の代表である心筋梗塞死亡率を上昇させなかったことによる.これらの2つの疾患は,動脈硬化性疾患,すなわち血管の老化によって生じるものであり,日本人の生活環境のなかに動脈硬化を予防する要因が含まれていることを示している.従来からよく知られている高血圧,喫煙,高コレステロール血症,糖尿病などは血管の老化を促進し,HDLコレステロールは老化を予防する.少量のアルコールは動脈硬化を予防し,また,魚介類の摂取も動脈硬化予防に貢献している度合が大きい.日米の潜在性動脈硬化の比較疫学研究では,日本人の動脈硬化度がアメリカの白人よりなぜ少ないかは依然わかっていない.しかし,ハワイの40歳代男性の日系米人では白人並みに冠動脈硬化が進行しており,わが国においても今後冠動脈疾患が増加しないか,注意深い観察が必要である. - ■危険因子の位置づけと治療の効果
- 【基礎的研究】
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高脂血症による粥状動脈硬化プラークの成立と破綻の機序
221巻13号(2007);View Description Hide Description高脂血症,とくにLDLコレステロールの増加は粥状動脈硬化の主要な危険因子であり,治療によりLDLコレステロールを減少させることで動脈硬化性疾患の発症リスクを低減できることが示されている.LDLの増加を基盤として発症する粥状動脈硬化においては,酸化変性を受けた低比重リポ蛋白(LDL)がその因子のひとつとして重要な役割を担うことが示唆されている.一方,HDLコレステロールは動脈硬化の防御因子であり,その値が低いことが動脈硬化の危険因子となる.また,急性冠症候群の発症機構は,進行した粥状動脈硬化プラークが破綻した結果,血栓形成をきたし,急速に血管内腔を狭めることにより発症する.プラークの破綻には脂質の蓄積と炎症反応の大きさが関与するが,酸化LDLとその受容体が重要な役割を担う.スタチンなどによるLDL低下治療は酸化LDLの減少と炎症を抑制することで,冠動脈イベントの発症を減少させるものと考えられる. -
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機械的因子
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管内面を覆う内皮細胞は,血流から発生する機械的刺激(ずり応力)を受けている.内皮細胞は血流の変化をずり応力の変化として敏感に感知して反応を起こすが,この反応が血管の生理機能の調節や血管病の発生に深くかかわっている.血管の分岐部や彎曲部では血流が遅くなり渦などが生じるため,そこの血管内皮には乱流性のずり応力が作用する.乱流性のずり応力は内皮細胞を白血球と接着しやすくし,脂肪の内皮下への蓄積や平滑筋の遊走・増殖や細胞外マトリックスの分解を促進するとともに血栓形成を引き起こすため,粥状動脈硬化病変が発生しやすい条件を与える.このことが動脈の分岐部や彎曲部に動脈硬化病変が好発する理由となっている. -
心血管疾患のプロテオミクス
221巻13号(2007);View Description Hide Description心血管疾患の病態の解明や診断のためのバイオマーカーの開発のためには蛋白質解析が重要である.蛋白質はその機能制御のために翻訳後修飾を受けており,その乱れが疾患状態であると考えられる.このような蛋白質解析の手法として近年“プロテオミクス”とよばれる質量分析計を駆使した解析法が定着してきた.この方法を用いることで,蛋白質の翻訳後修飾解析を行い,心血管疾患の病態の解明,診断に使用されうる診断マーカーの開発にせまることができるものと考えられる. -
動脈硬化性疾患に対する遺伝因子の関与
221巻13号(2007);View Description Hide Description心筋梗塞や脳梗塞の危険因子として糖尿病,脂質代謝異常,高血圧,性,年齢などとともに遺伝因子の関与が想定されている.しかし,遺伝因子そのものの関与は比較的弱く,どのような遺伝因子がこれら動脈硬化性疾患の発症に関与するかを明らかにすることは容易ではない.近年のヒトゲノム解析研究の進歩はめざましく,膨大な量のヒトゲノム情報の利用が可能となっている.動脈硬化症関連遺伝子研究においても全ゲノム領域を網羅することが可能となってきており,既知・未知を問わず全遺伝子を標的とした解析に注目が集まっている.今後,全ゲノム領域を対象とした疾患関連遺伝子研究はさらに加速するものと推察され,すべての関連遺伝子同定によりあらたな治療法・予防法の開発に結びつくことが期待される. - 【臨床的研究】
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動脈硬化の危険因子としての脂質異常症
221巻13号(2007);View Description Hide Description2007年,“動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版”が発表され,以前に高脂血症と呼ばれた病態は,脂質異常症と言われるようになった.国内外の疫学スタディによる動脈硬化に対する危険度から,高LDL−C血症,高トリグリセリド血症,低HDL−C血症などの脂質異常症の診断基準が示された.また,国内外の介入試験の結果を考慮して,カテゴリー分類別の管理目標値が設定された.本稿では,脂質異常症およびその他の脂質関連危険因子としてレムナント,small dense LDLの動脈硬化危険性について述べる. -
