Volume 222,
Issue 1,
2007
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7月第1土曜特集【膵癌早期診断・治療の新展開】
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医学のあゆみ 222巻1号, 1-2 (2007);
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■膵癌診療の現況
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医学のあゆみ 222巻1号, 5-7 (2007);
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比較的早期の膵癌であるStage,膵癌は画像診断の進歩した現在でも診断は困難で,全切除膵癌の約5%を占めるにすぎない.無症状でみつかることが多く,検診や偶然に行われた超音波検査などの検査でみつかることが多い.年齢,性は進行膵癌と異ならない.占拠部位は膵体部が多く,これは超音波検査でみつかりやすい場所であることを反映していると思われる.病理学的には,進行膵癌と同様,高分化腺癌が多く,2 cm以下の小さな膵癌が多い.組織学的ly,v,pn,nなどの浸潤性増殖は進行膵癌に比べて軽度であり,外科切除断端は組織学的に陰性となることが多く,5年累積生存率は約50%である.全国集計ではStage,膵癌に対して補助療法の効果は抗癌剤,放射線ともに認められていないが,今後,生存率の改善をめざして何らかの補助療法の開発が望まれる.全国の膵癌登録集計および自験例をもとにStage,膵癌について概説する.
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医学のあゆみ 222巻1号, 9-12 (2007);
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進行膵癌の診療の現況について自験例を中心に検討した.切除手術後の5年生存率は13.3%であるのに対して,bypass手術後では50%生存月が4.5カ月で,最長2年1カ月生存であった.R facto(r residual tumorfactor)で症例を分析すると,stage,では全例にR0の手術ができているが,stageが進むにつれてR0手術が少なくなり,R1,R2手術症例が多くみられるようになっている.門脈切除(PVR)は49%の症例に行われているが,PVR(−),R0での5年生存率は29.9%で,PVR(+),R0での5年生存率は11%であった.両者間に有意差はなかった.ただし,PVR(+),R1,R2では予後は悪かった.リンパ節転移についてみると,pN0では5年生存率は24.1%,局所リンパ節(pN1)のみに転移がみられたものでは14.7%で,両者に有意差はなかった.一方,遠隔リンパ節転移(pN2,pN3)陽性例では生存率は有意に悪かった.拡大リンパ節郭清か標準かについてのretrospective analysisでは自験例での分析では両者間に有意差はなかった.
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■早期診断法の新展開
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医学のあゆみ 222巻1号, 15-19 (2007);
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膵癌は現在ももっとも予後不良な難治癌である.完全治癒が期待できるのは早期発見切除例のみで,症例の多くは診断時すでに進行し,治癒切除を期待できないのが現状である.膵癌の予後向上には早期診断法の確立が重要である.本稿では当院で経験したTS1膵癌手術症例の診断についてまとめ,早期発見における体外式超音波検査,とくに通常のB−mode画像の重要性について言及した.当院で切除された腫瘍径2 cm以下のTS1膵癌32例を対象とした.主膵管拡張や腫瘍描出より検診超音波検査で拾い上げられた無症状症例は9例であった.入院後の腫瘍描出率は,体外式超音波が腹部造影CT,腹部MRIに比べ高かった.8割以上の症例がstage以上の進行癌であったが,手術後の5年生存率は45.5%と,進行癌が多いにもかかわらず予後は比較的良好であった.膵癌の明らかなリスクファクターが解明されていない以上,膵癌の早期発見は検診の体外式超音波に期待するのが現状である.
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医学のあゆみ 222巻1号, 21-26 (2007);
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膵癌の早期診断はかならずしも容易ではない.その理由は,ハイリスクグループの設定が困難であることに加え,低侵襲性検査法であるUS,CTでは小病変の診断にいまだ限界があるためである.EUSは局所分解能に優れ,膵癌の早期診断を目的に開発された検査法である.自験例の検討でも組織学的腫瘍径2 cm以下の小膵癌の腫瘍描出能はEUSがもっとも優れていた.したがって,膵癌早期診断のアルゴリズムとして低侵襲性検査に引き続いてEUSを施行する必要がある.ただし,膵のEUSによる描出手技は難しく,標準的描出法の啓蒙と術者の育成が課題である.
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医学のあゆみ 222巻1号, 27-30 (2007);
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膵癌診断においてCTは従来より広く用いられてきたが,MDCTの普及に伴い,その重要性が増している.適切な撮影条件を設定すれば,2 cm以下の小膵癌でも比較的高率に描出可能である.膵癌は造影早期に低吸収腫瘤として描出されるが,病変が後期相で高吸収域化する現象も有用な所見である.また,腫瘤が描出されなくても膵管狭窄や尾側膵管の拡張といった随伴所見を見逃さず,疑診例として病変を拾い上げる必要がある.MDCTを活用することで,膵癌の診断体系が合理化され,速やかに治療に移行することができるようになった.いかに膵癌疑診例を拾い上げ,MDCTにもっていくかが課題である.