高比重リポ蛋白(HDL)──HDLの動脈硬化防御機構における役割
221巻13号(2007);View Description Hide Description近年のわが国における食生活の欧米化に伴った虚血性心疾患や脳卒中など重篤な動脈硬化を基盤とする血管病の急激な増加は,社会的にもきわめて深刻な問題である.これまでのさまざまな疫学調査により,血清高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値と冠動脈疾患罹患率との間には負の相関関係があることが証明され,HDLは抗動脈硬化作用を有する重要なリポ蛋白であることが明らかとなった.その動脈硬化防御機構のメカニズムとして,HDLやその主要アポ蛋白であるアポ蛋白A−により粥状動脈硬化巣に蓄積するコレステロールが引き抜かれ,コレステリルエステル転送蛋白(CETP)の働きにより低比重リポ蛋白(LDL)へと輸送,最終的に肝や末梢組織に存在するLDL受容体を介して取り込まれ代謝される,いわゆるコレステロール逆転送系が想定されている.しかし,コレステロール逆転送系を賦活化させる治療法はいまだ確立されておらず,この治療法の開発は現代循環器病学・代謝学の最大の命題であると思われる. -
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高血圧──動脈硬化の危険因子としての高血圧とその発症抑制・退行
221巻13号(2007);View Description Hide Description高血圧は機械的因子・液性因子の変動をもたらし,動脈硬化を悪化させることが知られており,疫学調査では高血圧患者で動脈硬化関連疾患の発症率が増加すること,高血圧の治療によりリスクが低下することが明らかにされている.著者らの動物実験では,レニン−アンジオテンシン系(RAS)阻害薬を高血圧発症時期の特定時期(critical period)に一過性に投与すると,その後の高血圧の発症のみならず高血圧性合併症も抑制できることが示唆された.最近,RAS阻害薬早期投与による高血圧発症抑制効果を検討する臨床試験(TROPHY試験)の結果が発表されたが,当教室でも高血圧発症抑制・退行の可能性を検討する臨床試験(STAR CAST試験)を現在企画している. -
糖尿病──包括的リスク管理の重要性
221巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病患者における心血管疾患発症のリスクは非糖尿病者の3〜4倍である.糖尿病における心血管疾患のリスクファクターには,喫煙や加齢に加え,高血圧,脂質代謝異常などがある.糖尿病における心血管疾患の予防には,生活習慣の改善(禁煙や食事療法,運動療法)および血糖管理,血圧管理,脂質管理を厳格かつ包括的に行う必要がある.血糖コントロールは空腹時血糖をターゲットにした治療だけではなく,インスリン抵抗性の改善や食後高血糖の改善をめざした治療も必要である.血圧コントロールについては降圧がもっとも重要であるが,インスリン抵抗性改善作用や腎保護作用,心不全抑制効果の認められるアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が第一選択薬となる.脂質管理についてはスタチンが第一選択となる. -
加齢──高齢者の動脈硬化性疾患
221巻13号(2007);View Description Hide Description加齢は重要な動脈硬化の危険因子であり,高齢者は動脈硬化性疾患のハイリスクグループである.したがって,高齢社会を迎えたわが国における動脈硬化性疾患の発症予防/治療は社会的に大きな課題となっている.しかし,高齢者,とくに75歳以上の後期高齢者を対象とした臨床試験はいまだに十分行われているとはいえない状況であり,高齢者におけるエビデンスの蓄積は急務といえる.さらに,加齢そのものが動脈硬化を引き起こす基礎的なメカニズムを明らかにすることにより,より特異的な治療法の開発につなげていくことも重要であると思われる. -
メタボリックシンドローム
221巻13号(2007);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドローム/インスリン抵抗性症候群の成因に腹部肥満の役割が重要であり,インスリン抵抗性の上流にある肥満,とくに内臓肥満が脂肪細胞由来のアディポネクチン,レプチン,TNF−α,レジスチンなどの異常を介して関与することが最近の成績で明らかにされてきている.本症候群における糖尿病の新規発症をみると,メタボリックシンドロームを有する場合には,有しない場合と比べて2.2倍糖尿病の新規発症が多いことが示され,メタボリックシンドロームは心疾患の発症率を上げるのみならず,糖尿病の新規発症に対しても重要な要因であることが判明した.厚生労働省では健診の診断基準,生活習慣改善指導基準を作成し,健康保険,国民健康保険によって本症候群の健診を行うことを義務化し,さらに本症候群の予備群に対して生活習慣改善を指導することにしている. -
心血管疾患におけるCRPの役割──原因か結果か,双方か?
221巻13号(2007);View Description Hide DescriptionC反応性蛋白(CRP)は急性炎症のマーカーとして広く用いられてきたが,近年,心筋梗塞のあらたな危険因子として世界的な脚光を浴びている.臨床研究の結果,CRPが高い患者では低い患者と比べ,心筋梗塞の発症率がおよそ2倍になることが明らかにされた.しかし,CRPが炎症状態を反映するだけのただのマーカーなのか,それとも直接的に動脈硬化の進展と心筋梗塞の発症に関与しているのかは不明である.それを解明するために,ヒト剖検例,細胞および動物を用いた研究が行われ,CRPが動脈硬化病変に幅広く存在することや,その由来となる臓器,さらには動脈硬化への積極的な作用が明らかにされつつある.また,CRPを標的とした新規薬剤の開発も同時進行で進められており,将来の心筋梗塞予防・診断・治療への多大な貢献が期待される. - ■血管壁を構成する細胞の機能
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血管の形成
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管は内腔側に存在する血管内皮細胞とその周辺を取り囲む壁細胞(ペリサイトと血管平滑筋細胞)の2種類の細胞によって構成され,個体発生,生命維持にとって必要不可欠の器官である.血管は胚発生のもっとも早期に形成が開始する器官であり,内皮前駆細胞が内皮細胞へと分化して新しい脈管系を形成する脈管形成,血管新生(発芽,剪定,嵌入,分枝),壁細胞被覆による成熟化のプロセスを経て全身へと分布する. -
血管機能を制御する内皮細胞と壁細胞の相互作用──Tie2受容体による血管系の構築
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管はそのもっとも内腔を1層に覆う血管内皮細胞に,その外側から壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトが裏打ちして安定した構造となる.内皮細胞と壁細胞の接着や解離の現象が血管の成熟化や既存の血管からの新規血管分枝の発芽機構に重要な役割を果たす.血管は成熟化することにより血管透過性を制御し,また内皮細胞は種々の血管内環境因子の変化に応じて種々の接着分子の発現を変化させ,白血球の接着や組織内への速やかな炎症細胞の移動を許容して炎症の沈静化をはかる.このようなイベントは,血管内皮細胞に発現して機能するTie2受容体に対し壁細胞から分泌されるその結合因子であるアンジオポエチン(Ang)−1や血管内皮細胞から分泌されるAng−2が重要な役割を果たす.Ang−1はTie2を活性化して内皮細胞と壁細胞の接着により血管構造の安定化と透過性の抑制に機能する.また,Ang−2は壁細胞と内皮細胞の接着を抑制して新規血管分枝の発芽を誘導するとともに,内皮細胞上の白血球接着分子の発現を制御して炎症細胞の浸潤を誘導する.このTie2/Angの機能を理解することにより,血管新生や炎症の分子機序が徐々に明らかになってきた. -
血管平滑筋細胞──Rho/Rho-kinaseを中心としたCa【2+】感受性亢進
221巻13号(2007);View Description Hide Description従来,血管平滑筋の収縮機序は,細胞内Ca2+濃度上昇によるミオシン軽鎖キナーゼの活性を介したミオシン軽鎖のリン酸化で説明されてきた.しかし,細胞内Ca2+濃度とミオシン軽鎖のリン酸化レベルおよび発生張力がかならずしも一致しないことから,細胞内Ca2+濃度以外にも血管平滑筋収縮を制御するメカニズムが存在していると考えられてきた.10年ほど前に,低分子量GTP結合蛋白質Rhoとその標的蛋白質Rhokinase/ROCK/ROKが細胞内Ca2+濃度に依存しない平滑筋収縮を制御していることが明らかにされ,Rho/Rho−kinaseによる血管平滑筋収縮が冠動脈攣縮や高血圧などの循環器疾患に関与していることがあいついで報告されている.現在,Rho−kinase阻害薬の臨床治験が進行中であり,Rho−kinaseは循環器疾患を中心とした種々の疾患の治療のターゲットとして注目されている. -
血管リモデリングを制御する細胞・分子メカニズム
221巻13号(2007);View Description Hide Description生体において血管があらたにつくられる過程では,はじめに毛細血管網が形成された後,動脈や静脈など形態的に異なる血管壁が形成され,最終的に階層的構築を伴った機能的血管網が形成される.胎生期における血管発生では動静脈の形成や血管網の形態的リモデリングが多様なシグナル分子によって制御されている一方で,血流動態に伴う微小環境要因が内皮細胞における遺伝子発現を修飾し,リモデリングに影響を与えていることが明らかとなってきた.血管リモデリング過程に関与する細胞・分子メカニズムの理解は各種病態における血管新生を制御するうえでも重要な課題のひとつであり,今後のさらなる研究が期待される. - ■動脈硬化形成における血管細胞の動向
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プラークの病理──動脈硬化の発生・進展の病理形態