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医学のあゆみ 222巻1号, 31-36 (2007);
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膵癌は予後の悪い疾患であるが,そのひとつの原因として検出が困難なことがあげられる.膵癌の検出は造影剤を用いた多時相撮像が基本であり,これまでに検診などでも行える簡単でかつ検出率に優れた有用な検査は存在しなかった.現在,おもに急性期脳梗塞の診断に用いられているMRIの拡散強調画像が悪性腫瘍の検出に有用である可能性が示唆されている.今回,この拡散強調像を用い,膵癌の検出への有用性を検討し,造影剤を用いた検査に検出能において有意差のない結果を得た.これは今後,検診応用などにも期待ができ,膵癌の早期発見の手助けになる可能性を示唆するものである.
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医学のあゆみ 222巻1号, 37-41 (2007);
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早期膵癌ではUS,CTなどの画像診断による腫瘤像の描出は困難であり,膵管変化が唯一の所見ということが多く,内視鏡的逆行性膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangio−pancreatography:ERCP)の重要性は高い.ERCPによる診断では良好な膵管像を得ることが重要であり,最良の撮影条件となるように努力する必要がある.膵癌の膵管所見は“膵管狭窄または閉塞と尾側膵管の拡張”といえるが,早期になるほど典型的な膵管所見を呈さなくなるため,膵管像の微細な変化をとらえる必要がある.主膵管のみならず分枝膵管の変化にも注意した読影を行わなければならない.また,他の画像診断所見との関連をつねに考慮し,総合的診断が重要である.ERCPは最終的な診断法と位置づけられるが,膵癌の早期診断を目的とした場合は,より早い段階での施行が必要と考えられる.
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医学のあゆみ 222巻1号, 42-44 (2007);
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膵癌は症状が出にくいため,発見されたときにはすでに手遅れの患者が大勢いる.さらに,診断のための検査も超音波内視鏡や内視鏡的逆行性膵管造影など,患者に負担のかかるものが主流であった.しかし,2002年からPET検査が膵癌の保険適応となり,2006年4月からはCTも同時に撮影する“PET−CT”が診療報酬上も可能となった.その“PET−CT”で最終診断に到達し,膵癌に対する治療を開始する人も少なくない.本稿では膵癌の診断における“PET−CT”の役割について,最近の知見を織り交ぜて解説する.
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医学のあゆみ 222巻1号, 45-50 (2007);
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膵癌の治療成績は診断時の腫瘍進展度に大きく依存しており,早期発見・早期治療が治療成績を向上させる.したがって,治療成績の飛躍的な向上のためには外科的切除可能な小さくて局所浸潤もないTS1でstage期の症例をスクリーニングできる新規の腫瘍マーカーが必要である.そのための腫瘍マーカーは存在するかという疑問に対しては,現時点では未完成という答えになろう.しかし,ゲノミクス,エピゲノミクス,プロテオミクス,メタボロミクスなどオミックスを駆使して開発が進んでいる.本稿では,マススペクトロメトリーの進歩とともに発展しているプロテオミクスの手法によって発見されてきたマーカーを中心に,その成績を紹介する.
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医学のあゆみ 222巻1号, 51-53 (2007);
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膵癌の早期診断をめざし,高頻度に異常が認められたK−ras,p53,p16,DPC4,テロメラーゼ活性を指標とした遺伝子診断が試みられてきた.最近はマイクロアレイやプロテオミクスによって発現しているすべての遺伝子(mRNA)または蛋白質を網羅的に解析し,膵癌の早期診断や抗癌剤gemcitabineの感受性判定を目標とした研究が進行中である.一方,膵 *胞症例の膵液中に変異ras遺伝子が検出されたことを契機に,膵発癌高危険群となる可能性を考え経過観察を行ってきた結果,膵癌発生を年率0.95%で認め,年齢性別膵癌のデータによる予測値0.042%と比較して有意に高かった.したがって,これらの疾患群を拾い上げて効率のよいスクリーニング検査を行えば,いままで偶然にしかみつからなかった早期膵癌の発見増加につながる可能性が出てきた.
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■治療の新展開
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医学のあゆみ 222巻1号, 57-62 (2007);
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膵癌の化学療法は塩酸ゲムシタビン(GEM)の登場により大きく進歩し,化学療法の重要性がいっそう認識された.以降,新規抗癌剤やGEMを基剤とした併用治療など多くの新しい試みが行われ,最近では分子標的薬の併用による臨床試験が進められている.わが国ではGEMに続いて2006年8月,S−1が膵癌に保険適応の承認が得られ,治療の選択肢が広がった.現在,分子標的薬やGEMとS−1の併用など新しい治療法が試みられている.一方,分子標的の発現やGEM,S−1の薬物代謝の特性から,治療の個別化が研究されている.また,遺伝子解析による薬剤応答性を調べ,毒性や治療効果の発現の違いが検討されている.膵癌切除後補助療法においても最近,欧米から大規模比較試験の結果が報告されてきている.わが国ではレジメンも方法も施設ごとに異なっていた感も否めなかったが,わが国独自の臨床試験を含め,今後エビデンスに基づいた治療が確立していくものと考えられる.