221巻13号(2007);View Description Hide Description近年,心筋梗塞,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症(ASO)などの動脈血栓症は粥状硬化症を基盤に血栓が形成されて発症することが明らかとなり,これらの疾患をアテローム血栓症(atherothrombosis)と表現するようになった.動脈硬化の発生・進展およびアテローム血栓症の鍵を握っているのは,血管内皮細胞障害や血管壁における慢性炎症反応である.その原因は完全には解明されていないが,糖尿病,高血圧,高脂血症などの危険因子の集積が重要であると考えられている.全身性疾患であるアテローム血栓症の病態・治療を考えるうえで,背景となる危険因子と血栓制御因子の関連を解明すること,さらに局所のみならず全身の血管病変をいかに予防・治療するかが今後の課題である. -
内皮細胞の反応
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化症の初期の段階では炎症刺激により血管内皮細胞の表面に接着分子が誘導され,白血球が内皮細胞に接着・浸潤する.この過程には種々の接着分子および液性因子が関与している.また,内皮機能障害による一酸化窒素の産生低下が動脈硬化症を増悪すると考えられる.さらに,動脈硬化症における炎症反応には慢性感染症の影響も報告されている.細胞接着における一連の内皮細胞の反応は,動脈硬化形成のメカニズムに重要な役割を果たしていると考えられる. -
血管リモデリングにおける血管平滑筋細胞の役割
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化症は血管内皮細胞,血管平滑筋細胞および血中由来炎症性細胞の相互作用に起因する血管壁の閉塞性疾患で,血管内膜肥厚(新生内膜)形成を初期病変とする活発な血管壁再構築(血管リモデリング)を起こす.血管内膜肥厚層の発達に伴い,血栓形成,脂質沈着,アテローム形成による動脈硬化巣が形成され,さらにはプラーク破綻へと進行する.石灰化を伴う動脈硬化巣もしばしば形成される.心筋梗塞,狭心症,脳血管障害,内頸動脈閉塞症などは動脈硬化症を基礎疾患としている.動脈硬化症の発症要因に関して十分な理解に至っていないが,肥満,高血圧,糖尿病,高脂血症などの生活習慣病が発症母体となっている.動脈硬化巣はヘテロな細胞集団(血管内皮細胞,血管平滑筋細胞,マクロファージやリンパ球などの血球系細胞および脂質を蓄積したファーム細胞)から構成されている.Rossによる炎症説1)では,血管内皮細胞の障害による炎症性変化に伴い,血管壁内に浸潤したマクロファージやリンパ球が増殖因子,サイトカイン,ケモカインを分泌し,血管平滑筋細胞の形質転換(分化→脱分化)を誘導するとされている.一方,Steinbergによる酸化ストレス説2)では,血管壁内に侵入したLDLが酸化ストレスにより強力な動脈硬化誘発能を有する酸化LDLに変化し,血管壁内に貯留することで動脈硬化を発症するとされる.このいずれにおいても血管平滑筋細胞の形質転換(脱分化)が起点となり,脱分化型血管平滑筋細胞の増殖・遊走により血管内膜肥厚層を形成して血管壁のリモデリングをきたす.血管内膜肥厚層の形成にかかわる細胞は,血管中膜平滑筋層から増殖・遊走した脱分化型血管平滑筋細胞であると考えられている.しかし,バルーン障害,静脈移植片,骨髄移植または脂質代謝異常マウス(アポE欠損マウス)とこれらを併用した動脈硬化モデル動物の研究から,循環血液中の骨髄由来細胞や血管外膜に存在する平滑筋前駆細胞由来の細胞が血管内膜肥厚層の構成細胞であるという報告もある.また,進行した動脈硬化巣においては,5〜20%の確率で骨化(石灰化)が検出される.本稿では血管内膜肥厚層の形成および血管組織の石灰化について解説する. -
マクロファージ
221巻13号(2007);View Description Hide Description粥状動脈硬化病変は種々の要因により成立するが,血球細胞の関与,なかでも単球に起源を有するマクロファージは,病変の発症から進行病変の形成にまでかかわることが明らかにされ,その分子動態の解明は病態解析からの重要性はもとより,治療方法の開発からも重要な命題である.動脈硬化病変早期に単球は血管内皮細胞下層に遊走後,マクロファージへと分化し,酸化LDLなどの変性LDLを取り込み泡沫細胞化し,脂肪線条を構成する主要細胞となる.また,種々の生物学的刺激に反応して多彩な液性因子を分泌し,血管内皮細胞,平滑筋細胞などとの情報ネットワークの中枢的役割を演じる.また,病変後期には細胞死や細胞外基質の分解にかかわることでプラークの性状にも重要な役割を演じている. -
動脈硬化病態への骨髄由来細胞の関与
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化などの血管病は,傷害に対する修復機構を契機として局所の細胞増殖によって生じると考えられている.近年,成体にも多分化能を有した組織幹細胞が存在することが明らかになった.移植後動脈硬化,血管形成術後再狭窄,高脂血症による動脈硬化のモデルにおいて骨髄由来前駆細胞が傷害後の血管に定着し,内皮様細胞あるいは平滑筋様細胞に分化して血管修復と病変形成へ貢献することを著者らは報告した.また,高度に進行した動脈硬化病変の細胞ターンオーバーに血中前駆細胞が関与していた.とくに,vasa vasorumからの新生血管を介してプラーク内部へ到達した前駆細胞は動脈硬化巣構成細胞に分化し,粥腫の進展と不安定化に関与していると考えられた.骨髄由来細胞がプラーク内に蓄積する制御機構の解明は今後,動脈硬化のあらたな診断法・治療法の開発に応用されると期待される. -
動脈硬化とT細胞
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管は血管平滑筋細胞,血管内皮細胞などが存在して血流を保つ器官としての機能を果たしている.動脈硬化は単球系細胞の浸潤にはじまり,浸潤単核球から放出される炎症物質と血管平滑筋が相互に刺激しあい,炎症が持続することで進展する.近年,この連鎖のなかでT細胞が重要な役割を果たしていることが示されてきた.動脈硬化におけるT細胞の役割として,1早期病変ではCD8陽性T細胞が優位を占めているが,進行するにつれ,CD4陽性T細胞が優位を占めていくこと,2制御性Tリンパ球も動脈硬化病変に存在し,動脈硬化進展に抑制をかけていることが特徴的である.動脈硬化進展においてT細胞は炎症惹起による促進・抑制の両方向性をもっていることが明らかにされつつある.T細胞は動脈硬化進展抑制のターゲットとしてあらたな脚光を浴びつつある. -
動脈硬化性プラーク形成および不安定化における石灰化の意義
221巻13号(2007);View Description Hide Description生活習慣病の増加や高齢化などを背景として,動脈硬化に基づく病的血栓形成を発症原因とする心筋梗塞,脳梗塞などの罹患率が増加している.古くから動脈硬化と石灰化との関連性についてはよく知られているが,心筋梗塞,脳梗塞などを発症する不安定プラークにおける石灰化の意義については不明な点が多い.病理学的研究では急性心筋梗塞の冠動脈責任病変の約7割に石灰化を認め,また超高速CTを用いた研究においても,冠動脈石灰化指数が高いほど急性心血管イベントが高率であることが報告されている.著者らの血管内超音波を用いた解析では,急性心筋梗塞の冠動脈責任病変では90度以下の小さい石灰沈着が散在性に存在する,いわゆる“spotty calcification pattern”が特徴的変化であることが明らかになった.今後,非侵襲的なマルチスライスCTの登場により,冠動脈プラーク不安定性における石灰化の臨床的意義にさらに注目が集まるであろう. - ■動脈硬化巣やその形成過程に働く生理活性物質と病態
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動脈硬化研究におけるPDGFとTGF-β
221巻13号(2007);View Description Hide Description間葉系細胞に対する増殖因子として知られるPDGFと細胞増殖抑制,マトリックス沈着,抗炎症作用をもつTGF−βはかねてから動脈硬化形成へのかかわりが論じられてきた.近年の研究成績は,PDGFがとくに糖尿病の動脈硬化に寄与することを示唆している.一方,TGF−βの場合,粥状動脈硬化プラークに対しては安定化,再狭窄病変に対してはこれを増強することが基礎的・臨床的検討から示されている.TGF−βの主要シグナル分子のひとつSmad3は,いずれの動脈硬化病変に対しても抑制的に働く可能性がある.特異的キナーゼ阻害剤などを用いた分子標的療法は,PDGF,TGF−βを対象とした治療法として有望である. -
終末糖化産物
221巻13号(2007);View Description Hide Description糖尿病を背景とした大血管障害の病態解明と治療戦略の確立が重要な課題となっている.高血糖と酸化ストレスにより生成される終末糖化産物(advanced glycation end products:AGE)は,その受容体であるRAGEと結合し,レドックスシグナル伝達系を介して血管リモデリング関連遺伝子を誘導する.糖尿病性動脈硬化病変にRAGEの発現は増強しているが,動脈硬化全般の病態にRAGEが関与していることが明らかになりつつあり,今後の展開が期待される. -
循環器疾患におけるMCP-1の重要性──動脈硬化性疾患を中心に
221巻13号(2007);View Description Hide DescriptionMonocyte chemoattractant protein−1(MCP−1)はCCケモカインに属するケモカインで,単球・マクロファージの強力な走化作用を有する.動脈硬化やPCI後再狭窄においてMCP−1は病変へのマクロファージ浸潤を促進し,泡沫化,各種サイトカイン分泌などの機序を介し,これらの病態を進展させる.また,MCP−1は単球・マクロファージの遊走以外にも血管平滑筋細胞の増殖や線維芽細胞のコラーゲン産生を直接的に促し,さまざまな心血管病の病態にかかわっている.著者らは,MCP−1のdominant negative inhibitorとして作用する変異型MCP−1を用い,動脈硬化,PCI後再狭窄をはじめさまざまな心血管病においてMCP−1の分子病態的役割を明らかにしてきた. -
レプチン
221巻13号(2007);View Description Hide Description近年,肥満,とくに内臓脂肪型肥満を基盤として,糖・脂質代謝異常,高血圧を複数有する病態(メタボリックシンドローム)が動脈硬化症の前段階として注目されている.肥満では脂肪組織に由来する多くの生理活性物質(アディポサイトカイン)の産生調節の破綻をきたすことが知られており,肥満遺伝子産物レプチンには体脂肪量の増加に伴って血中濃度の上昇が認められる.レプチンは視床下部に直接作用してエネルギー代謝を調節する代表的なアディポサイトカインであるが,受容体の構造がサイトカインのシグナル伝達分子であるgp130と相同性を有することより,炎症性サイトカインとして作用する可能性が考えられている.レプチン受容体は視床下部ニューロンのみならず血管内皮細胞や単球/マクロファージなどにも発現しているため,肥満に合併する動脈硬化性疾患におけるレプチンの病態生理的意義が注目される. -
内膜平滑筋細胞のあらたなバイオマーカー:LR11