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医学のあゆみ 222巻1号, 63-67 (2007);
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進行膵癌に対する動注化学療法が効果的でない原因のひとつに,膵への複雑な流入血管の存在があげられる.この欠点を克服する治療として開発した膵周囲動脈塞栓術と血流改変術後の動注化学療法は,膵原発巣の周囲動脈を塞栓することにより原発巣の局所制御を行い,動脈塞栓術が困難な部位に対しては膵への流入血管を単純化し(血流改変),抗癌剤が腫瘍全体をカバーできるようにすることを目的としている.本法によるstage切除不能膵癌97症例のGemcitabineと5FUを用いた治療成績は,有効率が67.1%,平均生存期間が17.1カ月(中央値15.0)であり,従来の治療に比較して高い有効率と平均生存期間の延長を得た.したがって,本治療は原発巣と肝転移巣の両者に効果的であり,切除不能膵癌に対する有効な治療である.
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医学のあゆみ 222巻1号, 69-72 (2007);
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膵癌の進展形式の特徴は神経浸潤などによる血管周囲の神経叢や後腹膜結合織への進展で,これらが切除後の局所再発の大きな要因である.そこで,術前に膵癌だけでなく腹腔動脈や上腸間膜動脈周囲神経叢や傍大動脈の結合織を確実に照射野に含め,増感剤として5FUやgemcitabineを併用して放射線療法を行った.放射線療法の局所制御効果は良好で,とくにfull−dose(1,000 mg/m2)のgemcitabine併用術前放射線化学療法(50Gy)では著しく,リンパ節転移の陰性化,門脈浸潤の陰性化などが高率に認められた.肝転移防止対策として2−channel肝灌流化学療法を併用することで,T4症例において,5FU併用術前(24 Gy)・術後(36 Gy)分割放射線化学療法例では53%,full−doseのgemcitabine併用術前放射線化学療法(50 Gy)では62%の3年生存率が得られた.
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医学のあゆみ 222巻1号, 73-80 (2007);
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膵癌は難治性の消化器系悪性腫瘍であり,集学的治療が行われるも,その予後は不良である.膵癌では多くの遺伝子異常があり,それらを標的とした分子標的治療の究極の形が遺伝子治療である.遺伝子治療には,異常遺伝子の修復,自殺遺伝子治療,免疫遺伝子治療,ウイルス治療(制限増殖型ウイルス),など多くの戦略が報告されている.これまで研究室レベルであったものが,つぎつぎと臨床試験で有効性が確認されつつある.一部の癌腫では無作為比較試験で有効とされた治療もあり,膵癌では標準治療(塩酸ゲムシタビンや放射線化学療法)との併用効果,切除後の補助療法としての有効性が検証されてきている.本稿では癌遺伝子治療の最近の動向を中心に概説する.
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医学のあゆみ 222巻1号, 81-86 (2007);
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膵癌に対する治療は外科的切除が主流であるが,切除例の5年生存率は約18%と低く,消化器癌のなかでもっとも治療成績が悪い.現在までに手術あるいは化学療法併用など数多くの放射線治療が試みられてきたが,膵癌は従来の放射線治療には抵抗性であり,さらに放射線感受性の高い消化管に周囲を囲まれていることより,十分な治療効果を得ることができなかった.重粒子線の特徴は優れた線量分布(線量を集中することができる)と高い殺細胞効果を有することである.本稿では,著者らが施行している膵癌に対する重粒子線治療の現状を紹介する.
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医学のあゆみ 222巻1号, 87-90 (2007);
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動脈浸潤を有する膵癌の外科治療を14症例に行ってきた.いずれもstagea,stagebであった.膵切除の基本術式は,Whippleが3例,PPPDが1例,TPが10例であった.切除した動脈(重複あり)は,上腸間膜動脈(SMA)が9例,総肝動脈(HA)が4例,右肝動脈(rHA)が4例,左肝動脈(lHA)が2例であった.動脈再建はSMAには脾動脈を用いたのが7例で,1例が下腸骨動脈グラフト,1例は端々吻合であった.肝動脈吻合は5例に端々吻合,3例に脾動脈を用いた.上腸間膜静脈再建は13例に行った.4例が脾静脈グラフト,他は端々吻合で行った.手術死亡はゼロであった.術後合併症は,一時的な肝部分梗塞が1例,腹腔内感染が1例であった.予後は,50%生存月は12カ月で,最高生存例は術後32カ月をすぎている.