221巻13号(2007);View Description Hide DescriptionLR11は動脈硬化巣の内膜平滑筋細胞に特異的に発現し,細胞外へ放出される活性物質である.正常血管で遺伝子発現はみられない.膜結合型および放出可溶型ともに細胞膜上のウロキナーゼ受容体と複合体を形成し,受容体機能である細胞外マトリックスの分解,細胞骨格の再構成を促進する.その結果,LR11は平滑筋細胞の遊走能を促進する.放出LR11は血中で存在することから,内膜平滑筋細胞のバイオマーカーとして動脈硬化の進展にかかわるあらたな臨床指標,また治療ターゲットとなる可能性がある. -
アディポネクチン
221巻13号(2007);View Description Hide Description20世紀最後の10年,人類は誕生から200万年流行することのなかった疾病に脅かされることになった.それが肥満症である.肥満,とくに腹部肥満は単なる物理的な体重増加による合併症のみではなく,糖尿病,高脂血症,高血圧などを合併し,わが国においては近年生活習慣病ともよばれていたが,2005年WHOによりメタボリックシンドローム(代謝症候群)と命名され,世界中で診断・治療にあたるようになった.では,肥満になるとどうしてメタボリックシンドロームを起こすのであろうか.そのメカニズムとして著者らが注目したのが,脂肪組織の遺伝子発現である.ヒトゲノムプロジェクトで解析を行った結果,脂肪組織には多くの分泌蛋白遺伝子が発現しており,実に脂肪組織全体の20〜30%も占めることがわかった.そのなかで,もっとも高頻度かつ特異的に発現していたのがアディポネクチンである.本稿では動脈硬化とのかかわりを中心に,メタボリックシンドロームのkey分子であるアディポネクチンについて紹介する. -
LOX-1の冠動脈疾患における意義と治療・診断への展開
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管内皮細胞の機能変化がさまざまな病態の基盤となり,動脈硬化や虚血性心疾患関連の病態生理に重要であることがいわれてきた.とくに酸化LDLはこのような血管内皮の変化を導く因子と考えられ,その受容体LOX−1のこれらの病態での役割が注目されてきた.最近の病態動物モデルを用いたin vivoでの解析により,高脂血症下での冠動脈脂質沈着,心筋虚血再灌流障害,バルーン障害後の内膜肥厚に対してLOX−1は促進的に働き,抗体によるLOX−1の機能抑制によりこれらに対して治療効果がみられることが明らかとなってきている.また,細胞膜上からプロテアーゼにより切りだされた可溶型LOX−1の血中レベルが急性冠症候群では顕著に増加することから,非常に感度と特異性の高い診断法として期待されている. -
酸化ストレス
221巻13号(2007);View Description Hide Description活性酸素種の過剰産生と消去不全によりもたらされる酸化ストレスは動脈硬化発症の重要なプロセスであることが知られている.酸化ストレスは血管内皮細胞を直接障害するのみならず,血管壁細胞における細胞内情報伝達系の活性化をもたらし,血管壁細胞の増殖・肥大・遊走,炎症,アポトーシスや血管のリモデリングを惹起する.本稿では酸化ストレスの病態生理とその評価について概説する. -
Peroxisome proliferator-activated receptor(PPARδ)──メタボリックシンドロームにおける心血管治療標的
221巻13号(2007);View Description Hide Description肥満症はインスリン抵抗性,耐糖能異常,高血圧,脂質代謝異常症などが集積するグローバルな健康問題になりつつある.核内受容体PPARαとPPARγは高中性脂肪血症,インスリン抵抗性にそれぞれ医薬品として臨床の場で広く使われている.そして,この受容体をモデュレートする薬剤もまた開発されつつある.ごく最近,これまであまり注目を集めなかったもうひとつのPPARのアイソフォームPPARδが高中性脂肪血症,インスリン抵抗性の両方に効果的であることが明らかにされ,PPARδがメタボリックシンドロームの治療に効果的であることが明らかにされた.PPARδは脂肪酸酸化を亢進し,エネルギーの脱共役を行う.また,さらにマクロファージ由来の炎症をも抑える.この種々の効果,そして他の臓器への効果はメタボリックシンドロームの多面的な治療薬として用いられる可能性を秘めている.また,体重増加の抑制,運動の耐久力の増強,そしてインスリン感受性の増加,さらには動脈硬化の軽減といった効果も期待できる. -
KLF5
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化などの血管病では外的・内的なストレスに応じて慢性炎症ととらえられる変化が継続的に続き,血管壁構築が改変(リモデリング)されることが病態形成の鍵といえる.メタボリックシンドロームや糖尿病などの全身的な代謝異常が動脈硬化のリスクとして注目されているが,このような病態が血管における慢性炎症を引き起こすだけでなく,これらの病態の進行にも慢性炎症が重大な役割を果たしていることが明らかとなっている.したがって,肥満や高齢化,生活習慣を背景として進展する疾患を考えるときには,共通して慢性炎症のメカニズムを理解することが重要となる.転写因子KLF5は心血管系において組織リモデリングを制御するだけでなく,代謝組織のストレス応答にも重要であり,肥満を背景とする心血管代謝疾患の発症・進展メカニズムを理解するための鍵分子である. - ■診断手法
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動脈硬化のMRI──冠動脈プラークのMRI診断の現状と展望
221巻13号(2007);View Description Hide Description冠動脈の不安定プラークを非侵襲的に診断して発症前の治療に結びつけることは循環器画像診断の大きな目標となっている.MRIは非侵襲的で放射線被曝を伴わず,T1・T2緩和時間などの多元的な組織情報に基づいて動脈硬化プラーク性状を区別できる利点を有している.MRIによる頸動脈プラークの不安定性診断は臨床利用の段階に入りつつあるが,動脈のサイズが小さく呼吸性・拍動性の動きを示す冠動脈のMRI診断は,頸動脈よりもはるかに難しい.冠動脈狭窄の診断については最近のwhole heart coronary MRAの開発によって16列CTとほぼ同様の診断能が得られるようになったが,冠動脈プラークの診断を現在の1.5テスラMRI装置で行うことは困難であり,3テスラMRIや32チャンネルコイルなどの新世代のMRI装置と分子イメージング造影剤の有用性が期待されている. -
Optical coherence tomography(OCT)を用いた冠動脈硬化病変の評価
221巻13号(2007);View Description Hide Descriptionこれまでの病理や各種イメージングデバイスを用いた検討より,冠動脈硬化病変の重症度(いわゆる脆弱性)や最近頻用される薬剤溶出性ステント留置後の新生内膜被覆状態の評価には,マイクロスケールでの画像分解能が必要であると推察される.新しいイメージングデバイスであるoptical coherence tomography(OCT)は10μmという同軸性画像分解能を有し,前述のような冠動脈硬化病変の正当な評価が可能ではないかと期待されている.さらに,日本での臨床治験も終了し,OCTの臨床使用も近い将来に可能と考えられる.本稿ではOCTの歴史と原理から実際のOCTを用いた冠動脈硬化病変の定性・定量評価法,脆弱性プラークへのアプローチ,現状と問題点について概説する. -
マルチスライスCT (MSCT)
221巻13号(2007);View Description Hide DescriptionマルチスライスCT(MSCT)はその優れた空間解像度から,冠動脈有意狭窄の評価のみならず,CT値から組織性状,とくに脂質の評価が可能であり,冠動脈プラークの評価にも有用である.脆弱性プラークのMSCT上の特徴として低CT値,陽性冠動脈リモデリングがあげられるが,線維性皮膜の性状やプラークびらん,局所石灰化などの微小な冠動脈病変の評価には空間解像度が十分ではない.また,CT上脆弱性プラークと評価された患者の長期予後も明らかではなく,今後の課題である. -
FDG-PET──動脈硬化プラークの炎症をみる
221巻13号(2007);View Description Hide Description動脈硬化病変の発症・進展には炎症が重要な役割を果たしている.しかしこれまで,個々の動脈硬化プラークの炎症を非侵襲的に評価する方法はなかった.近年進歩の著しい代謝イメージングにより,血管の炎症をこの目でみることが可能になってきた.とくに,糖代謝の亢進した細胞を検出するFDG−PET法をCT法と併用することで,大動脈や頸動脈プラークの炎症が描出できる.プラーク炎症の程度は臍部周囲長,降圧薬服用,HDLコレステロール低値,頸動脈エコー内膜−中膜厚,HOMA指数,高感度CRPに相関し,年齢,喫煙,高コレステロール血症といった動脈硬化の危険因子とは相関しない.さらに,メタボリックシンドローム因子が累積するほど炎症は強くなる.シンバスタチン治療はLDLコレステロール低下作用に依存せず,HDLコレステロール増加作用を介してプラーク炎症を減弱させる.FDG−PET/CT法は個々のプラークのリスク層別化,プラーク安定化療法の治療効果評価を可能にすることが示唆される. -
血管内視鏡による診断──不安定プラークの特徴
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管内視鏡は生体内で血管内膜面を観察できる唯一のデバイスであり,プラークの色調,形態などの性状診断に非常に有効である.急性冠症候群(ACS)症例の多くは冠動脈造影上,軽度から中等度狭窄病変のプラークから生じていることが判明し,冠動脈造影ではACS発症のリスク評価は不可能である.血管内視鏡でACS症例を観察すると,黄色プラークを認める頻度が高く,黄色プラークはACSを起こす危険の高い不安定プラークであると考えられる.病理学的検討から,黄色プラークの特徴として線維性被膜が薄く,リピッドプールが多く,炎症細胞浸潤が多いことがあげられる.血管内視鏡は不安定プラーク診断のもっとも優れた方法のひとつであり,ACS発症リスクの評価・予防が可能となる期待がもたれる. -
血管内超音波法(intravascular ultrasound:IVUS)を用いた冠動脈硬化の評価
221巻13号(2007);View Description Hide Description血管内超音波法(intravascular ultrasound:IVUS)は先端に高周波超音波振動子を装着したカテーテル型探触子を冠動脈など血管内腔に挿入して血管断層構造をリアルタイムに観察する検査方法であり,生体内で直接かつ実時間で冠動脈血管壁の構造,内腔構造に関する情報を得ることができる.臨床的冠動脈硬化の研究はIVUSの登場により飛躍的に進歩した.本稿においては,冠動脈硬化病変の定性的・定量的評価,IVUSを用いた冠動脈硬化の進展・退縮の研究,急性冠動脈症候群の原因プラークである不安定プラークの診断について述べる. - ■治療:治療する疾患とその手法,そしてその効果
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動脈硬化性疾患の遺伝子治療
221巻13号(2007);View Description Hide Description1990年代はじめ効率的な遺伝子導入法が開発され,治療分子を局所に遺伝子導入し蛋白発現させる遺伝子治療は,1990年代半ばにはおおいに期待され,10年以内の実用化をだれもが信じて疑わなかった.しかし現在,心・血管系疾患において有効性が確定し実用化された遺伝子治療はまだない.理想的な(安全性が担保され,反復投与可能な高効率)ベクターが開発できていないこと,これまでの欧米での臨床研究(血管新生療法)で期待する効果をあげなかったこと,そしてなにより自己細胞を用いた細胞治療や薬剤溶出ステントが予想以上の成果を短期間のうちにあげてしまったこと,などがそのおもな理由である.血管新生療法に関しては今後,遺伝子治療単独というより細胞治療との併用や治療細胞への遺伝子導入という方向での展開が期待されよう.血管新生阻害療法や不全心への治療では遺伝子治療の可能性がある.また,実験レベルでの病態解析における遺伝子導入法の優れた有用性は不変である. -
末梢性動脈疾患に対する細胞治療
221巻13号(2007);View Description Hide Description閉塞性動脈硬化症などの末梢性動脈疾患に対する治療法については近年,多くの進歩が得られている.しかし,これらの治療法では救いえない重症患者がいまだ数多く存在するのも事実である.一方で近年の発生学,分子生物学などの進歩により,生体の血管再生メカニズムが明らかとなってきた.最近,これらを応用して重症虚血性疾患の治療に用いることが可能となり,血管再生治療とよばれている.血管再生治療には増殖因子補充療法と細胞移植療法とがあり,近年,とくに後者に対して注目が集まっている.もっとも広く行われているのは自家骨髄単核球細胞移植であり,その安全性と有用性には一定のエビデンスが報告されている.しかし,本治療がより多くの重症患者に対する福音となるためには,解決しなくてはならない問題点も多数存在する.そこで本稿では細胞移植による血管再生治療について,その概略と問題点ならびに今後の方向性などについて解説していく. -
冠動脈ステント──BMSからDESまで
221巻13号(2007);View Description Hide Description現在,経皮的冠血管形成術(PCI)は冠動脈ステントの存在なくしては語れないものである.冠動脈ステントの登場は急性閉塞の頻度を減らし,PCIの安全性を高めたものであったが,その一方でステント再狭窄が長年の懸念としてあげられていた.そうした中で薬剤溶出性ステント(drug−eluting stent:DES)の登場は再狭窄の劇的な改善が得られ,問題点をすべて解決したかにみえた.しかし,長期安全性という観点からDESを考えたときには,植込み1年以降でもステント血栓症が生じうるということがクローズアップされ,今後も厳重な経過観察とその対策が必要であると考えられる.本稿では,冠動脈形成術を飛躍的に進歩させた冠動脈ステントの登場から現時点で日本において使用可能なDESまでをデータも含め概説する. -
ホルモン補充療法と心血管疾患
221巻13号(2007);View Description Hide Descriptionホルモン補充療法(HRT)は心血管疾患(CVD)のリスクを低下すると考えられてきたが,大規模臨床試験で逆にリスクを増加することが報告され,HRTの適応が制限されるようになった.しかし,最近発表されたサブ解析でHRTは閉経早期であればCVDリスクを低下するが,高齢になれば逆にリスクを増加することが示された.HRTには,1酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)がHDLや血管内皮に抑制的に作用する,2経口エストロゲンによる中性脂肪(TG)増加がLDLを小粒子化する,3血管炎症に促進的に作用する,などの悪影響があることがわかっている.一方,経皮的エストロゲン投与や経口エストロゲンの減量,また天然型プロゲスチンの使用でこれらの悪影響を回避できることが示されている.したがって,HRTを施行する際には,エストロゲンの投与ルートや投与量,プロゲスチンの種類さらにはHRTの投与時期を考慮する必要がある. - ■新ガイドライン
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『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版』概要
221巻13号(2007);View Description Hide Description最近の疫学調査によれば,動脈硬化性疾患がわが国の主たる死因につながっており,その予防対策が重要である.欧米を中心にLDL−コレステロール(LDL−C)の低下が動脈硬化性疾患予防に有効であるというエビデンスが蓄積されるなか,わが国でも同様の結果が得られ,わが国のエビデンスをもとに新ガイドラインが設定された.新ガイドラインでは,従来の“高脂血症”から“脂質異常症”と呼称を変更した.これは,低HDL−コレステロール(HDL−C)も重要な危険因子であるからである.また,脂質異常の基準値や管理基準値として総コレステロールをはずし,LDL−Cを用いることとした.さらに患者カテゴリーは,まず一次予防と二次予防をわけ,一次予防を低,中,高リスク群に分類した.低,中リスクでは生活習慣の改善を主軸とし,二次予防では薬物療法が中心となり,高リスク群では薬物療法の開始を念頭におきつつ生活習慣の改善を求めるというメリハリをつけた診療を期待するものである.
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